ANRIが「肉会」を開くワケ
ANRIは最近、いろんな業界の人にお肉を奢って自由に話してもらう「肉会」という不思議なイベントを開いています。
アート系の人たちや高校生、東大アメフト部などを招いてきたと話されています。中には脂身を大量に食べたがる高校生もいて、赤身をくださいと思っていたそうです。
すごいびっくりしましたよね。あんなにカルビって出るんだなっていう。
いや無理だなと。赤身をくださいってずっと思ってました。
なぜこんなことをやるのか。それぞれの産業で頑張っている人たちと会いたいけれど、「ミーティングしましょう」と誘うのは失礼だと考えているからです。
ベンチャーキャピタリストはどうしても偉そうに見えてしまう。だからこそリスペクトを表明する手段として、お肉を食べてもらうという結論になったと語られています。
とにかくリスペクトを表明するためには何をすればいいかって時に、まあ、お肉を食べて貰えばいいんじゃないかと。
参加者には毎回チケットのようなものを配り、「4、5人集まったらあなたが望む肉会を開くので呼んでください」と伝えているそうです。
支援コミュニティ化する奨学金と写真アワード
次に紹介されたのが、STEM領域の奨学金「未解の知」です。もう8年続けていて、初期に採択した人は世界中で研究者として活躍していると話されています。
だんだん奨学金というより支援コミュニティ化してきていて、意思を持って長く続ける活動だと語られています。
さらに写真アワード「夜明け前」も、佐俣さんの思いを中心に行われています。賞金や制作、展示、写真集制作の支援まで含め、日本で一番手厚い内容だと話されています。
理由は、写真表現がアンダーバリューされているという実感です。今は人類史上最も写真が撮られている一方で、アートとしての写真の市場価値はものすごく弱まっているといいます。
今人類史上最も写真って撮られているんですね。この20年で本当にまさに指数関数的に上がってきている。
かつて写真界には「写真新世紀」や「1_WALL」といった大きなアワードがありましたが、いずれもなくなってしまったと語られています。
専門学校や美大からアワードで評価を得て個展を開き、木村伊兵衛賞で羽ばたくというフローの、真ん中のラダーが消えてしまった。これを産業衰退の危機だと捉えているそうです。
なぜVCが写真や教育に関わるのか
ベンチャーキャピタルがなぜこうした活動をするのか。佐俣さんは、投資とはカルチャーへの投資だと考えているからだと説明します。
ToCサービスは結局カルチャーであり、その時代の人の気持ちやデバイスの進化の中で何を表現したかったかへの投資だと話されています。
ていう仕事で飯食ってる時に、カルチャーへのリスペクトを表明できなかったらあんま意味ないなと思うんですよね。
MAKERS UNIVERSITYや、投資をしないプログラム「STARTLINE」も紹介されました。STARTLINEは大学生に100万円の活動支援金を渡し、オフィスも使ってもらう取り組みです。
一連の活動に共通するのは、アンダーバリューされているものにどう価値を見出すか。中路さんは「別の言い方をすると普通に投資では」と応じます。
めちゃめちゃアンダーバリューされてるものにお金出すっていう。
ベンチャーキャピタルは株式会社化したあとのステークを取る話ですが、それを「シード」と呼ぶのはおこがましいと佐俣さんは言います。
才能を育んだ社会やカルチャー、教育があって果実が生まれる。その果実だけをいきなり取りに行くことへの違和感が、一連の活動の出発点だと語られています。
バラバラな「圧倒的未来」を良しとするANRIらしさ
中路さんは、これらの活動がANRIらしさだと感じています。メンバーそれぞれが見ている未来は違うけれど、それでいいという空気があるといいます。
なんかそこはANRIらしさな気はしますね。みんな別バラバラだけど多分考えてる未来っていうのは。
ANRIは「圧倒的未来」というビジョンを掲げていますが、共通しているのは3割ほどで、7割はそれぞれ独自のエッジがあると話されています。
中路さんは、そうでなければANRIを辞めていると言います。「こうしろ」と決められるのは苦しく、自由な中で出てくる多様な未来こそがいい社会を作ると考えているからです。
ベイエリアと日本、どちらで戦うか
話はアメリカ滞在の経験に移ります。佐俣さんは2ヶ月アメリカで過ごし、ベイエリアと日本で同じように戦うのは無理だと改めて認識したそうです。
報酬体系やインセンティブ構造が向こうは出来上がりすぎていて、同じゲームをするなら全員ベイエリアに移住した方がいいと話されています。
一方で、向こうにいても「NOT A HOTEL」のようなサービスが生まれる気はしなかったといいます。独自の文脈からしか生まれないものがあるからです。
日本からしか生まれない文脈のものってのがたくさんあるから、それをひたすら磨いて戦うっていうのは、別にベイエリアと比較する必要がなく意味があるよね。
AIなどで勝負するなら全員一度ベイエリアに移住する覚悟でいた方がいい。一方で日本固有の文脈を磨いて戦う道もある、という整理が示されました。
AIなど報酬構造が整った領域は、全員が移住する覚悟で挑む方がいい
日本固有のカルチャーから生まれるものは、比較せず磨いて戦う意味がある
2年前には、シリコンバレーに寿司屋やラーメン屋を作ってネットワークを得る案を真剣に話したこともあったそうです。パロアルトで人気の「Ramen Nagi」がローカルでは豚骨ラーメン屋として展開している例も、起業家らしいと語られました。
日本の経営をもう一度アップデートする
中路さんは、インターネットが進めたグローバルフラット化の反動が来ていると見ています。そこに着目した方が伸びると考えているそうです。
ただし排外主義になってはいけない。それでも世界はフラットにはならなかったのだから、風土性をちゃんと考える時代だと話されています。
最近はシリコンバレー本を読まなくなり、稲盛和夫をよく読んでいるといいます。日本の経営をもう一度アップデートしないと、いい企業は生まれないのではという感覚です。
そういう日本の経営をもう一度アップデートしないと、いい企業は生まれないんじゃないかなって思ってる。
佐俣さんも共感し、スタンフォードのサプライチェーンの授業で最も恐ろしい存在として紹介されたのが「玉子屋」というお弁当屋さんだったと語ります。
当日10時までに注文すれば12時に届き、送料込みで3ドル。廃棄率は0.03%ほどで、1万個配って3個残る桁感だといいます。
教授がヒアリングした際、社長は「今日何個余りましたか」に「17個です、あなたが今1個食べたので16個です」と答える精度でチューニングしていたそうです。
日本に長くいると、その特異性を客観視できなくなる。グローバルに学びローカルに活動することで、日本の異常に強い部分を伸ばせば一回転してグローバルに届く、と佐俣さんは話します。
雑誌「FASTFORWARD」と模索する姿勢
こうした問題意識は、雑誌「FASTFORWARD」にもつながっています。今回のテーマは「閉じたまま大きくなる文化」だと語られました。
ミクシィのコミュニティの作り方を原田さんに聞いたり、VTuberがなぜ海外で流行るのかを考え直したりしているそうです。
投資テーマを生み出したいのは本音だけれど、「投資したいテーマ10個は最後これです」と書くとノウハウ本っぽくなり、意図が透けてシャバいと中路さんは言います。
空中戦の議論で雑誌終わらせて、何を感じ取るかはもう自由にしてくださいと。
答えを持たずに一緒に模索する側でいたい。ベンチャーキャピタルが答えだけ待って良し悪しを判定するのはかっこよくない、と佐俣さんは話します。
中路さんはアンドリーセン・ホロウィッツを引き合いに出し、「Web3」や「アメリカン・ダイナミズム」という言葉を作って盛り上げようと汗をかいていると評価します。
日本のVCは来たものを見るだけになりがちで、もっと頑張りたい。日本的なものに注目してみようというのも自分なりの示唆だと語られました。
暗闇の中でジャンプ、そしてブランド業へ
佐俣さんは、悲観論は頭が良さそうに見えて語りたくなるものだと認めつつ、それでも模索しなければ始まらないと話します。
模索しないと始まらないじゃんみたいな。模索が僕も正しいとは正直思ってないけど、黙ってるよりはねっていう。
ここで佐俣さんは、尊敬するサイバーエージェント藤田さんのスローガン「暗闇の中でジャンプ」を紹介します。全社員に直感的に伝わる表現だと評価します。
起業家もベンチャーキャピタリストも、今は暗闇の中でジャンプしている状態。飛ばずに転ぶ人を笑う冷笑主義は良くない、みんなで飛んで足を捻ってみようと語られました。
中路さんは、失敗がプロトコルに入っているのがVCのいいところだと言います。チャレンジな投資だと思ってやる仕事であり、そういう投資ができなくなったら引退だとも話しました。
最後は、ANRIの捉え方の話に着地します。アートの人から見れば「投資もやるんですね」と言われるくらい、いろんな側面から見てもらえる位置でいたいと佐俣さんは語ります。
ロゴ入りの服を着るのは身体性のど真ん中で、ダサいと思ったら絶対に着ない。だから切られるくらいかっこいい活動でありたい、という思いが語られました。
切られるぐらいかっこいい活動してたいし、切られるぐらいかっこいい服でありたい。
そして中路さんは、この回を象徴する言葉を口にします。VCを金融業ではなくブランド業と捉え、解釈を変えていく必要があるという主張です。
アンドリーセン・ホロウィッツのグッズが欲しくなるように、思想で選ばれる時代になってきている。その事実をちゃんと見なければいけない、と締めくくられました。
まとめ
この回は、肉会や奨学金、写真アワードといった一見投資らしくない活動を通じて、ベンチャーキャピタルとは何かを問い直す対話でした。答えを断言せず、暗闇の中で一緒に模索する姿勢そのものが、ANRIらしさとして語られています。
- ANRIは投資の手前にある文化や才能への「投資」として、肉会や奨学金、写真アワードを続けている
- AIなどはベイエリアで、日本固有の文脈は磨いて戦う、という二つの道が示された
- 日本の経営をアップデートする視点として、稲盛和夫や玉子屋のオペレーションが語られた
- 起業家もVCも「暗闇の中でジャンプ」状態であり、冷笑せず模索する姿勢が大切だとされた
- VCは金融業ではなくブランド業であり、思想で選ばれる時代を見据える必要がある
