ベンチャーキャピタルANRI佐俣アンリ氏が代表を務める独立系ベンチャーキャピタル。シード期のスタートアップ投資に特化している。の代表・佐俣アンリ日本のベンチャーキャピタリスト。ラクスルやフリー、ミラティブなど数多くのスタートアップへ投資・支援を行っている。氏がホストを務める「ハートに火をつけろ」。番組1周年を記念した初の公開収録ゲストに迎えたのは、シリアルアントレプレナー(連続起業家)として知られるけんすうアル株式会社代表取締役。本名は古川健介。学生時代から「ミルクカフェ」「したらば掲示板」などを立ち上げ、nanapiをKDDIに売却した経歴を持つ。さんです。
トークは「日本発のスタートアップが世界で勝つための土俵」という壮大なテーマから始まり、AIが激変させるメディアの構造、そして「異世界転生モノ」が示すコンテンツの未来像へと発展。ネットメディアが生き残るための「素材化」という驚きの戦略が語られました。その刺激的な内容をまとめます。
1周年記念と「再現性」の追求
00:50 から再生する番組1周年を祝う公開収録ということもあり、リラックスした雰囲気で始まった対談。佐俣アンリ氏は、これまでのゲストの中で特に印象に残っている人物として、NOT A HOTEL「世界中にあなたの家を」をコンセプトに、ホテルにもなる別荘を販売・運営するスタートアップ。の林剛史NOT A HOTEL株式会社の代表取締役。以前はテラスハウスの企画やアパレル企業の経営に携わっていた。氏の名を挙げました。
林氏は「ミシュランの星フランスのミシュラン社が出版するガイドブックによるレストランの格付け。を取ることには再現性がある」と断言し、実際に短期間で星を獲得し続けているといいます。この「特定の領域における勝負のルールの理解」という話題が、その後の「世界で勝てる土俵選び」の議論へとつながっていきます。
ミシュランの星を取るルールを世界で唯一分かっている。そういう「再現性」の話はめちゃくちゃ面白いですよね。
日本のスタートアップが戦うべき土俵
02:05 から再生する佐俣氏は、自分たちの世代(1980年代前半生まれ)を「Google1998年に設立された検索エンジン最大手。シリコンバレー型スタートアップの象徴。への憧れ世代」と定義します。かつてのシリコンバレー米カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリア南部。IT企業が集積するスタートアップの聖地。至上主義から脱却し、日本独自の強み(食、アート、コンテンツなど)で戦うことの重要性を強調しました。
ここで登場したのが、佐俣氏おなじみの「トルクメニスタンの寿司屋」の比喩です。技術力があっても、インフラや顧客の練度が整っていない場所で戦うことの無謀さを説きます。
「ベイエリアのルール」で戦う
→ 後進国として扱われる逆風
「日本の強み」を活かして戦う
→ 初めから世界トップを狙える
この文脈で、けんすう氏も「カバーVTuberグループ「ホロライブプロダクション」を運営する企業。のようなコンテンツ軸の企業は世界で評価されているが、メルカリ日本最大級のフリマアプリ。米国展開に多額の投資を行い、苦戦しながらも挑戦を続けている。ですらソフトウェアで評価されるのは非常に大変だ」と同意しました。
AI時代のメディアは「切り抜き前提」になる
08:24 から再生する話題は、現在進行形のAI革命生成AI(Generative AI)の登場により、コンテンツ制作やビジネスプロセスが劇的に変化していること。とメディアの未来へ。けんすう氏は、AIによってメディアの構造が「1つのソースをマルチユースする形」に変わると予見しています。
1時間話した動画をAIに入れれば、話題ごとに自動で切り抜かれ、ポッドキャストになり、noteの記事になり、画像にもなる。これからのメディアは、最初から「AIに切り抜かれること」を前提に設計すべきなんです。
けんすう氏によれば、現在人気のPIVOT佐々木紀彦氏が代表を務める経済動画メディア。ハイクオリティな番組制作が特徴。やReHacQ高橋弘樹氏がプロデューサーを務めるYouTubeメディア。政治家や起業家との過激な対談が人気。は、1時間の番組として完成度を高めているため、実は「切り抜き」には向かない設計だといいます。対照的に、ひろゆき2ちゃんねる創設者。YouTubeの生放送での質問回答が「切り抜き動画」として爆発的に普及した。氏のスタイルは、短尺の質問回答の積み重ねであるため、非常に切り抜きやすい「素材」になっていると分析しました。
異世界転生モノはAIコンテンツの先取りか
14:50 から再生する漫画愛好家である二人は、昨今の「異世界転生モノ現代人が異世界に生まれ変わったり召喚されたりする物語のジャンル。「なろう系」とも呼ばれる。」の流行を、AI時代におけるクリエイティビティの雛形として捉えています。
佐俣氏は、異世界転生モノは「8割のフォーマットが決まっていて、2割だけ設定を変えているから読みやすいが、読み終わるとすぐ忘れる」と指摘。これに対し、けんすう氏は「それこそがAIと人間の共同作業の理想形だ」と応じました。
8割の共通基盤をAIが作り、残りの2割に人間が独自の『設定』を流し込む。それが最も効率的にコンテンツを量産し、消費者に受け入れられる形なんです。
ネットメディア冬の時代と「能動的」な視聴体験
19:01 から再生する一方で、既存のネットメディアはかつてない危機に瀕しています。Yahoo!ニュース日本最大のポータルサイト内のニュースサービス。メディアへの強力な送客機能を持ち、メディアの盛衰を左右する。が提携メディアの選別を強め、SEOSearch Engine Optimization。検索エンジン最適化。Google検索などで上位に表示させるための施策。依存の集客も通用しなくなっている現状があります。GIGAZINE日本最大級の老舗ブログメディア。膨大な情報量で知られるが、最近は経営の厳しさを公言している。のような大手でさえ苦戦する中、生き残る鍵は「人」への回帰だと語られました。
けんすう氏は、箕輪厚介幻冬舎の編集者。多方面で活躍するインフルエンサー。氏とのポッドキャストで「AIが回答し、人間がそれに辻褄を合わせて喋る」という試みをしているといいます。そこで重要なのは情報の正しさではなく、特定の誰かが話すことによる「読み味」や「聴き味」です。
ラジオや受動的なメディアは反響がゼロに近いけど、ReHacQのように能動的に見に行くコンテンツは異常に強い。政治家ですら今やマスメディアよりYouTubeの切り抜きを気にしている時代ですからね。
最後に、ChatGPTOpenAIが開発した対話型AI。個人の嗜好に合わせた精度の高いレコメンデーションが可能。による個別具体的なレコメンドが、汎用的なGoogle検索を凌駕し始めている事例が挙げられました。検索の時代が終わり、一人ひとりに最適化された「AIコンシェルジュ」の時代がいよいよ現実のものとなっています。
というわけで
番組1周年記念の公開収録は、メディアの構造転換という非常に密度の濃いテーマで幕を閉じました。「切り抜き前提の素材作り」や「8割のフォーマット化」といったけんすう氏の戦略は、これからのAI時代を生き抜くクリエイターや企業にとって、大きなヒントになるのではないでしょうか。次回は、会場に集まったリスナーとの質疑応答の様子が届けられる予定です。
- 脱・シリコンバレー信仰: ソフトウェア一辺倒ではなく、食やコンテンツなど日本が勝てる土俵で世界を目指す。
- メディアの素材化: AIが切り抜くことを前提とした設計が、次世代のメディア覇権を握る。
- 2割の独自性: 異世界転生モノのように、8割の既存フォーマットに2割の人間の工夫を乗せるのが効率的。
- 検索からレコメンドへ: Googleで探す時代から、自分を熟知したAIが提案する時代へシフトしている。