MAKERS 10年を支えてきた熱狂と、起業家ではないという強み
MAKERSは2016年に創設された、大学生・大学院生向けの起業家育成の私塾です。番組冒頭、佐俣アンリさんは10年の運営を振り返り、中止の危機があったのか尋ねます。
中止の危機は一度もないですね。大赤字の危機はありましたけど、中止の危機はないです。ただこれ、僕は私財を投じてでも、親戚を回ってでもやり続けると決めてたんで、そこはなかったですね。
佐俣さんは、内野さんから届く「尋常じゃない長さのメッセージ」を例に挙げ、その運営を「怨念じみた熱狂」と表現します。
一方で内野さんは、その熱狂の源を語りながら、意外な自己分析を口にします。
MAKERSの成功要因って、僕が起業家じゃないことだなって最近思ったことがあって。
内野さんは、自分が起業家ではないからこそ、MAKERS生やメンターを心からリスペクトできると話します。もし自分が起業して成功していたら、自分のやり方を教えようとしていたはずだと言います。
自分が起業して成功してたりすると、恐らく自分のやり方を教えてあげようとか思っちゃってたと思うんですよ。それが一切ないっていうのは、MAKERSぽさの一つなんだなって最近思いました。
支援者に必要な「たどり着けない場所」というリスペクト
この話を、佐俣さんは「いい支援者に一貫してあること」だと受け止めます。支援する対象を、自分にはたどり着けない存在だと決めることが、行動を変えると言います。
仮に元起業家や元料理人が支援者になったとしても、相手を自分より下に見た瞬間にリスペクトが失われ、それは行動に出てしまうと指摘します。
私にはたどり着けない領域のことをやっているっていうところを決めないと、リスペクトがなくなって、やっぱそれ行動に出るんですよね。「何でそんなこともできないの?」みたいになっちゃったりとか、「いやそれ俺がやってやるよ」みたいになってくるんで。
佐俣さんは、MAKERSの合宿で参加者が回を追うごとに変わっていくのは、運営側が異常なほどテンションが高く、熱苦しいものを投げ続けるからだと分析します。
中心にいる大人たちが「いい歳して青臭い」姿を見せるからこそ、参加者も「私たちももっとやっていい」と感じられると言います。
共通言語は「挑戦」。多様性が生む深い対話
内野さんは、9泊12日の合宿の後、参加者から「こんなに深く自分のことを話したのは初めて」という感想がよく寄せられると話します。過去の嫌だった経験や青臭い夢の話は、普通のスタートアップの集まりではなかなか出ないと言います。
佐俣さんは、その深さはMAKERSがコミュニティの多様性を重視してきた結果だと考えます。
たとえば特定の業界の経営者だけが集まると、KPIや組織マネジメントといった具体的な「How論」に話が向かいます。しかし多様なメンバーが集まると、共通で話せるのは「挑戦」や「諦めない」といった抽象度の高いテーマになります。
共通で話せることって、その重いことしか逆に、重くて深いことしか話せないんですよね。
内野さんは、2021年の合宿で佐俣さんが放った言葉が印象に残っていると振り返ります。
「君たち本当に夜な夜な夢、お互いの夢のこと話してる?」みたいなことを言ったんですよね。VCなのに「お互いの夢話してる?」って言うの本当すげえなというか、やっぱりそっち側の人間だなというか、仲間だなって思った瞬間でもありましたけどね。
佐俣さんは、腹の底にあるものをぐちゃぐちゃに話し合うことは、互いにコーチングし合うことだと説明します。言葉に出すことで「自分はこんな価値観なのだ」と気づけると言います。
組織の存続よりも大切な、MAKERSの終わり方
佐俣さんは、内野さんによく「MAKERSをどうするのか」という議論をふっかけてきたと明かします。解散の話題も出たことがあると言います。
内野さんは、自分を経営者ではなく「職人」だと捉えており、MAKERSのようなものを運営できる人を育てることはできないと話します。合宿が体力的に成り立たなくなったら解散もありうると言います。
学生時代に強い思いを持った人が、それを、その青臭いものを仕事にする、形にするということが普通になったら、まあMAKERSは終わっていいなとは思っている。
佐俣さんは、MAKERSがコモディティ化する未来はなさそうだと言います。理由は、明確なビジネスモデルがないからです。
運営はとにかく疲れ、体も心もボロボロになる。その上で対価もなく、むしろ支援者側が寄付をしながら関わっているのが実態だと語ります。
すごいこうお金を払って働かせていただくという喜びみたいな、その特殊なインセンティブなんですよね。
内野さんは、ゼミメンターも無償だからこそ緊張感があると話します。つまらないと感じればいつでも辞められる中で、面白いと思い続けてもらえていることに意味があると言います。
MAKERS生が支援者になる未来と、10周年イベント
佐俣さんは、大学生や高校生を相手にリアルタイムで打ち返すスタイルを続けており、それができなくなったら辞めると決めていると話します。
これができなくなったら辞めようっていう。これができなくなる感覚あったら、恥ずかしくてモデルれない。彼ら彼女らの前に顔出す資格がなくて出れない。
内野さんが最近見たいと語るのは、MAKERS生が支援者側に回る未来です。すでに「絶対に寄付側に回ります」と言うメンバーも出てきていると話します。
ハードウェア起業家として活躍する卒業生が、いつか次世代のものづくり起業家を支える基金を作りたいと話していることにも触れます。
そして来年、MAKERSは10周年イベントを開催予定です。会場をずっと考えた末、行き着いたのは国立オリンピック記念青少年総合センター、通称オリセンでした。
どこでやるかというと、「オリセン」だなと。
那須やホテルのホールも検討したものの「MAKERSっぽくない」と感じ、オリセンの棟の貸し切りに決めたと言います。卒業生は約500人、そのうち6割ほどの参加を見込んでいます。
ゼミを持つ小笠原治さんの言葉も、この循環の考え方を象徴していると内野さんは語ります。
「エコシステムとか難しいことを言うけれど、要はみんなが返していけばいい、次の世代に返していけばいいってことだと思うんですよね」っていうのが、本当の真理だと思ったんですよね。
支援者という生き方。「支援道」の発見
佐俣さんは、ANRIから無限に支援プロジェクトが生まれていることを紹介します。大学生向けの「STARTLINE」や写真のアワード、若者に焼肉を振る舞う「肉会」まで、社員が次々に立ち上げていると言います。
その上で、支援者という存在が若い頃にディスられがちだという実感を語ります。「何も成し遂げていないくせに」と言われるのだと言います。
「お前が何もやってない、何も成し遂げてないくせに、なんでできると思ってんだ」みたいな。
しかし佐俣さんは、アスリートを支える整体師のように、支援に輝きを見つける人がいてもいいはずだと反論します。
さらに、大学生向けの支援者は同世代から始まり、自分が年を取るとやめてしまう人が多いと指摘します。自分と近い世代とかけあがりたい気持ちと、圧倒的に若い世代を支えたい気持ちが分岐していくのです。
一方で、年齢を重ねても支援を続けられるタイプもいると言います。
いわゆる「ピーターパンシンドローム」と言いますか、ずっとそのイノセントな部分があって、19歳とお茶して喧嘩できる人っていうのがいて、こういうタイプの人が最後まで残る気がしますね。
支援者には、人格的に大人になっていく人と、まったく大人にならない人の2つがいてよい。これが最近の発見であり、佐俣さんはそれを「支援道」と呼びます。
褒められ上手の罠と、成功するリズム
佐俣さんは、支援のスタイルを職人にたとえます。師匠から明確に教わったことはなく、茶を飲んで何を考えているかを聞くだけで、筋のいい職人同士は互いに理解できると言います。
筋がいい職人っていうのはそういう人を見て勉強するっていう。私もやっぱお師匠さんがいるんで、お師匠さんとやったのって何も教えられてないっすよ。
話は次世代の挑戦者が抱える課題へと移ります。佐俣さんが指摘するのは「褒められ上手」の存在です。
ある程度で褒められると、それ以上プロジェクトを深掘りできなくなってしまう子がいると言います。周囲が褒め飽きて関心を失うのを恐れるためです。
本当のプロジェクトは、そこから1年潜れるかどうかにかかっている。この「ディープダイブ」ができないと、渡り歩いては失敗を繰り返す人になってしまうと警告します。
なんとなーく触ってダメだなぁと思ったらパッと次の場所行っちゃうっていうのをずっと繰り返して、キャリアで見るとそれっぽいんだけど、結局よく分かってる人から見ると何一つ成し遂げない人なのかなっていう。
だからこそ、なるべく若いうちに成功パターンを体で覚えてほしいと、U-18の子たちにも伝えていると言います。
最後に頼れるのは仲間。挑戦者同士の結束を高める支援
内野さんは、MAKERSのSlackで日々起きていることを語ります。共同創業者に騙された、融資が下りない、数日でキャッシュアウトするといった状況を、メンバー同士が本気で励まし合っているのです。
佐俣さんも、ANRIが大きなオフィスに起業家を詰め込む理由をここで明かします。
本当にしんどくなると、最後支援者ができることはなくなってくると思ってて、やっぱ挑戦者同士、で助け合うしかない。挑戦者同士の結束を高めてあげるってのが一番の支援だなと思っているので。
しんどい時に弱音を吐けるのは、応援してくれる支援者ではなく、横にいる挑戦者同士だと言います。支援者にはつい「うまくいきました」だけを報告したくなるからです。
内野さんは、佐俣さんが10年前から横の切磋琢磨の大切さを語っていたことを振り返り、MAKERSが大事にしてきたことと重なっていると話します。
もうバイブスはあんまり変わんないんですよ。どういうものを作って、どういう風に世を問うかってのが、それぞれ若干違うだけで、根本的なマインドは変わんないので。
挑戦者を「たどり着けない存在」としてリスペクトし、教えるのではなく応援に徹する
挑戦者同士を繋ぎ、横の結束を高めることを最大の支援と考える
まとめ
MAKERSとANRI、形は違えど、両者が大切にしているのは挑戦者への無限のリスペクトでした。教えるのではなく、たどり着けない存在として敬い、挑戦者同士を繋いでいく。その「支援道」という生き方が、次の世代へ循環していく未来が語られた回でした。
- 内野さんは「自分が起業家ではないこと」をMAKERSの成功要因だと捉えている
- 多様なメンバーが集まるからこそ、共通言語は「挑戦」など深いテーマになる
- MAKERSは2026年2月に10周年を迎え、来年夏にオリセンでの大型イベントを予定
- 支援者には大人になる人とイノセントなままの人の2つがあり、佐俣さんはこれを「支援道」と呼ぶ
- しんどい時に弱音を吐ける相手は支援者より挑戦者同士であり、その結束を高めることが最大の支援
