AIにオールイン──インターネット普及以来のビッグウェーブをDeNA南場智子・STORES佐俣奈緒子はどう見るか
ハートに火をつけろ by ANRI 第26回のゲストは、株式会社ディー・エヌ・エー1999年に南場智子氏が設立。ゲーム、スポーツ、ヘルスケアなど多角的に事業を展開するインターネット企業。横浜DeNAベイスターズのオーナー企業でもある。代表取締役会長の南場智子さんと、STORES 株式会社中小事業者向けにネットショップ・キャッシュレス決済・予約システムなどを提供するSaaS企業。2018年にコイニーとストアーズ・ドット・ジェイピーが経営統合して誕生。取締役の佐俣奈緒子さん。リスナーからの質問に答える形で、AI情報のインプット術、DeNAの「AIオールイン」宣言の裏側、STORESのプロダクト統合戦略、そしてそれぞれの個人的な野望まで語り尽くしました。その内容をまとめます。
南場流・AI情報収集法──起業家と「寝食を共にする」
南場さんは日々どのようにAIや未来についてインプットしているのでしょうか?
南場さんの答えはシンプルでした。年に4回ほどサンフランシスコシリコンバレーに隣接する都市で、AI・テック系スタートアップの集積地。「ベイエリア」とも呼ばれる。へ行き、現地の起業家たちと1〜2週間、シェアハウスのような場所で寝食を共にするのだそうです。「彼らは息を吸うように新しいツールを使いこなして、その話題で持ちきり。それが一番の情報源」と語ります。
加えてDeNA社内では、OBOGも巻き込んだ「DeNA Galaxy」というコミュニティで「AI Night」「AI Day」といったイベントを開催。日常的にもAIの話題で盛り上がっているとのことです。
ベイエリアの起業家と一緒に1〜2週間過ごすと、彼らはすごいよね。息を吸うように新しいツールを使いこなしている
起業家の近くにいることの価値
南場さんの話を受けて、ホストの佐俣アンリベンチャーキャピタルANRIの代表パートナー。シード期のスタートアップ投資を専門とし、インキュベーション施設も運営している。さんも「起業家の近くにいないと、あっという間に分からなくなる」と応じます。ANRIでは全社員が起業家と同じインキュベーション施設に集合出社するルールを敷いています。
南場さんはこの取り組みを高く評価しました。「正しく考えている人は結構いるけど、アクションに起こしているところがアンリさんと奈緒子ちゃんのすごいところ」。考えるだけでなく実行に移す力が大事だという指摘です。
佐俣アンリさんは「VCの仕事は起業家の近くにいる仕事だけど、他のメンバーも含めて解像度が低くなったらおしまい」と断言。子連れの起業家がオフィスで昼寝しているような、肩の力の抜けた環境を意図的に作っているといいます。
今出資するならどんな人か? DeNAの「本業」とは
今出資するならどんな起業家・事業に投資したいですか? また、DeNAの本業とは何でしょうか?
出資したい起業家像:「ベロシティ」のある人
南場さんが挙げたのは2つの条件です。まず、AIによって産業構造が激変する今の状況を「怖い」ではなく「本能的にワクワクしちゃう」人であること。次に、言うだけでなく正しい方向に汗をかける人であること。南場さんはこの「方向性×速度」を「ベロシティ」と呼んでいます。
DeNAの本業=「事業創出プラットフォーム」
DeNAはゲーム、ライブストリーミング、スポーツ、ヘルスケア、街づくりなど多岐にわたる事業を手がけています。「何屋さんなのか」という質問に対し、南場さんの回答は明快でした。
DeNAって会社のありようそのものがプロダクト。「事業創出プラットフォーム」なんです。個性豊かな人材が集まって、それぞれの夢中を形にしていく。だから何屋さんっていうのはない
採用についても、偏差値の高い大学から一律に採るイメージとは異なり、「他のメンバーが持っていない強みを持っている人」を重視しているとのこと。信頼できる人間性をベースにしつつ、スキルやキャラの多様性を意識的に追求しているそうです。
ちなみに佐俣奈緒子さんは約17年前、南場さんが最終面接をしてDeNAの内定を出した人物。しかし入社には至らず、南場さんは「まだ追いかけてるからね」と笑って話していました。
経営者がNPOに関わる意義
Exit後のCXOが非営利団体の理事をやると社会と繋がり面白くなるのではと思っていますが、どう思いますか?
南場さんは「私は営利団体が好き」と即答しました。営みは社会善であり、人がお金を払うほどの価値を生み出そうとしている行為。その良いことを拡大再生産するために利益を出す──だから「本当にいいことは可能な限り営利団体でやる」のが自分のスタンスだと語ります。
一方、佐俣奈緒子さんはスタートアップとNPOの「ナレッジのトランスファー」に可能性を感じていると述べます。スタートアップのエコシステムはこの10年で大きく洗練されたが、NPOの世界は異なる成長をしてきた。相互の知見交流で両方伸びていく余地があるのではないか、という視点です。
佐俣アンリさんも具体例を挙げます。ラクスル印刷・物流・広告などのシェアリングプラットフォームを展開するテック企業。2014年設立、2018年東証マザーズ上場。の共同創業者が現在NPOの経営をしており、スタートアップ出身者のスピード感でGoogleから1億円の寄付を獲得するなど、目覚ましい成果を上げているといいます。
営みは社会善。利益を出せば2周目はもっと大きくできる。本当にいいことは営利で拡大再生産したい
スタートアップとNPOのナレッジトランスファーで相互に伸びる。起業家的人材がもっと各セクターに必要
AIオールインの意思決定──1990年代のインターネットと同じ確信
DeNAがAIにオールインすると宣言した際、その決断ができた背景にはどのような要因があったのでしょうか?
「経営が厳しいタイミングだったからこそ」
南場さんは率直に、経営が厳しいタイミングだったことを明かしました。短期的にコストがかかる冒険ではあるが、むしろ「一番苦しい時ではないので、やりやすい」状況だったと説明します。佐俣奈緒子さんが「経営者っぽい!」とツッコむと、南場さんは「初めて見た、私の経営者やってるところ」と笑い返す一幕も。
ChatGPTの衝撃と加速する競争
決め手になったのは、2022年11月のChatGPT公開OpenAIが2022年11月30日に公開した対話型AI。公開2か月で1億ユーザーを突破し、生成AIの「民主化」を象徴する出来事となった。でした。「生成AIの民主化、これは来る」と確信し、その後の進化のスピードがさらに加速していると語ります。
実際、南場さんがAI Dayのプレゼン資料を準備してから当日までのわずか1週間で、ChatGPTの新アップデート、孫正義氏ソフトバンクグループ会長兼社長。AI分野への大規模投資を推進しており、2025年にはAIインフラへの数兆円規模の投資計画を発表している。の発言、AIエージェント「オペレーター」のリリースOpenAIが2025年1月に発表した、ウェブブラウザを自律的に操作してタスクを実行するAIエージェント機能。と、立て続けに大きなニュースが重なったそうです。
DeepResearch出た時に全部変わるなと思ったら、その後GeminiとGrokがDeepResearch対応して。もうみんなこれ出したらこれ出すし、みたいな
「全普及、間違いなし」──1990年代との共通点
南場さんは現在のAIの状況を、1990年代後半のインターネット普及と重ね合わせます。当時は紙ベースの手続きが前提のルール体系の中にインターネットが突入し、すべてが変わっていきました。AIも同じで、「全ての産業がAIエージェントを取り入れていくのに、今はほとんど入っていない。そのギャップがすべてビジネスチャンス」だと断言します。
唯一の違いは変化のスピード。佐俣アンリさんも「14〜15年スタートアップの世界にいて、モバイルやソーシャルの波も見てきたが、こんなに速い変化はない」と驚きを隠しません。
日本の温度も変わってきた
南場さんは去年まで西海岸と日本の温度差をすごく感じていたそうですが、2025年に入ってからは大企業もAIの話を始め、潮目が変わってきたと実感しているとのこと。佐俣アンリさんも金融機関をはじめ大企業の動きが加速していることを認めつつ、「本当に強いAIスタートアップはステルスで、手の内を見せずに粛々と進めている」と明かしました。
紙ベースの手続きが前提のルール体系に、ネットが突入。「全普及、間違いなし」だが、まだほとんどの産業では未活用
技術の進化は確実だが、全産業への実装はこれから。法整備も追いついていない。違いは変化のスピードが圧倒的に速いこと
STORESの野望──7年かけたプロダクト統合の先
佐俣奈緒子さんがSTORESの野望として語ったのは、7年かけて進めてきたプロダクト統合がいよいよ完了するという話でした。
STORESは元々、コイニー佐俣奈緒子氏が2012年に設立したモバイル決済サービス企業。2018年にストアーズ・ドット・ジェイピーと経営統合した。とストアーズ・ドット・ジェイピーの合併で生まれた会社で、その後もM&Aでプロダクトを増やしてきました。それぞれのプロダクトのデータ基盤を一つに揃えるという、地道で長大なプロジェクトがようやく終わりを迎えようとしています。
全部ばら撒きたい、日本中に。統合が終わるとAIも乗せられるし、データが一個になるから
佐俣アンリさんは、コンパウンドスタートアップ複数のSaaSプロダクトを統合的に提供する経営戦略。Rippling社が代表例。基盤を統一するか、プロダクトごとに独立させるかで各社方針が分かれる。の中で「基盤を揃える」方針を貫いたSTORESの選択を評価。統合されたデータ基盤の上にAIを載せることで中小企業を元気にする──それが佐俣奈緒子さんの語る野望でした。南場さんもDeNAで同様のID統合・顧客統合を進めていることを明かし、両社の方向性の共通点が浮かび上がりました。
三者三様の個人的野望
最後に個人的な野望を聞かれた三人。それぞれ意外な答えが返ってきました。
佐俣アンリさんは「英語」。家族の中で唯一英語を流暢に話せず、子供たちとの会話のためにも半年間本気で勉強中。最後にベイエリアに行ったのが12年前という事実に南場さんが「マジ!?」と驚く場面も。「世の中がみんなAIって時に、イングリッシュにフルベットしたい」という自虐的な宣言に笑いが起きました。
南場さんは「サーフィンを始めたい」。SUP(スタンドアップパドル)は経験があるものの、波に乗るスリルが足りないのだそうです。ただし来年の1月までスケジュールが埋まっているため、来年2月に1週間休みを取ってサーフィンの学校に通う計画を立てています。
佐俣奈緒子さんは「ない」と即答しつつも、去年頑張った英語の「使い先を決める」ことを今年の目標に。三人はベイエリアに一緒に行こうと約束し、「結局飲み会の話になるんだよな」と笑い合いながらエピソードを締めくくりました。
まとめ
DeNA南場智子さんの「AIオールイン」宣言の裏には、経営が厳しいからこそ振り切れたという背景と、1990年代のインターネット普及と同じ「全普及、間違いなし」という揺るぎない確信がありました。STORES佐俣奈緒子さんは7年かけたプロダクト統合を武器に、AI時代の中小企業支援に攻め込もうとしています。
三人に共通していたのは、変化を楽しむ姿勢と、考えたことを実行に移す力です。起業家の近くに物理的に身を置くこと、正しい方向に汗をかくこと、そしてAIという止められない波に対してワクワクできること。その温度感が、リスナーにも伝わるエピソードでした。
- 南場さんのAI情報収集法は、年4回サンフランシスコで起業家と寝食を共にすること。「息を吸うように新しいツールを使う」人たちの近くが最高の情報源
- 投資したい起業家像は「変化にワクワクでき、正しい方向に汗をかける=ベロシティのある人」
- DeNAの本業は特定の事業ではなく「事業創出プラットフォーム」そのもの
- AIオールインの背景には、経営の厳しさ+「全普及、間違いなし」という1990年代インターネット級の確信がある
- STORESは7年かけたプロダクト統合がほぼ完了。統一データ基盤にAIを載せ、中小企業支援を加速させる
- 日本でもAIの温度が上がり始めたが、本当に強いスタートアップはステルスで粛々と進めている
