新公益連盟とは?NPO業界団体が目指すもの
小沼さんが共同代表を務める新公益連盟2017年に設立されたNPOの業界団体。NPO版の経済同友会・経団連を目指し、現在200以上の団体が加盟。比較的若い世代(2005年以降創業)のNPO経営者が中心となって運営している。は、2017年にNPO経営者たち約10人の有志勉強会からスタートしました。「NPOをもっと盛り上げていこう」という思いで集まった仲間が、徐々に業界団体としての形を整えていったといいます。
すごくかっこよく言ってしまえば、NPO版の経済同友会とか経団連とか、そういうような組織を標榜しています。現在でいうと、200数団体が加盟をした、日本ではかなり大きなNPOの業界団体の1つになっています。
NPOの業界団体は日本にいくつか存在しており、教育や防災といった分野ごとの連絡会議も多数あります。新公益連盟の特徴は、創業メンバーがだいたい40代という若い世代が中心で、経済界との連携や政策提言、お互いの学び合いを重視している点です。
業界団体として何を目指すのか。小沼さんは「NPOの存在意義が問われている今、改めて社会の中でどんな役割を果たすべきかをみんなで考える時期」だと語ります。議論を重ねることで各団体の方向性が少しずつ変わり、社会のニーズにより合った活動へとシフトしていく。そんな場を作ることが業界団体の役割だといいます。
スタートアップとNPOの違い:経済合理性の壁
「すべての社会課題をスタートアップで解決すればいいのでは?」という問いに対し、小沼さんは「スタートアップだけでは解けない課題がある」と答えます。それは特に経済合理性ビジネスとして収益を上げやすいかどうか、投資に対するリターンが見込めるかという観点。経済合理性が低い領域では、企業が参入しにくく、市場メカニズムだけでは解決が困難とされる。が著しく低い領域、つまりビジネスモデルを持って戦えない領域です。
佐俣さんは、スタートアップの特性を「成長性と永続性の2つの約束」と表現します。創業初期は年間100〜200%成長、上場後も年間20%以上の成長を続ける。この約束があるからこそ、大量の資金と優秀な人材を集められる仕組みになっています。
約束:成長性(年間20%以上)+永続性
資金調達:投資(株式発行)
得意領域:経済合理性の高い課題
課題への向き合い方:成長のために課題を調整することも
約束:課題解決(解決したら終了もあり)
資金調達:寄付・助成金
得意領域:経済合理性の低い課題
課題への向き合い方:単一の課題に向き合い続ける
一方、ソーシャルセクターは年間20%成長のような約束はせず、解決し切ったら終わる課題に取り組みます。たとえばホームレス支援や難民支援、震災復興などは突然発生し、一生懸命取り組めば数年で収束する可能性もある課題です。NPOはこうした領域で、資本主義の世界ではできない「寄付」「助成金」といった資金調達の多様性を持っている点が強みだと小沼さんは語ります。
NPOと行政の違い:スピード感と公平性
では、国や行政がやるべきでは?という問いに対して、小沼さんは「公平性・平等性」と「迅速性」の違いを挙げます。行政は国民全体に対して平等にサービスを提供する責任があるため、ある地域だけを助けるといった判断は簡単にはできません。一方、民間であるNPOには一定の「私性」があり、特定の地域や困っている人だけを助けることができます。
小沼さんは「常にNPOが優れているわけではない」とも強調します。状況や課題によって、株式会社が適している場合もあれば、行政が適している場合もある。ただ、特定のシチュエーションやイシューにおいては、NPOの力が相対的に優位に立つことは明確にあるといいます。
非営利であるが、私的である。民間であり非営利である。そしてフォーマルな組織でもある。この3つがNPOの要件です。
ソーシャルセクターで働く人のインセンティブ
スタートアップは金銭的なインセンティブ設計が明確です。ストックオプションなどを通じて、頑張れば大きなリターンが得られる可能性がある。では、ソーシャルセクターで働く人のモチベーションはどこにあるのでしょうか。
小沼さんは、アメリカで見た孤独孤立問題に取り組むスタートアップとNPOの対比が印象的だったと語ります。スタートアップは保険会社と組み、「改善が見込める人」にサービスを集中させていました。一方、NPOに同じ質問をすると「一番困っている人」と答えたといいます。
対象:改善が見込める人(デルタが出る人)
理由:保険料削減の効果を最大化するため
ビジネスモデル:保険会社からのスポンサー収入
対象:一番困っている人
理由:最も支援が必要な人を救うため
資金源:寄付・助成金
資本主義に救われる人たちっていうのは、そのビジネスモデルにハマる人は救われていく。それでむしろ救われない人がそのビジネスモデルの中で取り残されてしまう構造が必ず出てきていて、それに向き合えるのがNPOです。
小沼さんは、NPOで働く人の特性を「全体最適の問いに疑問を持ってしまう人」と表現します。稼げるところで課題解決を進めようとするスタートアップ的な志向性に対し、「ちょっと待って、このモデルだとこの人たち困っちゃうじゃないか」と感じる人。そういう人がNPOで働くことに充実感を覚えるのではないかといいます。
佐俣さんは、現在あまりにも多くのリソースがスタートアップ側に偏在している状況を指摘します。優秀な人材や資金がスタートアップに集中しすぎており、ソーシャルセクターへどうリソースを向けていくかが大きな課題だと語ります。小沼さんも、業界団体の代表として、このバランスの是正が重要なミッションだと応じます。
社会参加の場としてのNPO:余暇時間をリソースに変える
ソーシャルセクターという言葉は、法人格の名前ではなく「社会的役割を担う人たち」を指す概念です。たとえば子ども食堂地域の子どもや保護者に無料または低価格で食事を提供する取り組み。多くは法人格を持たない任意団体として、ボランティアベースで運営されており、地域の互助・交流の場としても機能している。は、多くが法人格を持たない任意団体です。こうした人たちが地域に発生的に現れ、孤独孤立や子どもの貧困、虐待といった問題の芽を、互助の中でくるくると解決している。佐俣さんはこれを「未来あるモデル」と評価します。
小沼さんもこの点に共感し、NPOの仲間たちと議論している新しい役割について語ります。それは「課題解決のプロ」であることよりも、「社会参加を促すことのプロ」としてNPOを認知してもらうこと。地域の中で人々が助け合うエネルギーを引き出す場を作ることが、これからのソーシャルセクターには重要だといいます。
佐俣さんは、AIやDXの進展で余暇時間が増える未来を見据えています。特に日本は高齢化が進み、余暇時間を持つ人が増えていきます。この時間を社会に向けるチャネルとしてNPOが機能すれば、膨大なリソースと情熱を持った人材を動員できると指摘します。
AI・DXの進展
ホワイトカラー労働の削減→余暇時間の増加
高齢化の進行
定年退職者など、時間を持つ人が増える
NPOの役割
余暇時間を社会参加へと導くチャネルとして機能
ソーシャルキャピタルの形成
地域での互助・つながりが生まれ、幸福度が向上
小沼さんは、クロスフィールズでも大企業の50〜60代の人が退職後に孤立しないよう、地域でのセカンドキャリア定年退職後や転職後の第二の職業人生。NPOやボランティア活動への参加、地域貢献など、金銭報酬以外の価値を重視するキャリア選択も含まれる。を支援する新しい軸を立ち上げているといいます。プロボノや子ども食堂など、さまざまな社会参加の選択肢があることを伝え、「それがかっこいいんだ」と見せることが重要だと語ります。
佐俣さんは「社会と接続されていることの幸せ」に言及します。定年などで社会との接点が減っていく中、NPOがその接続の場を作ることで、リソース(労働力)も生きがいも同時に生まれる。このグランドデザインを描くのは、ソーシャルセクターが得意とするところだと指摘します。
小沼さんは、各団体が「どれだけの人を社会に連れ出せたか」をKPI化していくことで、社会全体の変革につながるのではないかと提案します。100%本業で働く人の場だけでなく、余暇時間を社会に振り向ける人たちのチャネルとしてNPOが機能すれば、多くのリソースを引き寄せられるといいます。
小沼大地氏の個人的な挑戦:ソーシャルキャピタリストとしての生き方
小沼さん自身が目指すのは「ソーシャルキャピタル人と人とのつながりや信頼関係、互酬性の規範など、社会関係資本と訳される。経済的な資本とは異なり、地域コミュニティの絆や協力関係といった無形の資産を指す。近年、幸福度や健康、地域の活力に大きく影響することが研究で示されている。を最大に持つ個人」になること。NPOで働きながら、こういう生き方ができるんだという姿を体現していくことが大事だと語ります。
自費でやるんじゃなくて、ちゃんと幸せな家庭を築き、子供に対する教育投資もしっかりしていく。本当に楽しいことに時間を使っているという風に生きていくのは結構大事かなと思っています。
小沼さんは最近、土日すべてを少年野球チームの監督として過ごしているといいます。これは完全に「地域の人とのつながりをどれだけ作れるか」という実証実験だと笑います。働き方を変えることで地域の少年野球チームも良くなるかもしれないし、地域への関わり方をデザインし直すことで、より多くの人がソーシャルキャピタルを築きやすい世界を作れるのではないか。そんな思いで取り組んでいるといいます。
小沼さんは最後に、日本という成熟した国から新しい幸せのあり方や生き方をデザインし直すことが勝負だと語ります。地域を変えていかなければどんどん弱っていく。テクノロジーの力とソーシャルセクターがこれまで蓄積してきた知見を組み合わせ、世界に冠たる国として新しいモデルを示していきたい。そんな思いが伝わってきます。
まとめ
今回の対談では、スタートアップとNPOの違い、行政との役割分担、そしてこれからのソーシャルセクターが担うべき役割について、深く掘り下げられました。小沼さんが強調したのは、「NPOだけが優れている」わけではなく、状況によって最適な解決手段は変わるということ。ビジネスモデルが成立する領域ではスタートアップが、公平性が求められる場面では行政が、そして経済合理性が低く取り残されがちな人々に向き合うにはNPOが、それぞれ力を発揮します。
そして、これから日本が直面する高齢化とAI時代において、余暇時間をどう社会に還元するかが大きなテーマになります。NPOはその接続点として、多くの人が地域や社会と関わる場を提供する役割を担う。小沼さん自身も、ソーシャルキャピタルを最大に持つ個人として、新しい生き方を体現していく挑戦を続けています。
- 新公益連盟は2017年設立のNPO業界団体で、200以上の団体が加盟。NPO版の経済同友会・経団連を目指している
- スタートアップは「成長性×永続性」を約束し投資で資金調達。NPOは寄付・助成金で経済合理性の低い課題に向き合える
- NPOは民間かつ非営利で、行政より迅速・柔軟に特定地域や人を支援できる「私性」を持つ
- スタートアップは「改善が見込める人」、NPOは「一番困っている人」を選ぶ傾向があり、人材の志向性も異なる
- AIやDXで増える余暇時間を社会参加に導くチャネルとしてNPOが機能すれば、膨大なリソースと情熱を動員できる
- 小沼さんはソーシャルキャピタルを最大に持つ個人を目指し、地域活動を通じて新しい生き方を体現する挑戦を続けている
