「IPは生み出すものではなく、育てるもの」──それでも"初日から来る"外れ値は存在する
西野さんの朝礼にて、西野亮廣お笑いコンビ・キングコングのメンバー。絵本作家・映画監督としても活動し、オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」を運営。さんが、吉祥寺オデヲンでの「夜の映画館」体験の魅力と、映画『えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』公開から1ヶ月超の現在地、そしてキャラクター「モフ」の予想外のヒットから見えてきたIP創造論について語りました。その内容をまとめます。
「夜の映画館」という言語化できないエンタメ
西野さんは前日の夜、吉祥寺オデヲン東京都武蔵野市吉祥寺にある映画館。昔ながらの劇場の雰囲気を残す老舗シネマとして地元に愛されている。を初めて訪れたそうです。20時15分の回を一般客としてチケットを買って鑑賞。初めて行く映画館のスクリーンサイズや音響にワクワクしたといいます。
その体験が「めっちゃ良かった」と語る西野さんですが、何が良かったのかを正確に言語化するのは難しいとのこと。吉祥寺の街の雰囲気なのか、夜という時間帯がそうさせるのか。大阪梅田のレイトショーでも同じような感覚を覚えたそうです。
夜みんなで集まってるっていう感じがドキドキさせるのか。確かにそれ学生時代あったような気もする
西野さんはこの「言語化できない・数値化できない感情」をエンタメづくりにおいて大切にしているといいます。その例として挙げたのが、遊園地のスカイサイクル遊園地にある空中自転車型のアトラクション。レール上をペダルを漕いで進む乗り物で、高さやスリルはさほどでもないのに根強い人気がある。やスマートボール。なぜ楽しいのか理屈では説明できないのに、ずっと残り続けている──夜の映画館にも同じ種類の魅力があるのではないか、と語りました。
この1ヶ月で100〜120もの映画館を回ったという西野さん。その経験を通じて「朝の映画館と夜の映画館はエンタメとして全然違うもの」だと実感しているそうです。日が落ちてから集まる「ちょっといけないことをしてる感」も、夜の映画館の魅力に一役買っているのかもしれません。
爽やかな気持ちよさ。1日の始まりの高揚感
ドキドキ感。「みんなで夜に集まっている」特別感
公開1ヶ月超──「爆死」の空気が変わった現在地
映画『えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜西野亮廣の絵本を原作とする劇場アニメの第2作。2026年春に公開。前作は2020年公開で興行収入約27億円を記録した。』は公開から1ヶ月以上が経過しました。西野さんによると、公開当初にあった「爆死」的な空気はすでになくなっているとのこと。
現在は二番館封切り館での上映終了後に、比較的安価な料金で映画を上映する映画館のこと。近年はミニシアターや地域の独立系映画館がこの役割を担うケースも多い。での上映が広がり、各地で地元コミュニティが立ち上がり始めているそうです。「やってやるぞ」という空気感が現場に生まれてきていると語りました。
ただし、これはあくまで自分たちの周囲での話であり、「エコーチェンバーSNSやコミュニティ内で同じ意見ばかりが反響し合い、偏った情報環境が生まれる現象。自分の周りの盛り上がりが世間全体の認識と異なる可能性を指す文脈で使われている。」の可能性もあると冷静に分析。世間的にはまだ立ち上がりきっていないのが現在地だろう、との認識です。
前日の渋谷HUMAXシネマには、博多大吉お笑いコンビ「博多華丸・大吉」のツッコミ担当。NHK『あさイチ』の司会などで知られるベテラン芸人。先生がふらっと鑑賞に来てくれたそうです。映画館側から「上映終了後に少しお話しいただいても」と提案があったタイミングと重なり、急遽、大吉先生を客前に引きずり出すプロレスのような展開に。「改めて映画館で見る映画はライブだ」と感じた一幕だったと振り返りました。
モフという"外れ値"の誕生
映画公開から1ヶ月超の現場で、「いろんな壁をバシバシ乗り越えていってくれる」力強いオーラを漂わせているのが、キャラクターのモフ『えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』に登場するキャラクター。丸みのあるかわいらしいビジュアルで、映画公開前からぬいぐるみの注文が殺到するほど人気を集めた。だといいます。
モフの特筆すべき点は、映画公開前──つまりストーリーを知らない段階からすでに人気があったこと。ぬいぐるみの注文は公開前から多数入っており、「シンプルにビジュアルが受けていた」と西野さんは分析します。
ベルリンの子供たちからもうめちゃくちゃ人気だったんです。親から「これどこで買えるんだ」って何回も言われました
ベルリン国際映画祭カンヌ、ヴェネツィアと並ぶ世界三大映画祭の一つ。ドイツ・ベルリンで毎年2月に開催される。の会場でも海外の子供たちに大人気だったモフ。さらに先日原宿で開催された「モフぎゅうぎゅう展」では、プペルを知らない海外からの観光客が一番大きなぬいぐるみを次々と購入していったそうです。
世代も国境も超えて人気を集めるモフですが、西野さんはこれを明確に「外れ値」だと位置づけます。
「次のモフを狙うぞ」と言っても、それは難しい。CHIMNEYTOWNとしては、モフを「まぐれ」として冷静に受け止めることがまず大事だと強調しました。
IPは生み出すものではなく、育てるもの
西野さんがこの回の核心として語ったのが、IPIntellectual Property(知的財産)の略。エンタメ業界ではキャラクターや作品世界など、二次展開・商品化できるブランド価値を持つコンテンツ資産を指す。創造に関する持論です。
アイデアではなく「時間」。言い換えると、クリエイターの「しつこさ」「執念」「諦めの悪さ」「往生際の悪さ」。数字を見て冷静に損切り投資・経営用語で、損失が拡大する前に見切りをつけて撤退すること。合理的な経営判断として重要だが、IP育成とは相反する場合があるという文脈。ができる「正しい経営判断」からは、事業レベルのIPはなかなか生まれないのではないか──というのが西野さんの考えです。
具体例として挙げたのが『えんとつ町のプペル』。2016年の絵本出版から数えて今年で10周年を迎えますが、「10年経ってようやく事業と呼べるようになってきた」とのこと。特に最初の数年はひたすら投資だったと振り返ります。
「勝ち馬に乗る」という経営判断
通常のIPは「育てるもの」であり、長い時間がかかる。しかし、稀に「最初からお客さんの心を捉えきっているキャラクター」が生まれることがある。モフがまさにそれだ──と西野さんは語ります。
こうした予想外のヒットに遭遇したとき、大事なのは「初志貫徹」ではなく「勝ち馬に乗る」ことだといいます。長年準備してきた別の計画があったとしても、流れが来ているものに乗り換えたほうがいい、と。
もともとの計画を守り通す。安定感はあるが、チャンスを逃すリスク
流れが来ているものにリソースを集中。計画変更の痛みはあるが、外れ値を最大化できる
ただし、ここには2つのハードルがあると指摘します。1つ目は「あらかじめ立てていた人生設計を変更できるか」という自分自身との闘い。2つ目は、そもそもモフのような外れ値は再現性がなく「まぐれ」として受け止める冷静さが必要だということ。
その上で、「神様からいただいたギフト」を無駄にしないために、経営の舵を切り、リソースをモフに寄せていく判断をしている、というのがCHIMNEY TOWN西野亮廣が代表を務めるエンターテインメント企業。絵本・映画・ミュージカル・グッズなどの企画制作を手がけている。の現在の方針だそうです。
この日からモフの新グッズ(マグカップ、Tシャツ、ステッカー、クリアファイルなど)が発売開始。会社は「モフ一色」だと笑いながら報告していました。
まとめ
今回の放送は、前半が「夜の映画館」という体験型エンタメの魅力、後半がIP創造に関するビジネス論という二部構成でした。
夜の映画館に感じた「言語化できないワクワク」を大切にする感性と、モフという外れ値に対して冷静に「まぐれ」と認めつつも全力でリソースを投入する経営判断。この両方を持ち合わせているところが、西野さんのエンタメ作りの特徴なのかもしれません。
「IPは生み出すものではなく、育てるもの」──でも、時々"初日から来る"外れ値がある。そのとき大事なのは、計画を手放す勇気と、勝ち馬に乗る決断力。長くエンタメを続けている人だからこその実感がにじむ回でした。
- 夜の映画館には「言語化できないドキドキ感」があり、朝の映画館とはまったく別のエンタメ体験になる
- 『えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』は公開1ヶ月超で観客動員35万人、興行成績は約5億円に到達
- 事業レベルのIP創造に必要なのはアイデアではなく「時間」と「クリエイターの執念」──えんとつ町のプペルも10年かかった
- キャラクター「モフ」は公開前から世代・国を超えて人気を集めた「外れ値」。再現性はない
- 想定外のヒットが来たときの正解は「初志貫徹」ではなく「勝ち馬に乗る」──リソースを集中投下する経営判断が重要
