「何者かになる」を手放したら楽になった――お金・キャリア・中年危機を語る
編集者の箕輪厚介さんとアル株式会社代表のけんすうさんによる箕輪・けんすうのご神託ラジオ。今回は、予想外の出費で落ち込んだリスナーの相談から、コンサル業の売上拡大、そして四十七歳の中年危機まで、お金と承認欲求をめぐる深い話が展開されました。その内容をまとめます。
四十六万円の損失をどう受け止めるか
サロン移転、福岡旅行、引っ越しが一週間に集中し、レンタカー事故の自己負担十八万円と修繕費二十八万円で、計四十六万円の予想外の出費がありました。メンタルは回復したけれど、お金の不安だけが消えません。どう捉えればいいでしょうか。
四十六万円は授業料として確定させ、今日から稼ぐことだけを考えろ。
箕輪さんは「まさに」と同意し、損失をネタ代トークやコンテンツの素材として活用するための投資と捉える発想。お笑い芸人やクリエイターがよく使う思考法で、失敗や損失を物語に変換することで精神的ダメージを和らげる効果がある。として確定させる技術を語りました。「もったいなかったな」と思った時は、発信者として四十六万円分ネタにしようと考えるそうです。
保険未加入で、レンタカーで事故は確かにきつい感じしますね。
まあでもそれしかないですね。
けんすうさんは自身の失敗談として、KAIA(カイヤ)LINE(韓国カカオグループ)が開発したブロックチェーン基盤プラットフォーム「Kaia」で使われる仮想通貨トークン。LINEのブロックチェーンゲームで共通通貨として使われる想定だったが、ブロックチェーン市場全体の低迷やLINEビットマックス取引所の閉鎖などで価格が下落した。という仮想通貨に五百万円を投じて大きく値下がりした経験を打ち明けました。けんすうさんは「浅ましさを感じる」と語り、スタートアップ投資は応援の意味があるけれど、仮想通貨は「私利私欲」だと自嘲しました。
箕輪さんは「飲んだら『俺払う』って言っちゃう癖」があり、翌日領収書を見たくないほど後悔することがあると明かしました。しかし、メルカリ創業者の山田進太郎株式会社メルカリ創業者・代表取締役会長兼CEO。2013年にフリマアプリ「メルカリ」を立ち上げ、日本最大のCtoCプラットフォームに成長させた。上場後も急成長を続け、時価総額一兆円超の企業に。さんのような資産家がいる場合は「山田さんでいいでしょ」と堂々と言うそうです。
本当に次の日、なんか、「別にこの人たちに払う必要がなかった」って思う。
お金を持っている人が払えばいい、という価値観を語る一方で、「あっちからお願いされて、大した提案じゃなかった上に俺が払ってた」というケースには割り切れないものを感じるとも語りました。けんすうさんは「確定したものは追わない方がいい」と締めくくり、山田さんの器の大きさを引き合いに出しました。
コンサル年収一千五百万の壁
新卒でコンサルティング会社に入社し約十年勤め、ベンチャー企業の取締役も経験。現在は元上司が設立した会社でコンサルティング業務に従事し、人脈で売上七千万、年収一千五百万で頭打ちになりました。新規顧客獲得のためにどうすればいいでしょうか。
今すぐSNSかYouTubeで自分の専門領域についての発信を始めてください。
箕輪さんは「当たればでかいけれど、タレントになるようなものだからむずい」と指摘しました。コンサルは労働集約型のため、よほどの人でない限り年収一千五百万が限界かもしれないと語ります。さらに、AI時代にコンサルの価値が下がると感じる人が増えれば、市場そのものが縮小する可能性も示唆しました。
けんすうさんは「AI時代には正解よりキャラクターが大事」と語る一方で、「今からキャラを打ち出すのは相当大変」とも指摘しました。影響力もお金も、すでに持っている人にどんどん集中するマタイ効果新約聖書の「持てる者はますます与えられ、持たざる者は持っているものまで取り上げられる」という言葉に由来する社会現象。富や名声は累積的に増えやすく、格差が広がりやすいことを指す。構造が強まっているというのです。
お金持ちはその運用でお金がどんどん増えるし、影響力もむしろお金以上に影響力が、すでにある人に集中してっていう感じ。
箕輪さんは箕輪編集室箕輪厚介が主宰するオンラインサロン。メンバー同士でプロジェクトを立ち上げたり、イベントを開催したりする場として機能。一時期は数千人規模の大型コミュニティとして注目されたが、箕輪さん自身が「みんなの稼働が俺の影響力になっていった」と振り返っている。を振り返り、「みんなの稼働は俺の影響力になっていった」と語りました。令和の虎起業家が投資家にプレゼンし、出資を募るYouTube番組。2022年に岩井良明が立ち上げ、大ヒット。堀江貴文や見城徹らが審査員として出演し、波乱の展開が話題を呼んだ。視聴者の注目は集まるが、出演者よりも番組そのものの知名度が上がる構造がある。やReHacQ(リハック)箕輪厚介がプロデュースする恋愛リアリティショー風YouTube番組。参加者の恋愛模様を追いながら、箕輪さんがコメントする形式で人気を博している。も同様で、出演者が頑張っても基本的にはMCや番組の影響力に「献上」される形になりがちだと指摘しました。
けんすうさんは「明石家さんま日本を代表するお笑いタレント・司会者。1970年代から活躍し、『踊る!さんま御殿!!』『さんまのまんま』など数々の冠番組を持つ。どんなゲストが出ても、番組の中心はさんまであり続けるという圧倒的な求心力を持つ。さんの番組に出たら、芸人も頑張るけど、明石家さんまさんの知名度が上がる」という例えで、構造の不公平さを説明しました。
すでに影響力がある人
YouTubeチャンネル、番組、プラットフォームを持つ
参加者が頑張る
出演、コンテンツ制作、SNS発信で貢献
結果:中心人物の影響力がさらに増す
参加者も少し知名度が上がるが、主役にはなれない
けんすうさんは「今、成功するのって結構難しいかもしれない」と語り、新規参入できるチャンスのあるプラットフォームが見当たらないと指摘しました。二〇〇〇年代はインターネット起業、十年前はYouTubeやTikTokといった波がありましたが、AIは個人がスターになる構造ではないというのです。
逆に人脈で売り上げ立てて七千万とか言ってんだったら、それはそれで多分いい人だと思うので、あんまりなんか拡大しようと思わない方がいい気もしますね。
けんすうさんは「拡大が正義となりすぎている」とも語りました。スタートアップのように急拡大を目指すのは特殊な道であり、無理に拡大を追い求めない方が健全かもしれないと提案しました。Meta社FacebookやInstagram、WhatsAppを運営する米国の巨大IT企業。創業者はマーク・ザッカーバーグ。近年はメタバースやAI開発に巨額投資を続けており、2025年には年間約二十兆円規模のAI投資を計画していると報じられている。が年間二十兆円をAIに投資するような世界では、個人が同じ土俵で戦うのは現実的ではないというのです。
四十七歳、何者にもなれない焦り
四十七歳システムエンジニアです。この数年仕事がうまくいかず、「何者にもなれないまま」キャリア後半が終わるという感覚があります。お金には困っていませんが、辞める覚悟もないまま、十一月に台湾三ヶ月語学留学を予定しています。これは未来への投資なのか、決断の先送りなのか。今の仕事に踏みとどまるべきか、環境を変えるべきか、別ルートを設計すべきか。どれが合理的で後悔が少ないでしょうか。
台湾留学なんてどうでもよくて、本当の問題はシステム開発の仕事がうまくいってないのに、そこを直視せずに別の話にすり替えてることだ。
AIの回答は厳しいものでしたが、箕輪さんは真逆の答えを出しました。「何者かにならなきゃいけないという幻想を捨てる方が幸せになれる」と断言したのです。
何者かになんてなれないもん。
箕輪さんはNewsPicks経済情報に特化したニュースプラットフォーム。ユーザーがニュースにコメントを付ける機能が特徴で、ビジネスパーソンの間で人気を博した。箕輪厚介が編集長を務めた「NewsPicks Book」レーベルは多数のベストセラーを生み出し、「君たちは何者か」というキャッチコピーで若者の承認欲求を刺激した。の一周年記念キャッチコピー「君たちは何者か」を振り返り、「多くの若者を苦しめた」と自省しました。何者かになろうとする価値観そのものが、人を追い詰めるというのです。
箕輪さん自身も中年の危機人生の折り返し地点で「このままでいいのか」と焦燥感を覚える心理状態。キャリア、家族、健康、人生の意味などについて深く考え直す時期とされる。多くの場合、四十代前後に訪れる。を経験し、他の起業家やクリエイターと自分を比較して「もっと決定的な作品を作らなきゃ」と焦っていたと明かしました。しかし、何周か回った結果、「やりたかったのは決定的な作品を残すことじゃなくて、ただふざけることだった」と気づいたそうです。
ふざけ続けられればいいということになった時に、すごく、なんかハマりがいいよね。
けんすうさんはみうらじゅんイラストレーター、漫画家、エッセイスト。「マイブーム」「ゆるキャラ」などの言葉を広めたことでも知られる。真面目にふざけ続ける姿勢が評価され、年齢を重ねても変わらぬスタンスを貫いている。を理想形として挙げました。箕輪さんは「こいつ金ちゃんと稼いでるくせに、ふざけ続けるんだっていう人になりたい」と語り、ReHacQ箕輪厚介がMCを務める恋愛リアリティショー風のYouTube番組。参加者の恋愛模様を追いながら、箕輪さんがコメントする形式で人気を博している。で非生産的に見える活動をしていることへの罪悪感がなくなったと語りました。
けんすうさんは『完全自殺マニュアル』の著者が六十歳になっても書いた「落ち着かない」というテーマのエッセイ本を紹介し、「六十になってもずっと鬱だし、落ち着かない」と語りました。成長して成熟した賢い老人になる、という幻想も捨てた方がいいというのです。
四十代、五十代になったら成熟して、何者かになり、社会的地位を得て、落ち着いた人生を送れる。
六十歳になってもバタバタし、落ち着かず、何者でもないまま。それでいい。
箕輪さんは「今は自分が生きてて、仕事があるだけでいいよ。まあ仕事がなくてもいいし」と語り、四十七歳でシステム開発で稼げているなら十分だと締めくくりました。けんすうさんも「何者にはならなくてもいいよ」と同意し、台湾留学に行くのも好奇心がある証拠だと肯定しました。
まとめ
今回は、お金の損失、キャリアの拡大、中年の危機という三つのテーマを通じて、現代社会の「成功幻想」に潜む罠が浮き彫りになりました。
四十六万円の出費は、授業料として確定させることで前に進めます。年収一千五百万のコンサルが頭打ちになるのは、影響力が一部の人に集中する構造が原因かもしれません。そして四十七歳で「何者にもなれない」と悩むのは、そもそも「何者かになるべき」という価値観を疑うべきだというのが、箕輪さんとけんすうさんの結論でした。
拡大が正義となりすぎている時代に、「ふざけ続ける」ことや「何者でもないまま生きる」ことを肯定する視点は、多くの人にとって救いになるかもしれません。成長や成熟は幻想であり、六十歳になっても落ち着かないままでいい。そんなメッセージが心に残る回でした。
- 損失は「授業料」として確定させ、前だけ見る
- 影響力は一部の人に集中し、新規参入は年々難しくなっている
- コンサル年収一千五百万は労働集約型の限界かもしれない
- 「何者かになる」という幻想を捨てた方が楽になる
- ピュアさがないと、企みは見抜かれて運を掴めない
- 拡大が正義となりすぎている時代だからこそ、現状維持も選択肢
- 六十歳になっても落ち着かないままでいい
