AI時代の"生産性の罠" ── 時給換算とマッチングアプリが奪う豊かさ
箕輪厚介さんとけんすうさんが、リスナーからの相談に答えながら、時給換算思考やマッチングアプリの効率化が人生にもたらす影に切り込んだ回です。「AIで生産性100倍」と言われる時代に、なぜ年収は変わらないのか? その答えは、資本主義の論理と人間の消費キャパシティの間にある「皮を剥く仙人」的な生き方にあるかもしれません。箕輪・けんすうのご神託ラジオの内容をまとめます。
時給換算する癖が生む不幸
子育て中の30代女性です。子供がスイミングにゴーグルを忘れて、取りに戻るのに20分かかりました。私の給与を時給換算すると約2000円なのですが、ついついお金に換算してしまって損をした気持ちになります。どうしたらいいですか? 箕輪さんは時給200万円で私より100倍お金持ちだと思うのですが、箕輪さんなら忘れ物を取りに行かずに新しいゴーグルをAmazonで買いますか?
その20分は損じゃなくて、子供に「自分のやらかしは自分でリカバリーする」を見せた教育の時間です。時給換算する癖の方を手放そう。
AIの回答に対して、箕輪さんは「すげえ性格悪くない?」と反応します。確かに、時給換算の論理を子育てに持ち込むのは毒親的かもしれません。
俺は時給30万円なんですよ。顧問で1時間30万円なんで。でも、これの良くないところは、時給で考えちゃうと、知らんおっさんと打ち合わせしたら「俺30万円損してんだ」って思っちゃう。
時給換算思考は、一見合理的に見えますが、実は人生を窮屈にする呪いです。箕輪さん自身も、顧問業で時給30万円という価値を持ちながら、この思考に囚われそうになることを認めています。しかし、だからこそ「損したような気持ちになる仕事は絶対やらない」という決断ができるのだと言います。
一方で、箕輪さんは逆説的な豊かさを語ります。「ゴーグルをAmazonで買わずに取りに行った、この豊かな時間」という考え方です。彼は運転手付きの車に乗っていても、わざわざ降りてサウナまで歩いて景色を見る時間を大切にしています(途中でめんどくさくなって迎えに来てもらうこともあるそうですが)。
ビル・ゲイツすらやってたんですよ、皿洗い。時給多分5000万とかなんすよ。でも「それやった方が豊かだ」って言ってましたね。
箕輪さんも皿洗いの時間を、早水研郎映画評論家・ポッドキャスター。映画の魅力をわかりやすく語る配信が人気で、家事をしながら聴くのにちょうどいいと評判。のポッドキャストを聞く楽しい時間に変えているそうです。生産性を追求するあまり、こうした「心が豊かになる時間」を削ってしまうと、結果的に不幸になるのです。
興味深いのは、堀江貴文(ホリエモン)実業家・実業家。効率化と合理性の象徴的存在として知られるが、実は生活では豊かな時間も大切にしている。合宿の変化です。箕輪さんが5年間で7回参加してきたこの合宿は、かつては「無理をしろ」「異常なスケジュールをやり切れ」というストイックなものでした。しかし最近、ホリエモンは開会の挨拶で「みんな無理せず怪我ないように」と言ったそうです。
「あ、ホリエモンがそんなこと言うんだ」って。一分一秒を争ってたホリエモンですら。
けんすうさんも「怪我ないのが一番だな」と共感します。ガリガリに働くのは30代までで、40代になると「もう疲れた」という気持ちが芽生えるのは自然なことなのかもしれません。
マッチングアプリで心がなくなる問題
高校の時好きだったけど、遠距離になることが理由で付き合わなかった人がいます。その人をふと思い出して、インスタを覗いたらやっぱり綺麗でデートしたくなりました。しかし今の世の中、マッチングアプリで右にフリックしたら会えることに慣れてしまい、いざ昔の好きな人に会おうとすると勇気がいります。三つのアプローチを考えてみました。1) 働いてる美容院に知らんぷりして行ってばったり会った演出をする、2) インスタフォローしてDMする、3) マッチングアプリで探す。
インスタDM一択です。でも本当の問題は、どのアプローチかじゃなくて、マッチングアプリに慣れすぎて断られるリスクがある相手に向き合えなくなってる自分自身じゃないか。
この相談は、時給換算思考の恋愛版とも言えます。マッチングアプリは効率的に出会いを生み出しますが、その代償として「断られるリスクを取れなくなる」という心の変化をもたらしているのです。
マッチングアプリって、どんどん顔で選んで会えるんだ。頭おかしくなるっていうか、最適化されすぎて心がなくなるよね。
けんすうさんは、マッチングアプリを「効率と効率のぶつかり合い」と表現します。スペックで絞り込み、顔の好みでシュッシュッシュッと選別し、お互いにマッチしたら会う。このプロセスは、人間関係を商品選びのように扱ってしまいます。
与沢翼実業家・投資家。かつて「秒速で1億円稼ぐ男」として知られた。徹底的な合理主義者として有名だが、婚活での経験は意外な結果に。さんのエピソードは象徴的です。彼は婚活を始めた際、Excelに候補者をまとめ、1〜2ヶ月で毎日昼と夜に会いまくり、約100人と会ったそうです。その結果は──「誰とも結婚したくない」という虚無でした。
「じゃあ今後どうするんですか?」って聞いたら、「デートクラブに登録して探すんだけど、デートクラブで会う人は自分の婚活募集に応募した人とすごく似てるから、自分で管理するか、デートクラブ外注で女の子管理してもらうかの違いなだけだ」って。すごい切ない。
けんすうさんは、これを「ビジネスパーソンありがち」と分析します。資本主義ゲームで成功した手法を、生活に持ち込んでしまうのです。会社では「ゴーグルを買った方が安い」は正しいかもしれませんが、生活では違います。恋愛も同じです。
興味深いのは、ホリエモンや前澤友作ZOZO創業者・実業家。宇宙旅行でも知られる。合理的なイメージがあるが、実は家で鶏団子を丁寧に作るなど生活を大切にしている。さんのような「合理的」に見える成功者たちが、実は生活で無駄な時間を過ごしているという事実です。前澤さんは意外にも家にいることが多く、夕方から鍋作りを始め、鶏団子にこだわって作っているそうです。時給計算したら絶対やらないようなことを、楽しんでやっているのです。
元の相談への回答としては、二人とも「インスタDM一択」で意見が一致しました。美容院に「ばったり」を装って行くのは、役所広司さんレベルの演技力が必要で、相手にバレたら気持ち悪がられます。素直に「ふと思い出して検索したら懐かしくなっちゃって、会えませんか?」と伝えるか、箕輪さん流に「やっと見つけた。三年かけて探し当てました」くらい嘘っぽく大げさに言うのがいいそうです。
けんすうさんは、ヒトオシ仲人が間に入るマッチングアプリ。おせっかいな第三者が「この二人付き合っちゃえば」と背中を押すことで、合理的判断では生まれない出会いを作る。というマッチングアプリを興味深い事例として挙げています。仲人さんが間に入り、「いやもう絶対やった方がいい」「行った方がいい」と後押ししてくれる仕組みです。これは資本主義のルールから外れた、人間的なアプローチです。
「身長170センチって言ってるけど169でもよくない?」「タバコはやめりゃいいじゃん」とかね。そういう無責任なおせっかいが必要ですよね。
誰かがちょっと無責任に「そこの二人付き合っちゃえばいいじゃん」と言ってくれないと、全て自分の責任で、自分の感覚で選ばなければならず、大変なのです。
理学療法士のジレンマ ── 必要だけど儲からない仕事
34歳の理学療法士です。今、医療介護現場のリハビリ報酬は削られ続け、若手は手取り18万円で食いつなぐという過酷な状況です。危機感から患者さんと療法士をマッチングしてZoomでリハビリを受けられる自費サービスを立ち上げました。副業を求める療法士の登録は激増したものの、肝心の利用者数がゼロに近い状態で、悲しい逆需給ギャップが起きています。リハビリの価値は何なのか悩むことも多く、価値を言語化するにはどうしたらいいのか。一体どうすれば利用者が増えまくるでしょうか。
リハビリを売るのをやめて、理想の体についてプロに相談できるサービスに今すぐ変えろ。
この相談は、資本主義の論理が生み出す構造的な問題を浮き彫りにしています。理学療法士医療・福祉分野でリハビリテーションを行う専門職。病気やケガで身体機能が低下した人の回復を支援する。高齢化社会で需要は高いが、診療報酬の削減により待遇が悪化している。という仕事は社会的に必要とされていますが、お金を出す人(患者)が払えないため、給料が上がりません。
箕輪さんは、ビジネスとして考えるなら「コンセプトを変えて、お金持ちからお金を取るやり方をやらなきゃいけない」と指摘します。医師よりも美容外科医美容目的の手術・治療を行う医師。保険診療ではなく自由診療のため高収入を得やすい。一方で、一般的な医療に従事する医師が減ると、社会全体の医療サービスが低下する懸念がある。の方が儲かるように、優秀な療法士が全員富裕層向けのサービスに移行すると、本当に必要な人が困るという問題が発生します。
けんすうさんは、斎藤幸平経済思想家・東京大学准教授。著書『人新世の「資本論」』で知られる。資本主義の無限成長志向が環境破壊や格差拡大を生むと批判し、脱成長コミュニズムを提唱。がよく言う「資本主義の論理で行きすぎると、金持ちのサービスだけが流行って、『必要だよね』っていうのは、もう儲からないけど必要だよねっていうのがなくなって、しわ寄せが弱者にくる」という指摘を引用します。
サウナブームでいろんな銭湯がサウナっぽくなって、値段めっちゃ上がって、サウナー来るけど、近所でお風呂入ってたおじいちゃんとかが来れなくなっちゃうとか。
銭湯をサウナに変える経営者も、その人なりの生活があるので責められません。しかし結果として、弱者がサービスを受けられなくなります。日本はまだセーフティーネットがある方ですが、アメリカなどでは病院に全然行けない層が存在します。
必要性は高い
社会的に不可欠なサービス(医療・介護・保育など)
支払い能力は低い
サービスを必要とする層は高額を払えない
待遇が改善しない
働き手の給料が上がらず、人手不足が深刻化
個人レベルで考えれば、理学療法士のスキルを持った人が富裕層向けの体相談サービスをやる方が合理的です。実際、ブルーワーカーの年収は上がっていて、タクシー運転手がニセコや白馬で働けば月収100万円という例もあります。体を動かして淡々とやる系の時給は上昇しているのです。
しかし、働く人が本当にいなくなれば、国が保護せざるを得なくなるかもしれません。箕輪さんは「進化を早めるために破壊する」という考え方を示唆します。つまり、療法士のスキルを持った人が富裕層向けサービスに吸い取られ、本当に働く人がいなくなったら、給料を上げざるを得なくなるか、ロボット開発が進むかもしれないという見方です。
実際、10年後にはロボットで解決している可能性もあります。けんすうさんは、AGIボット中国企業が開発する汎用人工知能搭載ロボット。この3ヶ月で約1万台を出荷し、100〜200万円程度で購入可能。家事代行やリハビリ補助など、人間の作業を代替できる可能性がある。という中国企業のロボットを例に挙げます。この3ヶ月で約1万台出荷され、100〜200万円で買えるそうです。家事や皿洗い、洗濯物を畳むなど、ChatGPT的な能力を持ったロボットなら、3年後には一般家庭にも普及しているかもしれません。
AI時代の生産性100倍でも年収が変わらない理由
けんすうさんは、この1年で相当仕事が変わったと語ります。先週からはGmailやSlackで来たメッセージで返信が必要なものを、AIが全部抜き出して下書きまでしてくれるようにしているそうです。一方で箕輪さんは、「AIなんて何もできない。飛行機の時間を聞くぐらいにしか使ってない」と言います。
めっちゃ使ってる人と使ってない俺で差がつくって言うけどさ、そんな差ついてる気もしないんだけどさ。何に結果、最終差つくの?
この素朴な疑問は、AI時代の本質を突いています。編集者が1年で2冊作るところを10冊作れるようになったとしても、効率化して仕事が増えているだけで、最終的な売上や利益は変わっていないのではないか、というのです。
箕輪さんの例えが秀逸です。「本が100冊作れるようになったとしても、100で部数を割るだけのような気がする」。読む人は増えないからです。映画も同じで、スピルバーグがAIで年間100本作れるようになっても、見ません。もう1本でいいのです。
けんすうさんの「ピーラーの喩え」は完璧です。ピーラーで人参の皮をむくのがめちゃくちゃ早くなっても、食う量は変わりません。「ピーラー使わないのやばいっすよ」と言われても、包丁で丁寧にやってる人と最終的にどこで差がつくのかというと、「めっちゃ早い」だけなのです。
生産効率100倍
AIで本を10冊作れるようになった
消費は増えない
読者の時間は変わらない
結果:単価が下がる
10冊で売上を分割するだけ
箕輪さんは続けます。「生産性を上げて大量生産したのも、生産性上げて消費したりするから、わけがわかんない」。消費側もAIに本を読み込ませて要約して一冊の本的にして見ていたら、「これ何?」という状況になります。
それでもAIを使うメリットはあります。けんすうさんは「摩擦は減る」と言います。気が重いタスクが減っていくので、精神的には楽になります。例えば、迷惑メールの解除をAIに頼んだら、全部やってくれたそうです。
けんすうさんが使っているのは、OpenAIが作っているCodexOpenAIが開発したAIソフトウェア。パソコンに導入するとGmailなどと接続でき、メールの整理や返信下書きなどを自動化できる。というソフトウェアです。これをパソコンに入れて、GmailやSlackと接続すると、AIが内容を読み取って作業を代行してくれます。箕輪さんのGmailには迷惑メールが山ほどあり、「常見陽平のメルマガなんて登録した覚えない」「楽天なんてログインIDすら忘れてログインもできてないのに案内だけ来る」という状況ですが、これも「再設定しといて」と言えばAIが操作してやってくれる時代なのです。
しかし最後に二人は興味深い結論に達します。
バリバリAIとか頑張って効率化する俺の市場価値と、ちょっと仙人みたいなになってしまった俺の市場価値、多分仙人の方が需要がある気が。
けんすうさんも同意します。「占いとかの方向に行った方が絶対いいですね」と。
ロボットが家事を全部やってくれる時代が3年後に来るとしたら、「仕事なんてなくない?」「本当に占いだけとかじゃん」という未来は冗談ではないかもしれません。AIが全部やってくれるなら、残るのは人間にしかできない「おせっかいを焼く」「植物に水をやる」「皿洗いでポッドキャストを聞く」といった、効率とは無縁の豊かな時間です。
まとめ
このエピソードは、「資本主義の論理を生活に持ち込むと不幸になる」という一貫したメッセージで貫かれています。時給換算思考、マッチングアプリの効率化、エッセンシャルワーカーの待遇問題、AI生産性のパラドックス──これらはすべて同じ構造です。
ビル・ゲイツが皿洗いをするのも、前澤友作さんが鶏団子を丁寧に作るのも、ホリエモンが「無理せず怪我ないように」と言うようになったのも、すべて「豊かさは効率の外側にある」ことを知っているからです。
AI時代に生産性が100倍になっても、人間の消費キャパシティは変わりません。ピーラーで皮をむくのが速くなっても、食べる量は同じです。だからこそ、これからの時代は「皮を剥く仙人」になることが重要なのかもしれません。
効率化を追求しすぎず、時給換算をやめ、断られるリスクを恐れず、必要な人のために働き、そして植物に水をやる時間を大切にする。そんな生き方が、AI時代の豊かさの鍵になるのではないでしょうか。
- 時給換算思考は、仕事では役立つが生活に持ち込むと豊かさを奪う
- マッチングアプリの効率化は、「たまたま」から生まれる恋愛の本質を失わせる
- エッセンシャルワーカーの待遇問題は、資本主義と社会的必要性の矛盾を体現している
- AI時代に生産性が100倍になっても、消費キャパシティは変わらないため年収は上がらない
- 真の豊かさは、皿洗い、植物への水やり、鶏団子作りなど、効率の外側にある
- これからの時代は「皮を剥く仙人」や「占い屋」のような、人間的な仕事が価値を持つかもしれない
