UI/UXブームから15年、感覚を切り替える時期
iPhone2007年にAppleが発表したスマートフォン。タッチ操作中心の直感的なUIで、その後のソフトウェア設計に大きな影響を与えた。が登場してから、UI/UXUser Interface(ユーザーインターフェース)とUser Experience(ユーザー体験)の略。サービスの使いやすさや、利用者の体験そのものを設計する考え方。という言葉が一気に広まりました。それ以前は「高機能でできることが多い方が良い」とされていたものが、iPhone以降は「直感的に使えるかどうか」が評価軸になっていったといいます。
ただ、けんすうはそのブームから15〜20年が経った今、その感覚を切り替えるタイミングが来ていると指摘します。理由はシンプルで、ブラウザやソフトを操作する主体が、人間からAIに移り始めているからです。
「人間にわかりやすい」から「AIにわかりやすい」へ
けんすうは、自身がFigmaブラウザベースで動作するUIデザインツール。多機能でプロ向けに使われてきたが、近年はAIによる自動生成機能の搭載が進んでいる。などのデザインツールを使う中での実感を語ります。以前は機能を覚えるための講座まで見ていたツールが、今ではほぼチャット欄だけで使えるようになってきている、と。
具体例として挙げたのは、Googleスプレッドシートでの作業です。お客さんのXアカウントごとのインプレッションや「いいね」数を集めて表にし、一定の数値以上のセルに色を付ける──以前は手動でやっていた作業を、AIにCSVを作らせ、スプレッドシートのGeminiGoogleが開発しているAIアシスタント。Workspace製品にも統合され、スプレッドシートやドキュメント内で指示するだけで作業を実行できる。に指示するだけで完了させたといいます。
どこを押したらそれができるのか、僕わからないところもあるんですよね。わからないけど、やりたいことはできるので全然OKみたいになってたりします。
つまり評価される設計の軸が、「人間にとってわかりやすいか」から「AIにとって扱いやすく、AIが操作できる幅が広いか」へと変わりつつあるという話です。使いやすさのために機能を削るのが常識だったインターネット業界も、その前提が崩れていく可能性があります。
機能を削って直感的に。Figma講座で覚えるなど学習コストが必要
機能は多くてOK。チャットで指示すればAIが操作してくれる
家電も住宅も街も変わる、破壊的イノベーションの射程
影響はソフトウェアにとどまりません。アイロン、洗濯機、食洗機、掃除機といった家電製品も、人間が使うことを前提にした形からロボットが操作することを前提にした形へと変わっていく可能性があります。
人間にとっては軽くて取り回しの良い掃除機が効率的ですが、ロボットが100kgの掃除機を扱えるようになれば、まったく違う形の掃除機が登場してもおかしくない、というのがけんすうの見立てです。
住宅も変わるかもしれません。ドローン配達が一般化すれば、マンションのベランダにはドローンが荷物を置くためのスペースが必要になり、ベランダの形が変わる。するとマンション全体の設計も変わる。さらに、ロボットがエスカレーターやエレベーターを使うのは非効率なので、ロボット専用の高速エレベーターが登場するかもしれない──。
独立は「いつか」ではなく「いま」決める
スタートアップで働きながら副業で経営・新規事業のコンサルをやっており、ここ1年は月200万円(2社)の収入があります。4年前に開業してから平均的には月100万円ほど。いつか独立したいと思っていますが、どのような状態になったら独立していいと判断すべきですか?住宅ローンもあり、会社員を保険として続けている状態です。
けんすうの回答はシンプルでした。すでに月100万円を4年継続できているのなら、普通の会社員より稼げているのだから、独立しても大したリスクではない。むしろ問題は「独立したいけど怖いな」と思いながら時間を消費し続けることにある、と。
40歳を超えた人に話を聞くと、「リスクは大したことなかったけれど、時間を失うリスクが一番ヤバかった」と言う人が多いそうです。体力が落ちて働ける時間が短くなる中で、戦力を副業と本業に分散したことで成果が出しきれず、取り戻しがつかなくなる──そのパターンを警戒すべきだといいます。
「1年以内に独立するか、独立は一生しないかの二択ですよ」と言われたときに、どちらを取るかで考えてみる。独立したいなら、いまの規模感ならすぐに動いていい。「月400万になったらやろう」と思っていても、たぶんやらない。そのとき今度は「2社なくなったら半分になるしな」と考えてしまうから。今会社員を続けるという選択をするのなら、それは「独立を諦める」という意思決定をしていると捉えたほうが良い。
配られたカードの不条理をコントロールするゲーム
独身の後輩エンジニアが「給料を上げたい、スキルを上げたい」と言うので、本やAudible、AIでインプットして学びをアウトプットすることから始めたら?と勧めたところ、「自分の時間がなくなるから悩んでいます」と言われました。後輩はいずれ後悔することになるでしょうか?
けんすうはここで、深津さん深津貴之氏。noteのCXO(Chief Experience Officer)などを務めるUI/UXデザイナー。AIの活用にも詳しく、X等で発信を行っている。のポストを引用します。「人生は配られたカードで戦うしかない、というものでは全然ない。資産とトライアル回数を細分化して、バンクコントロールによって配られた手札の不条理をコントロール可能な統計事象に変換して克服するゲームだ」──。
このゲームは大富豪に近い、とけんすうは言います。勝っている人にはどんどん良いカードが配られ、負けている人には悪いカードが配られ続ける構造になっているからです。
孫さんが「10兆円で◯◯したい」と言えば集まる。20代起業家でも実績があれば会ってもらえる
何もやってこなかった人には、人生を変えるかもしれない出会いそのものが訪れない
つまり、配られるカードを良くしていく行動をしているかどうかで、その後のループが正と負に大きく分岐していく、という見立てです。20代でリソースをスキルや実績に投下した人は、30代後半から「給料が高くスキルも伸びるが、ストレスがなく楽しい仕事」が来るようになり、それを続けるだけで好循環に入る。逆にプライベートに寄せすぎると、辛い仕事でスキルも上がらず、給与も低く、長時間労働を強いられる側に回ってしまいやすい──。
コミュニケーション問題は「やりとりをなくす」で解く
営業から回ってきた発注品番を事務がチェックする作業を改善しようとしています。データベースを作って検索できるようにしたら楽かなと思いましたが、メーカーの公式サイトで実装されています。そもそも営業と事務のコミュニケーションの問題かなと思い始めましたが、どんな方法で解決しますか?
けんすうはまず「いま事務という役割そのものを作らないほうがいい」と返します。AIによって社内用のチェックツールを比較的簡単に作れる時代なので、ChromeにClaudeの拡張を入れて情報を取得・整理し、発注書類をアップロードすると「これですね」と提示してくれる仕組みを作ればいい、という提案です。
そのうえで、けんすうはもっと根本的な原則を語ります。コミュニケーションの問題を「コミュニケーションの中身」で解決しようとするのは大変だけれど、そもそも「やりとり自体をなくす」のが正解になることが多い、と。
トイレ後にお尻を拭いてもらう。介護される側もする側も気を遣い、「もっと姿勢こうしてください」「なんで偉そうに」とコミュニケーションの摩擦が生まれる
ウォシュレットトイレを設置する。歩いていけば自分で完結できるので、摩擦が消え、介護される側の尊厳も保たれる
足が弱くて遠くのスーパーに行けない人が自動運転の乗り物で買い物に行けるようになれば、「介護されている」ではなく「自分の力で買い物ができている」という感覚になる。これと同じで、職場における人と人のやりとり由来の問題も、人を介さないシステムを設計することで、副作用なく解消できることが多いというわけです。
まとめ
iPhone以降の「人間にとってわかりやすい」設計思想は、AIが操作する前提の時代を迎えて、軸そのものが変わろうとしています。デザインツールや表計算ソフトでチャット欄からの指示が完結するようになり、これからは家電や住宅、街並みまで波及していく可能性がある──そんな視点を起点に、独立の判断、キャリアにおけるリソース配分、社内のコミュニケーション問題まで、共通するのは「前提を再設計する」という発想です。やりとりの中身を改善するのではなく、やりとりが必要のない構造に変える。手札の良し悪しを嘆くのではなく、配られるカードの質そのものを変える行動を取る。AI時代の身の処し方として、参考にしたい視点が並びました。
- UI/UXの評価軸が「人間にわかりやすい」から「AIが扱いやすい」へとシフトしつつある
- 使いやすさのために機能を削るという常識が崩れ、ソフトウェアもツールも設計思想が変わる
- 家電・住宅・街並みまで、ロボットが操作することを前提に再設計される時代が来る
- 独立は「いつかするか/一生しないか」の二択で考えると意思決定しやすい
- 配られるカードは固定ではなく、行動の積み重ねでカードの質を変えられるゲーム
- コミュニケーションの問題は、やりとりの中身ではなく「やりとりが不要な仕組み」で解く
