AI企業が世界の人件費を吸収する時代──経済破綻のシナリオと私たちの選択
アル株式会社代表のけんすう氏が、けんすうスピークで語った「AI企業は世界の人件費を吸収するのでやばい」という回。AIバブルの本質、人件費がAI企業に流れることで起こる経済の構造的な問題、そして個人レベルでの向き合い方まで、リスナーからの質問にも答えながら幅広く展開された。その内容をまとめます。
AI企業はどこからお金を吸収するのか
AI企業が赤字を垂れ流しても時価総額が上がり続けている現象について、けんすう氏は短期的にはバブルだと指摘します。一度幻滅期が来て株価が下がる可能性はあるものの、インターネットバブル1990年代後半から2000年初頭にかけて起きたIT関連企業への過剰投資ブーム。多くの企業が破綻したが、その過程で構築されたインフラからAmazonやGoogleなどが生まれた。と同じく、バブル期に大量のお金が流れ込むことでインフラが整備され、本物が残っていく流れ自体は健全だと見ています。
ただし今回特にやばいのは、AIがどこからお金を吸収するかという点。けんすう氏は「人件費である可能性が高い」と語ります。100人の社員を雇っていた会社が、10人でAIを回した方がよいとなる構造です。
一度雇うと簡単には辞めさせられない。年1000万円が何年も続く。経営判断の柔軟性が低い。
「今月1000万使ったけど来月は100万」が即座に可能。コスト調整が経営側の判断ひとつ。
さらにAIは性能が上がり続けながら、企業間競争によって価格は下がっていく可能性があります。人件費は上昇トレンド、AIは下降トレンド。経営判断としてAIを選ぶ流れは、すでに確定していると言えそうです。
人件費がAI企業に流れると何が起こるか
けんすう氏は日本のマクロ経済の数字を引きながら、構造的なリスクを説明します。
この人件費のうち、わずか1%がAI企業に流れるだけで2兆円規模になります。みんなが「ここにお金が流れる」と思うからこそ、AI企業の時価総額は上がっているわけです。
本来6860万人に分散していたお金が、もし大部分AI企業(特にアメリカ企業)に流れると、国内で流通するお金が減り消費者の購買力が落ちます。すると物が売れなくなり、企業の売上も落ちる──負のスパイラルです。
企業がAIに置き換え
人件費削減で短期的に利益拡大
お金がAI企業(多くは海外)に集中
国内消費者の手元のお金が減少
消費が控えられ物が売れなくなる
企業の売上が落ち、さらにコスト削減=AI化が加速
共有地の悲劇としてのAI導入競争
リスナーの「個人や企業にとって合理的なことをすると、全体最適と異なる状況になる」というコメントに、けんすう氏は「共有地の悲劇個々の合理的な行動の積み重ねが、社会全体としては破滅的な結果を招く現象。経済学・社会学でよく使われる概念。みたいですね」と応じました。
個社単位で「人件費をAIに変えない」という判断をすると、AIを使った競合に半分の価格で勝負を仕掛けられて負けてしまう。だから誰もが「これは破滅だな」とわかっていても、AIへの置き換えを止められない。これがけんすう氏の見ている構造です。
解決策として「ベーシックインカム政府がすべての国民に対し、生活に必要な最低限のお金を定期的に支給する制度。AIによる失業増への対策案としても議論されている。なり何かしらの仕組みを提示しないと、ここ10年20年は大荒れする」と展望しました。「技術革新のたびに新しい職種が生まれるから大丈夫」という従来の説明も、短期的には通用しない可能性が高いと言います。
AI時代に残る価値は「文脈」と「関係性」
「AIで作品の質が上がっていく中、好きになる理由はどこに残るか」というリスナー質問に対して、けんすう氏は「文脈」と「関係性」がカギだと語りました。
例えば天皇制は長い時間をかけた伝統だからこそ価値がある。今いきなり誰かが「私は日本の天皇です」と言っても誰も相手にしない。同じように、AIが作るコンテンツそのものより、時間の積み重ね・関係性・共犯関係といった手触り感のある価値が今後ますます重要になるとの見方です。
けんすう氏自身も「AIが始まって『マジでやばい』と思ってこの配信をやっている」と明かし、声を聞いてもらう・質問に答える・長く聞いてもらうといった営みそのものが、自分とリスナーの間に文脈を作る行為だと位置付けています。
コンテンツそのものの価値よりも、その関係性が重視される方向に今行っている。手触り感のある関係性が大事になっていきますね。
AI時代の働き方とリスナーからの実践的質問
AIの答えを超えるには「経験」が掛け算になる
「AIに背景情報を渡して問いを投げると王道の答えが返ってくる。経験豊富な人の現場ナレッジを引き出すコツは?」という質問にけんすう氏は、まず「専門家.md」のようなファイルを作っておき、AIに「一流の専門家が陥る問題、その上で超一流が打つ手」というプロセスを毎回踏ませるとよいと回答。
映像編集者にとってのチャンス
「AIには作れない価値をつけるには?」という映像編集者の質問には、ポジティブな見方を提示しました。編集の技術はAIがやってくれる。だがその分、編集者は「どの映像を撮るか」「どんな素材を集めるか」という発想・センスに時間を使えるようになる。AIで映像が自動生成できる世界では、面白い動画を発想して編集できる人が圧倒的に有利になると言います。
ヘルスケアデータとジャーナリングの組み合わせ
朝散歩しながらボイス録音→AI文字起こし→ジャーナリングという習慣を続けるリスナーへのアドバイスでは、自作iPhoneアプリで天気や地図、睡眠データ(けんすう氏はFitbitGoogleが提供するヘルスケアデバイス。睡眠時間、心拍、レディネススコア(その日の体調指数)などを計測できる。のレディネススコアを使用)と組み合わせ、「睡眠時間が気分に与える影響」などを可視化することを提案。「22時に通知を出す」までアプリで作り込むと一歩先に進めると話しました。
アファンタジアと言語優位の思考
けんすう氏が自身の特性として度々語るアファンタジア頭の中で画像や動画を思い浮かべることができない、または極めて困難な脳の特性。決して病気や障害ではなく、人類の数%が持つ認知特性とされる。についても言及がありました。本人いわく「16歳以前の記憶はほぼない」「思考は全部テキストベース」とのこと。
面白いのは、けんすう氏が「アファンタジア=言語優位」と思われがちだが実は別の概念だ、というリスナーの指摘に「なるほど」と気づきを得ていた点。けんすう氏自身は言語優位かつアファンタジアという組み合わせで、ひろゆき氏西村博之。2ちゃんねる創設者、実業家。膨大な知識を細かくクラスタ化して保持しているような語り口で知られる。が情報を細かくクラスタ化して語る様子に近いタイプだと自己分析しています。
一方で、絵を描けるタイプ(例として西野亮廣キングコング所属のお笑い芸人・絵本作家。『えんとつ町のプペル』などビジュアル表現に強みを持つ作品で知られる。氏を挙げる)は映像で思い浮かべられるからこそ作品にできる、と語りました。
まとめ
AI企業の急成長の裏で進む「人件費の吸収」というマクロな問題は、個社レベルで止めようがない構造的なリスクをはらんでいます。けんすう氏は楽観論ではなく、ここ10〜20年は失業者増による景気悪化が起こり得ると見ており、ベーシックインカムのような制度的対応の必要性も指摘しました。
一方で個人レベルでは、AIが代替しにくい「文脈」と「関係性」、そして自分の経験を掛け算で広げるリテラシーが価値の源泉となります。AIが進化するほど、人間側の経験と発想、そして他者との手触り感のあるつながりが効いてくる──そんな逆説的な時代の入り口に、私たちは立っているのかもしれません。
- AI企業の時価総額の根拠は、世界中の人件費(日本だけで年間320兆円規模)からの吸収を市場が織り込んでいるから
- 人件費は固定費でAIは変動費。経営判断としてAI置き換えは止められず、共有地の悲劇的な構造を生む
- 国内でお金が流通しなくなると消費が冷え、企業がいくらコストを下げても物が売れない悪循環に陥る
- AI時代に価値が残るのは「文脈」「関係性」「時間の積み重ね」。コンテンツそのものより手触り感のある関係性が重視される
- AIは経験を3倍にできるが、経験の外側にあるものを引き出すのは難しい。自分の「1」を持つことが前提
- 映像編集者のように、AIで作業時間が短縮された分を発想やセンスに使える職種にはむしろチャンスがある
