自作アプリが当たり前になる時代
けんすうさんが本編で語ったのは、「自作アプリの時代がもう来ている」というシンプルな話です。ここ数年のAIの進化は、インターネットやスマホの登場が「恥ずかしくなるぐらい」霞んで見えるレベルの変化を起こしている、と言います。
具体例として紹介されたのが、自作のスマホ抑制アプリです。スクリーンタイム制限ではあまり意味がないと感じたため、X(旧Twitter)を開くたびに「遊び」「調べ物」「仕事」のどれかを選ばせる仕組みにしたところ、ほとんどが暇つぶしで開いていることが可視化され、結果として使用が抑制できたそうです。
音声入力アプリも、サブスクに千円払うぐらいだったら自分で作っちゃった方が早いなみたいになりました。
作業時間は5行ぐらい書いて、修正してインストールするだけ。所要時間は約3分。ClaudeAnthropic社が提供する対話型AIアシスタント。デスクトップアプリ版もあり、自然言語で指示を出すとコードを書いてくれる。のデスクトップアプリに「作って」と言うだけなので、難しい部分は一つもないそうです。
けんすうさんは、近い将来GoogleやAppleがスマホに「自作アプリ制作メーカー」のような機能を組み込み、欲しいアプリを言えば作ってインストールまでしてくれる時代が来ると予測しています。そうなると新しいアプリが出にくくなり、アプリ市場は縮小していくだろうという見立てです。
フロントは余裕、勝負はデータベース
では、ウェブサービス会社はみんな潰れていくのでしょうか。けんすうさんの答えは「そうではない」というものです。残っていくのは、つながりがないとできないもの、独自のデータがないとできないものだと言います。
視聴者からの「フロントは余裕になったがデータベースは代替できない」というコメントを受けて、けんすうさんはこう続けます。フロント側はもう本当に簡単で、Xを開くたびに理由を聞いてローカルにデータを貯めるくらいなら一瞬。けれどデータベースを持ってAPIで呼び出す段階になると、サーバーサイドが必要になり、しかもそのデータ自体がユニークだと大きな価値を持つ、と。
フロント(UI/アプリ)
個人が自作できる時代に。市場としては縮小していく可能性
データベース + API
独自データを持つ側が強い。フロントは他社が勝手に作ってくれる構造へ
ただし「データは石油」と言われて10年以上経つものの、いいデータを持ち続けるのは難しいと指摘します。たとえばユーザー行動データは賞味期限が短く、1年前のFacebookの行動データは使い物になりません。スタートアップが「百万人のユーザーデータがある」と言っても、実はあまり使えないことがしょっちゅう起きているそうです。
一方でnoteクリエイター向けの記事投稿プラットフォーム。有料記事の販売機能があり、クレジットカード登録済みのユーザーを多く抱える。のように「クレジットカードを登録しているユーザーが何百万人いる」というデータは強い、と言います。APIを通じて他のブログサービスに課金機能を提供できる可能性があるからです。はてな日本の老舗ウェブサービス企業。はてなブログ、はてなブックマークなどを運営。が後追いで課金機能をつけても、クレカ登録ユーザーが少ないので売れず、結局noteで売ることになる──こうした循環が進むのだ、と。
退職する時に意識すべきこと
会社を退職して新しい道に進むリスナーから、「美しい退職の仕方」「周囲の巻き込み方」について質問が寄せられました。けんすうさんの答えはシンプルで、まず「絶対に不満を出さない」ことだと言います。
どんなに今の会社に不満があっても、辞める時に出すのは百害あって一利なし。理由は「ずっと挑戦したかったことに挑戦しようと思って」みたいなポジティブなものしか言わない。そして偉い人やキーマンには仁義を通し、腹を割って話して関係性を維持する、と。
面白いのは、「応援されよう」と意識しすぎるのは逆効果だという指摘です。退職前は毎日顔を合わせるので重要なコミュニティに感じるけれど、半年もすればお互いに忘れていくものだ、と。だから悪い印象を持たれなければOKくらいのスタンスでいい、と語ります。
「どうせ辞める人だもん」って相手も思うので、それなのに繋がり維持しようとされると結構嫌なんですよね。
視聴者からは「いい感じの退職は伏線として機能する」という補足コメントも。退職した人が後から業務委託で声をかけられたり、転職後に元の会社の経営層とビジネスの話をするのもよくあるからです。だからこそ、嘘でもいいので前の会社をよく言い続けた方がいい、とけんすうさんも同意しています。
二つ上の上司の視点で考える
友人から「二つ上の上司の立場で考えてみて」とアドバイスされたが、二つ上の上司が持っている情報は手に入らないし、自分の悩みとはズレているのでは──そんな質問にも、けんすうさんは「的確なアドバイスだと思う」と答えます。
現場目線でぶつかるのは大抵「視座」の問題で、情報量よりも視点の高さの問題だからです。部長が課長にどう動いてほしいか、どう指示しそうかを予測し、その指示を受けた課長がどう自分に言うかまで読んでおく。これができれば、課長と直接対峙して反感を覚えずに済む、と。
けんすうさんは、AIを使えばこの「部長の視点シミュレーション」を簡単にツール化できると言います。社内チャットやメールに対して、「部長視点ではこう言っている」というAIの解釈を一緒に表示するだけで、認知が大きく変わる。難しそうに聞こえても、作ってみれば拍子抜けするほど簡単だ、と。
SIerのAI代替、その先のキャリア
SIerSystem Integratorの略。企業の業務システムを設計・開発・運用する会社の総称。日本のIT産業の大きな部分を占める。のインフラエンジニアから「システム開発をAIエージェントに代替させる取り組みを社内でしている。自ら仕事を減らしに行ってるけど大丈夫か」という相談が寄せられました。けんすうさんは「これをできる人はずっと重宝される」と即答します。
イメージとして語られたのが、中世のギルド職人の話です。技術だけ持っていた人は工場化で要らなくなったが、工場をマネジメントできるようになった人はずっと安泰だった。今のAI導入もそれと同じ構造だ、と。
具体的なキャリアパスとして、けんすうさんなら知見が溜まったうちにコンサルとして副業を始める、と言います。一時間10〜15万円の単価で4社ほどを手伝えば、年収3000〜4000万円でダラダラ暮らせる。さらにその資産をAI会社に投資して安定させる、というシナリオです。
面白いのは「この経験ができる人は限られていて、その人たちがコンサルで横展開していくと、もう次の人は経験を積めなくなる」という見立て。だからこそ今、最前線で導入を経験している人にものすごい価値が生まれている、というわけです。
新卒はAI活用が進んでいる会社を選ぼう
新卒の就活生から「AI活用が進んでいる会社」と「AI活用が遅れていて変革余地が大きい会社」のどちらを選ぶか、という質問。けんすうさんは「圧倒的に前者」と答えます。
理由は、変革余地が大きい会社の難しさにあります。今いる人たちの仕事を減らさず、反感を買わず、既存の仕組みやセキュリティやブランド価値をキープしたまま変えるのは大変。一方で、AIにフルベットしている会社は「新しいことをやり続けないと死ぬ」という危機感で動いているので、ずっと最先端にいられる、と。
既存の仕組みや人間関係の調整が重く、変革のスピードが上がりにくい。3年で1ヶ月分しか進まないこともある。
新しいことをやり続けないと死ぬ危機感で動くため、常に最先端。経験値が爆速で積み上がる。
通常けんすうさんは「大企業に行った方がいい派」だそうですが、このタイミングで新卒なら、AIにフルベットする覚悟のあるベンチャーに入ると言います。1ヶ月ごとに仕事内容が激変する環境の方が、長い目で見ると経験値が積めるから、というのが理由です。
二歩先ではなく、零点二歩先を狙う
「けんすうさんは最先端を走っている」という感想に対し、けんすうさんは「全然最先端じゃない」と否定します。本当に使い込んでいる人から見れば、自分は「三、四周遅れて見える」はずだ、と。
この話の核心にあるのが、かつてリクルート時代に先輩から言われた言葉です。2006〜2007年頃、けんすうさんは「これからは口コミの時代だ、食べログが出てきている、ホットペッパーは駆逐される」と社内で説得して回っていたそうです。その時に、ある先輩からこう言われた──「絶対正しいけど、早すぎて多分儲からないよ」と。
実際、食べログが本格的に儲かるようになったのはそこから10年後。それまではホットペッパーの方が売上は大きかった、という史実です。
本当にビジネス化できる人は、零点二歩だけ先に行こうとする、というのがけんすうさんの観察です。今、けんすうさんやイケハヤさんが「バイブコーディングでアプリ作るのがいい」と話しているのは、ちょうど今がそのタイミングだと判断しているから。本人たちは1年前からアプリを作れることを知っていたけれど、当時話してもついてこられないから言わなかった、と。
また、AIで仕事が何十倍、何百倍のスピードで進む中で「正気を保つのが難しい」とも吐露しています。今までの時間感覚が100倍で動くと、認知リソースをフル稼働させてしまい、気力がもたない。けんすうさん自身、AIに仕事をさせている間、家事や片付けを大量にこなしているそうです。
まとめ
「自作アプリの時代」というテーマから始まったこの回は、AIが個人の生活やキャリア、会社選びの基準まで変えていることを具体例で見せてくれる内容でした。フロントエンドが誰でも作れる時代になり、価値はデータベースやAI主導のオペレーションを設計できる人へと移っていく。そんな見立てが繰り返し語られています。
同時に、けんすうさん自身が「正気を保つのが難しい」と語るほど、変化のスピードに翻弄されている人類全体の姿も垣間見える回でした。何歩先を狙うか、どこで足を止めて見渡すか──そのバランス感覚が、AI時代を生き抜く上で意外と効いてきそうです。
- AIにより自分用のアプリが数分で作れる時代に。アプリストアで探すより自作が早いことも増えてきた
- フロントエンドはコモディティ化していき、勝負は独自データを持つデータベース側へ
- 退職時は不満を一切出さず、嘘でも「いい会社だった」と言い続ける方が長期的に得
- 仕事の悩みは「二つ上の視点」で考える。AIで部長視点シミュレーションも簡単に作れる
- 新卒で就職するなら、変革余地の大きい会社よりAI活用が進んでいる会社を選ぶべき
- 未来予測は簡単。難しいのは「零点二歩だけ先」のビジネスタイミングを当てること
