才能は密度が大事 ── シリコンバレーに学ぶ「集まる場所」の重要性
アル株式会社代表のけんすう氏が、平日朝のライブ配信「けんすうスピーク」で語った「才能は密度が大事」というテーマ。シリコンバレーの集積効果から、東京での起業のすすめ、そしてリスナーからの多彩な質問への回答まで、その内容をまとめます。
才能の密度こそが成長を決める
この日の本題は「才能は密度が大事」。Xで見かけた投稿に触発されて語られたテーマです。きっかけは、AIエディタのCursorAIと連携してコードを書けるエディタ。プログラマーの間で急速に普及している。がSpaceXイーロン・マスク率いる宇宙開発企業。今回Cursorを買収したと報じられた。に約9.6兆円で買収されたというニュース。シリコンバレーで働く友人たちが「カジュアルに数百億円ゲットしている」現実に対し、日本では一流スタートアップで年収1,000万〜2,000万円という格差の大きさが話題になっていました。
多くの人は「自分に才能があるかないか」で考えがちですが、それよりも「才能が密集している場所にいるかどうか」のほうが影響が大きい、というのがこの回の核心です。たとえ才能レベルが50あっても、密度のない場所にいれば伸び悩む。逆に才能レベルが1でも、密度の高い場所に飛び込めば100まで伸びる可能性がある、というわけです。
集積効果と東京で起業する意味
けんすう氏は起業家から「地方と東京、どちらで起業すべきか」と聞かれたら、迷わず東京を勧めるといいます。理由はやはり集積効果。地方ではスタートアップに入りたい人も、起業家の先輩も、相談相手も、投資家もいない。だから「東京の六本木か渋谷に来た方がいい」というアドバイスを送っています。
・スタートアップ志望者が少ない
・起業家の先輩がいない
・投資家が近くにいない
・相談できる相手が限られる
・才能と会社が集積している
・先輩・投資家にアクセスしやすい
・相乗効果で成長スピードが上がる
・ジャンルによっては福岡なども有望
ちなみにポッドキャストなら福岡も強いという例外もあるそうですが、基本は「集まっているところに行く」のが鉄則。書籍『年収は住む場所で変わるエンリコ・モレッティ著。優秀な人材が集まる都市ほど経済的に豊かになるという理論を扱った経済学の名著。』にも通じる発想です。
クリエイターを東京に集める国策の可能性
けんすう氏はXで「漫画家は全員無税にして確定申告も不要にした方がいい」と冗談半分で投稿したそうですが、本気度は半分くらいあるとのこと。世界中のクリエイターが集まる可能性がある都市として、東京は十分な候補だからです。
変に税金を使うよりも、漫画家とかクリエイターが東京来るとめっちゃ活動しやすいみたいな状態にすると、世界中から集まる可能性があると思ってます。
韓国がアイドル志望者を集めているように、東アジアの優秀な漫画家・クリエイターが「東京に行ったほうが成長できる」と感じる環境を国策として作る。それは才能の密度を国レベルで高める発想です。
怒りに支配されないための考え方
リスナーから「怒りを機に行動することはあるか」という質問。けんすう氏の答えは「あまりない」。許して忘れる──いわゆるフォーギブ・アンド・フォーゲット「許して忘れる」という考え方。過去の出来事に囚われず、心の負担を減らす生き方として知られる。のスタイルで、怒りは比較的どうでもいい感情として扱っているそうです。
かつてはレスバトル(SNSでの口論)で「あえて感情に任せて書く」というテクニックを使ったこともあるそうですが、エネルギー消費が大きすぎる。「損か得かで人生を考えない方がいい」とも語ります。日本に生まれた時点で世界のトップ1%に入る恵まれた状況なのに、自分が損している側だと思い込むのはもったいない、というスタンスです。
高齢者批判より政治の方向性を考える
「年寄りのせいで若い世代が苦しめられる」という相談に対しては、世代間対立の言説に煽られているのでは、という指摘。少子高齢化と若年層の負担増は事実ですが、これは「高齢者のせい」ではなく「税金をどう取って、どう使うかの国家方針」の問題だといいます。
けんすう氏自身は「税金をたくさん取って再配分した方がいい」という立場。再配分が効いている日本は他国より安定度が高いと評価しています。ただし「現役世代の取りやすい会社員からすごく取っている」現状はアンチパターンだ、とも付け加えていました。
多様性はなぜ大事なのか
「価値観が揃ってる方が争いがないのでは?」という質問への回答が秀逸でした。けんすう氏はGoogle世界最大級のIT企業。社内文化としてリベラルな価値観の共有と、人種・性別・年齢の多様性を両立させている。を例に挙げ、「考えや価値観は揃っているが、人種・性別・年齢では多様性を活かしている」と説明します。
Googleの会議でこの前出て、やっぱ4人いて4人とも女性で男性いないなと思ったりしたんですけど、あんまり日本の会社でそういうことがないんですよね。
象徴的な例として語られたのが9.112001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件。アルカイダの指導者ビンラディンが首謀者とされる。のエピソード。テロ前に「洞窟の中でビンラディンが演説している」という情報を白人エリートだけで見れば「文明レベルが低い集団のたわごと」に見えてしまう。しかしイスラム教徒が情報チームにいれば「あの洞窟の演説には深い意味があり、信者が極度にモチベートされる」と読み解ける──というのです。
ジャンプラの打ち切り制度が機能する理由
「ジャンプ+集英社が運営するウェブ漫画アプリ。『SPY×FAMILY』『怪獣8号』など多くのヒット作を生んでいる。で面白い漫画がどんどん打ち切りになる」という相談には、業界の構造から丁寧に回答。無料で読める時代でも単行本売上で続けるかが決まる仕組みは「合理的」と評価します。
背景には編集者の負担増もあります。昔は1〜2本だった担当連載が、今は7〜8本に。編集者は専門職で簡単に増やせないため、辞めさせる仕組みがないと回らなくなるのです。
人気のない作品を続ける
漫画家の才能(希少資源)が固定化、編集者が疲弊、新作品が生まれない
打ち切りで次のチャンスへ
漫画家が別ジャンルで大ヒット、編集リソースが新作に回る
具体例として、春場ねぎ『五等分の花嫁』の作者。前作の打ち切りを経て、ラブコメで大ヒットを記録した。氏が前作の打ち切りを経て『五等分の花嫁』で大ヒットしたこと、赤坂アカ『かぐや様は告らせたい』『【推しの子】』の原作者。デビュー作『インスタントバレット』は打ち切り近い形で終了した。氏が『インスタントバレット』の終了後に『かぐや様は告らせたい』『【推しの子】』を生み出した経緯が紹介されました。「希少資源である漫画家の才能を最適に配分する仕組みとして、打ち切り制度は機能している」というのがけんすう氏の見立てです。
フォロワーを増やすイラストレーター戦略
イラストを描き始めてフォロワー1桁という相談者へのアドバイスは、「自分のイラストを見たい人はまだいない」という前提から始まります。だから「見たいイラスト」を描くしかない、と。
けんすう氏は「山の頂上に行くとき、最初の獣道が一番きつい。百万フォロワーに到達すれば次の手段は限られて成功も確約されるが、1桁から3桁に行くフェーズは工夫するしかない」と表現していました。
就職にこだわらない働き方
「転職エージェント100社に落ちた」という50代の相談者には、就職以外の選択肢を強く勧めていました。100社落ちる状況で就職に固執するのは、「中国語ができないのに中国の会社ばかり受けて落ち続けている」のと近い、という比喩が印象的です。
また、ドーパミンが出る「努力に見える行動」を仕事にできる人は運がいいだけ、とも語っています。見つからない人は、自分が苦に感じなくて人に喜ばれることを探したほうがいい。これは著書『物語思考けんすう氏の著書。「やりたいこと」ではなく「なりたい状態」から逆算する思考法を提示している。』の核となる発想にもつながります。
まとめ
この回の通奏低音は「環境と仕組みが個人の成果を大きく左右する」という発想でした。才能の密度が高い場所、合理的に機能する打ち切り制度、就職以外の働き方──いずれも個人の頑張りだけでなく「どこに身を置くか」「どんな構造に乗るか」を見直す視点を提供してくれます。
自分の才能を疑う前に、まず「自分のいる場所の密度」を疑ってみる。それが、けんすう氏が今日のリスナーに残した最大のヒントかもしれません。
- 才能の有無より「才能が密集する場所にいるか」のほうが成長に直結する
- 起業するなら集積効果のある東京(六本木・渋谷)を推奨
- 怒りはアドレナリン消費が激しく、許して忘れるスタイルが長期的にはお得
- 多様性は「価値観の一致」と「属性の多様性」を分けて考えると理解しやすい
- ジャンプ+の打ち切り制度は、希少資源である漫画家と編集者を最適配分する仕組み
- イラストレーターは「自分の描きたい絵」より「見たい人がいる絵」を見たい人がいる場所に置く
- 就職は働き方の一種にすぎず、就職にこだわりすぎると選択肢を狭めてしまう
