なぜ好調のエアトリを離れ、ゼロから始めたのか
この回は、エアトリが資金繰りからも解放され、人も入り組織も活性化していた好調期の話から始まります。その状態から吉村さんは自ら退き、今のミダスキャピタルを始めたと語られています。
いい状態だったんだけれども、ご自身でもそれ(エアトリ)はやめて、今の会社を始めるっていうのを言い出したんですか?
そうです。エアトリをやっていく中で、このまま(会社を)SBGとかにするのはちょっと難しい。いろんな意味で難しいなと。またゼロからやりたいっていう思いで。
吉村さんは、内部の人たちとコミュニケーションを重ねながら、できるだけ迷惑がかからないよう時間をかけて移行していったと話されています。共同創業者とは特に深く話し合い、理解を得られたとのことです。
社長と役員を退任したのは、収録時点でおよそ6年前。38歳ぐらいの時だったといいます。子どもの頃から抱いていた「世界一の金持ちになって世の中に貢献する」というスケールを求めるには、この新しい道だという判断でした。
じゃあ結構ワクワクして辞めたり、ワクワクして新しいことを始められた。
はい。
触れたディールを黄金に変える。ミダスという社名に込めた意味
新会社の名前は「ミダス」。ギリシャ神話に出てくる、触れたものすべてを黄金に変える王様の名前が由来です。ミダス王 ── ギリシャ神話に登場するフリギアの王。願いどおり触れるものすべてが黄金に変わる力を得たとされる。転じて、扱うものを次々に価値あるものへ変える人の比喩に使われる。
自分たちが触れたディールは全て黄金に変えるっていう意味でミダスを創業しました。
川邊さんは、プロレスラーの岡田克親さんのあだ名「レインメーカー」が金の雨を降らせるという意味であることを挙げ、似た発想だと応じています。
ミダスは手金のファンドとして立ち上がりました。最初に30億円を手金で出し、外部から20億円を借り、合わせて50億円で最初の案件に臨みます。
最初の勝負、バイセル買収。高すぎると言われた50億円の判断
ファースト案件は、流通の会社バイセルテクノロジーズの買収でした。LBO ── レバレッジド・バイアウト。買収先の資産や将来のキャッシュフローを担保に借入を起こし、自己資金を抑えて企業を買収する手法。買った当時は売上7〜80億円、利益2〜3億円ほどで、純資産フラットの会社を50億円で買ったため、周囲からは高すぎると見られていたといいます。
さらに離職率は90%を超え、組織的にも脆弱な状態でした。それでも吉村さんは「いける」と判断しました。見た目の利益は3億円でも、10億円にはすぐいけるというのがボトムラインだったと語られています。
判断の背景には業界全体の追い風がありました。新品でなくてもよいと考える人が増え、流通市場が伸びていたことに加え、中堅中小の会社は多いのに大きな会社が少なく、M&Aのストロングバイヤーがいなかったという構造です。
(バイセルは)まさに流通業界で一番のストロングバイヤーになれていると思うんです。
買収の2年後、バイセルは時価総額130億円ほどで上場します。LBOのレバレッジを考えると、2年間でエクイティ部分がほぼ4倍になった計算です。
通常のPEファンドなら上場時に大部分を売るところですが、ミダスは短期的なIRRではなく、中長期で世界に冠たる企業を作ることを狙っていました。IRR ── 内部収益率。投資が生む利回りを示す指標で、PEファンドが投資成果を測る代表的なものさし。そのため上場時には2〜3%しか売らず、前期で売上1000億円、利益100億円弱まで成長した今も、50%ほどを保有していると語られています。
2号案件ジェンダ。イオン出身の経営者とゼロから作った事業
2号案件のジェンダは、買ってきた会社ではなく、ゼロから作った会社です。昔からの友人である片岡さんと、ミダスを立ち上げる時に一緒にやろうという話になったといいます。
片岡さんは、イオンの上場子会社であるイオンファンタジーの社長を5年ほど務め、その間に利益も株価も倍ほどに引き上げ、業界3位から1位へと導いた人物です。イオンファンタジーは世界一のゲームセンター運営会社だと紹介されています。
そのエンタメ領域の知見を生かし、ジェンダはエンタメの会社を次々に買っていく趣旨で始まりました。上場前には近くのセガのゲームセンターを丸ごと買い、ゲームセンターを増やしていきます。
上場後は幅を広げ、カラオケ業界3位のカラオケのバンバンやカラオケ機流通の会社、映画のギャガなどを買収。最近はアメリカ、カナダ、イギリスのアミューズメント大手チェーンも取り込んでいます。
その結果、ジェンダは売上約2000億円、EBITDA約270億円に到達しています。EBITDA ── 利払い・税金・減価償却前の利益。設備投資が大きい事業などで、本業の稼ぐ力を比較する際に使われる指標。売上1000億円突破やEBITDA100億円突破は、日本で最速記録になっているとのことです。
じゃあもうその路線を突っ走りまくってますよね。
はい、そうです。
アメリカ進出の現在地。ウォルマート横のクレーンゲームに日本のIP
アメリカ進出は現在進行形だと語られています。直近1年ほどで4社を買収し、設備投資も打ちながら、無人のゲームセンターのような事業を多く買っているとのことです。
具体的には、ウォルマートやスーパーのレジ横に置かれたクレーンゲームで、その拠点は約1万2000か所あるといいます。もともとよくわからないぬいぐるみが入っていたところに日本のIPを持ち込むと、売上が一気に上がるという構図です。
日本のIPをどんどん持っていって、そうすると一気に売り上げがすごくバンって上がって。
売上自体はねらいどおりに動いている一方、アメリカでのPMI(買収後の統合作業)は今まさにみんなで一生懸命取り組んでいる段階だと話されています。
なぜ役員に入らないのか。何でもいつまでもやる支援スタイル
バイセルにしてもジェンダにしても、吉村さん自身が役員に入るのかという問いに対し、ジェンダには入ったことがなく、バイセルも上場前後に一時期入っていただけで今は抜けていると答えています。
基本の姿勢は、経営陣を支援することに徹し、あとは各社各様に任せるというものです。取締役として細かく関与するのではなく、経営陣が求めることを支援する形をとっています。
(経営陣が求めることを)どこまででも何でもいつまでもやるっていう支援スタイルで。
具体的には、ミダスで人を採用してソーシングし、各社に紹介する形の人材支援があります。最終的な採用の可否は各社が決め、M&Aも各社がやりますが、ミダスが案件をソーシングしてパスしていきます。
ジェンダやバイセルのようにM&Aに慣れた会社は自走できますが、まだ1〜3件目で慣れていない会社には、その後もずっと並走します。ファイナンス、IP訴訟、IRなど、筆頭株主として半永久的に関わる立場だからこその支援だと説明されています。
支援は全部無償。ミダスの収益はどこから生まれるのか
注目されるのが、この手厚い支援がすべて無償で行われている点です。アドバイス料もロイヤリティも一切請求していないと語られています。
それが一切なくて、全部無償でサポートしてます。自分たちが筆頭株主なので、支援する中で価値がどんどん上がっていったら、それでメイクセンスというか。
ではミダスの収益はどこから生まれるのか。ファンドには成功報酬10%のものと20%のものがあり、株式は基本的に売らないものの、発行体からの要請で流動性を上げるために一部を売却することがあります。
その売却で生じたキャピタルゲインの10%または20%が、株式会社ミダスキャピタルに入ってきます。これが売上にあたります。
その配分も特徴的で、3割ほどで会社運営をし、1割を財団に寄付し、6割を注視メンバーで分けていく形だと語られています。ここで川邊さんは、ソフトバンクグループ全体を知り尽くしているだけに、比較しながら聞くのが楽しいと応じています。
オーナーが会社ごと参加する。現物出資という独特のスキーム
3社目にあたるINGREDは、マーケティング支援の会社です。売上400億円、利益30〜40億円ほどで、もうすぐ上場できればという状態だと語られています。
INGREDがユニークなのは、ミダスが持つ「オーナーファンド」という独特のスキームで参加した点です。川邊さんは、こうした存在は村上ファンド以外に知らないと反応しています。
INGREDは創業オーナーの黒川さんがほぼ100%を持っていました。ミダスに共感して一緒にやろうとなった際、黒川さん専門の「黒川竜介ミダスファンド」を作り、黒川さんが持つINGRED株をまるごとそこへ現物出資しました。
その結果、INGREDのオーナーは黒川さん個人から黒川竜介ミダスファンドに切り替わり、そのファンドのオーナーは100%黒川さんという構造になります。将来INGRED株を一部売却したら、キャピタルゲインの10%をミダス本部に入れる契約です。
自分がオーナーなのに、なぜ参加するのか。黒川さんの2つの理由
ここで生まれる素朴な疑問が、黒川さんは自分がオーナーなのに、なぜわざわざこの形をとるのかという点です。吉村さんは理由を2つ挙げています。
1つ目は、ミダスから全面的なサポートを受けられることです。実際にINGREDの副社長、CFO、CTOといった中核メンバーはミダスの紹介で入っており、こうした人的支援も含めれば、将来の時価総額の伸びは10倍どころではないという見立てです。
(黒川さんから見たら)10倍どころじゃなく、もっともっと。数十倍とか場合によっては数倍上がるんじゃないか。
2つ目は、吉村さんがエアトリを辞めてミダスを始めた理由と重なります。INGRED単体でも時価総額1000億円ほどまでは上場でいけると黒川さんは考えていましたが、その先の1兆、10兆はINGRED単独では難しい。
それがミダス企業群全体で1兆10兆100兆、これはいけるんじゃないか。そこに面白みを感じていただいて、ジョインをいただいた。
なお黒川さんは、黒川ミダスファンドを通じて他のミダス各社にも出資しており、ミダス全体で利益共同体になっていると説明されています。INGREDはまだ上場前です。
17社をどう作ったか。ゼロ創業・買収・現物出資の3パターン
ミダスの企業群は、大きく3つのパターンで作られています。全部で17社あり、成り立ちの違いで整理されています。
ジェンダのように、まったくゼロから立ち上げた会社。7社。
バイセルのように買ってきた会社が5社、INGREDのようにオーナーが会社ごと現物出資して入ってきた会社が5社。
川邊さんは、現物出資が5社もあることに驚いています。よほどミダスの支援や、企業群全体でのトータルの価値が魅力的だったのだろうと受け止めています。
この間にミダス全体の時価総額は約5000億円まで大きくなりました。その一方で、吉村さんの人生も動いています。10年ほど前に結婚し、6年前に息子が生まれ、最近はトライアスロンを始めてハワイに行くなど、スポーツも楽しんでいるといいます。
やりたいことは全部やろうっていう感じで、ビジネスもプライベートも、何かをトレードオフで我慢したりってことはあんまりないです。
しかもそうした遊びも、ミダスの仲間と一緒にやることが多いと語られています。仕事も社会貢献も遊びも切り分けずに全部やる、というのが吉村さんの考え方です。
財団は同時に立ち上げた。他に寄付せず自分たちで動かす仕組み
ミダスキャピタルと財団は、ほぼ同じタイミングでセットで立ち上げられました。財団にもいくつか特徴があると語られています。
1つ目は、他の団体への寄付や助成をほとんどせず、自分たちで直接プロジェクトを推進すること。2つ目は資本効率を追求し、社会的インパクトの最大化を目指すことです。
3つ目は、ミダスキャピタルが大きくなれば財団の予算も自動的に上がるため、一度始めたことは責任を持ってやり続けつつ、毎年新たに1つ社会課題への挑戦を加えていく点です。事業が積み上がり式に増えていく形だと説明されています。
原資は利益の一定割合の寄付と、吉村さん個人からの年間1億円などで、内部の資金だけで運営しているといいます。国内では特別支援学級のマッチングを日本で最も多く行い、子どもの体験格差の是正にも取り組んでいます。
世界銀行の8分の1のコスト。資本効率を追う社会貢献
海外ではベトナムから始め、今はカンボジアやラオスなど東南アジア・南アジアで、同じような学校や個人を作っていっています。ここで吉村さんは「資本効率を追求している」という言葉の意味を具体的に語ります。
こうした施設を世界銀行が作ると、1個あたり1.5億円ほどかけるケースが多いといいます。それに対しミダスは、およそ8分の1のコストでプロジェクトを進めていると語られています。
僕たちの場合、大体8分の1ぐらいのコスト感でプロジェクトを進めています。
なぜそれができるのか。理由は、外部団体に寄付するのではなく、現地で自分たちが直接雇用して動かすため、管理コストが極小化されている点にあります。発注のたびに何度も見積もりを取って下げ、ボランティアチームで役割分担し、現地行政のリーダーと組むことで土地の選定や承認でお金が抜けないようにしているといいます。
何をやるか毎年決める。収益を考えずインパクトだけを追える強み
どの事業をやるかは、毎年かなり時間をかけて決めていると語られています。基準は、本質的な課題であること、そして自分たちがちゃんと改善していけそうなことです。
吉村さんは例として環境問題を挙げます。大事な課題だが、自分たちが一生懸命やっても0.1の改善にもならなさそうな領域には踏み込まない。年に一度発刊するインパクトレポートで、実際にどんなインパクトを出したかを検証しながら選んでいます。
2026年はフードロスかシングルマザーへのサポートのどちらかを検討中だといいます。ここで語られるのが、他の非営利団体にはない強みです。
普通の非営利団体は継続のために何らかの形で収益を出さねばなりません。しかしミダスの財団は、収益はビジネスで稼いだものを持ってくるため、そこを一旦考えなくてよいと語られています。
純粋に社会的インパクトだけを追求できるので、なかなか他ではできないアプローチができるんじゃないか。
運営体制もビジネスと同じ発想です。それぞれの事業にCEOが必要で、三菱総研やマイクロソフト、KPMGのソーシャル分野で活躍していた人材にチームへ入ってもらい、各プロジェクトを進めているといいます。
たくさん稼いでたくさん還す。子どもの頃の思いがそのまま形に
川邊さんは、孫さんとペイペイを始めた時に200億円をいきなりポイント還元した経験を引き合いに出します。稼いでたくさんばらまくという発想が、キャピタルで稼ぎ財団でインパクトを出すミダスの構図と重なると語ります。
この「両方やろうぜ」というコンセプトの源泉について、吉村さんは子どもの頃からの思いがほぼそのままだと答えています。起業を経て加算されたというより、当初の思いが形になったものだといいます。
自分がやりたいことを全部ミダス(に)内包できているので、本当にそれはすごく幸せな状態だと思ってます。
37歳ごろに雇われを辞め、30億円の手金からファンドを始めた決断について、吉村さんは非常にいい決断だったと振り返ります。ただしファースト案件のバイセルやセカンド案件のジェンダがうまくいったのは、関係者全員の努力に加え、幸運もあったと語られています。
そこは結構ラッキーもあったなっていう。
幸運な部分はもちろんあったと思います。
まとめ
好調のエアトリを離れ、時価総額100兆円という大きな絵を描いて手金からファンドを始めた吉村英毅さんの回でした。買収・ゼロ創業・現物出資を組み合わせ、無償で経営陣を支え、稼いだ利益を資本効率の高い社会貢献に回す。その全体像が具体的に語られました。
- 追い風のなかで好調のエアトリを退き、ゼロから挑むためにミダスキャピタルを立ち上げた
- ミダスは短期のIRRより中長期の企業価値を優先し、上場後も株を売らず筆頭株主として並走する
- 支援は無償で、収益は株式売却時のキャピタルゲインの成功報酬から得る独特のモデル
- 17社はゼロ創業7社、買収5社、オーナーの現物出資5社の3パターンで構成される
- 財団は自分たちで直接動かし、世界銀行の約8分の1のコストで社会的インパクトを追求している




