なぜ食にだけは50歳になってもハマり続けるのか
冒頭で川邊さんは、浜田さんが食以外にも何かにハマってきたのか、その特徴を尋ねます。浜田さんはハマりやすい性質を認めたうえで、幼い頃からの熱中対象を挙げていきます。
浜田さんが挙げたのは、今でも大好きだという音楽、スキューバダイビング、そして読書です。高校まではずっと本を読みながら登下校していたと振り返ります。
その当時、僕ずっと本読みながら学校の登下校してました。
なのでいまだにあの安全を確認しながら本を読める技術あります。
川邊さんは、ハマりやすさは先天的なギフトかもしれないと受けたうえで、大学時代からハマった食に50歳になってもハマり続けている理由を問います。
浜田さんは、食を人生の主軸に据えると決めたので、この関心は変わらないだろうと答えます。理由の一つが、外食に特有の双方向性です。
浜田さんによれば、レストランでの食事はシェフとのコミュニケーションがあり、自分の意見を伝えることでその人の料理が変わっていくこともあります。一方的に受け取るだけの関係ではないから飽きない、と語ります。
ガストロノミーと栄養補給、噛み合わない議論の正体
浜田さんは、食に関わらない人間は存在しないという食の巨大さを、他の趣味との大きな違いとして挙げます。そしてそれゆえの難しさもあると続けます。
難しさとは、ガストロノミーの話をしていても、相手が日常の栄養補給としての食のレイヤーで発言してしまい、議論が噛み合わなくなることです。
じゃあ食文化の話、この文化を受け継ぐのは大事だという話をしてる時に、そんなことよりも貧しい人が食事を毎日食べることの方が大事だっていう意見は必ず出るんですよ。
浜田さんは、それはどちらが正しいという話ではなく、レイヤーが違うだけだと説明します。だからこそ自身の本では、食をレイヤーに分けて考えることを最初に提案していると話します。
川邊さんは、最も底辺の食にも食文化があり、週に一度や年に一度の食事が人々の最大の楽しみになっていることもあると応じます。
浜田さんは、ガストロノミーの世界で活躍する料理人が生み出した技術が、日常食に生かされることもあると補足します。その例えとしてファッションを挙げます。
オートクチュールの服なんて、まあそこは普段道歩いて着れないじゃないですか。だけど、そこで生まれたデザインだったり、方向性っていうのが、それこそ日常で着るような服にも何年か後に反映されるわけですよ。
川邊さんはこれを、トップティアのレベルが上がれば、結局ボトムも上がるという構図として言い換えました。
予約困難と出禁──ヨーロッパと日本でレストランはどう違うのか
川邊さんは、入店難易度が高く記憶に残る難攻不落の店があったかを尋ねます。浜田さんはまず、日本の高級店の多くはキャパが小さいことを理由に挙げます。
浜田さんによれば、世界のミシュラン三つ星店は25席から60席が普通ですが、日本の割烹はカウンター8席が珍しくなく、20席あれば大型店です。キャパが小さいため予約困難な店が多いのは当たり前だと言います。
予約は2年先、昨日行った焼肉屋は1年2ヶ月前に予約を取るのが今は当たり前だと浜田さんは話します。
さらに浜田さんは、日本と海外でレストランという場の位置づけが根本的に違うと指摘します。ヨーロッパではレストランはパブリックな場で、公共性があると説明します。
一方で日本では、レストランはどちらかというとプライベートな場で、自分の家に客を招き入れるような感覚だと浜田さんは言います。この違いが出禁の扱いにも表れます。
(ヨーロッパでは)有名な料理評論家が批判的なことを書いてるっても、出禁にしたりは絶対にしないんですよ。
でも日本だと確実に出禁にします。
浜田さんは、日本では気分で出禁にすることも平気で起きると話します。だからこそ美食を楽しむには、不快な思いをする店ではなく自分に合う店を見つけることだと語ります。
パブリックな場で公共性がある。変わった客も受け入れ、批判的な評論家でも出禁にはしない。
プライベートな場で、自分の家に招き入れる感覚。気に食わない客は出禁にすることもある。
また浜田さんは、店が増えすぎて、東京の名店を全部制覇することはもう不可能になったと話します。10年前までは全部行った上で好みを語れたと振り返ります。
紹介制や会費が発生する会員制の店も増え、全部回ることは誰もできない状況です。行けない店があることを、スタンプラリー好きの人は気にすると浜田さんは言います。
しかし浜田さんは、そうした店が必ずしも料理として素晴らしいとは限らず、同じくらいの店はあるので、囚われずに楽しむのが正解だと語ります。
川邊さんが、有名フーディーだと入店を歓迎されることが多いのかと尋ねると、浜田さんは両方だと答えます。
行ったこともないし、店主に会ったこともないのに出禁になってる店あります。
なぜ若いシェフを応援するのか──「これも僕のため」
川邊さんは今後の生き方について尋ねます。浜田さんは、この生き方をずっと続けていくと迷いなく答えます。その覚悟の根拠を、自身が80歳になったときの想像から語り始めます。
浜田さんは自分で料理をしないため、美味しいものを食べ続けられるかは料理人にかかっています。80歳になれば自分より年上の料理人は引退しているため、年下の料理人に頑張ってもらう必要があると考えます。
自分の私利私欲のために、自分が美味しいものを食べ続けるために若い世代を応援したいと思って。
具体的な応援の仕方として浜田さんは、まだ知られていない若い料理人をメディアで紹介したり、方向性に悩む相手にアドバイスをすることを挙げます。自身の20年後、30年後のためだと語ります。
「これは料理とは呼ばない」──豪華主義への危機感
浜田さんは、今の日本の料理界が自分のいいと思う方向に動いているわけではないと危機感を示します。お金を出せば美味しいものは食べられてしまうことが背景にあります。
浜田さんはいつも出す例えとして、適当に茹でたパスタの上に非常にいいキャビアを乗せれば美味しいが、そこには技術も文化もないと語ります。
僕が適当に茹でたパスタの上にめちゃめちゃいいキャビアを一貫乗っけて食べたら、まあうまいじゃないですか。だけどそこには文化も何もないわけですよ。
川邊さんが「ただただ豪華な」「金箔」と例を挙げると、浜田さんは同意し、そうした料理が主流になることを怖れていると話します。
浜田さんによれば、豪華主義が主流になると技術が評価されず、誰もそれを受け継がなくなります。加えて、海の環境が厳しくなり食材のクオリティが下がっていくと予測します。
そうなると食材のクオリティが料理の最大値になってしまい、手間や技術で美味しくする文化が失われる、と浜田さんは懸念します。だからこそ、技術と思考が込められた料理を作る料理人を応援し続けると語ります。
豪華なだけの料理が主流に
技術のない料理がチヤホヤされる状況
技術が評価されない
誰も技術を受け継がなくなる
食材頼みになる
手間や技術で美味しくする文化が失われる
川邊さんは、この道のために結婚も家族も作らない覚悟だという話を持ち出します。浜田さんは、世界中を旅して回っているため現実的に無理で、それがプライオリティだと答えます。
川邊さんが、どこかで野垂れ死んででもこの道を極めるのかと問うと、浜田さんはそういう覚悟だと応じます。ただし、それはリターンのない生き方でもあると自覚しています。
でも野垂れ死んでいいと思ってなかったらこんな生き方してないですよ。だってリスク高いし、リターンないし、何の意味もないですよ。
食文化をAI時代にどう残すか
川邊さんは、この時代なら食文化をテキストや動画に残しておけば、AIが学習し、AIもそれをちゃんとした食文化だと認識するようになると話します。浜田さんも影響を及ぼしたいと同意します。
浜田さんはすでにAIを活用しています。一昨日まで滞在していた中国では、独自のインターネット世界のためにGoogle検索ではレストラン情報が出てきません。
そこで浜田さんは、AIを使って中国のSNSを深掘りし情報収集したと言います。さらに料理をAIに読み込ませ、どういう伝統文化を踏まえた料理かを解説させることもあると話します。
川邊さんは、それはAIがガストロノミーの一環になる活用の仕方だと受けます。そして自身がYouTubeを始めた理由を、AIがアクセスできる場所に情報を置いておかないと認識されないからだと語ります。
やっぱりちょっと一般で言ってAIにこの時代の何事かをね、残しておかないとと思って。始めたんで。
川邊さんは、浜田さんの分厚い著書もオーディブルになっていると知り、それで聴こうと応じました。
トラックレコードとデスティネーションレストラン
川邊さんは、どのゲストにも聞いているという質問として、自分のトラックレコード、つまり実績だと思うことは何かを尋ねます。
浜田さんは、いまだに何も成し遂げていないと前置きしつつ、強いて挙げるならデスティネーションレストランを作ることに関われたことだと答えます。
浜田さんによれば、アワードの初年度から地方のいい店は増え、よりアクセスの悪い場所でも経済的に成り立つ状況になっています。それだけが要因ではないにせよ、助けにはなっていると考えています。
想定していなかった効果もありました。過去5年間の受賞者から、アワードで地方同士のつながりができたという話を聞くことが多かったのです。
浜田さんは、地方で際立ったことをやっている料理人ほど地元で孤立しがちだと指摘します。共感できる人が地元にほぼいない状況が起こりうるといいます。
地方でやってる人って、まあ目立つ際立つことをやってる飛び抜けた人ほど孤立するんですよ。
浜田さんは、地方で抱える悩みは似通うため、違う地方のシェフ同士がつながることで情報共有や励まし合いができると語ります。このネットワークが生まれたことを喜んでいます。
さらに浜田さんは、能登の震災の際に、受賞したシェフを応援するため他の地方のシェフが集まってチャリティーイベントを開いたことを挙げます。きっかけを作っただけだが、やって良かったと振り返ります。
昭和の音楽史を体現する75歳──浜田さんが「すごい」と語る人
川邊さんは、出会った中ですごいと思った人を尋ねます。浜田さんは、自身とエイベックスの松浦さんをつないでくれた吉見裕子さんという女性を挙げます。
浜田さんによれば、吉見さんは今70代半ばで、松浦さんをはじめ多くの人を紹介してくれ、人生を豊かにしてくれた人です。そのつなぎ方が半端ないと語ります。
浜田さんは、人脈を商売にしたり自慢するだけの人がいる中で、吉見さんはバンバン紹介してくると話します。紹介されてもお互い困るほどだといいます。
(吉見さんは)バンバン紹介してくるんですよ。なんなら紹介されてもお互い困るみたいな。
浜田さんは、音楽業界のレジェンド同士の出会いの裏に吉見さんがいたことも多く、吉見さんの本はいずれ誰かが出すべきだと語ります。それは昭和の音楽史そのものだからです。
何よりすごいのは、75歳の吉見さんが今も夏に音楽フェスを巡り、二十歳ほどのアーティストと友達のように絡んでいることだと浜田さんは話します。
75歳の方が音楽フェスに行って、二十歳ぐらいのアーティストと普通に友達的な感じで絡んでるんです。
浜田さんは、70代の重鎮とも20代ともフラットに付き合い、そこをつなぎ合わせることに感嘆します。自分が70を超えたときに20歳の子に興味を持ってもらえるかと問い、それがすごいと語ります。
明日死ぬと言われても「しょうがない」と思えるほどの満足
川邊さんは、こういう人生を歩んできた人として、聴いている人へのメッセージを求めます。浜田さんは、一つのめり込めるものがあることは幸せだったと語ります。
浜田さんは、お金をいくら稼ぐかという基準で勝負すると勝てないと言います。日本で一番裕福な人でも、世界で一番裕福な人の何分の1かでしかないからです。
だからそこに自分の幸せの基準を置いちゃうと、すごくつらい、生きづらい世の中になっちゃうんじゃないかなっていうのは思うんですよね。
川邊さんは、それより自分のオリジナリティのある生き方を目指した方がいいと受けます。浜田さんも強く同意します。
浜田さんは10年以上前から言っているという考えを打ち明けます。神様が魂の数を間違えて、50歳から一人死んでくれと言われたら、自分が選ばれてもしょうがないと思う、という話です。
浜田さんは、楽しくないこともあるが幸せだと語ります。明日死ぬって言われてもしょうがない。嫌だけどしょうがないなと思うほどには満足しているといいます。
川邊さんは、多くの人はやり残しを後悔するが、浜田さんはそうでないことをやり切っていると受けます。ただし長生きするかもしれないので、若いシェフの育成にも走ってと促しました。
そこはね、長生きしちゃうリスクがあるんで。ほんと危険ですよ。
まとめ
この回で浜田岳文さんは、若いシェフを応援するのは自分が美味しいものを食べ続けるためだと語り、豪華なだけで技術と文化のない料理が主流になることへの危機感を示しました。食を主軸に据えた生き方そのものが、話の核になっています。
- 食は双方向で、シェフとの関係が変わっていくから飽きない。ガストロノミーと栄養補給は別のレイヤーの話である
- 日本のレストランは家に招く感覚のプライベートな場で、パブリックなヨーロッパとは出禁の扱いも異なる
- 浜田さんは自分が80歳でも美味しいものを食べ続けるために、若い世代の料理人を応援している
- 適当なパスタに高級キャビアを乗せた料理には技術も文化もなく、豪華主義が主流になれば技術が受け継がれなくなる
- 一つのめり込めるものがあることが幸せで、明日死ぬと言われてもしょうがないと思えるほど満足していると語った






