英検2級で飛び込んだ高2の秋
今回のゲストは、イギリスから一時帰国した長男です。義務教育に加えて高校受験向けの塾に通ったくらいで、幼少期から特別な英会話をやっていたわけではありません。渡英したのは高校2年の9月。その時点の英語力は「英検2級を取り、準1級を受けようかというあたり」だったと振り返ります。
いま「おうち英語」という言葉が広まり、早期英語教育への関心が高まっています。長男自身も、言語は伸びやすい時期が若く、10歳〜12歳あたりが一つの目安になるため、こうしたブームが起きるのは納得だと語ります。逆に言えば、彼はその「伸びやすい時期」を大きく過ぎてから海外へ飛び込んだことになります。
聞けない・話せない・読めない・書けない留学初期
渡英当初は、いわば全方位で壊滅的だったといいます。アメリカ英語を学んでいたうえ、語彙を大きく増やして臨んだわけでもなかったため、聞き取れず、話せず、読めず、書けない状態でした。初日には現地の生徒とバディを組んで30分ほど学校を案内してもらったものの、その9割9分が聞き取れず、何が起きているのか分からないまま過ごしたと語ります。
相手が何話してるかわかんないと、何返せばいいかわかんないから。それがすごい大変だった。
ある程度相手の言っていることが理解できるようになったのは、2〜3ヶ月ほど経ってから。ただ、話す・書くといったアウトプットはインプットよりも難しく、その段階ではまだできていなかったといいます。当時つけていた日記には「英語つらい」「授業の先生のなまりがひどすぎて何言ってるかわからん」と書かれていたそうで、初期の苦労がうかがえます。
目も当てられない成績からの立て直し
イギリスの高校は2年制で、大学への出願は1年目の成績をもとに行われます。つまり、英語が分からない状態でも1年後にはそれなりの成績が必要でした。ところが渡英して半年ほどで出た最初の成績は、数学以外がボロボロ。「まず大学に行けるのか」という気持ちになるほどだったといいます。
選択していた科目は数学・物理・化学。物理と化学は高校から始めたばかりで塾にも通っておらず、慣れない単元を新しい言語で教わることになり、二重の負担がかかりました。しかし残り半年で成績を持ち直します。
渡英後半年の成績は数学以外が壊滅的。「まず大学に行けるのか」という状態。
語彙を増やし直し、モチベーションも上がって残り半年で持ち直し、大学合格へ。
立て直しの要因は大きく2つ。1つは科目で使うテクニカルタームの語彙が、勉強するほど自然に増えていったこと。もう1つは単語学習アプリ「mikan」などで英単語を補ったことです。本人は「英語というリミットで本来のパフォーマンスが抑えられていて、それが元に戻っていった」と自己分析します。日本の高校でも中くらいの成績だったため「頑張らなくてもいけるだろう」という油断があったものの、蓋を開けると全くいけていなかった、と苦笑まじりに振り返りました。
英語で「キャラ変」する自分と専門用語の壁
渡英2〜3年目の頃、彼は「専門分野で伝えたいことが10あるとしたら、英語のリミットで7〜8に減衰される」と表現していました。5年経った現在では、その感覚は「9くらい」まで上がったといいます。ただ「10には絶対ならない」とも語ります。
興味深いのは、英語と日本語で「キャラが変わる」と友人に言われること。日本語のときはハキハキ会話を回すタイプなのに対し、英語では会話を俯瞰し、鋭い質問をピンポイントで挟むタイプになるそうです。会話を回す力がないわけではないものの、それは英語が上手い人に任せ、自分は輪の中で自分の視点を述べる方がよいと判断しているといいます。
ハキハキ喋り、会話を回してまとめ上げるタイプ
会話を俯瞰し、鋭い質問をピンポイントで刺すタイプ
もう一つのリアルな悩みが、専門用語の「日本語が出てこない」現象です。渡英後に学んだ内容は英語で覚えているため、日本語の語彙がありません。例えば「断面二次モーメント」のような用語は、英語では言えても日本語が分からず、英語の用語を打ち込んで日本語訳を調べるという、渡英当初とは逆の作業をしているといいます。日本語で書かれた力学の参考書を読んでも、数式が出てこず理解できる自信がないとまで語ります。
逆に今度はテクニカルタームが英語で覚えてるから、日本語をリバースで調べるみたいな。
これは、両方の言語をうまく使いこなせない「ダブルリミテッド」に専門分野だけ近づいている可能性もあります。ただ本人は「単語は一回勉強すれば覚え直せると分かっているから、そこまで心配していない」と冷静に受け止めています。
AI時代に語学を学ぶ意味とは
失敗談を尋ねると、レストランでの注文ミスのような言語面の失敗より、「文化的な違いによる失敗」の方が印象に残っているといいます。例えばアメリカのチップ文化のように、知らないと対応できない慣習があるという話です。今ではそれらが当たり前になっているため、個々のエピソードとしては思い出しにくいものの、小さな失敗の積み重ねの上に今があると語ります。
ここから話題はAI時代の英語学習へ。リアルタイム翻訳が進化するなか「AIがあれば英語はいらないのでは」という声もあります。これに対し長男は、AIによる翻訳では失われる情報があると指摘します。
例えば英語は日本語より抑揚がはっきりしており、強調したい語を強く発音します。「You have an apple.」でも、どこを強く言うかで伝えたいニュアンスが変わります。こうしたイントネーションは平文への翻訳では表現しきれず、抜け落ちてしまうというのです。
翻訳を通して日本語で聞くっていうのは、要は依存してるってこと。自分で勉強すればAIというフィルターを取っ払える。
AIの調整具合によって訳は変わってしまいます。自分で言語を学べば、AIというフィルターを通さずに「生の言語」を自分の解釈で受け取れる──それが自分で勉強することの強みだと語ります。一方で、外国語学習が今後も必要かどうかは、AIの発展や英語の重要度、そして個人の人生設計によって変わるため「人それぞれ」だとも述べています。
おうち英語と母語で学べる価値
「自分に子供が生まれたら早期英語教育をやる?」という問いに、長男は「個人的にはやってほしい」と答えます。自分が苦労した実体験があるため、同じ苦労はさせたくないという思いからです。ただし、必ずしも英会話スクールに入れるかは分からず、家の中で英語を使うなど「触れる機会」を作ってあげたい、という考えです。
週1回・1時間程度のスクールでは効果が薄く、それなら親が子供と英語で話す方がよいかもしれない、AIの発音矯正アプリを使えば家の中だけで完結できそうだ、とも語ります。一方で「英語学習を子供に強制したくない」という自身のポリシーにも触れ、楽しんでできる子ならよいが、内向的な子に半強制でやらせるのは違う、と慎重な姿勢を見せました。
苦労したっていう経験があるから、子供にはその苦労をさせたくない。ただ英会話スクールに入れるかはわからない。
実は幼少期、帰国子女である母から英会話スクールを勧められたものの、本人が「やりたくない」と断った経緯があったといいます。宇宙飛行士になりたいと言っていた頃の話で、当時は英語が必要だという因果関係も分からず、面白くなさそうだからと断ったのだろうと振り返ります。
話は日本の教育の岐路へと広がります。長男が強調したのは「母語で勉強できることのすごさ」です。学術のスタンダードは英語であり、英語にしかない語句を扱う言語圏の人々は英語での学習を強いられます。しかし日本語は、明治維新後に先人が漢字を当てて翻訳語を整えたおかげで、専門用語が一対一で存在している──だから母語で学べる範囲を増やすことも、選択肢の一つだと語ります。
もっとも、少子化で高等教育の数が減れば母語で専門性を高めることも難しくなる、グローバル化のなか大学の英語学位プログラムも増えている、という現実にも二人は触れます。長男は、同じ内容を日本語と英語で学んだ場合、日本語の方が理解度が高くいい点が取れると実感しており、「母語を使える環境があるなら使った方がいい」というのが個人的な意見だと締めくくりました。
まとめ
英検2級・準1級レベルで高2の秋に渡英した長男は、聞けない・話せない・読めない・書けない状態から、5年を経て「伝えたいことの9割」を英語で表現できるところまで来ました。その道のりは、目も当てられない成績からの立て直しや、英語で会話のキャラが変わる感覚、専門用語の日本語が出てこないというリアルな悩みの連続でした。
AI翻訳が進化しても、イントネーションや文化的背景といった「生の言語」の情報は自分で学ばなければ受け取れない──それが当事者の実感です。同時に、母語で専門的に学べる日本語環境の価値も見直すべきだ、という視点も提示されました。英語をやるべきか、母語を大切にすべきか。答えのない問いを、実体験をもとに親子で語り合った対談でした。
- 英検2級レベルで高2の秋に渡英。初日はバディの話が9割9分聞き取れず、当初は全方位で壊滅的だった。
- 渡英半年で数学以外の成績はボロボロ。テクニカルタームの語彙増加と単語学習で残り半年で立て直した。
- 5年で「伝えたいことの9割」を英語で表現できるように。一方で専門用語の日本語が出てこない悩みも。
- 英語と日本語で会話のキャラが変わり、イントネーションなどAI翻訳では失われる情報があると指摘。
- 母語で専門的に学べる日本語環境の価値を再評価しつつ、少子化やグローバル化という現実にも言及した。