なぜLINEヤフー代表を退任するのか
高木さんはまず、川邊さんがLINEヤフーを退任した理由を尋ねます。川邊さんの答えはシンプルで、やるべきことがひと通り済んだから、というものでした。
経営者っていうのは自分がしたいことをするのではなくて、そのフェーズ、そのフェーズで会社にとってなすべきことをしろと。それが経営者ですよねっていう考えがあって。
川邊さんが当時のヤフー社長になったのは2018年でした。その時に課題に思っていたことに、ある程度対処できたので、そろそろいいかなと思ったと話します。
高木さんは、川邊さんを「タイプが掴みづらい特殊な存在」だと表現します。起業家であり大企業の経営者でありながら、千葉の館山で漁もし、推し活もする。好奇心で動いているように見えて、どこか俯瞰的に冷めている、という見立てです。
俯瞰的思考っていうのは、本当にやっぱ経営者やったからですよね。
川邊さんは、事業には鳥の目と虫の目の両方が必要で、経営者になるほど鳥の目が必要になると説明します。虫の目は好奇心が強いから元々あったが、鳥の目は経営者をやったからこそ身についたと振り返ります。
好奇心の源泉にある「自然」と生成AIへの没頭
高木さんは、本をよく読み歴史を好む川邊さんの、行動の原動力を尋ねます。川邊さんは、その根源は好奇心だと答えます。
好奇心がなぜ身についたかを人生を振り返って考えると、東京生まれ東京育ちながら、幼い頃から自然の中で釣りをしてきたことが大きいと川邊さんは言います。
不思議大好きっていうか、不思議なことだらけじゃないですか、自然って。
その好奇心が今、生成AIによって強く刺激されていると川邊さんは話します。気になったことを24時間365日聞ける環境に、心底楽しさを感じているといいます。
川邊さんは、いま執筆中のインターネット産業30年史の原稿チェックそっちのけで、宗教の教義を一言でまとめる投稿をGeminiと一緒に作り込んでしまった、という朝の出来事を具体的に語ります。Gemini ── Googleが開発する対話型の生成AI。テキストで質問や指示を送ると自然な文章で回答する。
だったらせっかくだからゾロアスター教とジャイナ教についても同じフォーマットで教えてって言ったら、(AIが)マニアックな視点ですねとか言って返してきて。
AIが好奇心をさらに刺激する提案を返してくることに、川邊さんは驚きを隠しません。会話が成り立ち、その内容の正確性もどんどん上がっていることに、好奇心が強い人にとっては中毒になるような体験だと語ります。
40年ぶりのUI革命、AIが臨界点を超えた瞬間
高木さんは、Yahoo!が検索、LINEがチャットの会社であることを踏まえ、AIのチャット型・会話型のUIは破壊的ではないかと問いかけます。川邊さんは、この革新性をどう捉えているかを語り始めます。
川邊さんは、社会まで変えてしまうほどの技術変化は2つしかないと整理します。1つはデバイスが変わる時、もう1つはUIが変わる時だといいます。
デバイスはPCから携帯、携帯からスマホと2回変わってきた一方、ソフトのUIは1970年代後半のグラフィカルユーザーインターフェイス以降ほとんど変わっていない、と川邊さんは指摘します。グラフィカルユーザーインターフェイス ── 文字コマンドではなく、アイコンやウィンドウを画面上で操作する方式。1970年代後半に登場し、以降のPCやスマホの標準的な操作方法になった。
そのグラフィカルユーザーインターフェイスっていうのが40年ぶりぐらいに会話に変わってしまう。
さらに川邊さんは、会話は人間が本来している最もメインのユーザーインターフェイスであり、誰でもできるという参加性の高さから、とんでもない変化につながると話します。
高木さんは、会話は人間にとって当たり前のはずなのに、なぜこれまで実装できなかったのかと尋ねます。川邊さんは、技術が追いついていなかったからだと答えます。
スムーズな会話には知能が必要で、人工知能の分野には勃興期が3回あったものの、人と会話しているようなAIはこれまで作れなかった、と川邊さんは振り返ります。それが今、突然解消されつつあると言います。
(ChatGPTが)出てきた時に、あれ、なんで急にこんなもん出てきた?みたいな。
インターネットの次に来るAI産業の桁違いのインパクト
高木さんは、検索がSNSに取って代わられると言われ続けてきた過去にも触れつつ、なぜChatGPTだけがこれほど早く受け入れられたのかを掘り下げます。川邊さんは、これはUIの変更だからだと答えます。
川邊さんは、データの増加が機械学習を、機械学習がディープラーニングを、その中からトランスフォーマーという手法を生み、それが今の生成AIにつながったと技術の流れを整理します。トランスフォーマー ── 文章などの並びの中で、離れた要素同士の関係を効率よく学習できるディープラーニングの手法。近年の生成AIの性能向上を支えている。
Yahoo!でも広告の出し分けやカスタマーサポートの自動対応にトランスフォーマーを使っていたものの、UIがすべてウェブのままだったため、その変化に気づかなかったと川邊さんは言います。OpenAIが機械との会話へUIを変えた瞬間、開発済みの技術が一気に顕在化した、という見立てです。
それをあの人工知能を用いて会話に変えちゃいました、サム・アルトマンがとかって、結局100年後ぐらいの教科書には2、3年しか載らないと思う。
高木さんは、川邊さんがインターネットの会社を辞め、AI駆動型人間になろうとしている点に触れ、インターネットとAIは同じレイヤーなのかと問いかけます。川邊さんは、最終的には全く違うものになると答えます。
インターネットが広告とECが中心だったのに対し、研究開発などの分野はほぼ手付かずだった、と川邊さんは指摘します。AIはそのあらゆる領域に及ぶため、産業規模の桁が違うという見立てです。
AIは道具か、それとも新しい「種」か
さらに俯瞰した視点として、川邊さんはAIが人間を補完する技術という枠を超え、別の種を作り出す展開もあり得ると語ります。一部では人間以上の能力を持つようになると考えているためです。
川邊さんは、AIとロボティクスが重なることで、より生物に近い存在になるのではないかと話します。クリエイターの予知能力の例として、スターウォーズのC-3POやR2-D2、ドラえもんを挙げます。
一個の家庭にそういう新しい何か種が誕生するぐらいのことに、最終的にはなるんじゃないですかね。
高木さんは、人間が使う道具を超えて、それ自体で存在する種になるという理解を示します。川邊さんは、バイオテクノロジーとは別の、機械と知性による新しい種を人間が作る展開だと補足します。
川邊さんは、この展開が宇宙時代とも噛み合うと話します。宇宙という過酷な環境は人間だけで開拓できないため、そこに適応できる何かが必要になるという理由からです。
1995年の環境を意図的に再現する「AI駆動型人間」計画
高木さんは、変換点にある中でAI駆動型で生きようと決めた川邊さんに、そのイメージを尋ねます。川邊さんは、生きようというより「楽しもう」というニュアンスだと言い直します。
川邊さんは、マーク・トウェインの「歴史は繰り返さないが韻は踏む」という言葉を引き、インターネット登場時と同じ展開になると考えていると話します。マーク・トウェイン ── 『トム・ソーヤーの冒険』などで知られるアメリカの作家。歴史は同じことを繰り返さないが、似た型を踏むという趣旨の言葉で知られる。
川邊さんは1995年に起業し、インターネット駆動型人間になれたと振り返ります。なぜそうなれたのかを考えると、当時大学生で膨大な時間があり、大人がまだ技術に注目せず、規制もなく使い放題だった環境が大きいと分析します。
なんか偶然によって、そのインターネット駆動型人間の自分が出来上がったと思うんで。
そこで今回は、その環境を再現性を持って自ら作り出し、まず自分がAI駆動型人間になった上で、起業が本当に必要かなどを判断していきたい、と川邊さんは語ります。
高木さんは、川邊さんが今の川邊さんになったのは能力ではなく、時間があって試しまくったからだと総括している点を確認します。川邊さんは、人も国も環境の申し子だと応じ、その環境を今回は人為的に再現しようとしていると話します。
その努力は細かく具体的だと川邊さんは言います。フリック入力をやめて音声入力だけで生きようとしたり、何かを人に頼む前にまずAIに頼もうとしたり、アンラーニングを重ねている最中だといいます。アンラーニング ── これまで身につけた知識や習慣を、いったん手放して学び直すこと。ここではフリック入力など既存のやり方を捨てる意味で使われている。
気がついたらフリック入力してとか、細かな努力は結構生じつつありますよね。
大学生の頃は人に頼めなかったが、今はいくらでも頼めてしまう。それでもAIに頼むのは、夜中でも頼め、生産性が全く違ってくるからだと川邊さんは説明します。この実践を通じて、AI時代の組織のあり方が見えてくると考えています。
マクロの視点とクラフトの手を両立させる思考
高木さんは、大きく俯瞰した判断と、自分の手を動かすクラフト的な行動が両輪になっている点を指摘します。例として、川邊さんが狩猟を始めたきっかけに触れます。
川邊さんは、2100年の日本を予測した国交省のレポートで、人口減により地方が野獣に占領されると書かれていたのを見て、それなら取ろうと思い、狩猟免許を取ったと語ります。
今回のクマの大出没とか、なんかもうすごいワーとかみんななってるけど、それ僕が狩猟免許取った2011年からすでに国交省言ってたことですから。
高木さんは、マクロの流れから構造的な変化を読み取ると、川邊さんはもう動いてしまうのだと整理します。これがマクロな視点とクリエイティブな行動が共存する点だという見立てです。
川邊さんは、変わることに抵抗するより変わる側に回ったほうが、事業でも人生でも強く、楽しいと30年で何度も実感してきたと話します。25年勤めた会社の退任と30年携わった産業のアンラーニングという節目で、あえてこれをやることに意義を感じると言います。
好奇心の根源にある、平和・自然・単一民族という環境
高木さんは、川邊さんの動き方の根源にあるものを尋ねます。川邊さんは、環境や経験から至った思いを積み重ねてきた感覚が強いと答えます。
最大の環境要因は、この時代に生まれた感覚だと川邊さんは言います。第二次世界大戦後、憲法で戦争を放棄し、平和を大事にした80年が自分を定義していると振り返ります。
その具体例として、川邊さんは2000年代後半に見た、各国語版Wikipediaの更新頻度ランキングを挙げます。世界では政治的テーマやナチスドイツがよく更新される中、日本の1位はポケモン関連、2位はAV女優だったといいます。
だからもう全然世界と違うんですよ。
さらに川邊さんは、日本の自然の特異性を語ります。南北に雪国から南国まであり、山だらけで地殻が動き続けている「生きている大地」の上にいることが、無自覚な自然体験になっていると言います。
国土は世界の数パーセントなのに、世界の自然災害の約20%が日本で起きている、と川邊さんは指摘します。こうした自然との接点が、自然について自然に考えが及ぶ環境を作っているという見立てです。
加えて、私立の一貫校で競争的でない友達と仲良く何かをクリエイトする環境で育ち、大学3年で起業して産業の勃興を一通り経験した。こうした地層のような積み重ねが今の自分を作っている、と川邊さんは語ります。
高木さんは、作りたい世界があるのかを尋ねます。川邊さんは、ビジョン駆動型ではなく環境駆動型だと答えます。
富を貯めるか、思い出を貯めるか
高木さんは、川邊さんがビジョンではなく、歴史的な変化点の最先端にいたいタイプではないかと確認します。川邊さんは、あるとすれば「人類はもっとエンパワーメントされて自由自在になるべきだ」というビジョンだけだと答えます。
高木さんは、そのスタンスなら人生に悩みはないのではと尋ねます。川邊さんは、マクロな悩みはほとんどなく、なるようになる、進化するように進化すると考えていると答えます。
一方でミクロな悩みはあると川邊さんは言います。音声入力になかなか移行できないことや、寒さ、そして最近衝撃を受けた老眼を挙げます。文字が見えづらくなり、ポッドキャストへ移行したのもそのためだと語ります。
高木さんは、年配になるほど変化についていけない人が多い中、川邊さんにその感じが全くないのはなぜかと尋ねます。川邊さんは、経営でイノベーションのジレンマを乗り越えてきた経験が生きていると答えます。イノベーションのジレンマ ── 既存事業で成功した企業ほど、その成功体験にとらわれて、新しい技術や市場への転換が遅れてしまうという現象。
PCで成功したYahoo!も携帯対応を迫られ、ガラケーからスマホへの転換ではPCの開発を意思を持って止め、スマホにリソースを投入した。こうした果断な意思決定の経験が、人生のほうにも生きていると川邊さんは説明します。
これいつまでもインターネットが大好きですっていうのが私の代名詞ですけど、これ(数)年後に言ってたら、なんかちょっと恥ずかしいみたいになるんだろうな。
続けて高木さんは、何になるか分からない移行フェーズの不安を、どう楽しむのかを尋ねます。川邊さんは、才能的にそれを乗り越える力があるとすれば、夢中になる力だと答えます。
自分が楽しくて夢中になってるから別にいいですみたいなのは、昔からそうだった気がします。
さらに川邊さんは、理解されない領域ほどブルーオーシャンで大きくなると経験的に考えています。1997年にシリコンバレーで携帯電話とインターネットの融合の可能性を聞き、周囲の大人に総スカンされながらもそちらに賭けた結果、携帯インターネットがPCインターネットより大きくなった原体験を語ります。
訳分かんなくて理解されなければされないほど、うまくいった時はでかいよねと。
高木さんは、AIをビジネスとして取りに行くソフトバンクグループや孫さんとの思想の違いを尋ねます。川邊さんは、孫さんは時価総額世界一を目指す資本主義的な価値観が強いと応じます。
一方で自分は「思い出ドリブン」だと川邊さんは語ります。いい思い出をたくさん作り、人生の最後にそれがダイジェストで出てくることにこだわっているといいます。富を貯めるか思い出を貯めるかという主義の違いが、賭け方の違いになると説明します。
時価総額世界一を目指す資本主義的な価値観。差別された環境で生きてきた経験が背景にある
いい思い出をたくさん作り、人生の最後に良いダイジェストが出てくることにこだわる価値観
日本は「文化×技術のオタク国家」を目指せばいい
高木さんは、川邊さんに日本という国がどうなっていけばいいかを尋ねます。川邊さんは、環境の申し子という自分の考え方を日本にも当てはめて語り始めます。
自然環境としての日本って完全にベンチャーですよね。
川邊さんは、日本の国土が火山活動で大きくなっている例を挙げます。西之島の横に新島ができ、周辺を飲み込んで拡大しており、排他的経済水域を含めた面積では日本は世界8位ほどの大きさになると説明します。
さらに川邊さんは、比較的単一的な民族で長く統治されてきた特殊な歴史を持ち、自然環境に甘えながら楽しくやってきたのが日本だと整理します。帝国主義や資本主義に染まって国を強くしようとしたのは「一時的な気の迷い」だという見立てです。
人間が作り出したナラティブに踊らされすぎてて、柄にもなく無理しちゃってさみたいなことをやってるのがこの(80)年ぐらいの日本人。
川邊さんは、大陸的な世界大戦の手法から脱落した先に、単一民族で平和な「パチンコの受け皿」的な日本が、勝手に楽しくやっていたらオリジナリティあるものを生んでしまう姿があるのではないかと語ります。浮世絵をゴッホが発見した例を挙げ、無自覚に面白いものを作る国だと言います。
高木さんは、SDGsのような西洋のルールに日本がわざわざ合わせる必要があるのか、と疑問を投げかけます。川邊さんは、民主主義かつ資本主義のゲームで戦うならある程度の方針は必要だが、生まれたままの日本でやるなら「なるようになるさ」でいいと応じます。
川邊さんは、日本が目指すべきポジションを、学校のクラスの端で楽しそうに何かをやっているオタクにたとえます。メインストリームではないが、たまに覗かれて「面白いことやってるね」と思われる存在です。
そのポジションを取るには、政治的・資本主義的リーダーシップより、文化と技術に立脚したほうが向いていると川邊さんは言います。何かをコツコツ極めることが好きで尊ばれる国民性がその根拠です。
文化で注目され、技術を極める。困った時に相談される「オタク国家」ポジション
政治的・資本主義的リーダーシップで主役の座を維持しようとする戦い方
この30年で日本が没落したのは、技術を極めるより標準化して広めることに価値があった時代だったからだと川邊さんは分析します。冷戦後のグローバル経済では、世界を一つにまとめる標準化技術が重要で、その最大の成功者がデジタルプラットフォーマーだったといいます。
一方で、シェア80%を持つ技術や、日本の技術なくして成立しない分野もあると川邊さんは指摘します。この30年はそこが求められなかったが、今後は必要とされると考えています。
政府の会議で感じる「薄ら寒さ」と、俯瞰の欠如
高木さんは、川邊さんが政府の委員としてもこうした俯瞰の話をするのかを尋ねます。川邊さんは、そこでは目先の5年をどうするかという話が多く、俯瞰の話はしないと答えます。
高木さんは、文化と技術で圧倒的なポジションを取るという方針は明確なのだから、もっとそうすればいいのにと投げかけます。川邊さんは、結論は同じでも背景がまるで違うと応じます。
歴史的背景や地政学を加味して激論を交わした末の結論ではなく、トレンドっぽいものを合わせたら文化やIPになった、という程度の議論しかないと川邊さんは指摘します。
なんかその程度のこの浅慮の中で、こうやるんだみたいな、薄ら寒さみたいなものを感じます。
川邊さんは、政府の委員はあくまで出てきたものをレビューする立場だと説明します。本当は政権の中枢で総理と徹底的に話し、骨太の議論から政策を繰り出す側に回れればいい、という思いを語ります。
非常にやっぱリアクティブですよね。アメリカがこうしたからこう、GAFAMがこうしたからこう、AIが出てきたからこうみたいな。
川邊さんは、対症療法的な対応が多い現状を改め、自分たちの強みを認識した上で主体的にやりたいと話します。高木さんは、クラスの中で声の大きい他人にソワソワしている状態だと重ねます。
俯瞰しても嫌になる。それでも推し活と好奇心が残る
高木さんは、そこまで俯瞰的に物を見ていると、政治などに嫌になったりしないのかと尋ねます。川邊さんは、全然あると即答します。
川邊さんは、ライドシェアの規制改革が中途半端に終わり、自民党が既得権益者に優しすぎることを活動を通じて知ったと語ります。実際にやったからこそ体感できたが、そこで知った嫌な気持ちもあると言います。
推し活とかやっちゃうとこっちの方が楽しいから、こっちでいいじゃん、別に戦わなくてもいいじゃんみたいな気持ちにめちゃくちゃなりますよね。
高木さんは、だから推し活がこれほど広まっているのではと問いかけます。川邊さんは、大小様々な何かと戦い、現実の壁にぶつかった人にとって「推しはいいよね」となるのは当然だと応じます。
それでも川邊さんは、一つ一つのことを面白いと感じ続けています。やれば構造が理解でき、悪いやつがいることも分かる。高木さんは、それも全部好奇心なのだと受けます。
やったらやっただけの面白さはあるから、やめちゃうっていうこともあんまないですけど。
高木さんは、自分も好奇心派だとしつつ、最後は結果や勝ちにこだわるべきではという葛藤があると打ち明けます。川邊さんは、経営者としての14年は結果にこだわってきたが、それは自分の中の一つの要素にすぎないと答えます。
それ(経営者の役割)は株主から演じろって言われてるから演じてるんだっていう感覚は強かった。
その役割を剥がすと、勝ちへのこだわりについても「その瞬間勝つかもしれないが、それも変わってしまう」という思いが強いと川邊さんは語ります。そして変わったことに対して、また好奇心が生まれると言います。
思い出ドリブンだから「長く生きたい」という唯一の願い
高木さんは、脳が若くあり続ける世界を作りたいとまでは思わないのかと尋ねます。川邊さんは、あえて悩みを一つ挙げるなら「もっと長く生きたい」だと答えます。
ただそれは、単に長生きするためではないと川邊さんは言います。長く生きた結果、人類や宇宙がどうなるのかをできる限り長く見たい、という好奇心からの願いです。
不老の技術を自ら手がけたいかというと、そこまではいかないと川邊さんは話します。有望な技術に投資したり、最初のユーザーになりたいという他力本願な立場だと言います。
もっと知りたくて知りたくて知りたくてしょうがないから、長生きしたくてこういうの始めましたみたいな物語を作れるかどうかですよね。
資本主義の先兵だった川邊が、原点のカオスへ回帰する
高木さんは、これだけ話しても川邊さんがより分からなくなったと言います。大きい組織のリーダーだったのに、リーダーっぽくない、という感覚です。
川邊さんは、もっと資本主義的に振る舞うこともでき、社内ではそうしていたかもしれないと応じます。ただ、資本主義的要素を妄信して演じられるほど浅はかではない、と言葉を選びます。
これだけをやっていくのが人じゃないでしょとか、生き物じゃないでしょみたいな。
高木さんは、川邊さんの本質はYahoo!の社長というより、まだ誰も稼げていなかった電脳隊の時代にあると読み解きます。好奇心でオタク的にいろいろやる、資本主義へのオルタナティブな存在ではないか、という見立てです。電脳隊 ── 川邊さんが大学在学中に設立したベンチャー企業。のちにヤフーと合併し、2000年にヤフー入社のきっかけとなった。
もっとその前のカオスを別に心から楽しんでやってただけなんですけどね。
川邊さんは、AIの登場によって本来の自分に戻れる機会を得たと語ります。新しい市場で勝者になりたいのではなく、まだ資本主義化されていない混沌とした世界を楽しみたい、というピュアな気持ちだと言います。
家でAIいじってる方が、いろんなことが、知的好奇心が満たされたり、なんか未来がたまに垣間見れたりする。
高木さんは、日本のメタファーで語られたクラスのオタクは、川邊さん自身なのかもしれないと重ねます。川邊さんは、それはこの時代の日本に生まれ育った自分の、非常にナチュラルな出来上がりだと応じます。
自然災害の国だから残る「無常」の感覚
川邊さんは、資本主義は輸入してきたものにすぎず、そこへの違和感がある一方、この国の文化的な価値観や自然災害への恐れはナチュラルに自分の中で発露していると語ります。
高木さんは、悩みから自然災害だけが残る点に触れます。川邊さんは、生きている大地に住む人たちのエネルギーや達観がそこに詰め込まれており、すごく日本っぽいと答えます。
高木さんは、無常という概念など日本の思想が災害から来ていると受けます。川邊さんは、気候変動の相転移で次の氷河期が早まれば、日本海が凍って大陸とつながり、価値観そのものが変わるだろうと想像を広げます。相転移 ── 水が氷になるように、ある条件を超えると状態が急激に別の状態へ移り変わること。ここでは気候が段階的でなく一気に変わる現象を指す。
だからこそ、今のこの自然環境と時代が人間の認識を強く規定していると川邊さんは言います。人間は認識の生き物であり、その所与の条件から大きく外れた考えは持っていないという自己理解です。
高木さんは、島国だから生まれるエンタメと、時代の変換点であるAIとの掛け合わせに川邊さんが立っていると整理します。川邊さんは「そこしかできない」と応じ、自然にそうなるのだと語ります。
世界一のユーザーだった日本と、楽に生きるためのヒント
川邊さんは、執筆中の30年史でユーザーの章に触れます。世界一の情報企業は生めなかったが、2ちゃんねらーや初音ミク、YouTuberなど、日本のネット民は世界一主体的で楽しみ抜いたのではないか、という論です。
川邊さんは、ポジショントークでは「日本が埋没するぞ」と言うこともあるが、長い歴史的・地理的な俯瞰で見れば、そこまで悲観しなくても大丈夫だと語ります。二次創作などでの日本の熱量の高さも、その根拠として挙げられます。
高木さんは、リスナーが二、三十代の経営者中心だと伝えます。川邊さんは、追い詰められている人が多い現状に触れ、それは資本主義とSNSの掛け合わせが悪さをしていると指摘します。
日本中回っていろんな人と会ったり、自然環境を見たりして考えたらいいんじゃないですか。SNSばっか見てないで。
最後に川邊さんは、SNSはあくまでツールだと確認しつつ、聴いている人へメッセージを残します。高木さんは、川邊さんのことがもっと好きになった、楽しい時間だったと収録を締めくくります。
聴いてる方も、ぜひ気持ちを楽に、自分の知的好奇心の赴くままに生きていただければと、そう思います。
まとめ
この回は、LINEヤフー代表を退任した川邊健太郎さんが、自らを「AI駆動型人間」に作り替えようとする理由と、その根底にある思い出ドリブンの生き方を語った回でした。俯瞰の視点で時代の変化点を捉えながら、好奇心のままに手を動かす姿勢が一貫していました。
- 退任は「やるべきことが済んだから」で、経営者はフェーズごとに会社がなすべきことをする存在だと川邊さんは捉えている
- AIによる会話UIは40年ぶりのUI革命であり、インターネットはAI産業の準備段階に過ぎなかったという見立てを示した
- 1995年の「時間があり規制もない環境」を意図的に再現し、音声入力への移行などで自らをAI駆動型人間に作り替えようとしている
- 日本は政治や資本主義で主役を狙うより、文化と技術を極めて「困った時に相談される」オタク国家ポジションが向いていると論じた
- 富ではなく思い出を貯める生き方を軸に、勝ち負けより好奇心と「夢中になる力」を大切にする姿勢が語られた






