なぜ2人は1つのマイクで収録しているのか?
サイエントークのレンさんとエマさんは、この回を久しぶりに対面で収録しています。マイクが1個しかなく、顔がすぐ目の前にある近さで話しているため、冒頭から笑いがこぼれます。
マイクが1個しかなくて、とんでもない距離の近さで喋ってる今。
ロンドンに住むエマさんが日本に一時帰国した理由は、ポッドキャストアワードの贈賞式に出るためでした。サイエントークはリスナーの投票によってノミネートされ、2人にとって初めての贈賞式参加となりました。
なぜかというと、だってこれはね、リスナーの皆さんが投票してくれたおかげで僕たち行けたんで。
レンさんは毎年ポッドキャストアワードを「穴が開くほど」見てきたといいます。エマさんは、ノミネートされた20作品のうちプロの番組は制作スタッフが分業しているのに対し、サイエントークは企画から収録、サムネイル、YouTubeやTikTok、ホームページまでほぼレンさん1人で担っていると強調します。
あのラインナップの中に入っただけで、もう僕は本当に嬉しいというか、もう泣いてましたしね。
結論として、サイエントークは賞を取ることはできませんでした。それでもレンさんの第一の感想は「めっちゃ楽しかった」というものです。一方でエマさんは、ポッドキャスト業界を一歩引いた位置から見ている立場として、違う角度の感想を話すことになります。
なんか私はレンくんほど入れ込んでないというか、そこまでポッドキャストもなんか数番組ぐらいしか聞かないし、(授賞式の)去年とかの動画も前日に見たりとかっていう感じで。
60時間寝ずに帰国、クマムシマスクは間に合ったのか
贈賞式までの道のりを、2人は時系列で振り返ります。エマさんはロンドンでの仕事を深夜まで続けたうえで帰国し、およそ60時間ほとんど寝ないまま日本に着いたそうです。
エマさんの強行軍の話を聞いたレンさんは、最初は嘘だと思ったといいます。
そんなこと可能なのかって、まず人間に。それ限界超えてると思うんだよな。
サイエントークの2人は、会場で流れる紹介動画を何度も撮り直すなど準備を重ねていました。さらに大きな課題が「どういう見た目で行くか」です。2人は顔を出さずに活動しており、今回選ばれた番組の中で顔出ししていないのはサイエントークだけでした。
そんなのは当たり前でしょとか思うかもしれないけど、私たちにとって当たり前じゃないんですよ。
議論の末、マスクで顔を隠すことにしました。ただの市販品ではつまらないと、過去の回のアートワークをもとにしたオリジナルのクマムシ ── 体長1mm以下の微小な動物。乾燥や高温・低温など過酷な環境に耐える能力で知られ、「最強の生物」と呼ばれることもありますマスクをデザインし、2週間ちょっと前に発注しています。
ところがクマムシマスクは静岡から発送されたのが出発前日の朝で、結局当日までに届きませんでした。レンさんは、東京へ向かう新幹線の中で静岡を通過した瞬間を、マスクと「すれ違った」と表現して笑いを誘います。
服装も当日の調達になりました。エマさんは寒い日にもかかわらず春服しか見つからず青いシャツを購入し、レンさんもそれに合わせて当日に青いシャツを買い、レストランのトイレで着替えて会場へ向かいました。
会場に駆けつけた仲間と、阪神・近本選手の来場
贈賞式の会場は有楽町で、映画館のような座席が並ぶ劇場風の空間でした。「サイエントーク」と書かれた名札を付けたとき、2人は一気に気持ちが高まったといいます。
それ(名札)見たらさ、なんかテンション上がってワクワクドキドキしたよね。
サイエントーク側には多くの仲間が応援に来ていました。朝日新聞ポッドキャストの神田さんご夫妻、過去にコラボしたニュースとのよし君とアンリさん、食べ物ラジオの拓郎さん、科学系仲間であるブツザクのトヨさんとマジックさん、イベントを手伝ってくれたリスナー、エマさんの友人のセイちゃんといった顔ぶれです。
よし君とアンリさんからは花束も贈られました。レンさんは、何も受賞していないのに受賞したかのように花束が目立っていたと振り返ります。
さらに驚きの来場者が、阪神タイガースの近本光司選手です。近本選手はサイエントークのファンを公言しており、自身もリュウさんとポッドキャストを配信しています。この日はドジャース戦の後に会場へ駆けつけてくれました。
ドジャースにもカブスにも勝った阪神、世界一の阪神のスーパースター近本さんに推されてる私たちっていうのは、もう大賞を取ったよりもすごい。
レンさんは、本当は投票してくれた全員を呼びたかったと語ります。
誰一人として置いていきたくなかった。投票してくれた人全員にチケット配送したかった。
1つのエピソードでポッドキャストは評価できる?
贈賞式では各番組の紹介動画が流れ、サイエントークのときはアンリさんたちの声援で拍手がひときわ大きくなったそうです。一方で司会者からは「何回聞いてもよくわからない」と言われ、レンさんはそれを自分の努力不足だと受け止めています。
アワードのプレイリストに入ったサイエントークのエピソードは、マイクロRNAの回でした。レンさんによると、この回はロンドンでの対面収録で、番組の中でも特に音質が悪いものだったといいます。
まあまあ、でもね、それもポッドキャストかなと思って、(差し替えずに)そのままにしましたね。
自分で選べるなら、2人は「大人が時間の流れが早くなる理由」の回や時計の回、人生史のプロポーズ回などを挙げたいと話します。エマさんは科学史と人生史を1つずつ選びたいといいます。
そこからレンさんは、ポッドキャストを評価すること自体の難しさに話を広げます。エマさんは、結婚して国際遠距離になったという番組の流れも、1つの回を切り取るだけでは伝わらないと指摘します。
やっぱりなんか聞き続けなきゃわからない良さとかさ、なんか文脈とかあったりするじゃん。
レンさんは同時に、審査する側が忙しい事情も理解できるとします。だからこそ、どの回が選ばれても通用するよう、一個ずつ入魂していくしかないというのが2人の結論です。
20番組の一挙上映で見えた熱量の差
今回の贈賞式は、ノミネートされた20番組の紹介動画を5作品ずつ一気に流し、最後に受賞を発表する形式でした。レンさんによると、これは史上初のケースだったそうです。
サイエントークの順番は、あいうえお順で2〜3グループ目でした。エマさんは自分たちの動画を見終えたあと、あまりの長さに集中力が切れてしまったと正直に話します。その中でも最初のアンガールズの動画は面白く、レンさんはアワードに真摯に取り組む姿勢に好感を持ったといいます。
一方で2人は、番組によって熱量のかけ方が大きく違うことも感じていました。
僕らはめっちゃ動画とか頑張って時間かけたりとかしましたけど、正直動画撮影忘れてましたっていうのはあったんですよ。
エマさんは、プロの番組の中に会場へ来ていない出演者が多かったことにも驚いたといいます。
私たちはすごい頑張って、すごくなんかテンション上がって行ったのにみたいな。思った。こっちはイギリスから来てますから。
レンさんは、会場に来ていた人の多くが受賞していたことから、受賞者には事前に連絡があったのではないかと推測します。忙しい人はまずスケジュールを押さえる必要があるため、仕方のない事情だと受け止めつつ、だからこそ来場した人の好感度は上がると話します。
プロに混じってアマチュアは勝てるのか?
エマさんは、ノミネート番組を芸能人、芸能人ではない業界の著名人、完全な素人の3つに分けて見ていました。中間にあたる業界の著名人は多くが会場に来ており、レンさんは「ポッドキャストの教科書」としてきたクロニクルの野村さんと話せたことを喜びます。
| 分類 | 特徴 | 会場での様子 |
|---|---|---|
| 芸能人 | 知名度がありプロが制作 | 受賞しない人は来ていない印象 |
| 業界の著名人 | 本職としてガチでやっている | 多くが会場に来ていた |
| 完全な素人 | 自分たちで収録・編集 | サイエントークもここに入る |
賞の数は、大賞1つと、企画賞・パーソナリティ賞それぞれの最優秀と優秀を合わせた5つでした。取れないだろうと思っていても、会場でドラムロールが鳴ると期待してしまい、呼ばれなかったときには意外とがっかりしたと2人は話します。
いや、祈ってましたよ。そう。いや、悔しかったね。
レンさんは、ポッドキャストを広めるために芸能人の知名度に頼る事情はよくわかり、結果にも納得していると前置きします。そのうえで、受賞したのはすべてプロ系の番組で、自分たちで収録・編集する番組はなかったと指摘します。
だからどうしたらいいのかなっていう、だからそういう(プロとアマチュアを)分けてもいいんじゃね?っていうのはすごい思ったね。
受賞コメントを3回ほど読んだというレンさんは、評価の背景には人柄があり、その人の「違う素顔が見られた」ことが魅力になっていると分析します。顔を出さないサイエントークにはその「ギャップ」が使えないため、エマさんは内容の面白さで戦うしかないと話します。
レンさんが特に強調するのは、アマチュアこそ受賞の有無で大きく変わるという点です。受賞は自分たちでも推しやすくなり、外から見てもわかりやすい指標になり、投資価値などビジネス面にも影響すると考えています。
学会の発表賞と似ている、というレンさんの視点
研究者でもあるレンさんは、ポッドキャストアワードと学会の発表賞が似ていると感じたといいます。理由は、素材の段階で伝わりやすい発表や受けやすい発表があることと、「どこどこ研究室の人だから」というフィルターがあることです。
伝わりにくいけどめちゃくちゃ面白いみたいな。あとちょっと聞いたらめっちゃ面白いのにみたいな研究とかもいっぱいあると思う。で、そういうのって受賞しにくかったりはする。
レンさんは、マニアックな基礎研究 ── すぐに応用や製品につながることを目的とせず、自然現象の仕組みや原理そのものを明らかにしようとする研究が、数年後に重要になるケースも多いと話します。審査する側も人間である以上、研究室名や実用性によるフィルターは避けられないと考えています。
有名な研究室というフィルターや、すぐ役立つ研究が評価されやすい傾向がある
芸能人やプロというフィルターや、最初から伝わりやすい番組が評価されやすい傾向がある
学会での解決策として、レンさんは企業と学生が混在する学会の例を挙げます。お金をかけた企業の研究が強いため、学生向けの賞を別枠で設けることがあり、こうした取り組みはポッドキャストにも合うのではないかと話します。
僕ら学生です。僕らはもうほんと学覚士です。
エマさんも、知名度のある人がポッドキャストという存在を広める役割と、アマチュアのおしゃべりを発掘して知らしめる役割の両方があってよいと応じます。レンさんは、YouTubeのように引っ張り上げるアルゴリズムがないポッドキャストでは、発掘の場がないとスターは生まれないと考えています。
ただしレンさんは、これは文句ではなく感想だと何度も念を押します。アワードを開催してくれていること自体に感謝しているという立場です。
投票してくれたリスナーへの感謝と、これからの宿題
エマさんが一番伝えたかったのは、投票してくれたリスナーへの感謝でした。一次選考の通過を発表したとき、多くの人から「投票しました」と連絡が来て、本当に投票してくれていたのだと驚いたといいます。
本当に、本当かなとか思ってたもん。ちょっと疑ってたもん。なんか、なんで私たちが選ばれるの?みたいな。
レンさんは投票を呼びかける際、不正はしたくないので1人1票でお願いしたいと伝えていました。その約束が守られたうえでのノミネートだったからこそ、なおさら驚いたといいます。
今後について、2人は収録環境の変化に期待を寄せます。これまではビデオもつけず声だけのオンライン収録でしたが、レンさんが5月からロンドンへ移り、一緒に住むことで対面収録ができるようになります。
日本とロンドンの遠距離で、ビデオなしのオンライン収録。話しにくく撮り直しも難しい
5月からロンドンで一緒に住み、対面で収録。話しやすく撮り直しもできる
レンさんは受賞できなかったことを踏まえ、必要なのは品質の向上だと言い切ります。これから1年間リスナーにギブし続け、第7回のアワードで再び応援してもらえる番組を目指すと話しています。
返ってこないです(ギブしないと)。いやマジで。もうね、一番悔しいと思ってる日本人で一番、今。
懇親会、打ち上げ、そして近本選手からのバッティンググローブ
贈賞式の後は懇親会があり、審査員の秀島史香さんとも少し話せたそうです。レンさんは、家の近くのファミリーマートの店内放送で秀島さんの声をよく聞いているといいます。秀島さんは、人生史でトルコの話をした回に触れ、自身もカッパドキアに行ったと話してくれました。
その後はサイエントークチーム10人ちょっとで打ち上げに行き、二次会でもんじゃ焼きまで食べて、帰宅は夜1時ごろでした。ほとんど寝ていなかったエマさんは、最後のほうは寝かけていたと二次会のメンバーに謝っています。
翌日には、近本選手とリュウさん、近本選手が作った会社の代表の石井さんと上野で昼食をともにしました。そこでも「サイエントーク色」の青い花束を贈られ、さらにドジャース戦で使ったバッティンググローブをもらったといいます。
私の母と弟がすごく阪神ファンなので、片手は母と弟にあげて。でも母と弟別々に住んでるんで、ある時は母が持って、ある時は弟が持ってっていう、その往復することになったらしいです。
もう片方のグローブは、番組の締めの挨拶「ウルトラフォー」と書いてもらったサイン色紙と一緒に、2人の家に飾られています。
サイエントークはまだ4歳、青春はこれから
エマさんはもともと2週間ほど前に帰国する予定でしたが、アワードの一次選考通過の連絡を受けてスケジュールを変更していました。レンさんは、トロフィーを持ち帰らせたかったと残念がります。
2人は今回の体験を「人生史」の回として出すことにします。レンさんは、こうしたイベントはきっと一生覚えていて、悔しかったことや、わざわざ帰国したことを後から振り返るはずだと話します。
結構青春なんじゃん、もうこれ。
サイエントークは4月で4歳になります。エマさんが「まだ青春すら入っていない」と言うと、2人は番組を幼稚園の年中さんにたとえ、成人まで16年続けることを思い描きます。
うん、やっと喋れるようになってきましたよ。やっと理解してきた、ポッドキャストを。
レンさんは、すぐに終わる可能性が低いことこそサイエントークの強みかもしれないと話し、これからも面白い科学のトピックを持ってくると約束します。最後は、対面ならではのタイミングで2人そろって「ウルトラフォー」と締めくくりました。
まとめ
初めてのポッドキャストアワード贈賞式は、サイエントークの2人にとって、仲間やリスナーの支えを実感する楽しい時間であり、同時に受賞を逃した悔しさからアマチュア番組の戦い方を考えるきっかけにもなりました。
- リスナーの1人1票の投票でノミネートされ、2人は初めて贈賞式に参加した
- 顔出しせずに参加するため、オリジナルのクマムシマスクを作ったが当日には間に合わなかった
- 受賞はすべてプロ系の番組で、レンさんはアマチュア向けの枠があってもよいと考えている
- 学会の発表賞と同じく、伝わりにくいが面白いものを発掘する場の必要性が語られた
- 対面収録が可能になるこれからの1年、品質を上げてリスナーにギブし続けることを誓った



