古代アレクサンドリア図書館はどう生まれた?巻物70万巻の整理術と、現代につながる"スクロール"の原点
サイエントークのレンさんとエマさんが、科学の発展に欠かせなかった古代最大の図書館「アレクサンドリア図書館」の誕生背景や、巻物をどう整理していたのか、当時の図書館の驚きの空気感までを語りました。その内容をまとめます。
2000年前からスクロールしていた人類
スマホやパソコンで画面を「スクロール」する動作は、実は2000年以上前から人類がやっていたことだとレンさんが紹介しました。もともとスクロール(scroll)英語の "scroll" は「巻き物」を意味する名詞としても使われる。巻き物を広げながら読む動作が、画面を上下に送る操作の語源になったとされる。は、巻物を広げて読む動作を指す言葉だったのです。
また、日本語でも巻物の名残は身近に残っています。漫画の「何巻」という単位や、「なんとかの巻」という表現は、書物がまだ巻物だった時代の名残です。現代ではもう何も巻いていないのに「巻」だけが生き残っている――言葉の歴史としても面白いポイントです。
アレクサンドリア図書館が生まれた背景
古代ギリシャでは、もともと文字に対して否定的な学者も少なくありませんでした。ピタゴラス教団紀元前6世紀にピタゴラスが創設した宗教的・学問的共同体。数を万物の根源と考え、秘密主義的な教義を持っていた。筆記禁止のルールがあったとされる。は筆記を禁止していましたし、ソクラテス古代ギリシャの哲学者(紀元前469頃〜前399年)。対話を通じて真理を探究する「問答法」で知られる。自らは著作を残さず、弟子プラトンの著作を通じてその思想が伝わっている。も文字否定派でした。「文字に頼ると頭が悪くなる」という考えもあったようです。
しかし結局、知識を後世に残すために文字で記録しようという流れが生まれます。その象徴が図書館でした。紀元前300〜200年頃、エジプトのアレクサンドリアに古代最大の図書館が誕生します。
この街を作ったアレクサンダー大王古代マケドニア王(在位:紀元前336〜前323年)。東方遠征でペルシア帝国を滅ぼし、エジプトからインド北西部に至る大帝国を築いた。各地に「アレクサンドリア」と名付けた都市を建設した。の家庭教師が、あのアリストテレス古代ギリシャの哲学者(紀元前384〜前322年)。プラトンの弟子で、自然学・論理学・倫理学・政治学など幅広い学問の基礎を築いた。「万学の祖」と呼ばれる。でした。アレクサンドリアを統治したプトレマイオス朝アレクサンダー大王の死後、部将プトレマイオス1世がエジプトに建てた王朝(紀元前305〜前30年)。学問・文化の振興に力を入れ、クレオパトラ7世が最後の女王。の王も、図書館建設を推進した人物も、ともにアリストテレスの教え子だったのです。
ちなみにこれ日本だと弥生時代です。弥生土器作ってるぐらいの時にもうギリシャは大発展してるわけですよ
アリストテレスの教育
アレクサンダー大王やプトレマイオス朝の王族を教え、「観察・記録」の重要性を広める
アレクサンドリアの大繁栄
エジプトに100万人都市が誕生。世界中から学者が集まる
ムーセイオン+アレクサンドリア図書館
研究所(ムーセイオン)に付随する形で古代最大の図書館が誕生
ムーセイオン ── 博物館・動物園・天文台を備えた研究所
アレクサンドリア図書館は、ムーセイオン古代ギリシャ語で「ムーサ(学問・芸術の女神たち)を祀る場所」の意。英語の "museum"(博物館)の語源。という施設の中に作られました。ムーセイオンは今でいう国際学術研究所のような場所で、ミュージアム(museum)の語源にもなっています。
アリストテレスの「何でもかんでも観察しまくろう」という精神が色濃く反映されており、世界各地から動物や植物が集められていました。図書館の他に植物園、動物園的な施設、天文台まで揃っていたとされています。
なんか楽しそう、行くの。でもその当時は一般の人は入れないよね
ここで働く研究者には税金の免除、衣食住の提供、給料の支給といった待遇がありました。出世ルートとしては、王位継承者の家庭教師を務めた後、図書館の館長に就任するというキャリアパスがあったそうです。
巻物をどう保管し、整理したのか
当時の書物は巻物(パピルス製)です。本のような背表紙がないため、積み重ねたらどれがどれかわからなくなってしまいます。そこで巻物にはラベルを付け、著者名・出版地・編集者・行数などを記録する運用が行われていました。
保管方法も現代とは大きく異なります。初期は大きな壺や筒のような容器に巻物を敷き詰め、ラベルだけが見えるようにしまっていたそうです。やがてスペースの問題から本棚のような仕組みが生まれ、ワインセラーのようにボトルを横に並べる感覚で巻物を整理するようになりました。
壺・筒型の容器に巻物を敷き詰め、ラベルだけ見えるように保管。広い面積が必要だった
本棚状の棚に巻物を横向きに並べて保管(ワインセラーのようなイメージ)。縦の空間を活用できるように
パピルスは水草から作られているため湿気に弱く、保管には湿度管理も重要でした。エマさんが「今の図書館も温度・湿度管理をしっかりしている」と指摘したように、書物の保全という課題は古代から変わらないテーマです。
巻物にはもう一つ興味深いルールがありました。巻物の冒頭に、産地・書かれた場所・日付などの情報を記す「プロトコレン巻物の冒頭に記された書誌情報。産地、作成場所、日付などを記録する。現代の「プロトコル(protocol)」の語源。」を書くことが定められていたのです。これは現代の「プロトコル」の語源にもなっています。
ピナケス ── 人類初の図書目録と"人間Google"館長
初代館長ゼノドトスアレクサンドリア図書館の初代館長とされる人物。蔵書をアルファベット順に並べるという、書物整理の基礎を築いた。がまずアルファベット順に並べるという方針を打ち出しました。しかし蔵書が増えるにつれ、それだけでは追いつかなくなります。
そこで登場するのがカリマコス紀元前3世紀の詩人・学者。アレクサンドリア図書館で『ピナケス』と呼ばれる図書目録を作成し、図書分類法の礎を築いた。です。王から「もう何万巻もあるのだからなんとか整理しろ」と命じられた彼は、全蔵書の目録「ピナケスギリシャ語で「一覧表」の意味。カリマコスが作成したアレクサンドリア図書館の蔵書目録。120巻にも及んだとされ、図書分類法の原型とみなされている。」を作成しました。全120巻にも及ぶこの目録には、各書物の要約(サマリー)や、関連する文献同士のリンク情報まで含まれていたと言われています。
さらに歴代の館長たちは、新しい巻物が入るたびにこのピナケスを改訂するという途方もない作業を続けました。膨大な蔵書を把握しているからこそのエピソードもあります。ある詩のコンテストで審査員を務めた館長アリストファネスここでは「ビザンティウムのアリストファネス」を指す(紀元前257頃〜前180年頃)。アレクサンドリア図書館の館長を務めた文献学者。喜劇作家の同名人物とは別人。が、他の審査員が高評価をつけた作品に対し一人だけ低い点数を付けたことがあったそうです。理由を聞かれると「これは既存の作品のパクリだ」と見抜き、根拠となる原典まで提示したと伝えられています。
検索とかできないからね、この時。もう人間Googleみたいな、人間図書館サーチの人ですよ
音読・議論・酒 ── 古代図書館の意外な空気感
現代の図書館は「静かに黙読する場所」というイメージですが、古代はまったく違っていました。当時は音読が主流で、声を出さずに読む人はほとんどいなかったとされています。
図書館で誰かが面白い書物を声に出して読んでいると、それを聞いた周囲の人が集まってきて議論が始まる。昼間は議論し、夕方になると酒を飲み始めてシュンポシオン古代ギリシャの饗宴。食事の後に酒を飲みながら哲学・文学・音楽などについて語り合う場。英語の "symposium"(シンポジウム)の語源。(宴会)に突入する――そんな賑やかな空間だったようです。
ピクニックみたいな感じだね。でも喋ってることのレベルは結構高いんだろうね
また、当時は電気がないため、太陽の光の下で読書するのが基本でした。暗くて静かな室内で一人で読むという現代の図書館像とは真逆の風景です。
🔊 音読が基本
☀️ 太陽の下で読書
🗣️ 議論が自然発生
🍷 夕方から宴会に突入
🤫 黙読・私語禁止
💡 室内照明で読書
📖 一人で静かに集中
🔍 検索システムで蔵書を探す
古代最大から現代最大へ ── 図書館の規模比較
アレクサンドリア図書館の蔵書は最終的に約70万巻に達したとされています。巻物1巻あたりの情報量は現代の本より少ないものの、すべて手書きでコピー機もない時代にこれだけの数が集まったこと自体が驚異的です。
なお、古い方の図書館はすでに失われており、正確な場所も曖昧です。2001年にかつての図書館があったとされる場所に新アレクサンドリア図書館(Bibliotheca Alexandrina)2001年にエジプトのアレクサンドリアに開館した図書館。古代図書館の精神を受け継ぐ形で再建された。蔵書約40万冊。現代的な建築で知られる。が再建されています。
ちなみに世界最大のアメリカ連邦議会図書館は、書棚を横に並べると約1,350kmにもなるそうです。東京〜大阪間(約500km)の倍以上というスケールです。日本の公立図書館では大阪府立中央図書館が最大で、280万点以上を所蔵しています。
まとめ
今回は古代アレクサンドリア図書館の誕生背景と、その驚くべき運営の様子を追いました。アリストテレスの「観察と記録」の精神を受け継いだ人々が、巻物の整理から目録の作成、さらにはサマリーやリンクといった情報整理の概念まで生み出していたことは、現代の図書館やデジタル検索の原型とも言えます。
この図書館は後に失われてしまい、それが科学の発展にも大きな影響を与えたとレンさんは予告しています。続編では、この図書館に通っていた有名な学者たちの話や、図書館が衰退していった経緯が語られる予定です。
- 「スクロール」は巻物を広げて読む動作が語源。「巻」「ボリューム」「ペーパー」「プロトコル」なども古代の書物文化に由来する
- アレクサンドリア図書館は、アリストテレスの教え子たちが紀元前3世紀頃にエジプトに作った古代最大の図書館
- ムーセイオン(ミュージアムの語源)という研究所に付随し、植物園・動物園・天文台も備えていた
- 巻物には「プロトコレン」(書誌情報)を記すルールがあり、壺保管から本棚保管へと発展した
- カリマコスが作成した目録「ピナケス」は120巻に及び、要約(サマリー)や文献リンクという概念を初めて導入した
- 古代の図書館では音読が基本で、そこから議論が生まれる賑やかな場所だった
- 蔵書約70万巻はすべて手書き。この図書館の衰退が科学の停滞にもつながったとされ、続編で語られる予定

