日本で17年間封印された名著『ザ・ゴール』
かめやんはまず、ビジネスの世界に実質的に封印されていた本があると切り出します。
それがエリアフ・ゴールドラットさんの『ザ・ゴール』です。1984年にアメリカで出版され、世界中で大ベストセラーになりました。
ところが、日本語版が出るまでには17年もかかったといいます。日本で読めるようになったのは2001年でした。
理由は、著者のゴールドラット博士が日本語への翻訳出版を許可しなかったからだと紹介されます。
日本人は部分最適の天才である。もし彼らが私の提唱する全体最適の手法まで手にしたら、世界経済は混乱し、貿易摩擦が再燃して、もう誰も日本に勝てなくなってしまう。
つまり、日本が凋落してから売り始めた、という語られ方でした。
よく言うよって感じですよね。
日本の強みだった「部分最適」とは何か
ここでかめやんは、「部分最適」という言葉を説明します。
部分最適とは、ある工程の一部だけを最適化してしまうことです。自分の持ち場や担当範囲を徹底的に改善し続けることだと語られます。
バブル期、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代は、この部分最適が日本経済をけん引したと考えられています。
例として挙げられたのが、日本人の職人魂や、ある自動車メーカーの「カイゼン」です。
隣の部署がどうであれ、自分たちは1秒も無駄にせず完璧に仕上げる。この熱意で、日本は海外製品の改良と大量生産によって莫大な売上を上げたと説明されます。
だからこそ博士は恐れた、とかめやんは言います。個々のパーツを完璧に仕上げる日本人が、組織全体の流れを最適化する「全体最適」まで知ってしまったら、世界は太刀打ちできないのではないか、と。
物理学者が小説で書いた「制約理論」
話は著者ゴールドラット博士本人へ移ります。彼はビジネスマンではなく、イスラエルの物理学者でした。
きっかけは、ある知人の工場長からのSOSだったと語られます。最新鋭の設備を入れ、現場も死ぬほど働いているのに、なぜか利益が出ないという相談でした。
物理学者だった博士は、工場を物理的なシステムとして分解し、業務をシンプルな数式で説明しようと試みます。
そうして編み出したのが、今回の主役である「制約理論」です。英語ではTheory of Constraints、略してTOCと呼ばれます。
『ザ・ゴール』は、この理論を広めるために書かれた書籍です。面白いのは、博士がこれを論文ではなく小説の形式で発表したことです。
最初は数式をソフトウェアに組み込んで売ろうとしたものの、誰も理解できなかったといいます。
その原因は、「自分の役割を全うしろ、とにかく働け、サボるな」という常識が、物理法則よりも厄介な壁になっていたからだと説明されます。
だから博士は、主人公が苦悩し、家庭崩壊の危機から這い上がる物語という形で読者を納得させようとしました。これが世界で1000万人以上に読まれた理由だと語られます。
機械を回すほど貧しくなる「部分最適の罠」
物語の舞台は、ベアリングや大型機械部品を製造する地方の工場です。
主人公はアレックス工場長。奥さんには愛想を尽かされ、上司からは3か月以内に数字を出さなければ工場は閉鎖だと宣告されています。
彼は真面目で優秀で、こう信じて疑いませんでした。すべての機械をずっと回し続け、誰一人手を休めさせない、暇そうな者には何か仕事をさせろ、と。
ところが業績は下がるばかりです。そんな彼が空港で偶然再会したのが、大学時代の恩師で物理学者のジョナでした。
アレックス君、君は最新鋭のロボットをフル稼働させて効率的だと喜んでいるが、それで本当にお金は増えたのかね?
ここで会計の話に入ります。普通の会社が使う原価計算では、機械を動かすほど製品1個あたりのコストは下がったように計算されます。
たとえば1時間で10個作れる機械に無理やり20個作らせれば、家賃や減価償却費が20個に分散され、帳簿上は1個あたりの原価が安くなります。
しかし、増えた10個が売れていなければ、それは単なる在庫です。売れないゴミを作るために、残業代や材料費という本物の現金が消えていくと指摘されます。
その結果、帳簿は黒字なのに給料を払う現金がなく倒産する、いわゆる黒字倒産も起こり得ます。
かめやんはこれを、天動説にたとえます。自分が動いている中にいると太陽が回って見えるように、現場にいると「機械を回せば利益が出る」という帳簿上の空想を信じてしまう、というわけです。
正しく見るには、外から自分を見るメタ視点、つまり地動説の側から計算する必要があると語られます。
利益を測る3つの指標とハービーくんの列
小説の中でジョナ先生は、難しい会計用語をすべて忘れろと言い、指標は3つだけでいいと断言します。
販売を通じて入ってくるお金。これがなければ利益は生み出せません。
製品にするためにすでに支払ってしまったお金のこと。
スループットを生み出すために継続的に出ていくお金。
注目すべきは在庫の定義です。資産ではなく「すでに払ってしまったお金」と捉えるため、在庫が増えることは、お金が動かない塊として閉じ込められることを意味します。
かめやんはこれをなーこの仕事に置き換えます。深夜まで残業して来月の企画書を100本作っても、受注できるのが月10本なら、残り90本はスループットではありません。
その90本は死んで眠っている在庫であり、作るためにかかった残業代は動作費用として外に出ていきます。
つまり、一人が早すぎて他の部署が追いつけないほど働くと、会社は在庫を抱え、動作費用を垂れ流して貧しくなります。これを博士は「部分最適の罠」と呼びました。
自分の持ち場だけを100%頑張る優秀な人っていうのが、実は組織の体力を奪っている。
では、どうすれば全体を最適化できるのか。その鍵が、主人公アレックスが息子とのハイキングで見つけた「ハービーくん」のエピソードです。
少年たちがゴールに向かって一列で歩くと、列はどんどん伸びていきます。真ん中にいる、少し太っちょで歩みの遅いハービーくんが遅れているからです。
ここでかめやんはなーこに解決策を問いますが、なーこは「別の道を歩かせる」「取り除く」といった案を次々と出し、そのたびに否定されます。
ハービーくん早く走れよ、遅いんだからって先生が怒鳴りつけたとしましょう。ハービーくんは100メートルぐらいは走れるけど、その後ゼェゼェ言って止まっちゃって、むしろ遅くなりますよ。
結論はこうです。全員がゴールに着く時間は、結局一番遅いハービーくんに左右される。彼こそがシステム全体の能力を決めるボトルネック、つまり制約なのです。
一番遅い人を先頭に置く「全体最適」
前の工程が少しでも遅れれば後ろはそれ以上に遅れ、逆に前が早く終わっても、ハービーくんが詰まっていれば全体は1ミリも速くなりません。
だからハービーくんに合わせるしかない。答えは、彼を先頭に立たせることでした。
一見トリッキーですが、一番能力の低いハービーくんを先頭に据え、全員を彼のペースに合わせる。これが行列を最適化した瞬間だと語られます。
さらに、ハービーくんの重い荷物を、能力に余裕のある人たちが分担して持ちます。こうした余裕のある人たちを専門用語で「非ボトルネック」と呼びます。
全員が個別に全速力で歩き、列はバラバラに伸びていった。
遅いハービーくんを先頭にし荷物を分担した結果、列が縮まり、全員が揃って以前より速く到着した。
ここからが今日の一番のお土産です。ボトルネックの能力こそが組織全体の利益を決めている、という教訓です。
だからハービーくんが1分休むことは、組織全体が1分間お金を稼ぐチャンスを失うことと同じです。
逆に、非ボトルネックの人が1時間サボっても全体の成果には影響しません。結局ハービーくんのところで詰まるからです。むしろ手前で急いで作ったものは在庫というゴミになります。
となると、組織で最も大切にされ、尊重されるべきなのは誰か。答えは、いつも仕事が止まってみんなに迷惑をかけがちなハービーくんだと語られます。
ボトルネックっていうのは排除すべき弱点ではなくて、優遇すればするほど確実に利益を吐き出す打ち出の小槌なんですよ。
優秀な人は「あえて遊べ」という逆説
冒頭の問いに戻ります。博士が日本での出版を渋ったのは、日本が現場を最適化する天才だからだと語られます。
ただ、その最適化の視点が全体に向けられていないことが問題だといいます。真面目さが持ち場だけでなく全体に向かえば、日本はめちゃくちゃ強くなってしまう、というわけです。
派生する話として、全体最適の世界では「非ボトルネックはあえて遊んでいろ」と教えられると紹介されます。
正確には、ボトルネックの生産性に合わせて待機し、余計な在庫を増やすな、という意味です。ハービーくんが詰まっているなら、コーヒーでも飲むか、彼を助ける方法を考えた方がいいのです。
私は今、ハービーくんの荷物を代わりに持って行ってあげてるのだろうか。それとも、ただ自分の歩く速さを自慢して列をバラバラにしているだけなのだろうか。
ハービーくん側の人間なので、ちょっと想像つかないです。
前編はここまでです。後編では、ハービーくんを救うために開発された仕組み「ドラムバッファーロープ」や、仕事の対立を解消する思考プロセスが紹介される予定です。
病院の待ち時間や、マツダの奇跡の復活劇まで、続きの話が予告されました。
まとめ
『ザ・ゴール』は、日本人が得意な「部分最適」がかえって在庫とコストを増やし、組織を貧しくするおそれを説く一冊です。前編では、一番遅いハービーくんを中心に全体を組み替える「全体最適」の発想が示されました。
- 『ザ・ゴール』は制約理論を小説として広めた本で、日本語版は出版まで17年かかった。
- 機械を回し個々が頑張るだけの部分最適は、売れない在庫を生み黒字倒産すら招きうる。
- 利益は「スループット・在庫・動作費用」の3指標で捉え直せる。
- 全体の成果は最も遅いボトルネック(ハービーくん)が決めるため、そこを優遇し中心に据えることが全体最適になる。
- 後編ではドラムバッファーロープや思考プロセス、マツダの事例が予告された。
