銀行員からベンチャー、そしてソフトバンクへ
後藤芳光氏は現在、ソフトバンクグループのCFOを務めながら、福岡ソフトバンクホークスの社長も兼務しています。
ソフトバンクグループには2000年から在籍し、その期間は26年になります。それ以前は、現在のみずほ信託銀行にあたる旧安田信託で13年間、銀行員として働いていました。
あまり語られていない経歴として、銀行を辞めてソフトバンクグループに入る前に、短い期間ですがベンチャーキャピタルに在籍していた経験があると明かします。会社名は明かしていないものの、強い思い入れが残っているようです。
私自身はやっぱりベンチャービジネスには強い思い入れ、こだわりがありますし、(ソフトバンクに入る前に)少しだけベンチャーキャピタルにいたこともありますし。
規模は変わっても、孫正義は「永遠のアントレプレナー」
ソフトバンクは孫正義氏を中心に、10兆、20兆、30兆という桁の投資を続けているイメージがあります。実際に近くで動いてきた後藤氏は、規模の拡大よりも孫氏の姿勢の一貫性を強調します。
孫さんは常にアントレプレナーなんですよね。彼は創業者としての仕事しか興味関心がないんですよね。
後藤氏によれば、孫氏は会社が小さい時は小さいなりに、大きくなった今は今なりに、常にその何倍もの目標を持ち続けているといいます。
いつもやんちゃな感じで、前向き思考でね、楽しくやろうとするところは、一緒に仕事しててしんどいけど面白いところですよね。
独断に見えて実は合議制。腹落ちするまで説明する孫氏
OpenAIへの10兆、20兆という投資の話が出るとき、社内で反対はできるのか。方向性はすでに決まってしまうのか。パーソナリティのこの問いに、後藤氏は孫氏のイメージを否定します。
彼は議論を大事にするし、すごく独断専行型のイメージに見えるかもしれませんけど、決してそんなことなくて、合議制ですし、合意プロセスをものすごく重視される。
孫氏は、周囲が「なるほど」と腹落ちするまで時間をかけて説明するといいます。やらない案件も多くある中で、やろうと決めた案件にはすべて理由があるためだと後藤氏は語ります。
我々のはるかに先を読んだ打ち手を彼は打ってくる時に、私たちはわからない時がありますよね。それは私たちわかるまで教えてくれる。
孫正義がいなくなったら、ソフトバンクはどうなるのか
もし孫氏がいなくなったらソフトバンクグループはどうなるのか。パーソナリティのこの問いに、後藤氏は即座に「潰れません」と答えます。
もしその孫さんがいなくなったら、ソフトバンクグループってどうなるんですか?
パーソナリティ さんからの質問
会社自体は潰れない。ただし、孫氏がいる時に投資家が抱いてきたアップサイドへの期待値を持ち続けてもらうのは、その瞬間は難しくなる。だからこそ、孫氏が元気なうちに後継者候補が何人も出てくるといい、というのが後藤氏の考えです。
後藤氏自身が候補なのかという問いには、63歳という年齢を挙げ、世代交代で消えゆく身だと答えています。孫氏が交代するタイミングがあれば、自身も若手に交代していく立場だと語ります。
1000兆円、金のガチョウ。孫氏のプレゼンは本人が作る
株主総会で孫氏が掲げた「1000兆円」という数字には、後藤氏自身も驚いたと明かします。金のガチョウの卵やユニコーンが崖から落ちる図など、ソフトバンクの株主総会のスライドは特徴的です。
1000兆円って言ってましたね。びっくりしました。
こうしたプレゼンテーションは、孫氏本人が話すため、作り込みにも本人が全面的に関わると後藤氏は説明します。周囲に若手の制作部隊もいるものの、表現方法もほとんど孫氏自身が考えているといいます。
彼は全部それ入って、あの1から10まで(プレゼンに)手を入れてくる。ああいう面白い表現方法も、ほとんど彼が自分で考えている。
1000兆円という数字も、ポジティブシンキングですべてがうまくいけば到達する可能性がある数字だといいます。うまくいかなければどうするのかという問いには、後藤氏はあっさりと答えました。
ダメな時はダメでしょうがないじゃないですか。まあ前向き思考でいくと。
世界のスーパースターと対峙する孫氏の売り込み力
ソフトバンクのディールには、サム・アルトマン氏やジェンセン・ファン氏といった世界のトップが登場します。サム・アルトマン ── OpenAIのCEO。ChatGPTを開発した企業の経営者として知られる。そうした相手にビジネスで向き合う感覚を問われ、後藤氏は孫氏の売り込み力に触れます。
彼は常に自分のことをわかってほしい人に100%理解させる、説明させるっていう能力を、強い能力を持ってるんですね。
後藤氏は、CFOとしても対象に向き合って同じことをやると語ります。孫氏の10分の1にも力が足りないかもしれないが、まだまだ学ぶところが多いと、率直に述べています。
トップ同士で決まった方向性が実際のオペレーションに降りてくるとき、それは「できるな」という感覚か、それとも「大変だぞ」か。後藤氏の答えは明快でした。
これは大変だぞってものしかないです。だけどやればできるんですよね。
無限の資金ではない。安全な調達だからこそ挑戦できる
大きなチャレンジが次々と出てくる会社に見えるため、なぜ無限に資金があるのかという印象を持たれることがあります。しかし後藤氏は、それを明確に否定します。
全然無限にないんですよ。ただ安全な調達しかしてません。
後藤氏は、安全な調達しかしないという自身の強い思いを、銀行も投資家も理解してくれていると語ります。だからこそ、新しい案件を持ち込んでも、それが相手にとってもプラスになると受け止めてもらえるといいます。
僕は常にWIN WINだと思ってます。普段からのコミュニケーション、すごい大事です。
博打ではなく投資。合理性があるかどうかがすべて
ソフトバンクは「博打のような挑戦」と表現されることがあります。世間とのギャップで最も違和感を覚える部分を問われ、後藤氏はきっぱりと言い切ります。
博打はしない。我々ギャンブルはしないです。全て投資。投資と投機って僕違うと思うんですよ。
後藤氏は、投資と投機の違いを合理性の有無で説明します。投資には常になぜそこに投じるのかという合理性があり、うまくいくかどうかわからないギャンブルとは根本的に異なるという考えです。
なぜそこに投じるのか合理性がある。安全な調達で説明がつく大きな挑戦。
うまくいくかどうかわからない。会社として議論するまでもなく避けるべきもの。
それでも世間からギャンブルのように見られることについて、後藤氏はやや残念だとしつつ、結果で示していくしかないと語ります。意思決定が普通の企業の何倍も早く、大きなチャレンジを繰り返すことが、ネガティブに見られる一因かもしれないと分析します。
規模は何兆円になっても、考えるアプローチは変わらない
ソフトバンク流の型がいつ確立したのかという問いに、後藤氏は「ずっと変わらない」と答えます。孫氏が案件の夢と成功の可能性を真剣に見極め、成功予測を持ってフィードバックする。そのプロセスが最初から一貫しているといいます。
投資の規模は、最初の何百億、何千億から、やがて何兆、十何兆へと成長してきました。それでも根本の姿勢は変わらないと後藤氏は強調します。
規模はどんどん成長してきてるけど、考えるアプローチ、プロセスは変わらないです。
言語化しないAI投資戦略。今は手を出せるものは出す時期
AIの領域はグローバルな戦いになっていくなかで、日本の最前線にいる責任や役割を言語化しているのかと問われ、後藤氏は意外な答えを返します。
言語化されてないです。言語化されないところに良さがあるかもしれませんね。
OpenAIへの出資や連携、国産LLMといった取り組みは、目指す将来のビジョンに向けた一つ一つの手だと後藤氏は位置づけます。国産LLM ── 日本国内で開発される大規模言語モデル。海外製に依存しないAI基盤づくりの文脈で語られることが多い。
後藤氏は、AI革命はまだ始まったばかりであり、どのスタートアップが成長するかはわからないと語ります。だからこそ、幅広くコミュニケーションを取り、手を出せるものは今どんどん出しておくべき時期だと考えています。
今はそういう時期じゃないかなと思います。手を出せるものは今どんどん出しておいた方がいい。
財務チームの世代交代と、次世代の育成
挑戦の規模が変わるなかで、CFOとして進化しなければならない部分はあるのか。後藤氏が挙げたのは、財務部門のチームの強さと世代交代でした。
若手の活力のあるチームにしていくために何ができるか。
後藤氏は、若手中心のチームづくりが会社への貢献につながり、ひいては日本の産業界に大きなポジティブな影響を与えられるような組織を、自分がいるうちに進めたいと語ります。
夢はガーンと語れ。日本のスタートアップへのメッセージ
IVSに参加した理由の一つでもある、日本のスタートアップへのメッセージを問われ、後藤氏は日本人の控えめさに触れます。プレゼンやアピールが、欧米に比べて控えめになりがちだという見立てです。
本当はもっと大きな夢を持っている人がたくさんいるはずだと後藤氏は言います。会いたいと思った人に会えたときこそ、大きな夢をぶつけてほしいと呼びかけます。
最初から自分が会いたいと思った人に会った時には、ガーンと自分の大きな夢をどんどん語れる。
そうした実践が広がれば、日本のスタートアップのマーケットも変わってくるのではないか。孫氏のようにまず大きく語り、実現していくエコシステムへの期待を込めて、後藤氏は対談を締めくくりました。
まとめ
ソフトバンクグループCFOの後藤芳光氏は、独断に見える孫正義氏の投資が実は徹底した合議制で進み、規模が数兆円になっても考えるアプローチは変わらないと語りました。博打ではなく合理性のある投資を、安全な調達で支えるのがCFOの役割です。
- 孫正義氏は「永遠のアントレプレナー」で、規模が変わっても常に何倍もの目標を持ち続ける
- 巨額投資は独断ではなく合議制。孫氏は周囲が腹落ちするまで説明する
- ソフトバンクは投機ではなく投資しかしない。合理性の有無が投機との違い
- 資金は無限ではなく、安全な調達だからこそ大きな挑戦ができる
- 後藤氏から日本のスタートアップへ、会いたい人に会えたら大きな夢をガーンと語れというメッセージ





