千葉県の豪雨と、配信2年で実感したこと
冒頭で笠原さんは、2026年8月13日の千葉県の豪雨で被災した方へお見舞いの言葉を述べます。
笠原さんは千葉県の出身で、特に佐倉市は実家から近く、大学時代に毎週のように通っていた場所だといいます。
被害が大きいと報道されている辺りも何度も行ったことがある地域で、心苦しいと話します。実家は無事だったとのことです。
話題は夏の登壇に移ります。8月前半はあちこちで登壇し、行く先々で「ポッドキャスト聴いてます」と声をかけられたことが、この夏一番の思い出だといいます。
この番組は2024年7月末に配信を開始し、気づけば丸2年が経っていました。
番組のフォロワーは全プラットフォームを合わせても200〜300人ほど。確率的には簡単にリスナーと出会えないはずですが、音声配信の距離の近さを実感したと語ります。
そしてもう一つ意外だったのが、「自分もポッドキャストをやってみたい」という先生が多かったことでした。自分で配信したい、授業で生徒に作らせてみたいという声です。
そこで今回は、先生たちのポッドキャストの始め方を2026年最新版として話すことになりました。
一つ目のテーマ「音にこだわる」
今日は3つの観点で話が進みます。1つ目は始めるハードルを上げないこと、2つ目は教員とポッドキャストの相性、3つ目は情報発信することの価値です。
準備の方法については、去年出た本を読めばすべて解決するといいます。
ただ、それで終わっては配信の意味がないため、笠原さんは教員目線での手がかりを話していきます。
学校の先生は激務で、プライベートの時間を持ちにくい方が多い、という前提を置きます。
配信を始めるときの一番のハードルは収録そのものではなく、録音した後の音声を編集して聞けるレベルまで整えるところだと指摘します。授業で毎日話しているので、収録自体は多分大丈夫だといいます。
だからお金や手間をかける先を1つだけ選ぶなら、収録するときの環境とマイクにコストを割くべきだと話します。
BGMはあったらあったで確かにかっこいいですよ。でも、BGMもなく急に話し始めるポッドキャストもたくさんあって、ひたすら話しているだけなのにめっちゃ面白い番組もいっぱいあります。
逆に聞いていて唯一これは無理というのが、音質が悪いポッドキャストなんです。
換気扇のような「ブーン」という音がずっと入っているものや、マイクを手で触って「ボフボフ」と音が入るものは、連発されると途中で聞くのをやめてしまうといいます。
極端に言えばスマートフォン1つで録音から配信まで進められますが、何も考えずに撮ると反響音がひどくなりがちです。
その対策はシンプルで、布団を頭からかぶって反響しない環境で話すだけでも、かなりちゃんとした音になるといいます。
収録の音がちゃんと取れていれば編集の手間も減ります。言い間違いや噛んだところはカットしなくても平気で、聞きやすい音でありさえすれば番組として成立し、続けやすくなると話します。
USB接続のマイクもあり、1万円ぐらいのマイクに投資するだけでも全然変わるといいます。
ポッドキャスター御用達のマイク。この番組の収録に使用しています。
MV7をつないでいるオーディオインターフェース。音質にほとんど手を入れなくてよい環境になりました。
Voicyのスマホ収録で使うワイヤレスマイク。iPhone直取りのキンキンした音を防ぎ、自然な音声で録れます。
Voicyは収録アプリが優れていて雑音をカットし、人の声を聞きやすいボリュームに調整してくれる印象があるといいます。
そのためVoicyで始めるのが一番簡単だろうとしつつ、審査を通るのが大変だと付け加えます。
逆に音にさえ気をつければ、話し方が下手でも噛んでも、その人の味や一生懸命さとして共感的に聞いてもらえる場合があるといいます。
自分なんかは編集や読み上げに一生懸命になりすぎた結果、AIが話してるとずっと言われてましたからね。最初から最後までずっと自分で話してるのに。
配信しても最初は誰も聞いていない
よく言われる通り、配信しても最初の1ヶ月くらいは誰も聞いていないといいます。
2年続けたこの番組でも、毎回聞いてくれる人は全プラットフォーム合わせてもせいぜい100再生ほど。YouTubeは時々やたら回るものの最後まで聞かれないため、笠原さんの中ではノーカウントだといいます。他のプラットフォームは7〜8割が最後まで聞いてくれるとのことです。
だから細かいことは気にせず、さっさと自分の番組を作って配信してみることをすすめます。
どんな音になるのか、このぐらい話すと自分は話が迷子になるんだな、そういうのは自分で体験してみないとわからない。だから手を動かしてやってみる人が一番強いし、偉いわけですよ。
一つだけアドバイスとして、ポッドキャストには「配信3回の壁」があるといいます。
そこで、厳密な台本まで書く必要はないものの、10回分のタイトルを先に決めておくことをすすめます。週1回なら約2ヶ月分になります。
生成AIに「自分はこういう経験をしてきた人間だが、どんなテーマがポッドキャストでできそうか」と相談し、テーマをピックアップしてもらうのも一つの手だといいます。
笠原さん自身も台本は書いているものの、Googleドキュメントに音声入力で話したいことをダダッと話し、それをAIに渡していつものテンプレートの順番で構成してもらう、という緩いやり方だそうです。
骨組みに従って話すため、編集前は30〜40分の収録が、削って20〜25分ほどになるといいます。台本自体はかなり適当だと話します。
二つ目のテーマ「教員とポッドキャストの相性」
2つ目のテーマは、教員とポッドキャストの相性の良さです。教員はとにかく話すのが仕事だといいます。
ホームルームで生徒の前に立って話し、保護者会で正確に情報を伝え、人柄を理解してもらって家庭からの支持を得る。そうした普段の仕事の強みが、音声メディアでは一番生きるのではないかと語ります。
毎日のホームルームで、教室の雰囲気やその日あったことを軽く思い出して、アドリブで5分ぐらいちゃんと話せる先生、多いじゃないですか。ポッドキャストもそれでいいんですよ。
バズる話をしようと意気込む必要はなく、生徒の反応を探りながら話すノリでいいといいます。
リスク管理の面でも、ポッドキャストは炎上しづらいと指摘します。
文字起こしをしない限り文字情報として切り取られにくく、リスナーは前後の文脈を聞いた上でその言葉にたどり着くため、悪意を持って燃やされることは相対的に起きにくいといいます。
顔を出さなくてよく、ポッドキャストネームで配信してもいいので気楽だとも話します。
ただし、個人情報や学校の子どもの詳しい情報を話すと大問題になるため、そこだけは気をつけてほしいと注意を促します。
それさえ守れば、自分の考えを整理することにも、話す技術を磨くことにもつながるといいます。実際、続けていて話す技術は明らかに上達したと感じるそうです。
この番組は一人語りのソロポッドキャストのため、毎週「虚無に向かって何を話しているのだろう」という気持ちになることもあるといいます。
相手がいない環境でひたすら喋り続けてると、目の前に人がいるだけでめちゃくちゃ嬉しくなりますよ。ああ、ちゃんと聞いてくれてるんだみたいな。
自分が話すようになると人の話し方も気になり、ソロ配信者の構成の工夫につい注目してしまうといいます。
だから国語の先生は、話すこと・聞くことの実践者として学びが大きいのではないか、と以前から言っていることを繰り返します。継続して技術を磨く姿勢は、ルーティンワークになりがちな教育の現場では意味のある刺激だと考えられます。
三つ目のテーマ「情報発信の価値」と泥臭さ
3つ目のポイントは、情報発信すること自体の価値です。学校の先生の情報発信はもっと増えていいと常々言っている通りだといいます。
一方で、XをはじめとしたSNSでの発信については、正直お腹いっぱいというのが今の感触だと率直に語ります。
一生懸命発信している人を否定するつもりはなく、20代では平気だった中華料理が30代で脂っこく感じるような、感覚のずれの話だと前置きします。
SNSでの発信は賞味期限が短く、その場限りのリアクションになりがちだという印象を持っているといいます。
短い尺で正しく情報を伝えるのって、実はめちゃくちゃハードル高いんですよね。
ある実践に至るまでには、子どもたちとの関係や教室での出来事といった文脈が必ずあるはずですが、その泥臭い文脈はXやInstagramには載せられません。
だから切り取られて、整えられたキラキラした実践ばかりになりがちで、見ていると疲れてしまうといいます。
その点、ポッドキャストなら長い尺で「なぜその実践をやりたかったのか」を一から話せるといいます。
一から話し始めて、ゴールが見えないまま空中分解して終わっても、全然ポッドキャストはいいわけなんです。
前回の第107回がまさにそれで、「平和学習の単元が立たない」という話を、なぜ平和単元をやりたいのかから始め、授業提案があるかと思わせておいて「授業なんて思いつかない」と放り投げて終わったといいます。
最後にうまくまとめられると思ったら思いつかず、自分で放り投げたそうです。そういうことが許されるのがポッドキャストの良さで、その点はVoicyよりポッドキャストだと感じると話します。
学校の外につながり、情報が集まる場所になる
もう一つの価値として、公のメディアで発信すると教員以外の人が話を聞いてくれる可能性がある点を挙げます。
たとえば同じ学校で働く事務の方や学校司書が先生のポッドキャストを聞き、「先生方はこういう情報を必要としているのか。だったら図書館としてこう準備できる」と気づいて仕事に役立ててもらえるケースがあるといいます。
同じく子どもに関わる仕事でも、職種によって見えるものは全然違います。学校の中で教員はマジョリティのため、教員以外が教員の仕事をどれだけ理解しているかへの感度が低くなりがちだと指摘します。
一方で、教員以外の職種の人には「教員が何を考え、何を大切にしているのか知りたい」というニーズが隠れてあるといいます。
保護者や全く別の業界の社会人が「学校ってこういう理屈で動いているんだな」「実は丁寧にいろいろ教育しているんだな」と気づき、子どもを育てる難しさに興味を持つ人が増えた方がいい、と語ります。学校の中に閉じているのは良くない、というのが普段からの考えです。
さらに、自身の夏休みの経験から、今は質の高い情報がSNSや表にはなかなか出てこないと感じるといいます。
コネクションや強みを持つ人たちのコミュニティの中で、濃密なやり取りがされているのが実情だといいます。笠原さんにとっては、それが電通育英会のリーダー、育英塾のアルムナイネットワークだそうです。
そこで交わされる内容は、この場だけに留めるのはもったいない、もっと多くの先生が触れた方がいいと思うものが多いといいます。
ただ、そうした情報交換が成り立つのは心理的安全性が高く、自分も相手に情報提供ができるからだと分析します。いきなりコミュニティが完成して情報が流通することは起こりません。
そこでポッドキャストだといいます。配信を継続すると、情報を必要とし、時間をかけてでも聞いてくれる人が少しずつ集まり、コミュニティのようなものができるといいます。
発信しているからこそ声をかけてもらい、いろいろ教えてもらえるようになる。自分の持っている情報に価値がないと思ってはいけない、と力を込めます。
自分が持っている情報や自分の伝える言葉がどこで価値を持つかなんて、自分には全然わからない。世の中に出回る情報が増えるほど、自分に必要な情報と出会えるチャンスは広がるんです。
今が始めどき 教育系ポッドキャストの日へ
エンディングで笠原さんは、音声配信をやってみたいなら今の時期がチャンスだと呼びかけます。
学校が始まるまでまだ少し余裕のある今のうちに、とりあえず何か録音して、SpotifyでもApple Podcastでも何でもいいのでアップロードして流してみればいいといいます。
今は配信してもお金は取られず、しっくりこなければやり直せます。番組名やアートワークを後から変えるのも難しくないので、最初の一歩をえいやと飛び越える方がいいと話します。
10回も回らないという話をしましたね。それを「やる意味ないじゃん」ではなくて、「いくらでも試行錯誤して大丈夫じゃん」と捉えたら、多分続くんじゃないかなと思いますね。
ポッドキャストを始めた人がいたら教えてほしい、必ず聞きに行きフォローするし、困っていれば手伝うと呼びかけます。
さらに、今週始めれば来週のイベントに間に合うといいます。
まとめ
激務の教員こそ、話す力や普段の仕事の強みが生きるポッドキャストに向いている、という回でした。音にこだわり、最初は聞かれなくても手を動かして続けること、そして泥臭い文脈ごと発信できる音声メディアの価値が語られました。
- お金や手間をかけるなら収録環境とマイクに。音質さえ良ければ噛んでも味になる
- 最初は誰も聞かないのが前提。10回分のタイトルを先に決め、AIも使って続ける仕組みを作る
- 教員は話すのが仕事。ポッドキャストは炎上しにくく、話す技術も磨ける相性の良いメディア
- SNSの短い尺では載せられない泥臭い文脈を、長い尺で一から話せるのがポッドキャストの強み
- 情報は発信する人に集まる。始めれば学校の外とつながり、いつか誰かを救うことにもなる
