仕事しながらなら映画が見られる理由
本題に入る前の雑談から。村田さんは家で映画やドラマを見たいのに、10分ほどで集中力が切れてしまう悩みを抱えていたそうです。そこで見つけた解決策が「仕事をしながら見る」という方法でした。
その理由として村田さんが挙げたのが、脳は「暇」を嫌う性質を持っているという考え方です。常に7〜8割ほど稼働していたいため、映画やドラマだけでは脳の負荷が低すぎて、別の刺激を求めてスマホなどに手が伸びてしまうというわけです。ちょうどよい負荷がかかった状態のほうが、かえって集中しやすいのではないかと語られました。
おすすめ作品としては、Netflixの韓国ドラマ『鉄槌教師』と、Amazon Prime Videoの『羊探偵』が紹介されました。前者は一話完結のヒューマンドラマアクション、後者は羊たちが飼い主殺しの犯人を追うミステリーコメディで、どちらも「仕事をしながら」楽しめたとのことです。
二年で伸びた一番弟子の秘密
本題は、村田さんがニュータウンの犬飼さんが企画した「師弟」企画で師匠を務めていることから始まります。すでに十数名から依頼が来ており、ご飯を食べながら人生相談を聞くというゆるい企画だそうです。先週、その一番弟子さんと渋谷で会って話した内容が語られました。
一番弟子さんは、未経験からデザイナーになった一社目・キャリア二年ほどの方。所属先が組織崩壊し、先輩デザイナーも次々に辞めているため転職を考えており、その相談を受けたそうです。ところが作品を見せてもらうと、そのクオリティは「選ばなければどこにでも行けそう」なほど高かったといいます。
理由を尋ねると、三名ほどいた先輩デザイナーからたくさんフィードバックをもらい、もらってはすぐ作り、また見てもらう、というサイクルを一日の中で数十回繰り返していたとのこと。この短いループの積み重ねこそが、二年という短期間での成長を支えていたのです。
フィードバックもらったら、もうすぐに作って、すぐフィードバックまたもらってみたいなのを、一日の間で数十回繰り返してた。それがまあ素晴らしいですよね。
フィードバックは宝か、我慢か
ここで村田さんが強調したのが、同じフィードバックをもらっても、それを「宝」と思えるかどうかで成長スピードがまったく変わるという点です。参考として挙げられたのが、佐渡島庸平さんの著書『編集者のフィードバック』でした。
本の中では、ある新人漫画家のエピソードが紹介されているそうです。その漫画家は二年近く成長が止まっており、フィードバックを「自分を否定するもの」と捉えて取り込もうとしませんでした。しかしあるとき「これは自分に足りなかった視点を相手が提示してくれているのだ」と気づいた瞬間から、作品が目に見えて良くなったといいます。
自分を否定されていると感じる。修正が「我慢の時間」になり、取り込もうとしない。成長が止まりやすく、辞めたくなる。
足りなかった視点をもらえる「発見のチャンス」。打ち合わせが感謝と対話の時間になり、成長スピードが劇的に上がる。
さらに村田さんは、本書が「フィードバックは感想で伝える」と説いている点にも共感していると語ります。アドバイスの形で伝えると、相手は操作されているような印象を受け、無意識に反発してしまいがちです。そこで「僕はこう感じた」という素朴な感想を伝えることで、相手の心を開き、自発的な気づきや創造性を引き出すというコミュニケーション術が提案されているとのことです。
こなすだけでは成長しない理由
村田さんがもう一つ大事だと考えているのが、フィードバックの受け止め方です。言われたことをただこなして「はい、できました」と投げるだけの人は、あまり成長しないと指摘します。デザインを早く終わらせることが目的になってしまうと、作業者になってしまうからです。
成長するためには、なぜそのフィードバックをされたのかを理解し、抽象化したうえで、別の具体的なデザインを複数出す必要があると語られました。ここには「産みの苦しみ」が伴います。脳を雑巾のように絞り出す苦痛を感じないと、デザインは良くならないというのが村田さんの持論です。
また、修正してすぐに提出するのではなく、時間をおいて客観的に判断することも勧められました。朝に作業し、昼にフィードバックをもらい、夕方に修正したら、そのまま出さずに一度席を立つ。コンビニに行って一息つき、スマホの画面で確認してみる。こうした「違う場所・違う画面」で見る工夫が、新しい案を生み出すきっかけになるそうです。
「SaaS is Dead」──AI時代の事業会社
一番弟子さんが事業会社への転職も気になると話したことから、話題はデザイナーの転職市場に移ります。村田さんはまず、事業会社やスタートアップが今かなり厳しい環境に置かれている、という現状認識を持っておくべきだと語りました。
先々週「Design is Dead」というイベントに登壇した際、そこにいたデザイナーたちの話を聞く限り、「Design is Dead」よりも「SaaS is Dead」のほうがやばそうだと感じたといいます。デザインが死ぬより先に、SaaSやスタートアップが危うくなりそうだ、という趣旨です。理由はAIの進化があまりに速いこと。
たとえば「勤怠管理で作業効率が上がります」「契約書をチェックして効率化します」「AIで議事録を取って資料化します」といった業務効率化系のサービスは、そのうちAIが普及すれば「このSaaS、いらなくない?」となりかねません。実際、こうした課題解決系のSaaSは軒並みピボットや新事業の検討に入っているとのことです。
課題解決から価値創造へ
一方で村田さんは、「価値創造系」ならまだいけると語ります。「このサービスを入れたら売上が上がります」と言えるかどうかが分かれ目です。ポイントは、どれだけ社内のワークフローに食い込んでいるか、そしてどれだけ一社では取れない独自データを取得し、それを売上に貢献させているか。これができていないと、AIに軒並み食われてしまうイメージしかないと述べました。
「作業効率が上がります」系。デジタルのみで便利さを提供するサービスは、AIに代替されやすい。
「売上が上がります」系。ワークフローへの食い込みや独自データを持ち、売上に直結できる。
採用・HR系や、ロボティクスなどのフィジカル系はまだ持ちそうだといいます。逆に、アプリやデジタルサービスを作っている系は、独自データを持っているか、社内ワークフローに深く食い込んでいるかでなければ、なかなか厳しい世界だという見立てです。売上に直結しないと使われない時代に来ている、というのが村田さんの感覚でした。
さらに採用面では、事業会社がシニアデザイナーしか取らなくなってきているとも語られました。村田さんは事業会社のデザイナー職を大きく二つに整理しています。
LP、バナー、営業資料、パンフレット、noteの画像、イベントのパネル、ノベルティなど、会社とユーザー・採用まわりの全コミュニケーションに対して何でも作る職種。AIで一定作れるものの、まだ必要とする会社は多そうとのこと。
要件定義・ワイヤーフレーム・デザインだけでは厳しく、価値創造まで求められる。ジュニアだと転職は難しく、ミドル〜シニアが中心の世界になりつつある。
キャリアの選択肢としては、受託会社でデザインスキルを上げる道、事業会社でコミュニケーションデザイナーとしてチームで作る経験を積む道が挙げられました。プロダクト・UIデザイナーを目指すなら、ミドル〜シニアで転職するか、デザイナーがいないアーリー/シードフェーズのスタートアップに可能性を感じて飛び込むか、といった選択肢があると語られています。
まとめ
今回のエピソードは、二年で急成長した一番弟子さんの事例を起点に、フィードバックとの向き合い方、そしてAI時代のデザイナーの生き残り方まで広がる内容でした。共通していたのは、「受け取ったものをどう自分の成長に変換するか」という主体性の問題です。
フィードバックを我慢ではなく発見と捉え、抽象化して手を動かす。市場環境の変化を直視しながら、課題解決から価値創造へと軸足を移す。デザイナーが伸びるための姿勢が、実務と市場の両面から語られた回でした。
- フィードバックをもらってすぐ作り直す短いループの繰り返しが、短期間の成長を支える
- 同じ指摘でも「我慢の時間」と捉えるか「発見のチャンス」と捉えるかで成長スピードが激変する
- 佐渡島庸平『編集者のフィードバック』は「感想で伝える」コミュニケーション術を提案。受ける側もする側も一緒に読むとよい
- 言われたことをこなすだけでは作業者に。なぜ指摘されたかを理解し、抽象化して別案を複数出す「産みの苦しみ」が必要
- 修正後は時間をおき、違う場所・違う画面で見直すと客観視でき、新しい案が出やすい
- AIの進化により「SaaS is Dead」。課題解決系より価値創造系、独自データやワークフローへの食い込みが生き残りの鍵
