フィットしない仕事を辞めようとした話
いまいさんは、ある案件をここで振り返ります。専門性も経験も特別あるわけではなく、他の人がやった方がいいのではと、うっすら感じていた仕事でした。
一方で、クライアントからの評価は違いました。いまいさんは守備範囲が広く、幅広い仕事に一定対応できるため、使い勝手のいい存在として頼まれていたと言います。
ただ、1年ほど続けるうちに、だんだん気持ち悪くなってきたと話します。踏み込みが浅くなる感覚や、気が乗らず先延ばしにしてしまう自分に気づいていったそうです。
自分でもよくわかってるんです、その踏み込みの浅さが。もっとやろうと思ったらできるのに、今はちょっと浅いなこれ、みたいなのもあって。
クオリティも及第点は取れるものの、95点や98点を狙う自分がいない。しかもクライアントの期待値も高くなく、いまいさんから見れば75点でも95点でも評価は変わらない仕事でした。
報告業務にかなり近いようなものをやってたんです。確実にちゃんと納期までに出しきる方が大事、みたいな仕事だったから。
断りのメールを最後にひっくり返す
フィット感がなく、リモートに不慣れな先方とのコミュニケーションも難しい。いまいさんは今年度から受けるのをやめようと考え、断りの連絡を書くところまで進めました。
ただ、この仕事には唯一の大きなメリットがありました。かける時間に対して実入りが非常に良かったのです。
妻や他の人にも相談すると、みんな「やめた方がいい」と言いました。合わない仕事は削られるものがある、という理由です。いまいさん自身もそう思っていました。
ところが、最後の最後でひっくり返します。先方に送ったメールも「なしにしてください」と取り消し、結局続けることに決めました。
自分にフィットするしないみたいなことで、本当に選んでいいんだっけ、みたいな気持ちになってきて。得意なことだけ、好きなことだけやるって、それでいいんだっけって。
「自分らしい仕事」を選ぶことの落とし穴
いまいさんは、この一件で2つのミスをしたと振り返ります。1つ目は、自分に合うかどうか、自分らしいかどうかを考えすぎたことです。
周りからも「イマイさんっぽくない仕事ですね」と言われ、自分でもそう思ってしまった。けれど、それで選ぶのは危ういと考え直したそうです。
自分らしいって、結果的に人から言われる言葉であって、自分で選んでいくとろくなことがないなと思ったんです。ちょっと驕り高ぶってたかな、と。
らしさで選ぶと、仕事も人間関係も閉じていく。関係のある人とやる方が価値は出るので、どんどん偏っていくという危うさです。
2つ目の反省は、稼ぐことへの向き合い方でした。やりたいことでお金を稼ごう、という考え方は聞こえがいいものの、そこに寄りすぎるのも危ないと感じたと言います。
家庭経営に関しては、きれいごとだけではやっぱりうまくいかない。ちゃんと妥協も飲んでいかないとダメだなって思ったんです。
純度を上げたくなる42歳という年齢
いまいさんは、この2つの反省を「自分の純度を上げていく方向に行ってしまった」とまとめます。そして、それは年齢と関係があるのではと話します。
42だからさ。なんか純度を上げたくなっちゃう年齢だと思うんだよね。選べるようになってきてる、みたいなところもあるし。
わかこさんは、いまいさんが以前から似た話をしていたと振り返ります。位置エネルギーが高くなり、驕り高ぶらないよう、おじいちゃんのコミュニティに入った方がいいのでは、という話です。
権力性みたいな、権威性みたいなものをまとっていく感覚があるから、マジで危ないなって思ってる。純度が高い方に行くと、すごい危ない予感がするんだよね。
40代男性には誰も文句を言わなくなる
この危機感に、レンさんも強く共感します。30代後半から40代の男性が話すことに対して、周りが文句も意見も言わなくなる、という感覚です。
みんなが同じことを言ってても、「あ、そうですよね」って聞くというか。全部が全部納得はしてないけど、もうこのおじさんには言わないでおこう、みたいな。
レンさん自身も若い頃、40代の先輩には話半分でも聞く態度を取っていたと言います。だからこそ、若者のところや上の世代に飛び込む必要を感じているそうです。
いまいさんは、パワーを持たないのも違うと考えます。40代なのに20代のように振る舞われるのは、若い人からするとやりづらいからです。
だから適切な権力とか権威の使いこなし方が必要で。得意な仕事ばかりやっていくのは危ない。できない自分をちゃんと分かってないといけないんじゃないかって。
レンさんは、これは20代の頃の感覚が戻ってきたようだと言います。いまいさんも、20代はそうせざるを得なかったが、40代は「あえて選んで」その感覚を持つのだと応じます。
いまいさんは、この感覚を対極図陰陽を表す図。白の中に黒点、黒の中に白点があり、対立するものが互いを含み合う様子を示すのイメージで語ります。真っ白にも真っ黒にもならず、白の中に黒を取り込む感覚です。
純度を上げすぎて真っ白とか真っ黒になっちゃいけない。でもグレーになってもいけない。白は白で突き詰めつつ、中に黒があるものを取り込む感覚を意識的にやらないと、真っ白の世界に突入しちゃう。
得意なことに全振りし、キャラが定型化する。分かりやすくなる一方で、重くなり周りが意見を言えなくなる。
苦手なこと・できない経験・下っ端になる時間を意識的に取り込む。コスパは悪いが、軽さや余地が保てる。
すき家のワンオペと22歳ギャル先生
わかこさんは、いまいさんへのクライアントの期待をこう読み解きます。どんなボールでも一旦受け取り、ちゃんと動かしてくれる、という信頼です。
よくわからないふわっとした状態のものを、ちゃんと球に丸めて、ポポポポ投げていく。それを多分してほしくて、イマイさんに仕事をお願いしてたんじゃないかなって。
レンさんは、では今回の学びに沿えば「それすらできない仕事もやってみることだ」と整理します。リソースの5〜10%でも、そうした時間を入れないと調子に乗ってしまう、という見方です。
レンさんは、気づけたのは実入りが良かったからでは、と問います。いまいさんは、葛藤と報酬の良さがセットだったから気づけたのはラッキーだったと認めます。
そこがなくても、本当に箸にも棒にもかからないやつだったら、いや、すいません、もう無理なんで、で終わってた話だと思う。
いまいさんは、下っ端になる時間の例として、すき家のワンオペを挙げます。玉ねぎを入れすぎて「すいません」と謝る自分を想像し、そういう経験がないと本当におかしくなる気がすると話します。
ちゃんと自分が下になって、ダメ出しされたりする時間を持ってないと危ない。役所で怒鳴るじいちゃんとかになりそうで怖いなって。
いまいさんは、怒鳴るお年寄りこそ「純度が高い」状態だと見ます。もう変わる余地がない、真っ白な人だからです。
一方、わかこさんは実際に下っ端の経験をしています。22歳くらいのギャルの先生にダンスを習い、最年長で「ナイス!」と褒められる日々です。
一生懸命ぎこちなく踊って「ナイス!」って言われて。エアドロもできないのかよ、みたいな雰囲気の中で。すごく自分が加齢しているのを感じる時間です。
わかこさんは、2ヶ月ほど週1で通ううちに慣れ、今は逆に楽しいと言います。今まで味わったことのない、新鮮な経験だからです。
パワーがあるのに空気が軽くなる矢野さん
レンさんは、いまいさんが「どう受け取られたいか」を問います。クライアントが抱くイマイさん像を、あえてぶち壊した方がいいのでは、という提案です。
いまいさんは、どう思われたいかはあまりなく、みんな好きに思えばいいと答えます。むしろ、自分が見る自分とクライアントが見る自分はだいぶずれていて、それを調整するのは無理だろうと感じています。
そのうえで、上の世代で憧れる人として、大分で一緒に仕事をしている{要確認: 矢野}さんを挙げます。50代半ばで、大きな団体の理事長です。
理事長だから偉いんだけど、スタッフにも俺にもすごいフラットに接してくれる。でも力を使う時はちゃんと使ってる。パワーは持ってるのに、すごいフラットなんだよね。
レンさんは、理事長が来ると会議に緊張感が走るのでは、と想像します。しかし、いまいさんの答えは逆でした。
矢野さん来ると空気が軽くなるんだよ。風が吹く感じで、みんな話しやすくなる。敬意もパワーもあるのに軽い、っていうのがすごいなって思って。
いまいさんは、この「軽さ」と「純度」の相性が悪いと考えます。純度が高くなるほど重くなり、居ついてしまう。得意なキャラに寄せていくほど、重い方へ行ってしまうという仮説です。
対極として挙がったのはホリエモンです。純度を上げすぎ、キャラが定型化して、みんなが緊張してしまう例だと話します。
みんながホリエモンはこういう人だってイメージできちゃってて、本人もそう振る舞う。純度が高くて重い方向に行ってるなって感じがするんだよね。
いまいさんは、純度を上げた方が成功しやすいのかもしれないとも認めます。キャラが強くシャープになり、影響力を持ちやすいからです。
今は多分、重さが流行る時代だと思う。強く重く濃いものが勝つ、みたいな時代。でも、そうなっちゃいけないなっていうのと、自然となっていきそうで怖いな、と。
レンさんは、AI時代だからこそ「誰が話すか」が問われ、重心がないと遠くまで届かないのだろうと補います。それでも、いまいさんはあえて軽さの方へ向かいたいと話します。
最後にいまいさんは、{要確認: 矢野}さんの軽さの理由を、目線の向きに見出します。自分のブランディングではなく、他者や外側を見ているからではないか、というのです。
矢野さんが自分らしさを突き詰めているかというと、あんまり内側を見てない気がする。むしろ外側を、他の人のことを見てる。それが軽さにつながってるのかもしれない。
まとめ
自分らしさや純度を上げることは、選べるようになった42歳にとって心地よい方向です。だからこそ、いまいさんは苦手なことや下っ端になる時間を意識的に取り込み、「軽さ」のある大人でいたいと語りました。
- フィットしない仕事を、実入りの良さと葛藤がセットだったからこそ「自分らしさで選ぶ危うさ」に気づけた
- 自分らしい仕事を自分で選ぶと、仕事も人間関係も閉じて偏っていく
- 40代男性は誰も意見を言わなくなるため、若者や上の世代に飛び込む必要がある
- 対極図のように、真っ白でも真っ黒でもグレーでもなく、白の中に黒点を持つ感覚を意識する
- 純度を上げると重くなり緊張感を生む。目線を外に向けることが「軽さ」につながる
