値上げしてもやめない人がいるのはなぜ?
この回でCEOセオさんが取り上げたのは、アメリカン・エキスプレス(アメックス)は「カードではなくメンバーシップを売っている」と分析するニュースです。セオさんは、アメックスが年会費を上げても会員がやめない理由に注目しました。
セオさんによると、アメックスの年会費は最低ランクでも1年でおよそ200ドル、日本円で3万円ほどかかります。プラチナカードは年会費を695ドルから895ドルまで引き上げていますが、それでも解約が進まないといいます。
特にプラチナに関してはですね、非常に年会費を695ドルから895ドルまで上げてますけど、これでもやめないと、いうところのトリックですよね。
ニュースの見立てでは、アメックスが売っているのは機能を売るサブスクではなく、帰属意識を売るメンバーシップです。セオさんは、機能だけならクレジットカードは何でもよいはずなのに、それでもアメックスを選ぶ理由があると話します。
単純に機能だけであれば、別にクレジットカードって何だっていいわけじゃないですか、本来であれば。「じゃあなんでアメックス持つんですか?」って。
セオさんはアメックスを、ロレックスなどのブランド品に近い「ブランドビジネス」だと整理します。機能だけの商品なら、同じもので安いものが出れば乗り換えられてしまいますが、アメックスは心理的なロックインでそれを防いでいるという見方です。
決済の機能が中心。同じ機能で安いものが出れば乗り換えられやすい
「これを持つのにふさわしい自分」という帰属意識を売る。心理的なロックインで解約されにくい
ただしセオさんは、この強みは裏返すと弱点にもなると指摘します。アメックスのブランド価値がなくなった瞬間にすべてが失われる「もろ刃」であり、セオさん自身がアメックスをやめた理由もそこにあると予告しています。
稼ぎ頭は年会費ではなく加盟店手数料
セオさんはまず、アメックスの値上げの事実と決算の数字を紹介します。2025年9月18日にはプラチナカードの価格を改定し、約30%値上げしましたが、それでも継続する人が多いといいます。
今回出た第2四半期の決算で、アメックスの純収益(売上)は3.1兆円と3兆円を超え、昨対で10%伸びています。セオさんが「結構面白い」と話すのは、その内訳です。
| 項目 | 金額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 加盟店手数料 | 1.61兆円 | 52% |
| 利息収益 | 7300億円 | 24% |
| 年会費 | 4500億円 | 15% |
| サービスフィー・レベニューシェアなど | 3100億円 | 約10% |
ブランドビジネスと聞くと年会費が中心に思えますが、実際に一番大きいのは加盟店手数料で、次いで利息、その次が年会費という順番です。セオさんは、加盟店手数料と利息という決済インフラ由来の収益が柱になっていると読み解きます。
なんか一見するとそのブランドビジネスというふうに聞こえるんで、あたかも年会費の方が多いんじゃないかみたいなイメージあるんですけど、年会費は4500億ということで、大体構成比の15%になってますね。
セオさんの紹介では、純収益として挙げた別の数字が4900億円で昨対8%増です。業績が好調なことから、アメックスは通期の収益成長率の見通しをプラス10%に引き上げたといいます。
高収益の背景としてセオさんが挙げるのは、アメックスの役割の多さです。ビザ ── Visa。世界最大級の決済ネットワークを運営する米国企業。カードの発行や加盟店契約は主に提携する金融機関が担いますやマスターカードがネットワークを担うのに対し、アメックスはカードの発行、加盟店の契約、ネットワークの3役を自社で手がけています。
セオさんによると、この形だと加盟店手数料をアメックスが丸取りできます。アメックスの平均の加盟店手数料率は業界で最も高い水準だといいます。
決済データと特典設計が会員をつなぎとめる
アメックスが自社で発行と加盟店開拓を担うことの最大の強みとして、セオさんは会員データを取得できる点を挙げます。いつ、誰が、どこで、何に、いくら使ったかがわかるということです。
こういうもの(会員データ)を、AIとかに食わせれば、この人はどんな人だよって、多分かなり質の高いレベルでですね、広告の価値としてはめちゃくちゃあるんじゃないでしょうか。
セオさんは、AIの登場でアメックスはより洗練されたプロモーションができるようになり、カスタマーサービスや会員のロイヤリティ向上にもつながると見ています。
規模の数字も紹介されます。アメックスのカード発行枚数は1億5000万枚を超え、自社発行分は8700万枚で、昨対4%増です。自社発行カードの会員は平均で年間427万円を使っており、セオさんは月に30万円以上、40万円弱をカードで払う人が対象になっていると換算します。
平均の年会費は約2万7000円で、こちらも昨対12%の伸びです。一方でプラチナカードは、年会費を14万円まで上げる裏側で、55万円分の特典を付けているといいます。
特典の例としてセオさんが挙げたのは、ルルレモンで300ドル、オーラリーで200ドル、ホテルで600ドルを使えるといったものです。こうした特典設計ができるのは、加盟店と直接やり取りし、会員の好みをデータドリブンで分析しているからだと説明します。
3役を自社で担う
発行・加盟店契約・ネットワークを自前で持つ
決済データを握る
いつ誰がどこで何にいくら使ったかがわかる
特典を設計する
加盟店と直接組み、会員が欲しがる特典を用意する
値上げしても残る
年会費を上げても、特典と帰属意識で会員が離れにくい
セオさんは、平均で月40万円弱をカードで使う人しかアメックスを持っていないという数字自体が、ステータスとしての差別化になっていると話します。
日本の富裕層市場はアメックスの追い風になるか?
日本の文脈では、クレジットカードの発行枚数は3億2000万枚です。一方、純金融資産1億円以上の富裕層・超富裕層は165万世帯で、全世帯の約3%ですが、金融資産は469兆円にのぼるとセオさんは紹介します。
セオさんは、あらゆる分野で二極化が進んでいるため、富裕層を主戦場とするアメックスには十分な市場があり、追い風になっていると見ています。ただし日本のアメックスの会員数やシェアは非開示で、具体的にはわからないとしています。
比較として、マスターカードの発行枚数は36億枚で、アメックスの1億5000万枚とは規模がまったく違います。それでもアメックスは1人あたりの単価が圧倒的に高く、セオさんは「ニッチで深い」ところを狙う戦略だと整理しました。
憧れたセンチュリオンを、なぜ自ら解約したのか
ここからセオさんは、自身の「逆張りの視点」として、アメックスをやめた体験を語ります。20代後半にはアメックスのゴールドやプラチナを持ち、ステータスが上がったように感じていたそうです。
30代になると、ブラックカードの代表格とされるセンチュリオン ── アメックスの最上位カード。招待制で知られ、券面にチタン素材を使ったものもあることから「ブラックカード」の代表格とされますを持つようになり、カードがチタン製に変わったことを「ちょっとかっこいい」と感じていたといいます。
まさにこのアメックスの考えている、ブランドビジネスのど真ん中にこう心酔をしてしまっていたと、いうところなんですけども。
しかし、センチュリオンを持つ人が増えていくにつれ、会計のたびにセンチュリオンが並ぶ光景に、40代を過ぎたセオさんは恥ずかしさを感じるようになりました。
セオさんは40代に入ってから、センチュリオンを自ら解約しました。その際、自分から解約すると再び持てなくなると言われたものの、「全然大丈夫です」と答えたそうです。
年会費も解約の理由でした。セオさんのカードは海外発行で、当時約4000シンガポールドル、日本円で50万〜60万円ほどまで上がり、それに見合う使い方はないと判断したといいます。
その後は、楽天カードとかね、あの普通のVISAカードとかの、ANAカードとかね、こういうのを使ってるんですけど、何の不便もないんですよ。
影響力がブランドを超えると、カードはシンプルになる
セオさんは自身の体験から、ブランドビジネスは人が離れた瞬間にすべてが落ちてしまうと指摘します。そのうえで、ブランドビジネスで一番やってはいけないのは「たくさんの人が持ってしまうこと」だと話します。
やっぱブランドビジネスで一番やっちゃいけないのは、たくさんの人が持ってしまうことなんですよね。
セオさんによると、格上の人が持っている分にはよくても、自分より格下に見える人まで持つようになると、持つこと自体が嫌になる心理が生まれます。アメックスもその点には慎重にならないと会員が離れるのではないか、実際に経営者で解約した人も多いと話しています。
例としてセオさんは、シンガポールで活躍する有名なファンドの投資家が、ずっと平カードを使っていることを挙げます。ティム・クックやスティーブ・ジョブズも平カードを使っていた、とよく言われるとも紹介しました。
セオさんは、自分に影響力や力がつくとカードに頼る必要がなくなり、格上になるほどカードがシンプルになるという不思議な逆転現象があると話します。「お金持ちは本当にユニクロを着ている」という話にも通じるとしつつ、一概には言えないかもしれないと留保しています。
最後にセオさんは、クレジットカードにまつわる体験をコメントやレビューで寄せてほしいとリスナーに呼びかけて、この回を締めくくりました。
まとめ
アメックスは帰属意識を売るメンバーシップ型のブランドビジネスに見えますが、決算の内訳では加盟店手数料と利息が収益の柱です。3役を自社で担うことで得たデータと特典設計が、値上げしても解約されにくい仕組みを支えています。一方でセオさんは、ブランドの価値に頼る構造はもろ刃であり、自分の影響力がブランドを超えたときにカードはシンプルになると語りました。
- アメックスの収益は加盟店手数料が52%で最大、年会費は15%にとどまる
- 発行・加盟店契約・ネットワークの3役を担うことで、手数料と決済データを握れる
- データに基づく特典設計で、プラチナカードは年会費を上げても会員をつなぎとめている
- ブランドビジネスは「多くの人が持つこと」で価値が崩れやすい
- セオさんはセンチュリオンを自ら解約し、格上になるほどカードがシンプルになる逆転現象を語った




