YouTubeの新しい収益化基準は何が変わったのか
YouTubeが、クリエイターの収益化のハードルを引き上げたというニュースがありました。CEOセオさんは、既存の配信者への影響は大きくないものの、これから始める人には収益化までの道のりがかなり厳しくなったと受け止めています。
新規参加の基準では、登録者1000人という条件は変わりません。そのうえで、過去1年間で8000時間の視聴(現行4000時間)か、90日間でショート再生2000万回(現行1000万回)のいずれかが求められ、どちらも2倍になります。
登録者1000人に加え、1年間で4000時間の視聴、または90日間でショート再生1000万回
登録者1000人に加え、1年間で8000時間の視聴、または90日間でショート再生2000万回
既存クリエイターにも関わるのが、新たなアクティブ基準です。来年1月31日までに、次の条件を満たす必要があると紹介されています。
- 1年間で視聴時間1000時間
- 過去90日間でショート再生100万回
- 90日ごとに長尺動画2本、またはショート5本を投稿
条件を満たさないチャンネルはプログラムから外れ、6ヶ月以上投稿していないチャンネルも自動的に除外されるといいます。
ショートの収益分配にも変更があり、過去90日間でショート再生1000万回に届かないとショート収益の対象外になります。ただし長尺の収益やパートナープログラム自体から外れるわけではなく、1000万回を超えれば復活するそうです。
据え置かれた基準と、おまけ程度のPremium Lite
ファンディングやYouTubeショッピング、クリエイターパートナーシップの早期アクセス基準は、登録者500人、3000時間、ショート300万回のまま変更はありません。
同時にYouTubeは、YouTube Premium Lite ── 広告なしで動画を視聴できる、YouTube Premiumの機能を絞った低価格プラン。音楽のバックグラウンド再生などは含まれないとされていますを全Premium提供国に拡大すると発表しました。Premium Liteはクリエイターへの分配率が高く、広がればクリエイターの収益も増えるという説明です。
CEOセオさんは、Premium Liteが広がらなければクリエイターに何の影響もないため「おまけぐらい」だと見ています。そのうえで、日本でも7000万人ほどのユーザーがいるYouTubeは、今さら新規クリエイターのためにどうこうするフェーズではないのが事実だろうと話しています。
YouTubeはどれだけクリエイターに還元してきたのか
基準変更の背景を探るため、CEOセオさんはYouTubeの広告ビジネスの収益構造を確認します。長尺動画ではYouTubeが55%、クリエイターが45%、ショートではクリエイターが45%、YouTubeが55%を受け取るという配分が、2007年から変わっていない「黄金比率」だと紹介されます。
メンバーシップやスーパーチャットは70%をクリエイターに還元しています。サブスクについては、運営費や音楽パートナーへの支払いを終えた純利益のうち、Premiumで30%、Premium Liteで60%を視聴時間に応じて分配しているといいます。
| 収益の種類 | クリエイターの取り分 | 備考 |
|---|---|---|
| 長尺動画の広告 | 45% | 2007年から変わらない比率 |
| ショートの広告 | 45% | YouTube側が55% |
| メンバーシップ・スーパーチャット | 70% | ― |
| Premium | 純利益の30% | 視聴時間に応じて分配 |
| Premium Lite | 純利益の60% | 視聴時間に応じて分配 |
こうした数字から、CEOセオさんはYouTubeをクリエイターエコノミーを作った大事なプラットフォームだと言い切っていいと評価します。ただし今後の新規参加者は、ビッグチャンネルを作らなければ収益化は難しくなるという見立てです。
クリエイターに対してはすごくフィーを戻してきているけれども、まあこれからはちょっと厳しくしますぜと。
背景にあるAIスロップといたちごっこ
CEOセオさんは、基準引き上げの大きな筋としてAIスロップ ── AIで大量生産された、質の低いテンプレート的なコンテンツを指す言葉。スロップは「残飯」「質の悪いもの」を意味しますを挙げます。AIで動画が大量生産できるようになり、テンプレ的な量産コンテンツへのBANや収益化停止がずっと囁かれてきたという流れです。
対象には、釣り動画のような不快なものや、金融・医療・法律などセンシティブな話題を扱うAIペルソナも含まれてきていると話されています。
ただしAIの性能も上がり続けるため、BANしてもしきれない「いたちごっこ」になります。そこで収益化そのものをしないことにすれば、生成コストに見合わない量産をやめる人が出てくる、という狙いがあるのではないかとCEOセオさんは推測しています。
AIで量産が可能に
誰でもテンプレ的なコンテンツを大量に作れるようになる
BANが追いつかない
AIの改良で取り締まりがいたちごっこになる
収益化の基準を上げる
見られないコンテンツにはお金を払わない
量産の動機が薄れる
生成コストに見合わず、やめる人が出てくる
一方で、YouTubeの基準は視聴時間や再生回数です。AIで作られた動画でもたくさん見られていればお金が払われるので、AIかどうかより「大して見られないものには払わない」という基準になったと整理されています。
テレビの代替を狙うYouTubeとGoogleのBtoB戦略
CEOセオさんは、YouTubeがNetflixのようにリビングルームのテレビの代替になりたいと掲げている点にも触れます。スマホだけでなく大画面で見てもらうには、良質なコンテンツである必要があるという見方です。
さらに、Googleは基本的にBtoBビジネスの会社であり、YouTubeにもナショナルクライアントの広告を入れていきたいはずだと話します。広告の価値は画面サイズに比例するとされ、大きいバナーほどクリック率もコンバージョン率も高いというデータがあるといいます。
だからやっぱエンタープライズものをね、常に狙ってるGoogleですから、まあこの流れはもう不可避なのかなというところですね。
再生数が多い動画だけが良い動画なのか?
CEOセオさんは、今回の変更を「入会が難しくなった高級ジム」にたとえます。今いる人の条件はほぼ変わらず、新しく入る人のハードルだけが上がった状態です。
そのうえでCEOセオさんが疑問を投げかけるのは、アクセスが取れていればすべて良い動画なのか、という点です。射幸心を煽るようなバズコンテンツは再生されやすい一方、勉強になる価値ある動画でも再生回数が伸びないことはよくあります。
本当の人のためになるものにはお金が払われないけれども、えー、まあ週刊誌みたいなものにはお金が払われるというエコシステムでもあるじゃないですか。
ただし中身の良し悪しの判断は難しく、ガイドラインやテクノロジーで線を引くしかないのが現実だとも認めています。良質なコンテンツに見てもらうチャンスを与える点では、フォロワー数に依存しない仕組みを作ったTikTokがうまくやったと評価しています。
YouTubeも最近はチャンネル登録者数への依存を減らしているものの、登録者の多いところに人が集まるのは現実だとして、CEOセオさんは疑問を残しています。
基準を上げても絶好調なYouTubeの業績
収益化のハードルを上げる一方で、YouTubeの広告収入は鈍化していません。2026年第2四半期の広告収入は1兆7000億円で、前年同期比13%増、12四半期連続の2桁成長だと紹介されます。
YouTube PremiumやMusicなどサブスク収入も2兆500億円で15%伸びています。YouTubeの年間総収入は9兆5400億円とされ、Netflixを超えたとYouTube自身がベンチマークとして意識しているといいます。
残念ながらまあね、「Netflixの方が品質高いでしょう」と言わざるを得ないですが、まあとはいえ、やっぱりYouTubeもかなりそこを意識してるということですね。
パートナープログラムに参加するクリエイターも300万人を超えており、CEOセオさんは、YouTubeがクリエイターエコノミーを確実に作ってきたことは言えるとまとめています。
条件を80%緩和したSpotifyとの真逆の動き
YouTubeとは逆の動きをしているのがSpotifyです。今年1月、Spotifyはポッドキャストの収益化条件を80%も緩和しました。
クリエイターを取り切ったフェーズで、新規の収益化基準を2倍に引き上げ、質を絞る
ポッドキャスターを取るフェーズで、視聴者数2000人→1000人、消費時間1万時間→2000時間、公開エピソード12本→3本に緩和
CEOセオさんは、同じクリエイターエコノミーを掲げる会社でも、成長フェーズによって方針が正反対になると説明します。そしてSpotifyも、クリエイターが増えればいずれ絞る方に入るだろうと見ています。
プラットフォームというのは、言い方悪いですけど、最初はすごいいい顔して寄ってくるんですよね。いっぱい払うよと。
新しいプラットフォームはなぜ「まずやれ」なのか
プラットフォームの条件は最初が一番良いため、CEOセオさんはクリエイターにとって重要なのは「新しいプラットフォームが出たらまずやる」ことだと強調します。お客さんがいるのか、大丈夫なのかと迷っているうちに、時間が過ぎてしまうといいます。
その例として、最初からYouTubeを続けてきたヒカキンさんや、流行したクラブハウス ── 2021年頃に日本でも急速に流行した、音声だけで会話するSNS。招待制で話題になりましたに一気に参入したクリエイターたちが挙げられます。今クリエイターがAIに力を入れているのも、同じ理由だと話されています。
CEOセオさんは、先に始めた人の有利さを「マリオブラザーズのスター」にたとえています。クリエイター人口は2025年時点の6700万人から2030年には1億人を突破し、市場も2025年の39兆円から2027年には76兆円ほどになるとされ、「一億総クリエイター時代」は間違いないという見方です。
日本のポッドキャストに今賭ける理由
ニュースの論調は「YouTubeの収益化が厳しくなり夢が遠のいた」というものですが、CEOセオさんは、Spotifyのように緩和しているところに行くべきだと話します。特に日本のポッドキャストはまだ小さく、今やらなければいけない市場だという考えです。
まだ小さいし、特に日本でのポッドキャストなんて全然まだまだちっちゃいんですよ。今やんなきゃいけないです。だからやってんですよ、私も。
小さいマーケットでやるのは厳しく、誰でもみんなが見てくれる大きな場所でやりたいものです。けれど大きい場所にはクリエイターも多い、というのがCEOセオさんの指摘です。
ずっと甘い汁だけを吸えるプラットフォームはないからこそ、努力と気合と根性が必要だとCEOセオさんは話します。
平日毎日配信7ヶ月目に込めたやり切るマインド
CEOセオさん自身、先日体調を崩して風邪を引いたときも気合で配信したといいます。平日の配信を一度も欠かさず、丸6ヶ月が経過して7ヶ月目に入っているそうです。
そんなポッドキャスター多分日本にいないんじゃないですかね。多分僕だけだと思いますよ。一人。本当に。もしいたら教えてほしいです。
CEOセオさんは、この姿勢は仕事にも通じると話します。一度やると決めたら、やりきるというマインドセットが、仕事では非常に重要だという結論です。
まとめ
YouTubeの収益化基準の引き上げは、AIスロップ対策と、テレビの代替や大口広告を狙う成長フェーズの表れだとCEOセオさんは読み解きます。一方でSpotifyのように門戸を広げる場もあり、条件の良い初期のプラットフォームに飛び込み、リスクを取ってやり切ることが先行者利益につながるという話でした。
- YouTubeは新規の収益化基準を2倍にし、既存クリエイターにもアクティブ基準を課した
- 背景には、AIによる量産コンテンツへの対策と、良質なコンテンツで大画面・大口広告を狙う戦略がある
- 再生数だけで評価する仕組みには、価値ある動画に報酬が届きにくいという疑問も残る
- Spotifyは条件を80%緩和しており、プラットフォームは成長フェーズによって方針を変える
- 新しいプラットフォームには早く参入し、一度決めたらやり切ることが重要だとCEOセオさんは語る




