ミシュランがワインにも星を付ける「ミシュラングレープ」とは?
ミシュランが、ワイナリーを格付けする「ミシュラングレープ」を始めました。CEOセオさんによると、発表自体は去年のニュースですが、結果が徐々に公表されてきたため、改めて深掘りすることにしたといいます。
ミシュラングレープの最初の対象は、フランスのブルゴーニュ地方です。CEOセオさんは、今後はボルドーなどフランスの他地域や、アメリカ、イタリアにも広がっていくだろうと見ています。
ブルゴーニュでは生産者94軒に、1〜3つのグレープが付与されました。内訳は、三つ星にあたるスリーグレープが9軒、ツーグレープが20軒、ワングレープが33軒、セレクションが32軒です。
スリーグレープの9軒には、ロマネ・コンティで知られるDRC ── ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティの略称。ブルゴーニュの名門生産者で、同名のワインは世界で最も高価なワインの一つとして知られますや、ドメーヌ・ルロワ、ルーミエ、コシュ・デュリなどが並びます。CEOセオさんは、レストランと同じく、高価で希少性の高いものが選ばれていると話します。
ミシュランの格付けはレストランだけではありません。2024年にはホテル向けの「ミシュランキー」も始まっており、建築やインテリアデザインの卓越性、サービスの質と一貫性などを評価しています。
ミシュランキーでは、スリーキーが最上級の滞在、ツーキーが素晴らしい滞在、ワンキーが特別な滞在という位置づけです。CEOセオさんは、ホテルに続いてワイナリーにまで格付けが広がったことを踏まえ、この評価の仕組みが儲かるのかを見ていきたいと話します。
金融格付けは利益率60%超、ミシュランとは何が違う?
CEOセオさんはまず、タイヤ会社のミシュランがレストランを格付けすることに違和感があるように見えても、実は卓越したマーケティングビジネスとして成立していると指摘します。
比較対象として挙げたのが、S&P ── アメリカの大手格付け会社。企業や国が発行する債券の信用力を評価し、記号で格付けを公表していますやムーディーズといった金融の格付け会社です。社債を発行する企業は、投資家に買ってもらうため、高いフィーを払って格付けを依頼します。
金融格付けの業務は、企業の財務データや最新情報を、オフィスで数理モデルを使って分析することが中心です。世界中のレストランで食事をする必要のあるミシュランと違い、調査の原価がほとんどかかりません。
その結果、2025年のS&Pのレーティング部門の営業利益率は61%、ムーディーズは63%に達しています。CEOセオさんは、既得権益のような世界で、非常においしいビジネスだと評しています。
一方のミシュランは、評価対象であるレストランやホテル、ワイナリーから1円も受け取りません。しかも三つ星店なら1人5万〜20万円かかることもあり、調査員のコストを自ら負担しています。
金融格付けとミシュランの格付けの違いを、CEOセオさんの説明に沿って整理すると次のようになります。
| 項目 | 金融格付け(S&P・ムーディーズ) | ミシュラン |
|---|---|---|
| お金の出どころ | 評価される発行体がフィーを払う | 評価対象からは1円も取らない |
| 調査の原価 | オフィスでのデータ分析が中心で軽い | 現地での飲食や宿泊が必要で重い |
| 収益性 | 営業利益率61〜63% | ガイド事業は年約39億円の赤字 |
39億円の赤字は、タイヤを売るためのマーケティング
ミシュランの評価事業は、調査コストの重さもあって慢性的な赤字です。CEOセオさんによると、赤字額は年約39億円で、ずっと赤字を出し続けているといいます。
ミシュランガイドの起源は1900年にさかのぼります。車で遠出をしてもらいタイヤをすり減らしてもらうために配った、無料の冊子が始まりでした。
CEOセオさんは、ミシュランガイドはそもそも売上を稼ぐ事業ではなく、タイヤを売るためのマーケティング事業だと説明します。そのうえで、かなり遠いところから攻める発想だと面白がっています。
タイヤを摩耗させるにはどうしたらいいか。移動しろみたいなね。なんか移動させる目的を作ろう。そんな感じですよね。
ミシュランガイドの効果は試算されていて、ガイドが新しい国に参入すると、その国でのミシュランのタイヤの売上が3%増えるといわれています。ミシュランの売上は5兆円近くあるため、3%なら約1400億〜1500億円になります。
CEOセオさんは、赤字が40億円程度なら約60倍のリターンがある計算だと話します。赤字とタイヤの売上の関係は、次の流れで整理できます。
ガイドを配る
調査コストを自ら負担し、赤字は年約39億円
移動の目的ができる
星付きの店を目指して人が車で遠出する
タイヤが摩耗する
参入国でのタイヤ売上が約3%増えると試算
本業に還元
約1400億〜1500億円の売上増につながる計算
星を取った店は客数が倍に?評価される側が得をする構造
星を取ったレストラン側の効果も大きいとCEOセオさんは話します。1つ星で客数が約20%、2つ星で約40%、3つ星では約100%増えるというデータがあるそうです。
さらに、星を取ると3年で売上が約80%増え、価格は平均で約27%上昇するというデータも紹介されました。ホテル版のミシュランキーを獲得したホテルも、初年度の売上が15%伸びているといいます。
こうしたデータから、CEOセオさんはミシュランを、コストを自分で負担し、店からは1円も取らないのに、店の売上や客数を増やし街まで活性化させる「非常に優しい立場」だと表現します。
ただし、ミシュランも赤字を放置しているわけではありません。自治体や観光局に課金して調査員のコストを負担してもらうBtoGのケースや、アフィリエイト、アメックスなどのブランド協賛で売上を立てています。
それでもガイド事業は赤字です。CEOセオさんは、匿名の調査員がミシュランの負担で店を訪れ、店と街を盛り上げ、最後はタイヤで稼ぐという仕組みを「すごいエコシステム」と評しています。
一方でCEOセオさんは、3%の売上増がずっとミシュランガイドだけの効果だとは思えないとも付け加えています。あくまで、そうした計算値が出ているという扱いです。
売上4兆8000億円の会社にとって、40億円の赤字は重いのか?
CEOセオさんは、ガイド事業だけを見るとミシュランは神様のような会社で、人のふんどしで儲けている金融格付け会社とは全く違う構図だと話します。
ミシュラン本体の2025年12月期の売上は約4兆8000億円で、セグメントの営業利益は5000億円、時価総額は4兆2000億円です。ガイド事業の赤字40億円は、この規模の中で見る必要があります。
ミシュランが本体でかけている広告宣伝費は、約5000億円あるそうです。そのうちガイドにかかる分は約0.8%で、CEOセオさんは1%にも満たないコストだと指摘します。
ミシュランガイドには、フーディーから「三つ星はおかしい」などの批判も出ます。CEOセオさんも、評価は個人によって違い、三つ星だから皆が満足するわけではないと認めつつ、数字の実態を見るとあまり文句も言えないと話します。
ミシュランキーの規模も大きく、2025年10月に発表されたグローバルの選定は約120か国の2457軒です。内訳はワンキーが1742軒、ツーキーが572軒、スリーキーが143軒です。
CEOセオさんは、2457軒に調査員が行っていること自体が大変だと驚いています。ミシュランガイドも37〜50の国と地域で展開しており、日本でも星の影響は大きいだろうと見ています。
最近は三つ星を返上する店もあります。望まない客が来たり、予約が取れない状態になったりするのを避けるためですが、CEOセオさんは、ごく一部の店であり、普通は客数を増やしたいし星の名誉も欲しいはずだと話します。
車がないと行けないワイナリーこそ、タイヤが減る?
ミシュラングレープの対象であるブルゴーニュ地方について、CEOセオさんは本当に田舎で、そもそもワイナリーは畑だと話します。CEOセオさん自身もワイン好きで、パリからランス、シャンパーニュ地方を回った経験があるそうです。
本当に田舎で車がないとね、まず行けないんですよ。ワイナリーにね。
CEOセオさんは、ミシュラングレープがワイナリーを訪れる動機になれば、ホテルやレストラン以上に車が必須なので、本当にタイヤがすり減るかもしれないと面白がっています。
ワイン市場も大きく、世界のワイン輸出額は6兆6000億円、ブルゴーニュだけでも売上は4600億円、収穫量は1.6億本あります。CEOセオさんは、このワインがいいと思った人がワイナリーへ行くなら、戦略として正しいのかもしれないと話します。
ロマネ・コンティの2025年の市場価格は、1本あたり390万〜569万円とされ、ヴィンテージによって変動します。CEOセオさんは、ブランドの最高位にあたるワインを格付けする側に回ること自体が面白いビジネスだと話します。
ミシュランは2019年に、世界最強のワイン評論とされるロバート・パーカー・ワイン・アドヴォケイト ── アメリカのワイン評論家ロバート・パーカーが創刊した評論媒体。100点満点の採点「パーカーポイント」はワインの価格を左右するほどの影響力を持ちますを買収しています。CEOセオさんは、この買収がなければDRCやルロワが格付けに応じたかはわからないと見ています。
最後にCEOセオさんは、賛否のあるミシュランも、実態を知ると馬鹿にできず応援したくなると話します。一方で、車移動の少ない東京の人は、ほとんどミシュランのタイヤに貢献できていないかもしれないと冗談めかしています。
まとめ
ミシュランの格付け事業は年約39億円の赤字ですが、店や街を盛り上げ、移動を生み出すことで、5兆円規模のタイヤ事業に還元するマーケティングとして機能しています。ワイナリーへのミシュラングレープは、車が必須の土地を対象にする点で、その構造に特に合った拡大といえそうです。
- 金融格付けは評価される側からフィーを取り利益率60%超、ミシュランは評価対象から1円も取らず調査コストを自ら負担する
- ミシュランガイドの起源は1900年の無料冊子で、目的はタイヤを使ってもらうための移動の動機づくりだった
- ガイド参入でタイヤ売上が約3%増えるとの試算があり、赤字40億円に対し約60倍のリターンという計算になる
- 星を取った店は客数や売上が大きく伸びるデータがあり、評価される側が得をする構造になっている
- ワイナリーは車がないと行けない場所が多く、ミシュラングレープはタイヤの本業との相性がよいとCEOセオさんは見ている




