なぜメディアの進化はインターフェースの進化なのか?
この回は、前回の「インビジブルコンピューター(消えていくコンピューター)」の議論の続きです。宮武さんは前回、最後に「インターフェースは言語のようなもの」という話をしたと振り返り、今回はメディアとチャットボットの2つの観点からインターフェースを考えると切り出します。
宮武さんによると、メディア業界の進化は、さまざまな意味でインターフェースの進化でもあります。インターネット以前は新聞がディストリビューション ── コンテンツを読者や視聴者に届けるための流通経路のこと。新聞なら販売店網や宅配、ネット上なら検索やSNSなどがこれにあたりますを抱えていたため、人々のアテンションも新聞に集まり、新聞は自分なりのインターフェースを作ることができました。
(インターネットとSNSによって)そもそもアテンションとディストリビューションがインターネットとSNS側に寄せられたので。
宮武さんは、アテンションと流通がSNS側に移ったことで、メディアがコモディティ化したと説明します。メディアは自社サイトに読者を呼び込んで広告やサブスクで稼ぎたいものの、全員が自然にサイトへ来てくれるわけではないため、外部のSNSなどから人を引っ張ってくる必要が生まれました。
その結果、メディアはTwitterやTikTokなど各プラットフォームに合わせて、動画のフォーマットを変えたり、ニュースを短くしたりするようになったといいます。草野さんも、プラットフォーム側からメディアの公式アカウントの投稿を増やしてほしいと求められる構図を思い浮かべていました。
宮武さんは、この流れのピークとして「分散型メディア」がもてはやされた時期を挙げます。BuzzFeedやNowThisのように自社のホームページを持たず、さまざまなプラットフォームに分散してアテンションを集めるメディアのやり方です。
SNSからの流入はなぜ27%から11%に落ちたのか?
宮武さんは、分散型メディアの時代から状況は大きく変わり、今はむしろ自社ホームページのインターフェースがこれまで以上に重要になるかもしれないと話します。根拠として紹介したのが、ニュース業界の情報を扱うプレスガゼットが、チャートビートと連携して行った調査です。
チャートビートは、宮武さんと草野さんの前職の投資先でもある会社です。1350社のニュースサイトのデータを集めた結果、2018年1月時点ではページビューの27%が外部、特にSNSの中でもFacebookから来ていました。
2018年1月: 27%(約3割弱)
2023年4月: 11%
草野さんはこの落ち込みを意外だと受け止めました。宮武さんは、FacebookやTwitterのインセンティブを考えれば、外部サイトにユーザーを行かせないことがそもそもの目的だと説明します。
うーん、ちょっと(ユーザーには)アプリに滞ってほしいですもんね。
宮武さんによると、Facebookは広告で収益を上げているため、ニュースのリンクよりもFacebook内に投稿された動画、たとえばリールをフィーチャーしたほうが、エンゲージメントもマネタイズも高まります。BuzzFeedのニュース部門の閉鎖にも、この変化が影響したと言われているそうです。
実際、BuzzFeedへのFacebookからの訪問回数は、2021年4月には月次で26万回ほどあったものが、2023年3月には半減していたといいます。草野さんは「やっぱプラットフォームは強いですね」と応じました。
宮武さんは、プラットフォーム側の判断にはニュースサイトとして従うしかないと話します。最近の例として挙げたのが、Twitterが一時的にSubstack ── 個人や小規模チームが有料ニュースレターを発行できるアメリカのプラットフォーム。書き手が読者と直接つながり、購読料で収益を得られる仕組みですをブロックし、リンクを貼っても表示されにくくなった件です。草野さんはこれを「確かに怖いですね」と受け止めています。
AI検索はメディアの何を奪うのか?
宮武さんは、SNSが外部サイトへ人を送りたがらない流れに加え、もう1つの変化としてAIへのシフトを挙げます。AIの普及によって、Google検索などの検索から来る流入が大きく影響を受けるのではないかという見立てです。
宮武さんが紹介した数字では、主要メディアのトラフィックのかなりの部分が検索から来ています。数値はSimilarwebなどのデータによるものだろうと宮武さん自身が補足しています。
| メディア・調査 | 検索経由の割合 | 補足 |
|---|---|---|
| BuzzFeed News | 約3割 | すでにシャットダウン |
| ニューヨーク・タイムズ | 32% | |
| ウォール・ストリート・ジャーナル | 25% | |
| デジタルメディア2500社 | 29% | Parse.lyParse.lyの調査 |
宮武さんは、検索流入がゼロになることはないにしても、仮に半減すれば全体の15%ほどのトラフィックが一気に消えることになると指摘します。Google BardのようなAIで検索すると、その場で答えが出てしまい、サイトに飛ばなくなるからです。
まあいわゆるそこで止まっちゃうっていうのが一番嫌なポイントですよね、メディア企業からすると。
草野さんが「サマリー出してくれますもんね」と言うと、宮武さんは、しかもそのサマリーがニューヨーク・タイムズなどのソースを使って作られる点を強調します。大手メディアなら記事データの提供に対価を求められるかもしれませんが、実際にユーザーがサイトに来るよりは価値が低いだろうと宮武さんは見ています。
だからこそ、メディア企業にとっては自社のブランドを作り、直接来てもらうことがこれまで以上に重要になると宮武さんは話します。草野さんは、メディアがAIのソースの提供者にしかならない状況について、書き手の側に立った感想を口にしました。
ソースの提供者にしかならないみたいなのって、ちょっと虚しいですよね。
プラットフォームに「間に入られる」と何が起きるのか
宮武さんは、コモディティ化を避けるには、Substackのようにユーザーと直接関係を持つことがますます重要になると話します。ニューヨーク・タイムズは直接サイトに来る人が59%、ウォール・ストリート・ジャーナルも58%いるといいます。
ほかのメディアでは、Voxが40%、Axiosが40%、Politicoが50%ほどで、宮武さんは少なくとも4割以上は直接流入が欲しいところだと見ています。そのうえで、SNSや検索からの流入が減るなか、プラットフォームに頼らずにユーザーを獲得する方法を考えなければならない時代になると話しました。
宮武さんは、デジタルの領域では、間に入られると長期的に危ないと指摘します。草野さんが短期的には悪くないのでは、と問うと、宮武さんはFacebookを例に、短期と長期の違いを説明しました。
短期
Facebookなどが拡散してくれ、安く多くの人にリーチできる
中間
プラットフォームが顧客とのフロントエンド(インターフェース)になる
長期
自社はコモディティとしか見られず、他社コンテンツと置き換え可能になる
彼らが顧客とのインターフェイスになっちゃうんですよ。そうすると長期的に勝てなくなるんですよ。
宮武さんは、間に入って無料でディストリビューションを提供するのは、まさにGAFA ── Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonの頭文字を取った呼び方。巨大IT企業群を指しますの戦略だと話します。GoogleとFacebookはメディアのコンテンツをコモディティ化してニュース事業を危機的な立ち位置に追い込み、リテールではAmazonが、アプリではAppleのApp Storeが同じ構図を作ってきたといいます。
Amazonの場合は、プラットフォームになったうえでAmazon Basicsのようなプライベートブランドを出し、他社を潰してしまうこともあると宮武さんは挙げます。AppleについてはFacebookが大きく影響を受けたように、1つの小さなアップデートで業界全体を変えてしまう力があるという指摘です。
宮武さんは、プラットフォームの利用は「ディストリビューションを一時的に取れるもの」と考えるべきだと話します。D2C業界がFacebookやInstagramの広告でユーザーを獲得したものの、それが使えなくなって苦しくなった例もその1つです。直近では、Lindy ── AIを使って業務を代行するアシスタント系サービス。番組では以前、AIがSaaSとユーザーの間に入る例として取り上げていますの話題のように、SaaSとユーザーの間にAIが入り、SaaSがコモディティ化する可能性もあるといいます。
大企業が有利すぎるのでは、と草野さんが問うと、宮武さんは逆に、スタートアップが「間に入る」側になればよいと答えます。誰がユーザーにとってのインターフェースになるのかを議論すること、そしてブランディングや直接の関係づくり、あるいは自ら間に入ることが鍵になるという整理です。
ラジオや朝の情報番組に学ぶ「アンビエントメディア」とは
宮武さんは、メディアのブランディングの1つのやり方として「アンビエントメディア」という考え方を紹介します。この戦略を取っている例として挙げたのが、ブルームバーグの動画版のような存在のCheddarで、草野さんは若いキャスターを起用して若者世代向けに打ち出していた点を覚えていました。
宮武さんによると、創業者のジョン・スタインバーグさんは、このサービスをアンビエントメディアとして立ち上げたと話しているそうです。アンビエントメディアとは、アンビエントミュージック ── 歌や明確なメロディを前面に出さず、空間の雰囲気として流れることを意図した音楽。ブライアン・イーノが提唱したジャンルとして知られていますのように、背景にうっすら流れていて、集中して聴くわけではないメディアのことです。
宮武さんは、日本語でいえば「ながら聞き」が近いと話します。アメリカではテレビ、特にニュース系にアンビエントメディアが多く、レストランで音を消して字幕付きのニュースを流している光景もその一例です。朝の情報番組や、仕事中に『フレンズ』『シンプソンズ』『ビッグバン★セオリー』を流しっぱなしにする起業家の話も挙がりました。
草野さんは、ラジオが一番わかりやすい例だと応じます。草野さん自身も、集中しないためにすでに知っているドラマを流したり、朝にラジオをつけたりすることがあるそうです。
(朝のラジオは)別に交通情報とか知りたいわけじゃないんですけど、なんか鳴ってると朝だなあって気持ちになるっていう。
宮武さんは、アンビエントメディアの課題として、そこで広告が流れてもコンバージョンはほとんどないと指摘します。それでも常につけているからこそ、視聴者は何かしらのつながりを感じてくれるといいます。
このなんかその親近感をある意味作れるっていうのは、なんかそのつながりを作れるっていうのは一つのブランディング効果につながると思うので。
一方で草野さんは、メディアが自らアンビエントになるのは難しいのでは、と問いかけます。宮武さんは、習慣的に接するものに加えてカテゴリーの影響が大きく、情報系はアンビエント化しやすいと答えました。
逆に、深掘り型のOff Topicはアンビエント化しにくいと宮武さんは見ています。10分前の話を聞いていないと今の話がわからなくなるからです。草野さんも、日本のラジオが数十分おきにコーナーの説明を入れ、いつ聞いてもついていけるライトさを持っている点に触れました。ポッドキャストはカテゴリーや話すネタ次第で、継続して聴く人にとっては「その人の声」がアンビエントになりうるものの、新規ユーザーにとっては内容が大事だろうと宮武さんはまとめています。
AIはクリエイティブツールを1つのテキストボックスに変えた
宮武さんは、メディアの次の話題として、AI生成技術が生み出している新しいインターフェースを取り上げます。テキストから動画を生成するスタートアップRunway MLの社長が出したツイートによると、過去10年間、クリエイティブツールは改善こそされてきたものの、それ以上の進化はなかったといいます。
そのツイートでは、ボタンが並ぶAdobeのサイドバーの変遷が示され、機能は多少変わっても形はほぼ同じだと指摘されていたそうです。そしてAIは、それを完全に1つのテキストボックスに変えたというのがツイートの主張でした。
過去10年は塗りつぶしや消しゴムなどのボタンが並ぶサイドバー。改善はあっても進化はない
AIによって、ツールが1つのテキストボックスに置き換わった
ここで草野さんは、話は少しそれると断りつつ、ChatGPTのアプリのUIを褒めます。ChatGPTが回答を入力しているあいだ、スマホが細かく振動する点が気に入っているそうです。
(ChatGPTのアプリは)なんかちゃんと打ち込んでる感があるじゃないですか。なんかすごい可愛いなって思っちゃって。
宮武さんは、前回話したAppleのパッケージの「最後の摩擦」と同じく、「やってる感」を生む細かい部分は非常に重要だと応じます。草野さんはアメリカのアプリには振動を使うものが多いと話し、宮武さんは日本ではデザインへのこだわりがソフトウェアのみ、ハードウェアのみといった形で領域ごとに限られているのかもしれない、と仮説を口にしました。
テキストボックスだけのAIは、なぜ使いにくいのか?
宮武さんは、どのアプリも1つのテキストボックスから始まり、やりたいことを打ち込むと回答が返ってくる形が今後のメインのインターフェースになる、という見方があると紹介し、草野さんに意見を求めます。草野さんは、画像生成でも検索でも、この形は使う側のスキルを強く求めると答えました。
やっぱ結局人間って自分で考えて入れるっていうよりは、提案されて、のほうが分かりやすいじゃないですか。
宮武さんも全く同感だとし、テキストボックスだけのものは違うと考えていると話します。紹介したのは、GitHubのリサーチエンジニアの女性が書いた記事で、「いいツールは見た目から何に使うかがわかる」という主張です。
その記事では手袋が例に挙げられていました。手が入る形をしているので手を入れるものだとわかり、ゴム製なら化学用品を扱うのか、レザーならファッション寄りなのか、と素材からも用途が読み取れます。宮武さんは、意味合いやコンテキストをフォームファクターに入れ込んでいる点が重要だと話します。
一方でテキストボックスからわかるのは、テキストを入れることだけです。宮武さんは、Googleの検索窓もログインフォームもクレジットカードの入力画面も、インターフェースとしては同じだと指摘します。
で、結局テキストのプロンプトの文面を見ても、それってコンテキストでしかないんですよ。
宮武さんは、プロンプトの作り方を学ぶ負担がユーザー側にあることも問題だとし、コンテキストをどう表現するかが重要になると話します。そして、前回の消えていくコンピューターの話も同じ課題を抱えていると続けました。フォームファクターがなくなったり見えなくなったりすると、コンテキストの量が減り、ユーザーは何をすればいいかわからなくなるからです。
その一番わかりやすい例が、AIのボイスアシスタントです。草野さんは「今日の東京の天気を教えて」のように、こちらが言い方を合わせにいっている感覚があると話し、宮武さんもどこまでできるかがわからない点を挙げました。
(音声アシスタントが)できなかった時虚しくなっちゃいますもんね。「よくわかりません」って言って、「あー」って。
宮武さんは、アイデアをユーザーがわざわざ考えなければいけないこと自体が間違いだと話します。「こういうことができますよ」という提案があれば人も考えられますが、何もないフォームファクターだけが部屋に置かれると、何を聞けばいいかわからず、デバイスの可能性が極端に下がってしまうという指摘です。
再生ボタン1つのSpotifyは理想か?
宮武さんは、同じ問題の別の言い方として、SpotifyのCTOが語った「fault tolerant interfaces」という考え方を紹介します。宮武さんは、これを日本語に軽く訳すと「欠点を許容するUI」に近いと説明しています。
Spotifyにとって理想中の理想のUIは、画面の真ん中に再生ボタンが1つだけあり、タップすると本当に聴きたい曲が流れるものだといいます。草野さんは「ユーザーに何もさせない」形だと受け止め、音声アシスタントにも似ていると話しました。
それを、そのボタンしかなくて、違う曲流されたら超嫌ですもんね。
このUIは、100%ユーザーが聴きたい曲を流せなければ意味がありません。そこでCTOは、成功率を理解する必要があると述べたそうです。たとえば好きな曲が出る確率が5分の1、つまり20%ほどなら、少なくとも5つの選択肢を同時に見せるUIにすべきだという考え方です。
宮武さんは、AirbnbのCEOブライアン・チェスキーさんも同じことを話していると続けます。チェスキーさんによると、Airbnbが検索にそこまでフォーカスしていないのは、検索ボックスが「意図的なもの」で、ユーザーが何を探しているかを事前に知っていなければならないからです。
でも、行ったことない場所を検索で見つけられるかっていうと見つけられないんですよ。
宮武さんは、TikTokがまったく違うインターフェースを持つからこそ音楽のディスカバリーにフィットしている点にも触れます。目的によってはテキストボックスではない形を考える必要があり、それが「AIネイティブなインターフェースとは何か」という問いにつながっていきます。
ChatGPTに足りない「実行と評価のループ」とは
宮武さんは、AIネイティブなインターフェースの重要な要素として、ChatGPTに文章を書かせる場面を例に挙げます。最初の文章を「より強い言葉で書いて」と頼むと、ChatGPTは応じてくれますが、元の文章と何が変わったかをユーザーがいちいち全部読んで確認しなければなりません。
宮武さんは、今のチャットボットの課題は「実行と評価のループ」の組み合わせがうまくいっていない点にあると説明します。絵を描く人やエッセイを書く人の作業は、大きく2つのアクションに分けられるといいます。
実際に絵を描く、文章を書く作業
全体を見て「次はここを描こう」「こう描いてみよう」と考える作業
絵を描いているときは、この2つをいつでも行き来できます。ところがChatGPTでは、1回ずつアクションが決まったタイミングでしか切り替えられず、宮武さんはそこのスイッチングを軽くできないことが課題だと話します。
草野さんが、どんなツールがあるとよいのかを尋ねると、宮武さんは提案型の仕組みに加えて、Googleドキュメントの修正履歴を例に挙げました。誰かが修正するとリアルタイムで変わるため、すぐに評価できるというわけです。
宮武さんは、完全に自動化するタスクなら評価は後でまとめてやればよいものの、人間が途中に入る場合はこの2つのモードの切り替えが重要になると整理します。そのうえで、コンテキストやパーソナライズの情報をチャットボットに持たせる手段として、2〜3週間前に話したRewind AI ── パソコン上で見聞きした情報を記録し、あとから検索や要約ができるようにするサービス。ユーザーの行動履歴をAIの文脈として活用する例として注目されましたのようなサービスが必要になると話しました。
インターフェースが自分に合わせて変わる「ジャストインタイムインターフェース」
宮武さんは、Airbnbのチェスキーさんが「よりユーザーを理解したインターフェースを作れたらいいのに」と話していたことを紹介します。今のAirbnbは、戻ってきたユーザーに宿泊先の種類、つまりカテゴリーしか見せられませんが、その人が行きたい場所がわかっていれば、それに合わせた候補を出せるかもしれません。
宮武さんは、個人の好みに合わせてAIがインターフェースを自動的にカスタマイズする未来を描きます。たとえばGmailを使っている人が、メールアプリSuperhumanのようなUIにしたいと思えばAIが変えてくれたり、Twitterに慣れた人はメールをTwitterっぽいUIで見られたりするイメージです。
宮武さんによると、これは「ジャストインタイムインターフェース」と呼ばれ、インターフェースがコンテキストに合わせてリアルタイムで変わるものです。特に教育では、ビジュアルで学ぶ人、データで学ぶ人、文章で学ぶ人に合わせて、同じ授業内容を違う形で表示できると宮武さんは話します。
宮武さんは、AIを使わない原始的なバージョンはすでにあると指摘します。同じサービスでも国ごとのページに行くと違う言語で表示されるのは、国というコンテキストに合わせたUI設計であり、それを個人単位でリアルタイムに行うのが進化版だという整理です。
国や言語ごとに、人の手で(半自動で)UIを用意する
個人の好みやコンテキストに合わせ、AIがリアルタイムでUIを変える
草野さんは、AdobeのツールとiMovieでコマンドが違うので揃えたい、という例を出して理解を確かめます。宮武さんは、ショートカットだけでなく、Adobeで覚えた位置にiMovieでも同じボタンがある、といったデザインの変化もありうると答えました。
カスタマイズ性の高いサービスに出会うと嬉しいと話す草野さんに対し、宮武さんはカスタマイズはそこまでしない派だといいます。オプションはありがたい一方で、多すぎると何をすればいいかわからなくなるため、親近感を作るためにUIが自動で変わるのはありだと宮武さんは考えています。
AIが提案し、UIが検索に合わせて変わり始めている
宮武さんは、草野さんが話していた「AIが提案する」形が、ようやく出始めていると話します。Googleは開発者会議Google I/Oで、DocsやスプレッドシートやスライドにAIを組み込む機能を見せ、Duet AIではドキュメントの内容に合わせてAIがプロンプトを提案するコンセプトをプレビューしたそうです。
たとえばスライドでは、ユーザーが何も書く前に、AIが「このスライドをもとに登壇者のメモを作りましょうか?」と提案してくれます。宮武さんは、ユーザーが思いつけたかもしれない操作でも、デフォルトで提案されていれば選びやすいと話します。
リアルタイムに変わるUIの例として宮武さんが挙げたのが、AI検索エンジンのPerplexity ── 質問に対してウェブ上の情報を要約し、出典付きで回答するAI検索サービスですです。「ヘッドフォンを買いたい」と入力すると、ヘッドフォンの種類を選ぶラジオボタンや、欲しい機能のチェックボックスが現れ、チェックすると結果が全部変わるといいます。
草野さんは、Googleで歌詞を検索すると歌詞が出たり、商品を検索するとショッピングが優先されたりするのも初歩的な例かと問いかけます。宮武さんは、Googleは大量のデータから意図をわかっているからこそできることだとし、それをもっとダイナミックに行う方向に進むと話しました。
宮武さんは、ここから前回の「消えていくコンピューター」の話は半分正解だったと見直します。今後のインターフェースは、半分は見えないところに、半分は見えるところにあるという整理です。
情報収集とコンテキストの理解
コントロールやフォームファクター、変化して提示されるUI
そのシンプルな例が、スマホのキーボードの予測変換です。「こん」と打つと「にちは」が出てくるように、見えないところで好みを学習し、見える形で提案してくれます。宮武さんは、言葉を補完するだけでなく、ボタンやデザインまで変える時代が来ると見ています。
そのためにはクリックや入力のデータだけでは足りないかもしれません。宮武さんは、Metaが5月初旬に出したオープンソースのAIモデルを例に挙げ、テキスト、音声、ビジュアル、温度、動きといった複数のデータを組み合わせて理解できる点に触れます。犬の鳴き声と「ラブラドール」というテキストを組み合わせれば、大量のテキストがなくてもどんな状況の犬かがわかるかもしれない、という説明です。
パーソナライズが当たり前になると、何に価値が残るのか?
宮武さんは、こうしたパーソナライズされた体験があふれると、パーソナライズ自体の価値が下がるのではないかと問題提起します。草野さんは毎回驚きがあるのでは、と返しますが、宮武さんは便利にはなっても、慣れてしまえば「すごい」とは感じなくなると話しました。
では、どんなパーソナライズ体験に価値が残るのか。宮武さんは、意図的なもの、人間が考えたもの、ストーリー性のあるものを挙げ、それが日本は世界一うまいと話します。
それをスケール一切しない、しないからこそ価値がつく。
宮武さんが例に挙げたのは、シェフが意図を持って体験を作り、その理由まで説明する日本の小さなレストランです。番組の別の回で草野さんが取り上げた、野外広告でスペクタクル的なものが増えている話にもつながり、草野さんは草間彌生さんの作品が建物に現れた広告を例に出しました。
宮武さんは、AIで人間のクリエイティビティがなくなると考える人もいるものの、場合によっては人間のクリエイティビティの価値は上がるかもしれないと話します。重視されるのはアウトプットそのものではなく、なぜそれをやるのかという意図やストーリー、ナラティブだという考え方です。
宮武さんは、クリエイティビティが作る過程にあるのか、アウトプットにあるのかという問いも投げかけ、個人的にはどちらもだと答えます。スタジオジブリを訪れた経験から、考え抜かれた過程をコピーしても、同じ意味合いのものは作れないと話しました。
宮武さんは、AIに置き換えられる不安を持つクリエイターは、人生の体験や感情など、自分に影響を与えるインプットという、自分でコントロールできる部分に目を向けるべきだと話します。AIはOff Topicと似た要約は作れても、なぜこのタイミングでこのエピソードをやるのかは出せない、というのが宮武さんの見立てです。
草野さんはこれに強く共感し、その人が本気かどうか、熱量を持って仕上げたかどうかが大事だと語ります。1分で作ったものでも本気ならクリエイティブで、1週間かけても「これでいいや」と出したものはかっこいいと思えない、という感覚です。
草野さんは、人が介在してみんなで作るコラボレーションや、本気さが周りに伝わっていくことは、AIにはできないことではないかと話しました。
『サクセッション』のQuiet Luxuryは何を示しているのか?
宮武さんは、今後は「人間っぽさのヒント」を出すことが1つの価値になると話し、それは一定の人にしか理解できないものかもしれないと続けます。例として挙げたのが、ドラマ『サクセッション』で話題になったQuiet Luxuryというファッションです。
宮武さんによると、超富裕層の登場人物たちが着ている服は一見すごく普通で、ブランドも出ていません。たとえばケンダル・ロイがかぶっているロゴなしの帽子は、宮武さんには普通の帽子にしか見えないものの、知っている人にはロロ・ピアーナの600ドル以上する帽子だとわかるといいます。
宮武さんは、マスにアピールするように見えて、実は自分がアピールしたい人たちに向けて発信している、という形が今後増えそうだと話します。草野さんは、ファッションはそもそもステータスのゲームであり、マウントを取る面があると応じました。
宮武さんは、デイヴィッド・マークスデイヴィッド・マークスさんが著書でオールドマネーとニューマネーを分けていることも紹介します。
新しくお金持ちになった人。すごい服やブランド物でお金を持っていることを見せたがる
昔からの富裕層や貴族。普通に見える服を着ることで、かえって富をアピールする
宮武さんはこれをAIの時代に重ねます。ChatGPTによって知能が民主化され、誰でもそれなりの文章を書けるようになります。ニューヨーク・タイムズ風のエッセイをChatGPTに書かせても、一般の人には区別がつかない一方、本物の編集者なら違いがわかるだろうという例です。
ファストファッションとラグジュアリーの関係も同じで、素材やエルメスのレザーバッグの技術の違いがわかる人がいるからこそ値段の差がつくと宮武さんは話します。そのうえでAIの時代には、よりニュアンスのある複雑な話し方や、真似しにくいリファレンスで差をつけるようになるのではないか、と予想します。
で、これを実際サクセッションはやってるんですよ。
『サクセッション』のセリフには、ビジネス用語やカルチャー用語、その場の状況を理解しないとわからない言い回しが込められているといいます。草野さんは「すごいマウントですね」と笑い、わざとわかりにくい言葉を使うのは少し悲しい気もすると率直に話しました。
宮武さんは、そこが重要なポイントだと返します。Quiet Luxuryと同じく、一般の人には普通の会話に聞こえ、知っている人にだけニュアンスが伝わるのであり、そのニュアンス自体がステータスになるという説明です。草野さんは「わからないんじゃなくて、普通に聞こえるんですね」と受け止めました。
宮武さんは、AIで皆が頭よく聞こえるようになると、そこで差をつけたい人たちが違う形でコミュニケーションし出すと話します。具体例を説明するのは難しく、自分もお金持ちではないので完全には理解していない部分がある、とも付け加えていました。
ジョニー・アイブがAirbnbに贈った本と「インターフェースは言語」
宮武さんは最後に、インターフェースを理解するには人間を理解しなければならない、と今回の話をまとめに入ります。人間がどう動き、どう考えるかに合わせて良いプロダクトを作る必要があるからです。
その人間性の重要性をうまく表した例として、宮武さんはAppleを挙げます。スティーブ・ジョブズはiPad 2 ── 2011年に発表されたAppleのタブレット端末の2代目モデルですのローンチイベントで、AppleのDNAには技術だけでは不十分だと刻まれており、テクノロジーとリベラルアーツ、人間性の結びつきが人の心を動かすと語りました。
宮武さんによると、多くの人はそこで名言が終わったと思っていますが、ジョブズはその後に、ポストPC時代においてこれほど重要なことはないと続けていたそうです。宮武さんは、この「人間性」や「リベラルアーツ」という言葉の重要性を、ジョニー・アイブさんも同じように表現していると話します。
ジョニー・アイブさんはAirbnbのアドバイザーでもあり、Airbnbのミッションを組み直す手伝いをしました。その方法は、ブライアン・チェスキーさんのために1冊の本を作るというもので、本のタイトルは『Beyond Where and When』だったといいます。
Where and When: いつ、どこに泊まるのか。マーケットプレイスとしてのAirbnb
Who and What: 君は誰で、人生で何をしたいのか。コミュニティとしてのAirbnb
宮武さんによると、今のAirbnbのサイトにある宿泊先のカテゴリーは、このWho and Whatの考え方がインスピレーションになっています。ジョニー・アイブさんはほかにも、「マーケットプレイス」ではなく「コミュニティ」という言葉を使うよう提案したそうです。マーケットプレイスではすべてが取引ですが、コミュニティの中ではすべての行動が取引ではない、という細かな意味の違いです。
その言語をすごい細かく、こだわるっていうのが、なんかすごい重要だなっていうのは思いますし、そのインターフェースにとっては最も重要な部分かなっていうのは思いましたね。
草野さんも、言葉のチョイスにはサービスの思想が表れると共感します。フィードやサイドバーといった決まった型に従うのではなく、意図に合わせて機能に名前をつけるのはかっこいい、という感想です。
宮武さんは、インターフェースとは人を理解し、その理解を表現したものでしかないと話します。前回の結論を引き継ぐ形で、宮武さんはインターフェースを人とつながるための道具として捉え直しました。
草野さんは、これはインターネットに限らないと付け加えます。冒頭で話したファッションのように、人そのものもインターフェースであり、どう見られたいかやTPOを含めて、インターフェースには人となりが見えるという言葉で対話は締めくくられました。
まとめ
今回のOff Topicは、メディアの集客構造からAIのUI、パーソナライズ、ファッションまでを「接点」という切り口でつなぎ、どの領域でもインターフェースには人間理解がにじみ出ることを確かめる回でした。
- SNS経由の流入は2018年の27%から2023年には11%に減り、AI検索で検索流入も脅かされるなか、メディアには直接の関係づくりが求められている
- プラットフォームに間に入られると、短期的には安く届けられても、長期的には自社がコモディティ化してしまう
- テキストボックスだけのAIはコンテキストが足りず、提案や選択肢、実行と評価を行き来できるUIが必要になる
- パーソナライズが当たり前になるほど、スケールしない体験や、意図と熱量のこもった人間のクリエイティビティに価値が残る
- ジョニー・アイブのAirbnbへの提案のように、言葉選びを含むインターフェースは、人を理解しつながるための言語である





