スタートアップの教科書は、本当に正解なのか?
この回のテーマは、スタートアップを始める人がまず読むとされる、エリック・リースの『リーン・スタートアップ』です。草野さんが「青いあの本」と呼ぶこの本に、シリコンバレーが偏りすぎたのではないか、という問いから始まります。
宮武さんは冒頭で、結論は「偏りすぎちゃったのかな」、ただし「かもしれない」程度だと前置きします。そのうえで、問いに答えるための材料として、イノベーションの話で必ず出てくる「アウトライヤー」という言葉を取り上げます。
VCは全員このアウトライヤーを見つける、いわゆるいいスタートアップを見つけるっていうのが仕事だと思うんですけど。
宮武さんによると、アウトライヤーが重要なのはVCだけではありません。映画やゲームのほとんどはヒットしない一方で、ごく一部の作品が桁違いのリターンを出す、という構造がエンタメ業界でもよく語られます。
宮武さんは、上場株式市場や学校、科学の世界にも同じようなアウトライヤーが存在するのではないかと問いを広げます。過去に番組で扱った「天才の作り方」の話とも地続きのテーマだといいます。
ミッキーは300回以上リジェクトされていた
エンタメ業界のアウトライヤーの代表例として、宮武さんはディズニーを挙げます。草野さんは「一強というか、帝国ですよね」と応じますが、ディズニーの出発点はまったく順風満帆ではありませんでした。
ウォルト・ディズニーが最初に作ったアニメーションスタジオは破産しています。その後に立ち上げたディズニーも、1930年代半ばには400以上のアニメを作っていたものの、そのほとんどが赤字だったといいます。
ウォルト・ディズニーが最初に作ったキャラクターのオズワルドは、白黒版のミッキーのような見た目のうさぎでしたが、IPを奪われてしまいます。さらに、ミッキーのコンセプト自体も300回以上リジェクトされていたそうです。
だからミッキーっていうキャラクター自体もアウトライヤーで。
ディズニーのスタジオは黒字化できず、破産寸前まで追い込まれます。状況を変えたのが白雪姫でした。1935年に制作を始め、1938年に完成するまでに、家を担保にし、予算は当初の10倍まで膨らみます。
白雪姫は公開から半年で800万ドルほどの収益を上げ、ディズニーを救いました。宮武さんは、何百時間とアニメーションを作ってきた中で最も重要だったのは「たったの83分」、つまり白雪姫の上映時間だったと表現します。
草野さんはこの話から、マルコム・グラッドウェル ── アメリカのジャーナリスト・作家。社会現象を独自の視点で読み解くノンフィクションで知られ、『天才!成功する人々の法則』などのベストセラーがありますの『アウトライヤーズ』(邦題『天才!』)を思い出します。1万時間練習すれば才能が開花するという「1万時間の法則」のように、シンプルなミッキーも努力の積み重ねから生まれたのかもしれない、と話します。
VCのリターンは、わずか数パーセントの案件が生む
宮武さんは、たくさん試した中で大成功するのはほんの一部というエンタメの構造は、VCでも同じだと続けます。この構造はパワーロー ── べき乗則。少数の要素が全体の大部分を占める分布のこと。VCでは、ごく一部の投資先が投資全体のリターンの大半を生む現象を指しますとも呼ばれます。
アンドリーセン・ホロウィッツ ── シリコンバレーを代表するVCの一つ。ネットスケープ共同創業者のマーク・アンドリーセンらが2009年に設立しましたのリサーチでは、投資案件の約6%が全体リターンの約6割を生み、半分の案件はマイナスになるといいます。
別のVCであるコリレーション・ベンチャーズも、2004年から2014年までの約2.1万社の資金調達の記録を分析しています。宮武さんが紹介したリターンの分布は次のとおりです。
| リターン倍率 | 案件の割合 |
|---|---|
| 1倍以下(マイナス) | 65% |
| 1〜5倍 | 25% |
| 5〜10倍 | 5.9% |
| 10〜20倍 | 2.5% |
| 20倍以上 | 1.1% |
| 50倍以上 | 0.4% |
宮武さんによると、ほとんどのリターンは5%以下の案件から来ています。草野さんは、その一部の案件で全体を「回収できちゃう」と反応します。
宮武さんは別の角度からも数字を示します。過去10年間のVC出資スタートアップの合計調達額は約4820億ドルで、VCに支援されたスタートアップのトップ10社の合計時価総額は、去年末時点で約2130億ドルでした。
完全にイコールではないんですけど、世界のトップテンのスタートアップは、業界が出資した額の半分ぐらいの価値になってます。
宮武さんは、VCやスタートアップのエコシステムは「ひたすら検証をしているシステム」で、ほとんどが失敗し、うまくいくものは本当にうまくいく、とまとめます。VC業界の人にとっては当たり前の前提だといいます。
S&P500でも、Apple1社が180社分の価値を持つ
スタートアップ業界のほうが詳しい宮武さんは、上場市場なら事情が違うのではないかと考えていました。ところが、上場市場でも似た現象が起きていたといいます。
S&P500 ── アメリカの代表的な株価指数。ニューヨーク証券取引所やナスダックに上場する主要500社で構成されますでは、過去5年間のリターンの半分以上が22社から来ているそうです。今年3月末ごろの時点では、S&P500全体の価値の約7%をAppleが占めていました。
Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの5社、いわゆるGAFAMは、S&P500全体の約2割を占めています。草野さんは、上位がすべてテック企業であることにも驚きます。
Appleイコール180社っていう、本当にそういう業界ですし、それこそウォーレン・バフェット自身も、今まで4、500社に投資してますけど、お金儲けしたのは多分たった10社ぐらいと。
宮武さんは、未上場市場ほどではないかもしれないものの、上場市場でもアウトライヤーが価値を作っていると話します。ただ、上場企業はすでに大きいため異常に見えにくく、アウトライヤーと呼ばれることはあまりないそうです。
草野さんが「そういうコンセプトを言っている人はよくいるのか」と尋ねると、宮武さんは「そこまでいない」と答えます。未上場企業を見ている人は「上場すれば安全」と捉えがちだが、実態はまったく違う、というのが宮武さんの実感です。
25年目の会社と10年目の会社は、同じくらい死ぬ
宮武さんがこのエピソードをやろうと思ったきっかけは、アメリカの会社の「死亡率」、つまり倒産や閉鎖の率を、会社の年齢ごとに見ていたことでした。
アメリカでは、初年度に5分の1の会社が失敗します。宮武さんによると、ここから5年目までの数字は、スタートアップを見てきた立場からすると「正直納得する」ものでした。
1年目
約5分の1の会社が失敗
2年目
さらに約10%が失敗し、累計で約30%に
3年目
追加で約7%が失敗
4年目
追加で約7%が失敗
5年目
追加で約5%が失敗し、約半分の会社がなくなる
宮武さんは、年を重ねるほど追加で消える割合はどんどん下がるだろうと思っていました。長くやっている会社は、若い会社より失敗する確率が低いはずだと考えていたからです。
このエピソードを話すきっかけの数字が、25年目の会社は、10年目の会社と同じ死亡率だと。
スタートアップ業界なら、100社に投資して40〜50社が失敗するのは当たり前です。一方で、上場企業100社に投資した場合はそこまで失敗しないと考えるのが普通ですが、実際には最終的に4割が失敗するといいます。
宮武さんの見立てでは、上場企業はスタートアップより長生きし、急にではなく徐々に失敗するかもしれないものの、ほぼ同じ率で失敗しています。だからこそ、生き残り、さらに大成功する企業は本当に異常値なのだと話します。
草野さんは、AppleやAmazon、Metaのような比較的新しい会社がここまで大きくなれば、衰退する既存の上場企業も出てくるだろうと応じます。
宮武さんは、そのAppleですら何度か死にかけたと付け加えます。スティーブ・ジョブズの復帰前、Appleはサン・マイクロシステムズ ── 1982年創業のアメリカのコンピューター企業。サーバーやプログラミング言語Javaで知られ、2010年にオラクルに買収されましたに時価総額約40億ドルで売却される予定でしたが、サン側のCEOが「そこまで価値がない」とNGを出したそうです。
多分買収してたらAppleが今のようになってないはずなので。
イノベーションの源泉は、VCが投資できない基礎研究にある
宮武さんは、今のS&P500のトップ企業はほとんどがテック企業だとしたうえで、そのイノベーションがどこから来たのかを問います。手がかりとして紹介するのが、VC兼エコノミストのビル・ジェインウェイの主張です。
ビル・ジェインウェイによると、コンピューターサイエンス関連のイノベーションは、過去数十年にわたって政府や大学が行った基礎研究から来ており、企業はそれをプロダクト化しただけだといいます。今ようやくバイオ系のイノベーションが来ているのも、コンピューターサイエンスの後にバイオの基礎研究が始まったからだそうです。
結局何年も前に何の基礎研究をしたかっていうのを見ると、次のイノベーションが何が来るかわかると。
バイオ系のイノベーションがコンピューターサイエンスほどのインパクトを持たない理由について、宮武さんはバイオの基礎研究の予算がコンピューターサイエンスの半分だったことを挙げます。宮武さん自身も、この話はある程度正しいと考えているそうです。
宮武さんは、基礎研究を担う政府や大学はもっと評価されるべきだと話します。そして基礎研究は、VCにはできないことでもあります。VCが投資できるタイムスパンには限りがあり、草野さんも「ファンドの満期を考えたらそうですよね」とうなずきます。
宮武さんは、時間の問題に加えて、会社として成り立たないという問題も指摘します。会社がなかなか大きくならないと、チームのモチベーションがなくなってしまうからです。
論文の半分は再現できない?基礎研究の「再現性の危機」
基礎研究が重要だとしても、宮武さんは「ここでさえアウトライヤーがいる」と続けます。スタンフォード大学のある教授が書いた論文は、研究制度全体に「再現性の危機」があると指摘しています。
再現性とは、ある研究のプロセスと結果を論文で公開したとき、他の人が同じプロセスで同じ結果を出せるかどうかです。科学者ではない宮武さんは普通は再現できるものだと思っていましたが、その教授の研究によると半分が再現できないといいます。
そう考えると50パーセントのその研究、その論文ってフェイクなんですよ。
宮武さんは、アメリカの新薬の数にも同じ問題が見えると話します。1974年から2000年の間は効果の高い新薬が次々に出てきたのに、2000年以降はほとんど出てこなくなったそうです。
その背景として宮武さんが挙げるのが、2000年に政府が出した研究ルールの変更です。新薬を研究するときは、どんな仮説を持ち、どんな結果を出そうとしているのかを事前に示すよう求められるようになりました。
このルール変更の後、新薬はほとんど出なくなります。宮武さんは、その理由として2つの仮説を挙げ、どちらが正しいかはわからないとしつつ、自分は後者だと考えています。
2000年以前は、比較的簡単に研究すれば解決できる未治療の分野がたくさんあった
過去の薬も実は効かなかった、もしくはたまたま効いただけだった
宮武さんは、2つ目の仮説で一番怖いのは「今市場にある薬の何パーセントが実際に効くのか」という話になることだと言います。草野さんは「こんな回だと思いませんでした」と驚きます。
さらに宮武さんは、名前は出ていないアメリカの政府機関の研究施設長の話を紹介します。50%の再現性の危機について聞かれたその施設長は、フェイクなのは50%ではなく90%だと答えたそうです。
その施設長はスタージョンの法則 ── SF作家シオドア・スタージョンが唱えたとされる「あらゆるものの90%はクズである」という経験則。SFが低俗だと批判されたことへの反論として生まれましたを引き合いに出していました。宮武さんは、音楽やエンタメでも9割がリターンを出さないのと同じだと話します。
何を信じたらいいんですか。
宮武さんによると、医療研究でもエンタメ業界と同じように、本当に優れた研究施設はごく数箇所だけで、それ以外はほとんどダメだ、というのが施設長の主張です。残りの9割に資金が出る理由には、そこから良い成果が出る可能性や、システム上の課題などがあるといいます。
宮武さんは、科学や医療の領域にさえアウトライヤーの構造があるとまとめ、「研究者も起業家と実は似ていた」と話します。
100年ファンドより「ゼロを1つ足した」ファンド?
基礎研究にもアウトライヤーがいるなら、VCが基礎研究を支える仕組みとして「100年ファンド」を作ればいいのか。宮武さんはこの問いに、おそらくそうではないと答えます。草野さんは「100年だと死んじゃいますもんね」と笑います。
宮武さんは、そもそも時間が本当のボトルネックなのかを問い直します。すごいプロジェクトは時間がかかるのか、それとも資金の問題なのか、という切り分けです。
今例えば10ミリオンとか100ミリオンとか1ビリオンのファンドがあったとすると、ゼロを1個追加したファンド。
宮武さんのアイデアは、スタートアップに1000万ドルではなく10億ドルや100億ドルを出資し、従来のVCファンドと同じ10年のタイムフレームでイノベーションが起こせるかを考えることです。その一番わかりやすい事例がテスラとスペースXで、どちらも最初に大きな資金を必要としました。
宮武さんは、番組で以前話した、生成AIの登場がAWSの登場と似ているという話を持ち出します。AWSが登場する前は、自前でサーバーを作る必要があったため、ピッチ資料だけで少なくとも100万ドルを調達しなければなりませんでした。
自前のサーバーが必要で、ピッチ資料だけで少なくとも100万ドルを調達する必要があった。Netflixは最初の調達で300万ドル、Amazonは100万ドル
会社を立ち上げるコストが下がり、数千万円で会社を立ち上げられるという概念が生まれ、シードラウンドが一般化した
宮武さんは、AWSはシードラウンド ── スタートアップが最初期に行う資金調達の段階。製品やサービスの構想を形にする段階で、比較的少額の資金を集めますを作った、と表現します。シードラウンドのようなものは以前からあったものの、AWSがそれを一般化したという意味です。
草野さんは「ツール以上に業界を変えている」と驚きます。宮武さんは、AIがさらにコストを下げれば、より小さなチームで同じことができるようになり、プレシード ── シードラウンドよりさらに前の資金調達の段階。創業者のアイデアやチームの段階で行われる、ごく初期の投資ですが大きく増えるという仮説を立てていました。
リーンスタートアップでは、なぜテスラは作れないのか
宮武さんは、AIによるプレシードの増加とは「逆も必要だ」と話し、エピソードタイトルの問いに戻ります。個人的には、シリコンバレーはリーンスタートアップモデルに若干ピボットしすぎたと感じているそうです。
宮武さんの見方では、リーンスタートアップモデルは短期的に失敗する確率を減らす代わりに、アップサイドのチャンスを奪っているのではないか、ということです。
草野さんは、リーンスタートアップを、あまりコストをかけずに試作品を短期間で作り、顧客の反応を見て検証し、それを繰り返していく方式だと整理します。宮武さんも「まさに」と同意します。
宮武さんは、リーンスタートアップが完全に間違っているわけではないと強調します。そこから優れた会社はたくさん出ていますが、それだけが正解というわけではない、という立場です。
スタートアップといえばイコールリーンスタートアップをまず教科書として読みましょうみたいな感じで、特に起業初心者は他のやり方を知るのが難しいですよね。
宮武さんは、シリコンバレーにも、おそらく日本にも、ハイリスク・ハイリワードのモデルが必要だと話します。リーンスタートアップを教科書にしたことで、そのモデルを多少忘れてしまったのではないか、という指摘です。
宮武さんは、エンタメ業界にたとえて「もっとハリウッド映画が必要」だと言います。大型予算をかけて作品を出し、それ以上のリターンを出すという形です。
低コストで試作品を素早く作り、顧客の反応で検証を繰り返す。短期的な失敗の確率を減らせるが、アップサイドを失うおそれがある
大型予算を最初にかけて作り、それ以上のリターンを狙う。失敗すれば大きな失敗になるが、テスラやOpenAIのような会社を生みうる
草野さんは、ハリウッド映画を任せるなら監督経験のある連続起業家に頼みたい、と応じます。宮武さんも、そうでなければ多額の資金はなかなか任せられないだろうと同意しつつ、資本がイノベーションのボトルネックになっている会社もあると話します。その例として二人が挙げるのが、バイオや研究系の企業、スペースX、テスラです。
宮武さんは、反対意見としてマジックリープ ── 拡張現実(AR)のヘッドセットを開発するアメリカのスタートアップ。製品発売前から巨額の資金を集めたものの、期待どおりの普及には至りませんでした、クイビー、カラーといった、大型調達をしながら失敗した事例が挙がるだろうと認めます。失敗はあり、しかもめちゃくちゃ大きな失敗になる、という前提です。
一方で宮武さんは、OpenAIのサム・アルトマンを例に挙げます。サム・アルトマンが運営するOpenAI、ヘリオン、レトロ、ワールドコインの4社は、いずれもプロダクトのローンチ前に1億ドルを調達しているそうです。
リーンスタートアップモデルを使ってると、OpenAIって多分作れなくて。
宮武さんは、今の環境の良い点として、テックビリオネアたちが明らかに長期プロジェクトに多額の資金を入れたがっていることを挙げます。ハイリスク・ハイリワードなプロジェクトが立ち上がる可能性が、ようやく出始めたのかもしれないと見ています。
アウトライヤーの起業家に必要な「すごく恐ろしい力」
資金面の環境が整い始めたとして、次に必要なのは何か。宮武さんの答えは、アウトライヤーの会社を作る、アウトライヤーな起業家です。具体的には、イーロン・マスク、スティーブ・ジョブズ、ジャック・ドーシー、マーク・ザッカーバーグのような人たちです。
宮武さんは、過去20年ほどでトップのハードウェアスタートアップを作った事例を見ると、上位2社はどちらもイーロン・マスクが作っていると指摘します。イーロン・マスクのような人がいてよかった一方で、そういう起業家がもっと出てこない状況は難しい問題だと話します。
宮武さんはスペースXを例に、イーロン・マスクの道のりの厳しさを説明します。スペースX以前の宇宙業界はNASAが仕切り、規制も厳しく、誰も打ち上げプラットフォームを作ろうとは思っていませんでした。衛星を大量に飛ばす発想も、ロケットを再利用する発想も、無理だと思われていたといいます。
宮武さんの見方では、アウトライヤーの起業家は、イーロン・マスクや一部のウーバーのトラビス・カラニックのように常に戦っている人です。頭の良さだけでなく、超アグレッシブで、激しい批判を受け入れられる必要があります。
これだけ業界を壊すとかっていう話になると、誰かを傷つけたりとか、場合によってはめちゃくちゃ多くの人を傷つけることってあると思うんですよね。
宮武さんは、収録の1週間ほど前にフィナーレを迎えたドラマSuccession ── 巨大メディア企業の創業者一家の後継者争いを描いた米HBOのドラマ。2018年から2023年まで4シーズン放送されましたのシーズン4第9話を紹介します。創業者の父について、長男がスピーチで「すごく悪い人でありながら、めちゃくちゃすごい人だった」と語る場面です。
英語で言うと、「That magnificent, awful force of him. My God, I hope it's in me.」って言ったんですけど。
なんとなく日本語で訳すと、「とてつもなくすごく恐ろしい力。それが自分の中でも潜んでいることを祈っています」っていう。
宮武さんは、時に残酷であっても、そうした力があるからこそここまで来られたのだろうと解釈します。イーロン・マスクのような人をどう生み出すかに正解はないものの、一部は教育の話にもなると話します。
トップ起業家に20代がいない時代は何を意味するのか?
宮武さんが今個人的に心配しているのは、起業家の年齢です。テック業界のどの時代にも、その時代を代表するトップ起業家のトップ3のうち1人は20代でした。
10年前や15年前にはマーク・ザッカーバーグがいて、その前にはマーク・アンドリーセン、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズがいました。ところが今は、少なくともトップ3に20代はいない気がすると宮武さんは言います。
それって、もしかしたらたまたまっていう話かもしれないですけど、もしかしたら根本的に何か間違ったかもしれないっていう。
宮武さんは、この心配こそが、今このタイミングでエピソードを収録すべきだと考えた理由だと明かします。もっと調査が必要な話だとしたうえで、これまでのテック業界でアウトライヤーを作ってきたのは若い世代だった、と振り返ります。
宮武さんによると、VCのファウンダーズ・ファンドも、自社の投資先で成功しているファウンダーの年齢が、過去5年間で約5歳上がっていることを見ています。なぜそうなっているのか、社内では誰も合意できていないそうです。
宮武さんは、一つの解決策としてティール・フェローシップ ── 投資家ピーター・ティールが2011年に始めたプログラム。大学を中退または休学して起業などに取り組む若者に、2年間で10万ドルを支給しますのような取り組みを挙げます。
草野さんは、ハードワークの文化が昔よりやりにくくなったことも関係するのではないかと問いかけます。かつてハードワークのイメージが強かったビル・ゲイツも、最近はワークライフバランスの重要性を口にしていると草野さんは指摘し、宮武さんも、社会がそういう方向になっているのは確かだと応じます。
リスクを取る人を祝う社会へ、何ができるのか
宮武さんは、ここまでの話を、リターンを生むのはアウトライヤーだという前半の議論に戻してまとめます。その構造はVC業界だけでなく、医療、エンタメ、そして会社の中にも当てはまるといいます。
やっぱり10Xのエンジニアって呼ばれるぐらい、いわゆる10倍のパフォーマンスを出すエンジニアって言われるぐらいアウトライヤーっていうのは各会社にいるので。
宮武さんは、アウトライヤーを生み出せる場所をどう作るかが今後もっと重要になる一方で、今は作りにくくなっているかもしれないと話します。草野さんが「どういうところが作りにくくなっているのか」と尋ねると、宮武さんは社会的な障壁や資金モデル、特に社会的なプレッシャーの大きさを挙げます。
草野さんは、オールドメディアから批判されがちな点も似ていると指摘します。宮武さんは、批判されるべき点はたくさんあるとしつつ、同時にすごいことをしているのも事実だと応じます。
宮武さんは、学校などでは、もっと確実に成功するやり方、まさにリーンスタートアップ的なモデルを目指す社会になりがちだと話します。そうではなく、もっとリスクを取る人たちを祝うことが必要で、大失敗する事例がたくさん出るとしても、そこに重きを置くことが今後重要になると考えています。
草野さんは、社会の風向きを変えなければ、一つの組織やVCファンドだけではうまくいかないと応じます。宮武さんも、VCが社会を変えるのは難しいので、起業家にさまざまな形で支援を送ることが、VCにできることだと話します。
アウトライヤーをもし見つけた場合は、その存在ってめちゃくちゃ特別なものなので、だからこそアウトライヤーって呼ぶくらいなので。
最後に草野さんが、最近身近でアウトライヤーだと思う人に出会ったかと尋ねます。宮武さんは、独身のさんが最近関わった音楽関係の人や、ミスタービーストの名前を挙げ、そういう人たちをもっとサポートしなければいけないと感じたと話します。
まとめ
今回のエピソードでは、ディズニー、VC、S&P500、基礎研究と領域を横断しながら、リターンを生むのはごく一部のアウトライヤーだという構造が示されました。宮武さんは、短期的な失敗を減らすリーンスタートアップに偏るあまり、テスラやOpenAIのような大型の挑戦と、それを担う若い起業家が生まれにくくなっているのではないかと問いかけています。
- ミッキーや白雪姫のように、エンタメでも数多くの失敗の中からごく一部の作品が大きなリターンを生む
- VC投資では約6%の案件が全体リターンの約6割を生み、S&P500でもApple1社が180社分の時価総額を持つなど、上場市場にも偏りがある
- 上場企業も、スタートアップとほぼ同じ率で失敗していくと宮武さんは指摘する
- リーンスタートアップは失敗の確率を下げる一方でアップサイドを奪いうるもので、資本を先に投じる「ハリウッド映画型」の挑戦も必要だと語られた
- トップ起業家に20代がいない現状を懸念し、リスクを取る人を祝う社会への転換と、起業家への支援が重要だとまとめられた


