SNSは「人の欲求」を映すサービス?
この回のテーマは「次世代SNSの作り方」です。前回の放送に続いて、ソーシャルアプリの話が取り上げられています。
草野さんはSNSの話が好きだと言い、その理由を、SNSが人の欲求と深く関わるサービスだからだと説明します。
結局、課題解決してて、デザインも優れてても流行らないっていうのが(SNS向けの)サービスの面白さだなと思って。
草野さんによると、最近の新しいSNSは「こう見せたいから、このサービスがある」という欲求起点で設計されたものが多く、作り手がそれを理解している印象があるそうです。
一方で、見た目がよくても伸びなかった例として、草野さんは一時期期待されたショートフォームのポッドキャストを挙げ、宮武さんはAirchat ── 音声で投稿・会話するSNSアプリ。テキストではなく声でやり取りする点が特徴で、2023年前後に話題になりましたの名前も出しています。
成功するSNSを見分けられるかと問われた草野さんは、「わかったら投資家か起業家になっている」と笑いつつ、すでに友達がいるかどうか、つまりネットワーク効果の強さが大きいと答えます。
宮武さんも、Facebook以前に学校で流行っていたHi5 ── 2000年代に人気だったSNS。プロフィールページや友達とのつながりを中心にしたサービスで、Facebookの普及とともに存在感を失いましたというサービスを例に、周りが使っているかどうかで勝ち負けが決まってきたと振り返ります。
Gas創業者ニキータ・ビアさんとは何者か
この回の具体例として宮武さんが取り上げたのは、去年末のローンチ以来ずっと推していた高校生向けSNSアプリGasです。Gasは後にDiscordに買収されています。
宮武さんは、Gasそのものよりも、そこから得られる学びと、Gasが何を象徴しているのかを話したいと前置きしています。
Gasを作ったニキータ・ビアさんは、その前にTBH(To Be Honest)というアプリを作り、Facebookに買収されています。TBHは、運営側が用意した質問にユーザーが答える、ポジティブな内容の匿名投票アプリでした。
ニキータ・ビアさんはTBHの前に、5年間で15ほどのアプリを出しては失敗し続けていたそうです。その積み重ねの最後に出したのがTBHでした。
5年も(ニキータさんは)くすぶってたんですね。それもすごい。やっぱ努力の人なんだな。
TBHはローンチから6週間以内に最初の買収のタームシートが届き、複数社がオファーを出し合った末にFacebookに決まりました。買収額は宮武さんの記憶で40ミリオンドル程度で、5年半ほど前の出来事です。
Facebookはロックアップ ── 買収後、創業者などが一定期間会社に残ることを条件に対価を支払う取り決め。途中で辞めると満額を受け取れない形が一般的ですをかけていたとみられ、その期間はおそらく5年でした。
その5年が明けたとき、ニキータ・ビアさんは友人のグループメッセージに「90日間で10ミリオンドルを稼げるアプリを作りたい」と送ります。これがGasを作るきっかけになりました。
「誰が投票したか」に課金させる仕組み
Gasの中身は、ローンチ方法も含めてほぼTBHと同じで、違いは課金を入れたことでした。宮武さんはGasを、半匿名性の投票アプリと説明しています。
名前の由来について、草野さんは「gassing someone up」から来ているのではと尋ね、宮武さんは「その人を盛り上げる」という見方もできると答えています。もともと別の名前で、途中で変えたそうです。
Gasは高校ごとに利用者を区切り、「高校内で誰が一番ハロウィンの仮装が上手いか」といった投票をさせます。背景にあるのは、人は自分や周りの人に強い関心を持つという考え方です。
自分が投票で選ばれるとアプリから通知が届きますが、誰が投票したのかを知るには課金が必要です。しかも異性かどうかや何年生かといったヒントが出るため、余計に知りたくなる設計になっています。
でもなんか、さらに余計(投票したのが)自分が知ってる人だって思うと、気になりますよね。
ローンチは3つの高校に限定して始めました。さらに初期のトラクション ── 事業が市場で受け入れられ始めていることを示す手応えや数字。ユーザー数や売上の伸びなどで測られますを作るまでは、App Storeのカテゴリをソーシャルではなくパズルゲームにして、見つかりにくくしたうえで検証を行ったそうです。
目標が「3ヶ月で10ミリオンドル」だったため、Gasは継続率をあまり気にせず、アプリ内課金と週ごとのサブスクで稼ぐ設計でした。資金調達も一切していません。
週ごとのサブスクの価格は7ドルです。宮武さんは「Netflixの2倍」、草野さんは「一週間でおよそ1000円」と換算し、月にすれば4000円ほどかかる計算になります。
自分がその子供の親だったら、ちょっとやめてよって。
Instagramを使った一斉ローンチと驚異的な数字
Gasの初期グロースの方法は、学校ごとにInstagramアカウントを作るところから始まります。アカウントを非公開にしたうえで、その高校の生徒全員をフォローし、フォローリクエストを送ります。
非公開アカウントなので、生徒たちはリクエストを承認しなければなりません。ローンチ日の放課後、生徒全員が一斉に承認することで、みんなが同じタイミングでアプリの存在を知る仕掛けです。
宮武さんによると、この手法はTBHと同じで、もともとFacebookの社内メモで「高校生にアプリをバズらせる」プレイブックとして公開されていたものだそうです。それでもニキータ・ビアさん以外に使っている人は見たことがないといいます。
なんかFacebookとかだと新規事業部あるじゃないですか。毎3ヶ月に1回新しいアプリとか作らなきゃいけないって考えたら、いちいちやってられないんだろうなっていうのを思って。
ローンチから1週間ほど経つと、ニキータ・ビアさんは成果をツイートし始めます。DAU100万人の達成に加え、普通は誰も出さないような「1時間あたり」の指標を公開したのが特徴でした。
Gasはアプリストアで1位にもなりました。宮武さんが特に注目したのは、バイラル性を表すKファクター ── 新規ユーザー1人が何人の新規ユーザーを招待するかを示す指標。1を超えると、ユーザーが自然に増え続ける状態になりますです。
ほとんどのアプリのKファクターは1以下で、1ならすごいと言われます。Gasはこの期間中、基本的に2を超えていました。
結果としてGasは4ヶ月で6〜7ミリオンドルの売上を作り、1000万ダウンロードを突破しました。最終的にはDiscordに買収され、3〜4ヶ月かかったものの、10ミリオンドルには届いたのではないかと宮武さんは見ています。
SNSは「ファストファッション化」しているのか
Gasのアプリは今も存在していますが、ダウンロード数は大きく下がっています。宮武さんは、Gasの盛り上がりは本当に一時的なものだったと話します。
ただし草野さんは、SNSはただでさえマネタイズが難しいのに、Gasが収益を立てたこと自体がすごいと評価します。宮武さんも、多くのSNSはユーザーを集めてから課金に移るので、初日から稼いだのは異例だと応じています。
一方で、短命に終わる例は他にもあります。次世代SNSと言われたPaparazziはシャットダウンし、一時期400万人いたMAUが数ヶ月後には数千人になりました。BeRealもアクティブユーザーが下がっているようだといいます。
こうした状況から、業界では「SNSがファストファッション化している」と言われ始めているそうです。宮武さんは、これは作り方が間違っているという話かもしれないと付け加えます。
Gasは資金調達をせず、この流れを理解したうえで動いていたので正解だったと宮武さんは見ています。一方、VCから調達している会社はそのやり方を選べません。
宮武さんがPaparazziの関係者から直接聞いた話では、機能の一部でもInstagramでできてしまうなど既存アプリとかぶった時点で、長期的には勝てないそうです。
一時的なバズは生めるんですけど、長く続くことはほとんど無理だっていうのを(Paparazziの関係者は)言ってて。
そのため、一機能の違いや捉え方を少し変える程度では勝てず、どんな消費者体験を作るかが重要になると宮武さんは話します。今後のSNSは、より早めにマネタイズすることも重要になるかもしれないといいます。
種まき・グロース・ネットワークホッピングの3段階
長期的なアプリの作り方は別の機会に譲り、ここからはバズるための具体的なTipsに話が移ります。宮武さんはまず、SNSを作るうえでの3つのパーツを示しました。
種まきはスケールしなくていい部分ですが、一発目で正解する会社はほぼいないため、やり続ける必要があるそうです。そして宮武さんが強調するのは、自分で獲得するより、友達が友達に共有する流れを考えることです。
外から見ると、バズったSNSはコンセプトを聞いただけで「確かにバズりそう」と思えます。しかし宮武さんによれば、実態は招待ボタンをどこに置くか、連絡先のランキングをどう並べるかといった細部にあります。
結局そのアプリを使わないモチベーションの方が常に強いと思わないといけないので。なんで、極論キーボードを使わせないとか。
「キーボードを使わせない」の例として宮武さんが挙げるのは、連絡先へのアクセスを許可してもらった際、多くの人が連絡先に入れている自分の情報を使い、名前・電話番号・プロフィール写真をあらかじめ埋めておく方法です。
ユーザー獲得の難しさを示す例として、Gasはアメリカの朝の情報番組で5分ほど取り上げられましたが、視聴者が400万人ほどいる番組でも、ダウンロードは1000件ほどだったそうです。
TikTok、大学新聞、パーティーのスポンサー
では、実際にアプリストア1位のアプリはどうユーザーを獲得しているのか。宮武さんは、アンドリーセン・ホロウィッツ ── シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル。略称はa16z。消費者向けアプリの動向レポートなども発信していますのオリビアさんによる、去年iOSで1位になったアプリのまとめを紹介します。
そのまとめによると、スタートアップで1位になったのは20社で、GasやBeReal、NGL、Locketなどが含まれます。そのほとんどがTikTokでバズっていたそうです。
草野さんは、ユーザーが投稿したくなる仕組みが大事だと指摘します。宮武さんはLocketのようなウィジェット系アプリを挙げ、草野さんはBeRealの1年のまとめ動画も例に出しています。
アメリカでiOS全体ランキングの1位になるには、平均的に1日10万ダウンロード程度が必要だと言われているそうです。
ただし宮武さんは、バズりすぎが良くないケースもあると注意を促します。ユーザーが集まりすぎて体験が追いつかない場合、自分で投稿したバイラル動画を一度アーカイブしてグロースを調整する人もいるといいます。
アメリカの大学生を狙う場合のTipsとしては、大学新聞への掲載が挙げられました。紙とオンラインの両方があり、ハーバードの大学新聞にはFacebookを作った頃のマーク・ザッカーバーグも載っていたそうです。
ほかにも、大学のアンバサダーを置く、人気のパーティーのスポンサーになるといった方法がよくあるといいます。草野さんも「ドーナツを無料であげるからダウンロードして」という最近のSNSアプリを見たことがあるそうです。
宮武さんによると、ダウンロードにつなげるには、ユーザーが1日に3回はそのアプリを目にする必要があると言われています。
何曜日にローンチすべき?BeRealが生んだ「同じ瞬間」
リリースのタイミングについて、宮武さんは草野さんにクイズを出します。リアルな友達がいるタイプのSNSなら何曜日に出すべきか、という問いです。
答えは「木曜から日曜はリリースするな」でした。オンラインのアクティビティが最も低いのは金曜と土曜で、おすすめは日曜の午後から火曜までだそうです。日曜の夜は、週の始まりを前にオンラインになる人が多いといいます。
(週の始まりは)話題にしやすいですもんね、やっぱ。
宮武さんは、すべては話題になるかどうかにつながると強調します。Gasのような作り手は、カルチャーモーメントをいかに作るかを考えていて、曜日選びもその一部です。
BeRealは、時間そのものをアプリの機能にしていました。決まった瞬間に全員が一斉にセルフィーを撮るため、アプリを持っていない人には、ユーザーだけが2分間おかしな動きをしているように見えます。
草野さんは、サタデー・ナイト・ライブ ── アメリカの長寿コメディ番組。時事ネタや流行をパロディにするコントで知られていますで、銀行強盗の最中に「今BeReal来たから」と一緒にセルフィーを撮るコントがあったことを思い出します。宮武さんも、試験中に10人ほどが急に写真を撮り出すような光景を挙げています。
草野さんはこれを、街中で人々が同じ場所でスマートフォンを触っていて、覗くとポケモンを捕まえていたというポケモンGOの体験に重ねました。
宮武さんは、アテンションは限られているので、ばらばらにバズるよりこの瞬間にバズらせる仕組みを作るほうがアテンションを取れると話します。BeRealが続くかは別として、SNSアプリが考えるべきポイントだといいます。
Kファクターと「招待は同性に送る」という法則
KPIの話に戻ると、一般的にはDAUやWAUを見ますが、Gasは1時間単位のHAUを見ていたそうです。宮武さんは、本当に見ていたかはわからないとしつつ紹介しています。
Kファクターについては、永久に1以上を保つアプリは存在しません。ただ、人気アプリには1〜2ヶ月ほど1を超える時期があることが多いといいます。
| サービス | 期間 | 宮武さんの補足 |
|---|---|---|
| Gas | 3ヶ月ほど | 2以上を維持 |
| Dropbox | 2012年の1〜2ヶ月間 | 1を超えた時期があった |
| Socialcam | 2〜3ヶ月間 | Facebookのオープングラフを活用 |
| 初期の一時期 | 1を超えていた | |
| Houseparty | 時期の言及なし | みんなで話すために招待する |
草野さんは、ビジネス系ツールは取引先に導入を勧めたくなるので、招待が増えそうだと反応しています。
招待の傾向について、宮武さんはニキータ・ビアさんが多くのアプリを作る中で得た結論を紹介します。アメリカでは、男性は男性に、女性は女性に招待を送る傾向があるそうです。
そのため、UIやアプリ名で異性を意識させすぎると招待されにくくなり、同性同士の招待をどう誘導するかが重視されたといいます。
さらに、実名のアプリでは利用者がおよそ女性6割・男性4割になる一方、匿名にすると比率が逆転するそうです。理由はニキータ・ビアさん自身もわかっていないとのことです。
2017年のTBHと2022年のGasの一番の違いを聞かれたニキータ・ビアさんは、カスタマーサポートの体験を挙げました。文法の整った文章が来なくなり、単語をいくつか並べただけの批判が届くようになったといいます。
雑、雑が多分正しいかもしれないですね。
ピボットマップと共通機能のインフラ化
ニキータ・ビアさんもPaparazziのチームも、複数のアプリを作ることを前提に動いていました。ニキータ・ビアさんは、ソーシャルアプリを作るときは自分のアイデアが間違っているとデフォルトで考えるべきだと話しているそうです。
そのうえで、アイデアを考えた段階で、どこへピボットできるかを考え抜きます。ピボット ── 事業の方向性を大きく転換すること。スタートアップでは、仮説が外れたときに製品やターゲットを切り替える意味で使われます先を並べたピボットマップを作り、共通する機能を見つけ出すのです。
仮説を大量に作る
最初から1つに決めず、ピボット先を並べる
共通機能を見つける
オンボーディング、招待の仕組み、友達を見つける方法など
インフラ化する
毎回ゼロから作らず、コピペできるレベルで再利用できるようにする
仮説検証を高速化
開発スピードが上がり、次々に試せる
ニキータ・ビアさんは5年間で15のアプリを作る中で、3年目あたりから使い回せるパーツを作り出したそうです。
TBHと、GasのUI見てもらったら、なるほどなって言うと思います、皆さん。めっちゃ一緒みたいな。めっちゃシンプルみたいな。
草野さんは、Gasを初めて見たとき、絵文字と文字とボタンだけのUIが一番人気だということに驚いたそうです。改善しやすく、誰にでもわかる点も強みだと話します。
もう1つの方針は、メッセージ機能を初期から入れないことです。ユーザー間でやり取りできるようにした瞬間に、安全面の体験作りが非常に大変になるからです。
特に高校とか大学とかを狙うと、ね、余計(いじめに)なっちゃうので。
代わりに重視していたのが、友達を見つけるシステムです。どうすれば一番仲のいい友達が一番上に出るか、誰を招待させるかを徹底的に考えていたといいます。
宮武さんは、バズ作りには運もあるものの、ニキータ・ビアさんは手法をプレイブック化していると評します。一方で、泥臭さに加え、本人のセンスや周りのエンジニアの優秀さも重なった結果だろうと付け加えています。
ツールが人を形づける。新しい概念とアルゴリズムの影響
宮武さんは、SNSの成功には新しい技術や概念を持ち込んだことも大きいと話します。MySpaceは技術に詳しくない人でもノーコード感覚でページを作れるようにし、Facebookはつながりが増えすぎた更新を整理するためにフィードという概念を作りました。
Instagramはモバイル、Snapchatは動画やストーリーズ、TikTokはAIによるレコメンドと、それぞれ新しい概念と技術を活用してきたといいます。
ここから話は概念的な領域に入ります。宮武さんが紹介したのは、メディア学者ジョン・カルキン ── アメリカのメディア学者。マーシャル・マクルーハンの思想を紹介したことでも知られ、メディアと人間の関係を論じましたの言葉「We shape our tools and, thereafter, our tools shape us.」です。
ラフに翻訳すると、「我々がツールを形づけた後に、ツールが我々を形づける」と。
例として挙がったのが、Instagramのアルゴリズムを作った人物の話です。社内でのニックネームは「ザ・アルゴリズム」だったそうで、その人は、アルゴリズムの導入がコンテンツクリエイター自身に影響を与えると話していたといいます。
TikTokでは、アメリカの動画の冒頭が「And that's why」で始まるものが去年や一昨年あたりから見られるそうです。宮武さんは、これを動画をループさせるための始まり方だと説明しています。
草野さんも、日本の動画でも開始1〜2秒で答えを言ってしまうものや「危険ですよ」「これを知っておけば」で始まるものがあると共感します。
Twitterの140字は、もともとSMSの160字からユーザー名用の20字を引いたことに由来するそうです。その制約がスレッド文化や、ツイートが似通って見える現象につながっています。Instagramに至っては、インスタ映えを狙ったMuseum of Ice Creamのような物理的な場所まで生んでいます。
作り手は、ユーザーにどこまで影響を与えたいかを考える必要があると宮武さんは言います。影響を与えた後に後悔するパターンもあり、Instagramのケビンさんは、インフルエンサーという概念が一番良くなかったと話しているそうです。
でもインフルエンサーみたいな概念を作ったのはInstagramなので、で、それによってケビンさんも今の立場にいるので。
「言うこと」と「やること」は違う。表明選好と顕示選好
もう1つの重要なポイントは、コンテンツが作り手だけでなく、見る側にどう受け止められるかです。アメリカのFacebookでは、レコメンドされた動画に「なぜこれが自分のフィードに出るのか」とクレームを出す人がいるそうです。
ただし宮武さんは、アルゴリズム自体はおそらく間違っておらず、その動画はほぼ最後まで見られるなどエンゲージメントが高いはずだと見ています。問題は、ユーザーが「そういう人に見られたくない」と思う瞬間があることです。
例えばミスタービーストの動画を、自分が例えば50歳なのに見ているっていうのを思われたくないみたいな。
Facebookでこの問題が起きやすいのは、自分がいいねしたものが友達のフィードに表示されるからです。草野さんはTwitterでもいいねの可視化が話題になったと触れ、宮武さん自身も、見られ方を意識していいねを選ぶことがあると認めています。
宮武さんは、言っていることと実際の行動が違うことこそが重要なポイントだと話します。これは英語で「stated and revealed preferences」と呼ばれる考え方です。
ユーザーが言葉で示す好み。キャンパスに人が集まり「やめろ」と抗議した
行動に表れる好み。データ上はエンゲージメントが非常に高かった
Facebookはニュースフィードをそのまま残し、それが最終的に正しい判断だったといいます。会社として、ユーザーの言葉と行動のどちらを信じるかを見極める必要があるということです。
見られ方の問題をうまく解決しているのがTikTokだと宮武さんは言います。TikTokは基本的にシングルプレイヤーで、自分のフィードの中身は公開されないため、何を見ているかがバレないからです。
いいねした相手に通知が届くかどうかについては、草野さんと宮武さんの認識が分かれ、設定次第かもしれないという話に落ち着いています。
親しい友達・知り合い・他人。同心円で見るSNSの地図
宮武さんは、まったく違うSNSの見方も紹介します。真ん中に個人を置き、その周りを関係の近さで円状に並べると、各レベルにそれぞれのSNSが対応しているのがわかるというものです。
宮武さんが面白いと考えるのは、プラットフォームがより身近な層と他人の層のどちらへ動くかです。なんとなくの傾向として、真ん中の「知り合い」の層から各社が離れようとしているといいます。
Instagramはストーリーズで友達寄りの面もありますが、自分を公開するという基本の作りから「知り合い」の層に位置づけられています。そして同社は両方向へ動こうとしているそうです。
(知り合いの層だと)エンゲージメントが取れないからじゃないですかね。
他人の層ならAIのレコメンドで勝負でき、友達の層は親しいぶんエンゲージメントが高い。知り合いの層はエンゲージメントが高くないうえに、他人ほど広くもないというのが宮武さんの見立てです。
草野さんは、投稿する側の気持ちからも説明します。親友や他人になら自分が踊っている動画を見られても平気でも、知り合い程度だと恥ずかしいと感じるかもしれない、という見方です。
見る側でも、仲のいい友達のVlogは面白く、他人の動画も一場面が面白ければ見ますが、名前を知っている程度の人の動画はなかなか見ないと二人は話します。宮武さんは、この層には足りていないものが多いのかもしれないとまとめました。
Twitterはなぜリプレイスされにくいのか
前回の放送で出した問いとして、宮武さんは「Twitterはなぜリプレイスされにくいのか」を取り上げます。Blueskyなどの類似サービスが登場し、Instagramもクローンを出すと報じられている時期の収録です。
宮武さんの答えは、Twitterのユースケースを再現できないからというものです。その特殊さの根源は、全員がTwitterを使っていることにあります。
宮武さんによると、Twitterの一番のユースケースは敵を倒すことです。誰かのツイートを引用して「この発言はこうで間違っている」と書き、それに応援と批判が集まる。この構図が最大の使われ方だといいます。
草野さんは自分ではしないとしつつ、みんなが知っている共通の話題に言及したいという心理は確かにありそうだと話します。
他のプラットフォームでこれができないのは、今のソーシャルアプリは苦手な人をわざわざ招待しないからです。Blueskyのようなサービスがマスになれるかが問題だと宮武さんは指摘します。
結局、初期ユーザーが、例えば民主党派の人たちであれば、共和党派の人たちは入ってこないですよね。
宮武さんは、TwitterはSNSの初期にできたからこそ全員が集まった珍しい存在で、ニュースという共通点も大きかったと見ています。フィルターバブル ── アルゴリズムなどによって、自分の好みや意見に合う情報ばかりに囲まれる状態。異なる意見に触れにくくなるとされますがある今、特に意見が割れるアメリカで同じユーザーベースを作るのは難しいといいます。
さらに、このユースケースはマネタイズに向いていません。口論の場に広告を出したい企業は少なく、広告はもともとターゲットを絞ったほうが効果的だからです。
使われ方の違いもあります。TikTokやInstagramはリラックスしてスクロールしますが、Twitterは前のめりに集中して見る人が多いイメージだと宮武さんは話します。テキスト中心で、集中して読まないといけないことも理由に挙げています。
草野さんは、最近増えた長文ツイートには疲れてしまうと打ち明けます。昔からリアルな知り合いとつながって使ってきたので、「お腹すいた」のようなゆるいツイートこそ見たいそうです。
「気づき9選」みたいな。こうしたら効率化みたいなやつ見て、ああ疲れちゃうみたいな気持ちにもなって。
それでも気になって「後で読む」に入れてしまうことがあると草野さんは言い、それをしているとバレたくないから後で読むにするのだと付け加えます。ここでも、表明する好みと実際の行動のずれが顔を出しています。
リアルタイム検索の可能性と「バイブスのデザイン」
Twitterのもう1つの優位性として、宮武さんはリアルタイム検索を挙げます。Googleでもクローラーがインターネットを一巡するのに3日から30日かかり、ChatGPTもブラウザ機能を必ず使ってくれるわけではないからです。
草野さんも、普通のGoogle検索よりTwitterやTikTokで検索したほうがいい場面があると同意します。宮武さんは、リアルタイム検索をAPIサービスとして提供してもいいのではと、マネタイズに困るイーロン・マスク氏へのアイデアとして挙げました。
総括として草野さんが「Twitter並みに大きなSNSはもう作れないのでは」と投げかけると、宮武さんは、最初のバズは作れても長続きさせるのが難しいと応じます。
長期的なSNSを作るうえで宮武さんが重要だと考えるのは、以前の回で話した「バイブス」、つまり場の雰囲気です。バイブスのデザイナーになることが重要なのではないかと話します。
宮武さんは「すごいざっくり言うと」と念押ししたうえで、どんな雰囲気を作るかが長期的なステータスにつながると話します。歴史的に3〜4年ごとに大型のSNSアプリが出てきているので、そろそろ次が来る時期だといいます。
草野さんはZenlyを惜しかった例に挙げますが、宮武さんはSnapchatがその領域に入ってしまったと指摘しつつ、日本ならまだできるかもしれないと話しています。
草野さんは、インスタ疲れのような不満に応える代替サービスは、生まれても意外と需要がないと感じているそうです。宮武さんはこれも表明選好と顕示選好の問題だと見ていて、Dispoが出ても結局Instagramに戻ったように、行動が変わっていないと説明します。
(アンチインスタは)ただファッションになっちゃうんですよね。一瞬のトレンドにしかならないので。
アンチインスタを掲げるとInstagramのユーザーを集めやすい反面、Y2Kの流行と同じような一時的なトレンドで終わってしまいます。だからこそ、トレンドではなく新しい行動を作ることを意識すべきだと宮武さんは話します。
草野さんは、前回取り上げたアーティファクトやSubstackのように、最初はSNSに見えず、だんだんソーシャル化していく形に可能性を感じています。宮武さんも、Instagramがフィルター、Facebookが友達探しから始まったように、多くのSNSの基盤にはコアなユーティリティがあると応じました。
やり方がわかんないですね。絶対の成功の法則はないですね。
宮武さんも成功の法則はないと認め、だからこそ細かいTipsや全体のフレームワークを示すしかないと話します。草野さんは、国ごとの国民性の違いも難しさの1つだと付け加えて、この回を締めくくりました。
まとめ
Gasの事例が示すのは、SNSのバズはコンセプトよりも、ローンチの方法や招待の導線、指標の見せ方といった細部の設計から生まれるということです。一方で、既存アプリとかぶるサービスは長続きしにくく、ユーザーの見られ方や場のバイブス、新しい行動を作れるかどうかが、次世代SNSが定着するための条件として語られました。
- Gasは匿名投票と「誰が投票したか」への課金、Instagramを使った一斉ローンチで、Kファクター2を超える急成長を実現した
- バズの実態は招待ボタンの位置や連絡先の並び方など細部にあり、ユーザーにキーボードを使わせないほどの工夫が求められる
- ローンチは日曜午後から火曜が推奨され、BeRealのように全員が同じ瞬間に動く仕掛けはアテンションを集めやすい
- ユーザーの言うことと行動は違い、見られ方を気にさせないTikTokのような設計がその溝を埋める一案になっている
- Twitterは「敵がいる」場という再現しにくいユースケースを持ち、長期的なSNSには場のバイブスをデザインする視点が重要とされた





