米国VCの情報はなぜ日本に届かない?
番組「Off Topic」は、VCで働く草野美木さんと宮武徹郎さんが、テクノロジーやスタートアップについてゆるく話すPodcastです。初回は2人の自己紹介から始まります。
宮武さんは株式会社DG Incubationのインベストメントマネージャーです。主にアメリカの投資を担当していて、アメリカと日本を行き来しながら、新規投資案件の発掘と既存投資先のモニタリングをしています。日本の投資先も何社か担当しているそうです。
いわゆるベンチャーキャピタル、VCをやっています。主にアメリカの投資担当が多くて。
草野さんは高校時代に「未希レポ」というオフィス訪問ブログを書いていたことをきっかけに、スタートアップに興味を持ちました。その後、宮武さんと同じDG Incubationに入社し、現在はアソシエイトとして国内の新規投資を中心に担当しています。
草野さんはアクセラレータープログラムも担当していて、参加する起業家をハンズオンで支援しています。宮武さんによると、アジアの案件も時々手がけているそうです。草野さんは来年こそインドやインドネシアに行きたいと話し、アメリカにも行きたいと付け加えました。
番組を始めた理由について、宮武さんは2人がふだんSlackでテック系のニュースを共有し合っていることを挙げます。そのやり取りの中で、アメリカの情報があまり日本に届いていないと気づいたといいます。
USの情報があまり日本に来ていないっていうことに、ある程度気づきまして。日本に届けたいなっていう思いがありまして。
草野さんは、気負わずに面白かったことを共有できればと番組の方針を補いました。
ユニコーン145社、もはや特別ではない時代
最初のニュースとして宮武さんが取り上げたのは、2週間ほど前にTechCrunch ── アメリカの代表的なテック系ニュースメディア。スタートアップの資金調達や新サービスの話題を中心に扱っていますに掲載された、ユニコーンの「5年後のアップデート」記事です。ユニコーンとは、未上場で時価総額1000億円以上の企業を指します。
この呼び方が生まれたのは2013年です。アメリカのVC、Cowboy Ventures ── シリコンバレーのVC。ユニコーンという言葉を広めた記事の筆者が、のちに立ち上げたベンチャーキャピタルですの女性パートナーが、当時在籍していたKleiner Perkins ── シリコンバレーの老舗VC。GoogleやAmazonへの初期投資で知られています時代にTechCrunchへ記事を寄せたといいます。2003年から2013年の間に1000億円に達した会社をユニコーンと呼ぼう、という内容でした。
宮武さんによると、2013年当時は1000億円に達する会社が毎年4社ほどで、ユニコーンは全体でも39社前後でした。一方で5年後の記事では、新たなユニコーンが毎年10社以上生まれ、伸び率は353パーセント、アメリカだけで145社に増えたとされています。
ユニコーンが増えた理由として、宮武さんは2つを挙げます。1つ目は、ユニコーンの定義が「未上場であること」を条件にしている点です。ソフトバンクのように、レイトステージで大型の資金を出す投資家が増えたため、企業は上場しなくても資金を集められるようになりました。
2つ目は、急成長する会社そのものが増えていることです。宮武さんはSlackのほか、法人カードのBrex ── スタートアップ向けの法人カードを提供するアメリカのフィンテック企業。2017年に創業されましたを例に挙げました。22歳のブラジル人が経営する会社で、1年で1000億円規模の評価額に到達したといいます。
(Brexは)何が?何がそんなに評価されてるんですか?
宮武さんの見立てでは、Brexの評価は1年で2000社以上に導入された成長率によるもので、売上の倍率で見るとまだそれほどでもないそうです。かつては平均7年半かかっていたユニコーン到達までの期間が、今では6年に縮まったといいます。
当然そうじゃないですか。1000億の会社なんてそんな簡単に作れるわけないので。で、今ですと6年になったんですよ。
こうした変化を受けて、記事では「ユニコーンはもう特別ではないのではないか」という見方が示されました。VCやTechCrunchのあいだでは、次は評価額1兆円規模の「デカコーン」を目指すべきだという声が出ているそうです。
資金が集まりやすい背景について、宮武さんはUberやSlack、Facebookのような有名テック企業に憧れて起業する人が増え、そこにお金を投じたい投資家も増えている点を挙げます。今のところ資金は余っているものの、来年あたり景気が悪くなるのではと話すアメリカのVCもいるそうです。草野さんは、今のうちに調達して備える動きだと受け止めました。
米国VCでも3倍のリターンは難しい?
VCそのものは増えているのか、という草野さんの問いに対し、宮武さんはVCの数は増えているものの、パフォーマンスがよいかは微妙だと答えます。アメリカでは、出資者であるLP ── リミテッド・パートナーの略。VCのファンドにお金を出す投資家のことで、年金基金や大学基金、事業会社などが当たりますが、基本的に3倍のリターンを求めるといいます。
宮武さんによると、日本のLPも3倍と口にはしますが、海外の情報がほしいなど、リターン以外の目的がメインになるケースもあるそうです。一方でアメリカのLPは、ヘッジファンドなど他の投資先ではなくVCを選んでいる以上、確実にリターンを求めます。
ところが、実際に3倍以上を返しているアメリカのVCはごくわずかだといいます。宮武さんは、セコイアやアクセルのような強いVCもあるものの、なかなか出てこないと話します。書き起こしではその割合が「五倍以下」と聞き取られており、3倍以上を返すVCの割合です。
少ないんですよ。なんで、そんなにパフォーマンス良くないんですよ。USのVCですら。
理由として宮武さんが挙げるのは、ファンドが大きくなるほど3倍の達成が難しくなるという構造です。日本では1000億円のファンドはなかなか集められませんが、宮武さんは、それはむしろよいことでもあると言います。
1000億円を集める
大型ファンドを組成する
3000億円を返す必要
3倍のリターンを出すための回収額
ホームラン1本では不足
大量のヒットか、ホームラン5本程度が必要になる
3000億返すっていうことは、1個のホームランじゃ絶対足りないんですよ。
3000億円を返すのは日本ではまず無理だという点で、2人の意見は一致しました。宮武さんは、3倍を目標にするなら、アメリカのVCも意外とうまくいっていないとまとめます。ユニコーンは増えていても、バリュエーションも上がっているため、高い評価額で投資するとリターンが出にくくなるという含みです。
話の最後は、ユニコーンとデカコーンという名前の話題に戻りました。草野さんはデカコーンを最初に聞いたとき、日本語の「でかい」だと思ったと笑います。宮武さんは、英語の「デカ」が10を意味すると補足しました。
eスポーツはMLBを超えたのか?
次の話題は、ベンチャーキャピタルのa16z ── シリコンバレーの大手VC、アンドリーセン・ホロウィッツの略称。創業者2人の名前に由来し、AとZの間に16文字あることからこう呼ばれますが毎年公開している、今後10年のテクノロジーを予測するカンファレンス動画です。草野さんは2018年版を見て面白かったと話し、特にeスポーツ市場の伸びに注目しました。
動画では、eスポーツの視聴者数が野球のMLBを上回るという話が紹介されていました。草野さんがこれをどう思ったかと尋ねると、宮武さんはまず比較そのものに疑問を示します。
宮武さんによると、eスポーツのファン数をバスケやサッカー、アメフトなど既存スポーツと比べる試みは2〜3年前から続いています。前年はアイスホッケーのNHLを超え、今年はMLBを超えたとされています。ただし、eスポーツの数字は多くのゲームをひとまとめにしたものです。
eスポーツ対通常のスポーツの比較であればわかるんですけど、eスポーツの中の例えばLoLとかスタークラフトだったり、ドータとか。
宮武さんは、リーグ・オブ・レジェンド ── 略称LoL。5人対5人で戦う対戦型のオンラインゲームで、世界有数の競技人口と大会規模を持つeスポーツタイトルです、スタークラフト、Dota、カウンターストライク、オーバーウォッチなどを挙げます。そのうえで、個別タイトルの1つが将来NBAと肩を並べるかもしれないと考えると、eスポーツはまだまだ浸透の途中だと話しました。
これに対して草野さんは、スポーツを見る時間とゲームをする時間を比べれば、ユーザーの時間を奪い合っているという意味で比較対象になるのでは、という見方を示しました。
宮武さんがeスポーツの面白さとして強調したのは、TwitchやYouTubeを通じて、プロではない一般の人がゲームをする姿を見る文化を作り上げた点です。そこから新しいスタートアップやビジネスのエコシステムが生まれているといいます。
続いて宮武さんは、eスポーツの視聴者層がNBAとよく似ていると話します。草野さんは、eスポーツ好きはギーク寄り、バスケを見る人はスクールカーストの上の層というイメージで、真逆だと思っていたと驚きました。
18〜30歳のミレニアル世代が中心で、やや男性寄り。SNSに詳しい層
視聴者の中心は40〜50代。デジタルユーザーを集めるのに苦しんでいる
バスケって試合を全部見る人って割と少ないので。SNSで多少ハイライト見たりすると同時にYouTubeで、LoLを見たりするので。
バスケを見る体験とゲームをする体験は違うのでは、という草野さんの疑問に、宮武さんはこう答えました。草野さんが、サッカー好きはウイニングイレブンをやると応じると、宮武さんはバスケにもNBA 2Kがあり、日本語版もあると付け加えました。
デジタルは経済のごく一部にすぎない
a16zの動画で宮武さんが個人的に面白かったのは、デジタルが経済全体のごく一部にすぎないという指摘でした。2018年版の動画のタイトルは「The End of the Beginning」です。
USのVCも多分日本のVCも同じなんですけど、国内のマーケットを見がちで、なおかつ国内のデジタルマーケット、ITテック系のマーケットしか見ない傾向にありまして。
草野さんは、小売りの話が特に印象的で、Eコマースは本当に小さな市場なのだと感じたと話します。宮武さんによると、Eコマースが占める割合はアメリカでも数パーセントほどで、世界で見れば1パーセント以下になるほどだといいます。
宮武さんは、実店舗の小売り市場に向けたスタートアップがアメリカでも出てきていると話し、急成長中の会社としてPodiumを挙げました。草野さんに一言で説明してほしいと頼まれると、「フィジカルリテール用のIntercom ── Webサイトやアプリ上で、企業が顧客とチャット形式でやり取りするためのサービス。顧客対応やマーケティングに使われています」と表現しています。
Podiumは、レストランやバー、小さなアパレル店などの実店舗にテクノロジーを提供しているそうです。宮武さんは、デジタル化が進んでいない実店舗こそ大きな市場になり得るという見方を示しました。
C向けとアメリカの話は次回へ
終盤、草野さんは、2人とも小売りやD2Cの話が好きなので次回また話したいと提案しました。宮武さんは、2人ともC向けサービスやメディアの話が好きだと応じます。
宮武さんは、C向けは自分たちの投資領域とはあまり合っていないと冗談めかしつつ、今年は自分の担当案件で3件ほどC向けを手がけていて、今後増やしたいと話しました。草野さんも、そうしたサービスのほうが好きだと同意しています。
配信頻度はリスナーの反響と2人のタイミング次第とのことです。収録日はアメリカのThanksgivingにあたる11月22日の木曜日でした。最後に草野さんは、宮武さんが11年間アメリカに住み、アメリカの大学を卒業していることを伝え忘れたと補足し、アメリカの話は次回に持ち越されました。
まとめ
初回は、米国の情報を日本に届けたいという動機から始まり、ユニコーンの急増、VCのリターンの難しさ、eスポーツとデジタル市場の可能性まで、米国スタートアップの今を幅広く取り上げる内容でした。
- 米国のユニコーンは145社に増え、到達までの平均期間も7年半から6年に縮まった
- レイトステージ資金の増加で上場しない会社が増えたことが、ユニコーン急増の一因とされる
- ファンドが大きいほど3倍のリターンは難しく、米国VCでも達成できるところは少ない
- eスポーツは既存スポーツとの単純比較より、視聴文化とエコシステムを生んだ点が面白いと宮武さんは話す
- デジタルは経済のごく一部にすぎず、実店舗向けのテクノロジーに大きな余地がある


