出張先のニューヨークとサンフランシスコから
OffTopicは、VCで働く草野美紀さんと宮武哲朗さんが、気になった海外のスタートアップやテックニュースをゆるく紹介する番組です。この回は、宮武さんがニューヨーク、サンフランシスコ、ユタへ出張中だったため、海外とつないで収録されています。
宮武さんは収録当日にユタのソルトレイクからサンフランシスコに着いたところで、前の週はニューヨークにいました。ニューヨークはまあまあ寒く、ユタは雪が降っていて、みんながスキーをしたがっていたといいます。
ニューヨークでは、宮武さんの到着当日に大きなクリスマスツリーのライトアップがあり、街はすっかり12月の雰囲気だったそうです。
AmazonやAdidasが進める「地域別」の店づくりとは?
宮武さんがニューヨークへ行った目的の1つは、自身も気になっていたD2Cの店舗巡りでした。訪れたのはAllbirds、Everlane、Glossier、Casper、Awayなどです。
あわせて見に行ったのが、Amazon 4-Star ── Amazonが運営する実店舗。オンラインで星4つ以上の評価を得た商品を中心に並べていますです。ニューヨークで4つ星の評価を得た商品を集めた店舗だといいます。
本当にニューヨークの人たちがよくAmazonで買うものを、まあそのデータがAmazon持ってるので、それを店舗化したみたいな感じですね。
品ぞろえはライフスタイル系から電気製品まで幅広く、アメリカ全体ではなく地域別に構成されている点がポイントです。宮武さんによると、Targetのような大手も、小さめの店舗を地域別に展開することを検討しているそうです。
地域に合わせた店づくりの例として、宮武さんはNikeとAdidasを挙げます。NikeはLAの新店舗で、車文化に合わせて車で商品をピックアップできるようにしたといいます。
Adidasは、街ごとに違うランニングシューズを作り始めました。雨の多いシカゴ向けや、角を曲がることの多いニューヨーク向けのクッションを備えた靴など、その街でしか買えないモデルだそうです。
(ご当地のポケモンのように)そこに行かないと(買えない)みたいな。ちょっとレアな感じがして欲しくなりそうですよね。
地域の購買データ
Amazonはニューヨークの人がよく買う商品のデータを持っている
地域に合わせた品ぞろえ
4つ星の商品を集め、地域別に店舗化する
街ごとの体験
NikeはLAで車でのピックアップ、Adidasは街専用の靴を展開
Glossierの店舗はなぜ「一番体験型」なのか
D2Cの店舗の中で、宮武さんが特にすごいと感じたのがGlossierとCasperの体験型の店づくりでした。Glossier ── ニューヨーク発のコスメブランド。SNSを通じたコミュニティづくりで知られるD2C企業ですは、その中でも一番体験型だといいます。
Glossierの店舗は、鏡をあちこちに置き、洗面台のような鏡とシンクまでわざわざ作って、誰でも商品を試せるようにしています。サンプルが大量に置かれ、店員も試すよう声をかけてくれるそうです。
それによってなんか結構お客さん同士で、これいいんじゃないって言い合ったりとかもしてたので。
草野さんは11月にサンフランシスコを訪れた経験から、AllbirdsやEverlaneは環境に配慮し、シンプルで質のいいものを好むサンフランシスコらしさがあると話します。それに比べ、Glossierはニューヨークっぽいスタートアップだという見立てです。
宮武さんもGlossierはおしゃれだと同意し、社長が元VOGUEの人であることも理由ではないかと話します。そのうえで、Glossierは商品開発でユーザーのフィードバックを非常に多く使っている点が違うのではないかと指摘しました。
ピックアップ用の1階と、試すための2階
Glossierの店舗は1階と2階が売り場で、1階はオンラインで購入した人が商品を受け取ってすぐ出ていけるピックアップのコーナーです。草野さんは、オンラインで買ったなら家に届くほうがうれしいのではと疑問を投げかけますが、宮武さんも理由はわからないといいます。
僕が入った時に一人だったんで、明らかにこいつピックアップだろうって多分思われて、ピックアップはこっちですよって言われたんですけど、ちょっと違くて。
2階は商品を試せる売り場で、注文は従業員が持つタブレットから行います。注文後は従業員だけが入る3階で袋詰めされ、2階で受け取る仕組みです。
受け取るパッケージは、薄いピンクの「Glossier」と書かれた袋の中に、プチプチのジップロック状の袋が入り、ステッカーも同封されていたといいます。草野さんがInstagramで見ていたイメージどおりの形でした。
ソファで待つ人たちとGlossier Boyfriends
Glossierの店舗には、家族連れ、20代の女性グループ、30代や40代、さらに年配の方やカップルまで、さまざまな人が来ていたそうです。店内には明らかに男性が座るためのソファがあり、彼氏や夫がスマホをいじりながら待っていたといいます。
草野さんは、Glossierに関連して「Glossier Boyfriends ── Glossierで買い物をするパートナーを待つ男性の写真を集めたInstagramアカウント」というアカウントがあると紹介します。個人なのか公式なのかは不明ながら、フォロワーは8000人ほどいるそうです。
宮武さんは、Glossierはこうした仕掛けが上手く、SNSでGlossierについて話した投稿にはほぼすべて反応しているのではないかと話します。草野さんも、商品開発にInstagramのアカウントを使ってフィードバックを集めていると補足しました。
宮武さんによれば、Glossierはもともとレビューし合うコミュニティのような場から始まりました。社長はコミュニティから意見を集めるのが上手く、それを重要視してきたことが、コミュニティの声を会社の文化にする姿勢につながっていると見ています。
Casperの店舗では本当に寝られる?
マットレスのD2CであるCasper ── ニューヨーク発のマットレスのD2Cスタートアップ。オンライン販売と配送を中心に成長しましたは、ニューヨークに店舗を2つ持っています。普通の店舗と、その裏に新しく作られた「Dreamery」です。
Dreameryは、25ドル(約2500円)を払うと45分間寝られる施設です。パジャマが渡され、暗い部屋に並ぶポッドの中で、2種類から選べるCasperのベッドと枕を使って眠れるといいます。宮武さんは今回は覗いただけで、利用はしなかったそうです。
普通の店舗にも、サイズやレイアウトの異なるモックの部屋が6つほどあり、横になって試せます。購入は基本的にオンラインで、マットレスをその場で持ち帰るのは大変なため、配送する形をとっています。
宮武さんによると、Casperの売上は昨年300億円ほどですが、2016年は200億円ほどでした。100億円増やしたのはすごいとしつつ、若干伸び悩んでいるのではないかと見ています。
Purpleの上場はなぜSpotifyと似ているのか
マットレスのスタートアップとして、もう1社話題に上がったのがユタのPurple ── ユタ州のマットレスのスタートアップ。2017年に特別買収目的会社との合併を通じて上場しましたです。草野さんの「イグジットしましたか」という問いに、宮武さんはイグジットというより上場だと答えます。
宮武さんの説明では、Purpleは上場時に新株を発行して資金を調達しておらず、Spotifyと似た形だといいます。
Spotifyはそれ(調達)をやりたくなくて、調達はしたくないんですけど、いわゆる既存株主、まあ本当に初期で入ってくれた株主に対してEXITの機会を与えたいっていう話で、上場したんですよね。
通常の上場は株を新しく発行して資金を集めるものですが、Spotifyの場合は既存株主が売った分だけ一般の人が株を買える仕組みだったと、宮武さんは説明します。
新しく株を発行し、資金を調達する
調達はせず、既存株主が売った分だけ一般の人が株を買える
草野さんは、Purpleの上場を報じたTechCrunchの記事で、CEOが満面の笑みでマットレスに寝転がっている写真がとても良かったと、本筋と関係のない感想も添えていました。
D2Cのイグジット先は大手小売?
話はCasperに戻ります。Casperの直近の資金調達にはTargetが出資しており、もともとTargetが1000億円ほどで買収するのではという話もあったものの、検討の結果出資になったと宮武さんは聞いたそうです。
草野さんは、D2Cは盛り上がっているものの、結局イグジットはどうなるのかがよく話題になると指摘します。アメリカでは大手小売による買収が多いのかという問いに、宮武さんは「まさにそうです」と答えました。
特に買収が目立つのがWalmartで、Jet.comやBonobosなど、数も額も大きいといいます。その影響もあってか、WalmartはeコマースのシェアでAppleを抜いて3位になったそうです。
宮武さんは、Walmartの伸びには買収が効いた部分もあるのではないかと見ています。
日本の小売はD2Cを買うのか?
草野さんは、大手小売によるD2Cの買収はアメリカだからできることなのかと問いかけます。宮武さんは、日本ではそもそもD2C自体をあまり見ないと答えました。
そもそもこういう商品が日本で売れるかっていうとわかんないですからね。
草野さんは日本の事例として、イオンがミレニアル世代向けのオンラインに特化したホールセールビジネス「VOX」に投資していたことを挙げます。宮武さんはイオンは珍しいと反応しました。
宮武さんは、この領域はどんどん変わっていき、「リテール3.0」か「2.0」かはわからないものの、新しい時代が来ていると強く感じると話します。
Awayの強さは商品か、ブランディングか
ほかに面白かった店舗として、宮武さんはスーツケースのD2CであるAway ── スーツケースを中心とした旅行用品のD2Cブランド。充電機能付きのスーツケースなどで知られますを挙げます。ただ、商品自体が圧倒的に違うのかはよくわからなかったといいます。
まあ便利そうで値段的にそんな悪くなさそうっていう感じはしたんですけど。うーん、なんかこれ(Awayのスーツケース)がなんか圧倒的に違うのかって聞かれると結構わからなかったですね。
一方で、Awayは今年のアメリカのスーツケース市場の売上で16%を占め、すでに2位だといいます。20代や30代を取り込んでいる点が重要だと、宮武さんは見ています。
草野さんは、安いスーツケースと高いスーツケースの中間にある「いい感じのスーツケース」というポジショニングや、厚いカスタマーサポート、充電できる機能を挙げます。さらに雑誌「HERE」を出すなど、ブランディングも上手いと話しました。
宮武さんは、Casper、Away、Glossier、Everlane、Allbirdsはどれもブランディングが非常に上手いといいます。草野さんが創業者自身の困りごとから生まれた点に触れると、宮武さんは、どれも価格の高い良い商品で、そこに綺麗なブランディングが加わっていると整理しました。
AsanaのシリーズE調達はなぜ話題にならない?
後半のニュースは、プロジェクト管理ツールのAsana ── タスクやプロジェクトを管理するチーム向けの業務管理ツール。Facebook共同創業者のダスティン・モスコヴィッツらが創業しましたがシリーズEで5000万ドル(約57億円)を調達したという話題です。評価額は15億ドルで、1500億〜1700億円ほどになります。
草野さんは日本では話題になっていないと話しますが、宮武さんによると、Asanaはアメリカでもなぜかニュースに出ない会社だといいます。調達時にはTechCrunchに載るものの、その間に誰もAsanaのことを話さないのが気になっていたそうです。
なんかすごいのか、なんか良くないのかが全然わからない状況になってまして。で、なんか今回調達して、あ、Asanaってうまくいってるんだっていうのを逆にびっくりしたぐらいだったので。
SlackやTrelloはよく話題になる一方、Asanaの話は聞かないと宮武さん。草野さんはエンジニアには人気だと話し、目立たないのはあえてなのかと問うと、宮武さんは社長の方針かもしれないと答えました。
導入5万社、海外売上50%のトラクション
Asanaの導入企業は5万社ほどで、これはAsana自身も発表していたと宮武さんは確認します。それでも、Asanaについては情報が少なく、「確かにあるな」という程度の認識だったといいます。
草野さんはForbesの記事をもとに、顧客に占めるテック企業の割合は今では20〜30%で、海外売上が全体の50%に達していると紹介します。宮武さんも、社長がFacebookの創業者であることに触れ、ちゃんとしたすごい会社だと評価しました。
調達額が前回より少ないのはなぜか?
草野さんは、ユーザーも有料会員も多い中でのシリーズEの大型調達は、アクセルを踏むという意味ではないかと見ます。これに対し宮武さんは、むしろ調達額が少ないことが気になったといいます。
Asanaの前回ラウンドは7500万ドルで、今回はそれを下回ります。一般的には、調達額が下がると「うまくいっていないのでは」と見られがちだと宮武さんは説明します。
結構VCはそれ(調達額の減少)見てなんか感覚的にうまくいってないんだって思っちゃうんですけど、実はめちゃくちゃうまくいってるんで。
宮武さんは、Asanaはキャッシュをそれほど必要としていないのではないかと考えています。15億ドルの評価額なら少なくとも10%程度、1億5000万ドルほど調達するのが普通なのに、あえてそうしていない点が引っかかったといいます。
15億ドルの評価額なら、10%程度の1億5000万ドルほどを調達
5000万ドルで、前回の7500万ドルも下回る
草野さんは、Asanaを使う企業にSpotifyやUberなど、スタートアップから大手まで幅広い名前が並ぶことに触れます。さらに、Asanaのブログを読み返すと、イベントを開き、役立つ記事をほぼ2日に1回更新している良いブログだったと話しました。
宮武さんの見立てでは、AsanaはVCではなく顧客がいる場所に集中しているからこそ、ニュースでは目立たないのかもしれません。
SpotifyやApple Podcastでも配信開始
番組の最後に草野さんは、OffTopicがAnchor以外でも聴けるようになったと告知します。Spotify、AppleのPodcast、Google Podcastで、少し時差はあるものの配信されるとのことです。
次回もまた気になったニュースを紹介したいと話し、この回は締めくくられました。
まとめ
ニューヨークのD2C店舗は、試せる、待てる、寝られるといった体験を軸にしながら、購入はオンラインに誘導していました。一方で、成長の鈍化やイグジットの行方といった課題も見え、目立たないまま成長するAsanaの話とあわせて、表に出る話題と実態の差が浮かび上がる回でした。
- Amazon 4-StarやAdidasなど、地域のデータや環境に合わせた店づくりが広がっている
- Glossierは店舗の体験設計とSNSでのコミュニティ運営で、ユーザーの声を会社の文化にしている
- Casperは体験型店舗を持つ一方、売上の伸び悩みも指摘され、D2Cのイグジット先として大手小売による買収が注目されている
- Awayを含む人気D2Cは、良い商品と綺麗なブランディングの両立で支持を集めている
- AsanaはシリーズEで5000万ドルを調達したが、話題にならず、調達額も前回より少ない点が注目された




