なぜ優れた経営者は「現場の真実」を自ら取りに行くのか
Off Topicでは3週にわたって、AIを組織に導入したときに何が起きるかを話しています。前回は、人間とエージェントの割合や、組織内のプライバシー、AIがどこまで入り込むべきかといった論点が出ました。
宮武さんが前回の議論で特に面白かったと振り返るのは、AIの導入によって組織内が可視化され、そこにメリットとデメリットの両方が生まれるという点です。人間の組織は、情報をすべて明らかにしないことで成り立っている面もあります。
その秘めてるところがカルト性を生んだり、その組織のカルチャーを生んだりみたいなところもあったりするよねっていう話でしたね。
宮武さんは、成功した経営者の事例を見ていくと共通点があると話します。それは、組織全体に向けてではなく、自分の中で現場を可視化しようとする姿勢です。
この姿勢を指して、英語ではよくGroundTruth ── 本来は地上で実際に確認された情報を指す言葉。転じて、ビジネスでは報告や推測ではなく、現場で実際に起きている事実を意味しますという言葉が使われるそうです。草野さんが「現場主義みたいなことですか」と確かめると、宮武さんは「地面で起きていること」の意味で、現場という意味合いが一番多いと答えています。
宮武さんが最初の例に挙げたのは、Airbnbのブライアン・チェスキーさんが打ち出したFounderMode ── 創業者が経営の細部まで自ら関与して仕切るスタイル。2024年にポール・グレアムのエッセイを通じて広く知られるようになりましたです。チェスキーさんは管理職から企画を上げてもらうのではなく、プロダクトのロードマップを自ら仕切っていたといいます。
スティーブ・ジョブズも同じく、組織の中心で全部の情報を受け取り、全部を判断していたと宮武さんは見ています。ボトルネックになる危険はあるものの、中心にいるからこそ多くの情報を集められたという見方です。
スキップレベルミーティングとエレベーターの恐怖
イーロン・マスクさんの手法として宮武さんが紹介したのは、スキップレベルミーティングです。テスラやスペースXには何層ものレイヤーがありますが、マスクさんは直属の部下を飛ばして、その下の人たちに直接話を聞きに行くといいます。
マスクさんはそこで、今何が起きているのか、どんな課題を解決しようとしているのかを頻繁に探っているそうです。宮武さんは「現場からすると急に来るので、ちょっと怖い」と話します。
草野さんは、それが現場にとっては直接評価してもらえる機会でもあり、中間層が何をしているのかもトップにわかってしまう仕組みだと受け止めました。宮武さんも同意しつつ、その結果として上でも下でもクビになる人が出てくると付け加えています。
ジョブズについては、社員が同じエレベーターに乗るのを怖がっていたという話が出ます。
4階に上がるまでのその間に、「君何やってるんですか?」っていうのを聞かれて。
で、答えがあまり良くないと、(4階に着く)その前にクビになってるっていう。
それ怖いですね。
2人が参加したStripeのイベント「StripeSessions」では、Metaのマーク・ザッカーバーグさんが登壇し、定例ミーティングは週2回だけで、それ以外は自分が重要だと思うミーティングに自由に出入りしていると話していたそうです。
宮武さんはこうした手法に共通する点を、組織にプレッシャーを与えると同時に、トップが自ら現場の情報を仕入れようとしていることだと整理しています。
草野さんは、CEOが重要な会議を選んでくれるのはありがたい一方で、買収の案件と新プロダクトの案件がぶつかるような事態も起きそうだと指摘しました。宮武さんは、だからこそ優先順位を決めないと会社が進まなくなると応じています。
ジェンセン・フアンとStripeはどうやって声を集めているのか
NVIDIAのジェンセン・フアンさんは、少し違う方法で現場の情報を集めているそうです。毎週か2週間に1回ぐらいのペースで、全従業員に「今優先していることのトップ5」をジェンセンさん宛てにメールしてもらう仕組みです。
何千人もいる従業員のメールをすべて読むことはできないため、ランダムに選んで目を通し、今の現場の雰囲気を知ろうとしているといいます。宮武さんは「めちゃくちゃいいやり方」だと評価しています。
草野さんが書く内容について尋ねると、宮武さんは、家族のことなど個人的な話でもかまわないものの、基本は仕事で、その人が優先している5つのことだと答えました。会社全体ではなく、その人の視点から見た重要事項なので、より現場の声が聞こえるという考え方です。
Stripeは、従業員ではなく顧客から情報を仕入れる仕組みを持っています。2週間に1回の経営チームの定例会の最初の30分に顧客が参加し、フィードバックを伝えるそうです。
参加するのはクライアントの社長クラスで、大口の顧客が優先されつつ、それ以外の顧客も入っていると宮武さんは聞いているといいます。顧客にとっては、Stripeのトップ40人ほどに直接意見を届けられる場です。
| 人物・企業 | 方法 | 情報源 |
|---|---|---|
| イーロン・マスク | スキップレベルミーティング | 直属の部下のさらに下の現場 |
| スティーブ・ジョブズ | エレベーターで社員に仕事を尋ねる | 社員 |
| マーク・ザッカーバーグ | 定例は週2回、重要な会議に自由に出入り | 各チームの会議 |
| ジェンセン・フアン | 従業員の優先事項トップ5をメールで集める | 全従業員 |
| Stripe | 経営定例の最初の30分に顧客が参加 | 顧客 |
宮武さんは、社長自ら動くか経営チームでやるかの違いはあっても、常に現場の声を聞きに行く体制を持つことが大事だと話します。そして、それがAIによってもっとできるようになるのかが気になると問いを立てました。
新規事業に偏ったとき、ほかの現場はどうなるのか
草野さんは、ザッカーバーグさんのように新規事業のチームに力を注ぐことと、従業員や顧客の声を聞くことの両立は難しいのではないかと尋ねました。
宮武さんは両立はできると答えます。ザッカーバーグさんは自分で手を動かすことはほとんどなく、方向を示し、調整し、大きな課題を解決するのが役割なので、複数の場所に入れるという見方です。
今Metaはその50人のAIチームを作ろうとしているので、多分そっちに今まではAIに、わかんないですけど、3割とか4割の時間を使ってたのかもしれないですけど、今だともう7割使ってるとか。
宮武さんは、何かを犠牲にする必要はあるものの、会社で一番の優先事項に一番時間をかけるべきであり、むしろ偏ったほうが正しいとも考えています。
偏ったとき、ほかの部分は別の人が補うのか、それとも見なくなるのかという草野さんの問いに、宮武さんは「見なくなるのが一番自然」と答えました。ファウンダーモードの会社では創業者のリソースが一番の制約になるため、現場に任せるか、いったん放置するかの選択になるという考えです。
CEOのAIを全管理職のそばに置けるか?
宮武さんは、トップが現場を知るのはAIのあるなしにかかわらず難しいとしたうえで、AIがあればもっと可能になるのかを考えます。これまで一人を育てる方法としては、トップの隣でずっと過ごすシャドーイングプログラムがありました。
例として挙がったのは、ジェフ・ベゾスさんとアンディ・ジャシーさん、MrBeastさんの配下にいる人物です。1年間ずっと一緒にいて同じ情報を見ることで、トップの考え方やアウトプットを学ぶもので、宮武さんは「簡単に言うとAIモデルのトレーニング」だと表現しています。
ただし、一緒に行動できる相手は限られるため、シャドーイングはほぼ1対1でしかできません。宮武さんは、その判断や考え方をすべてAIが記録したら、Googleのスンダー・ピチャイさんやMicrosoftのサティア・ナデラさんのコピーを経営層や管理職のそばに置けるのではないか、と発想を広げました。
ある意味すごい緊張感があるものじゃないですか。いわゆる常にスティーブ・ジョブズと一緒にエレベーター乗ってるっていう感じになる。
宮武さんによれば、このAIは仕事を見てフィードバックし、CEOがこの仕事をどう思うかが常にわかるものです。それは良く言えば指針、悪く言えば常にCEOにモニタリングされている状態でもあります。
草野さんは、エグゼクティブはすでにピチャイさんと意思疎通できているので、あまり必要ないのではないかと疑問を返しました。宮武さんは、直属の部下には不要でも、ピチャイさんと話す機会の少ないさらに下の層には意味があると答えています。
そのいい意味でも悪い意味でも、よりスンダーさん、よりそのCEOの会社になるっていう話ではあると思うんですよ。
上司がいらなくなる?AI CEOがもたらす「王様状態」
草野さんは、チームでAとBのどちらがいいか迷ったとき、上司ではなくピチャイさんのAIに聞くようになれば、上司はいらなくなるかもしれないと考えました。宮武さんも、よりフラットな組織になる可能性を認めています。
一方で草野さんは、メンバーそれぞれがAIと話すことで「これはこうだって言ってた」「こっちはこうだって言ってたよ」という食い違いが起き、チームビルディングが難しくなりそうだとも指摘しました。
宮武さんは、AIの言葉に従うかどうかは最終的に本人が選ぶものであり、現場と創業者のビジョンのすれ違いを防ぐ施策としてはありかもしれないと話します。ただし、それはトップがより「王様状態」になることでもあります。
いい意味だと、よりファウンダーモードが実装できるっていう話で。で、悪い意味だと人のクリエイティビティを殺すっていう可能性はあるっていうところですね。
宮武さんは、どの場面でトップの判断が重要かによって、AIの厳しさを変える考え方も示しました。Airbnbなら、細かいアニメーションやフォントの選択と、ビジネスモデルやロードマップとでは、チェスキーさんが関わるべき度合いが違うという例です。
草野さんはこの考えに乗り、デザイン出身のチェスキーさんならスライドやデザインへの関与を高めに、マーケティングは従業員に委ねるといった「チューニング」ができればありだと話しました。
宮武さんは、そうなると経営者1人のAIで足りるのかという問題も出ると指摘します。Airbnbはデザイン面でLoveFromのジョニー・アイヴさんと組んでいるため、細かいデザインには「ジョニーAI」が入るべきなのか、という具合です。小さな経営チームの考え方が下に広がる構図を、宮武さんは「洗脳」と言い、草野さんが「浸透」と言い直す場面もありました。
R2-D2が示す、会社の跡継ぎとカルチャーの継承
宮武さんは、人のAIモデルを作れるようになると、会社の後継ぎがやりやすくなるのではないかと考えます。その説明に使ったのが『スター・ウォーズ』です。
メインの映画9作すべてに登場するキャラクターは、C-3POとR2-D2の2体だけだといいます。そのうちC-3POは途中で記憶を消されていますが、R2-D2は一度も消されたことがありません。
草野さんがR2-D2は喋れるのかと尋ねると、宮武さんは、喋れるもののドロイドの言語なので人間には理解できないと答えました。草野さんが「ちいかわみたいな感じか」と返し、宮武さんもそれに乗っています。
唯一、その9作品の中って、もう何十年も経ってる歴史の中なんですけど、それを唯一全部覚えてるのってR2-D2なんですよね。
宮武さんは、ほかのキャラクターが亡くなったり記憶が曖昧になったりする中で、現場を自ら見続けたのがR2-D2だと話します。会社も同じで、CEOの死去や退職、スキャンダルなどが起きる中で、何百年も続く会社のカルチャーを保つのはとても難しいという見方です。
これまでカルチャーをある程度保てた例として、宮武さんは家族による事業承継を挙げます。中をよく知る人たちが継ぐからであり、AI化された会社なら、前任CEOから次のCEOへカルチャーが移りやすくなるかもしれないと考えています。
ただ宮武さんは、AIのスティーブ・ジョブズがいればAppleの文化は保てたかもしれないとしつつ、同じ考え方を続けると新しい考え方が入りにくくなる可能性も挙げました。草野さんも、進化しなければいけない部分もあると応じています。
デジタル上のAIにカルチャーは継げるのか
草野さんは、AIがデジタル上にしかいないなら、カルチャーの継承は難しいのではないかと考えます。カルチャーは、何度も話を重ね、実際に行動する人がリアルな世界にいることで成り立っているように思えるからです。
「こういうカルチャーですよ、こういう意思決定をする時にはこれを優先した方がいいですよ」みたいな、そのアシストするだけだと結構難しいのかなってちょっと思っちゃいました。
宮武さんも、最終的に行動がカルチャーに変わる以上、そこはAIにはコントロールできないと認めます。そのうえで、失われかけた過去のカルチャーや話されなくなったストーリーを、前から知っているAIが蘇らせる役割はありうると話しました。
宮武さんはこの役割を、前回草野さんが冗談半分で言った「会社の古い出来事を知っている古株の人」に重ねています。創業期の伝説的な話や「こういうイノベーション精神を持っていた」というリマインドが、その役割にあたります。
草野さんは、OpenNetworkLabとDigitalGarageのイベントを思い出しました。人の入れ替わりが激しいアクセラレーターで、ずっと見てきた運営の人がいることには大きな価値があるといいます。
2人がいた当時のOpenNetworkLabは、応援型が多かったほかのアクセラレーターと違い、起業家としっかり向き合う壁打ち型の進め方をしていたそうです。宮武さんは、そのやり方をAIが学んでいれば、10年後や100年後に新しい運営メンバーが入っても教えられたかもしれないと話しています。
社内政治や創業者の伝説はAIが語り継ぐべきか
草野さんは、社内政治もAIが保ち続けるべきかと問いかけました。たとえば「田中さんが山田さんと仲が悪いのは、過去にこういうことがあったから」といった情報です。
宮武さんは、特定のKPIを達成するためや、特定のクライアントと仲良くするための情報は、カルチャーを保つAIとは別のモデルだと考えます。その例として、元OpenAI CTOのミラ・ムラティさんが作っている、ビジネスのKPIを軸にしたカスタムAIモデルに触れました。
カルチャーを保つAIの例として宮武さんが挙げたのは、Salesforceの初期の反逆的な精神です。競合のカンファレンスの目の前でフェイクのデモを行い、フェイクのテレビ局まで呼んで大騒ぎさせたという逸話です。
こうした話は普通、20周年や50周年のパーティーで披露されます。宮武さんは、オンボーディングなど別のタイミングで従業員に伝えられると面白いと話しました。
草野さんも、Netflixの従業員全員がリード・ヘイスティングスさんの本を読んでいるわけではないので、伝説的な話をたまに教えてもらえるのは嬉しいと応じます。ただ、毎朝Slackに届いたら「今日はいいや」となりそうだという点で、2人はタイミングの難しさに笑いました。
あと、もうちょっとカルト味が増しますよね。いい意味でも悪い意味でも。
宮武さんは、データが1つのエンティティに集約され、そこから判断される以上、より宗教的で神格化されるようなシステムになるのは避けられないかもしれないと話しています。
ジョブズAIとティム・クック、誰の思想を残すのか
草野さんは、テック業界では2年ほどで転職する人も多く、AppleとMicrosoftで会社の歴史の語られ方がまったく違うといったことも起きそうだと話しました。
宮武さんは、Microsoftならビル・ゲイツ風か、スティーブ・バルマー風か、サティア・ナデラ風か、3人を混ぜるか、3つのモデルを持つかという判断も難しいと続けます。創業者がまだ経営しているAirbnbなら、チェスキーさんだけでよいので楽です。
議論は、今のAppleのAIはティム・クックであるべきかという問いに移ります。草野さんは、ずっとジョブズイズムを語られるのは今のCEOにとってつらいのではないかと考えました。
(ティム・クックからすると)いやなんか僕がCEOなんだけどなってなりますもんね。
宮武さんの考えは、創業者が基盤となるDNAをAIモデルに作り、それを現CEOがアップデートしていくというものです。
ティム・クックさんがAIのジョブズと話し続けることでモデルが更新され、ジョブズのDNAを残しながらクックさんのDNAも入れられるかが鍵だと、宮武さんは話しています。
創業者
会社の基盤となるDNAをAIモデルに作る
現CEO
創業者のAIと話し続け、モデルをアップデートする
継承されたモデル
創業者のDNAを残しつつ、現CEOのDNAも加わる
創業者のイズムはどこまで残すべきか
草野さんは、ジョブズのような伝説の人ならまだしも、何代も続く会社で創業者のイズムをどれだけ残すべきなのかという疑問を投げかけました。
宮武さんは、50年経ったら劣化具合を決めなければいけない気がする一方で、一部のコアな部分は消してはいけないと考えます。ここで2人が同時に思い浮かべたのが、アメリカの憲法でした。
そのfoundingfathersって呼んでますけど、アメリカ憲法を作った人たちですけど、「foundingfathersは今何を言うだろう」みたいなことってすごい言われるんですよね。
なぜ保つ必要があるのかと草野さんが尋ねると、宮武さんは、スタートアップではファウンダーのビジョンや考え方が会社のDNAだからだと答えました。それを切り捨てて全く新しい会社にするなら、別の会社を作るべきではないかという考えです。
草野さんは、ハードウェアの会社であるAppleにはジョブズから継承するデザインや考え方が多い一方、AlphabetやGoogleは創業当時と今とでビジネスの戦い方の差が大きいと指摘します。宮武さんは、引き継ぐべきは戦略ではなく思想だと整理しました。
Appleはさらに特別で、最初のジョブズと、復帰して戻ってきたジョブズのどちらの思想を取り入れるかも違うと宮武さんは話します。宮武さん自身は「バージョン2」のほうがよいと考えています。
創業期を重視しすぎるとうまくいかない可能性もあり、AIモデルをそのレイヤーに置くことで、方向転換やピボットがしにくい会社やカルチャーを作ってしまう危険があると、宮武さんは指摘しています。
草野さんが、CEOのAIに今の市場の状況など外部の情報も入れるべきかと尋ねると、宮武さんは入れるべきだと答えました。そして、前のCEOのモデルを完全に置き換えるのではなく、アップデートすることが現CEOの役割の一つだと話しています。
AIオーケストレーターにはどんなスキルが必要か
宮武さんは、組織にAIを入れると、事業部ごとにサイロ化されたデータが集まり、その上にいくつものAIモデルのレイヤーができると見ています。個人も各自でAIモデルやAIエージェントのツールを使うようになります。
そうした全体の連携を考える役割として、宮武さんはAIオーケストレーター ── オーケストラの指揮者のように、組織内の複数のAIモデルやエージェント、人の連携を設計・調整する役割を指す言葉ですという人材が新しく必要になると話します。草野さんが人がやるのかと尋ねると、人とAIで担いつつ、最終的に判断するのは人だと答えました。
必要なスキルとして、宮武さんはまず社内のワークフローなどのノウハウを知っていることを挙げます。そのため、COOとHR、つまりCOOとVP of Peopleの共同プロジェクトになるのではないかと考えています。
データをどこまで再利用するか、事業部ごとに集めて会社全体に落とし込むのか、全体で集めてフィルタリングして現場に落とし込むのか。AI人材がどんな形で従業員と接するのか。宮武さんは、こうした設計の責任がCOOとVP of Peopleに入ってくると話します。
草野さんは、カルチャーもビジネスも技術も理解していないと務まらないポジションだと受け止めました。宮武さんは、データがどう流れるかを理解するには現場を知る必要があり、同時に会社全体の優先順位を見渡す必要もあると補足しています。
宮武さんは、2年以上前にこの番組で話した内容として、よいAIアシスタントを作るには大きく2つのステップがあると振り返ります。
いつ、誰が、どんな形でモデルに影響を与えるのかという仕組みを考える人が重要であり、それがAIオーケストレーターの役割だと宮武さんは話します。現場のワークフローを一人で全部知るのは不可能なので、各部署から情報を集める複数人のチームがCOOとHRのトップにレポートする形を想定しています。
辞めた人のデータは引き継がれるのか
草野さんは、人材の流動性が高いテック業界で、辞めた人の情報をオーケストレーターがどれだけ見ているのかを尋ねました。会社としては活用したい情報です。
宮武さんは、AIによってこれまで以上に活用できるようになると話します。辞めた人のメールが転送されても、基本的には誰も見ません。草野さんも「ただただうざいだけ」と笑います。
草野さんは、ドライブのファイルの権限がAさんからBさん、Cさんへと引き継がれ、最後の人が何も知らないという状況もよくあると話しました。宮武さんは、組織が大きくなるほど起きることだと応じています。
メールは転送されても誰も見ず、ファイルは権限だけが引き継がれて中身を知る人がいない
事業部のAIに既に保存・活用されており、データの移行や引き継ぎがあまり必要なくなる
宮武さんは、Slackの会話、メール、会社のパソコンのファイル、自分にだけ共有していたGoogleドキュメントやNotionまで、理論上はすべて取り込めると話します。もちろん、そこに残っていない情報はどうしようもありません。
意思決定の「ふんわり」まで可視化される
草野さんは、Zoomなどの議事録まで残っていれば、何がどう「ふんわり」決まったのかまでわかってしまうと驚きました。宮武さんは、電話会議にAIが入ることはすでに普通になっていて、みんなそれほど何も言っていないと指摘します。
宮武さんによれば、今あまり批判されていないのは、会社側がその記録をもとに大きな対応をしていないからです。しかし今後は必ずそうした動きが起き、これまでの判断の連鎖が見えてくるかもしれないと話します。
人間って単純だなあって思いそう。
宮武さんは、良い面として、最終判断の重要なきっかけを作った人が誰かがわかるかもしれないと話します。悪い面としては、適当に決まった経緯や、誰かが操作していたこと、言い出せなかったこと、聞き間違いで判断が決まったことまで明らかになるかもしれません。
これがまさに、なんかいい意味でも悪い意味でも可視化するっていう話ですよね。
宮武さんは、良い悪いの答えは特にないとしたうえで、現場の真実を求める経営者がいる中で、その限度をどこに置くかは引き続き議論されるべきだと話しています。次回以降は、職場でのAIの使い方や、個人と仕事でのAI活用の切り分けも考えたいとしています。
「いい質問をする人」が評価される時代へ
草野さんは、自分が働いていたらCEOの考え方のAIも知りたいとしつつ、さらに興味があるのは2人の関係性だと話しました。Stripeのジョン・コリソンさんとパトリック・コリソンさん兄弟のような共同トップや、CEOとジョニー・アイヴさんのような関係です。
草野さんが見てみたいのは、この2人が話すとこういう議論になる、AとCが話すと社長のこういう面が引き出される、といった人と人のケミストリーが可視化されることです。
宮武さんは、判断の連鎖と同じように、新しいアイデアがどこから来たのかもAIでたどれるかもしれないと応じます。そこで思い出されたのが、以前番組で取り上げたベル研究所 ── アメリカの通信会社AT&Tの研究機関。トランジスタなど数多くの発明を生み、研究者同士の交流が成果を生んだ組織として知られますの「この人と話すとやけに研究が進む」という話です。
宮武さんは、元OpenAIの人の話として、ChatGPTを日常的に使う子どもたちは「プロンプト」という言葉を知らないのに、大人が思いつかない聞き方や回答の求め方をしていると紹介しました。
宮武さんの見立てでは、自分たちやZ世代までは実行力が求められてきました。しかし今の技術の進み方では、疑問を持つ、懸念する、質問するというスキルセットがより重宝されるかもしれません。
議論し、実行する力が求められてきた
疑問を持ち、懸念し、正しい質問をする力がより重宝される
草野さんは、CEOとAさん、CEOとBさんといった関係性のデータが取れれば、王様のようなカルチャーではなく、チームとしてのカルチャーが可視化されるのではないかと話しました。宮武さんは、たどり着きたい議論に3週続けてたどり着けていないと笑い、草野さんは正解がない話なのでリスナーの意見も聞きたいと締めくくっています。
まとめ
今回のOff Topicは、トップ経営者が「現場の真実」を自ら取りに行く手法から出発し、CEOのAIモデルが組織のフラット化やカルト化、後継ぎとカルチャーの継承、AIオーケストレーターという新しい役割にどうつながるかを考えた回でした。2人とも、可視化には良い面と悪い面があり、正解はまだないという立場です。
- マスク氏のスキップレベルミーティングやフアン氏のトップ5メールなど、優れた経営者は現場の情報を自ら取りに行く仕組みを持っている
- CEOのAIを管理職のそばに置けば、ビジョンのすれ違いは減る一方、より王様状態・カルト的な組織になる可能性がある
- 宮武さんは、創業者のAIモデルを現CEOがアップデートし続ける形で、思想の核を残しつつ変化に対応できると考えている
- 組織内の複数のAIと人をつなぐAIオーケストレーターは、COOとHRの共同領域として重要になると予想されている
- 意思決定の経緯やアイデアの出どころが可視化されることで、実行力より「いい質問をする人」が評価される時代になるかもしれない





