渡部恒郎さんがM&A業界を志した原点
渡部さんがM&Aの仕事を選んだのは、経営者と真剣に対峙できる仕事だと考えたからだとお話しされています。その関心の出発点は学生時代よりもさらに前にありました。
渡部さんによると、中学3年生ごろから経営に強い興味を持ち、経済学者の論文などを読んでいたそうです。元々は医者を目指す気持ちもあったものの、「医者は一度に一人しか治せないが、経済学者は一度に多くの人を治す可能性がある」という論文に触れたことが転機になったと語られています。
どちらかというと経済学者を目指したいなっていうので、初め経営に興味持ち始めたってのがスタートですね
渡部さんは、ハイチのような最貧国で貧困に苦しむ人々を減らしたいという思いがあり、そこに経営の力が最も響くのではないかと考えたとお話しされています。この原点が、後のM&A業界での仕事につながっていきました。
業界を離れて見えたM&A市場の光と影
渡部さんは日本M&Aセンターを2023年に離れ、その後3年間は事業会社側の目線でM&A業界を見てきました。そこから見えたのは、恵まれた業界であると同時に、課題も抱えている姿でした。
渡部さんによると、M&A市場はここ数年、毎年10%ずつ拡大している一方で、コンサルタント(営業)は25%から27%ほど増えている状態だといいます。1人あたりで見ると厳しくなりつつあるものの、世の中のさまざまな事業と比べればかなり恵まれた業界だと評価されています。
その一方で、数年前からは事件や事故も起き始めていると指摘されています。番組では、売り手が実態をごまかす事例は以前からあったものの、買い手側の問題が目立つようになったのはここ数年の動きだと語られています。
結構売り手さんがそのごまかしたりとか、過大にみたいなのが多かったんですけど、買い手さんがっていうのはここ数年の動きかなとは思ってますね
番組では、スタートアップのVC投資の領域でも表面化していない問題が相当あるとされ、2016年ごろに起きたウェルク事件のように中身が伴わない案件も繰り返されてきたと紹介されています。
渡部さんが考える「経営者としての成功」
渡部さんがM&A支援で大切にしているのは、「経営者としての成功」を支えることです。ここには、単に高く売れた・安く買えたという成功とは異なる考え方が示されています。
渡部さんによると、この仕事は天職だと感じており、これまで泣いたことが3回あるそうです。それは結果を出したりMVPを取ったりして泣くのではなく、感謝されて泣くという経験であり、そうした仕事は世の中に多くないとお話しされています。
この仕事してよかったって、その感謝されて泣くっていうことができる仕事なんで、そういう意味では本当にいい仕事だなと思ってます
一方で、リスクのある仕事でもあるため、専門家としてきちんと対応しなければならない部分があるとも語られています。渡部さんによると、ご自身が手がけた案件は全て顧客に感謝され、減損したこともなく、きちんとやれば99%はいい仕事だと考えているそうです。
渡部さんは、「10億円で売れた」といった金額だけでは成功とは捉えていません。売り手側にとっては、暖簾を回収して初めて経営者としての成功だと考えており、金額での売却は投資家としての成功だと区別されています。
この違いは、M&Aを一時点の取引として見るか、その後に続く人生や経営として見るかの差だと整理できます。渡部さんは、オーナーだけでなく、その家族、役員、社員の人生まで変わると語り、経営者としての成功を支援したいと述べています。
仲介ではなくコンサルティングとして関わる理由
渡部さんはこの4月からスピカコンサルティングの代表に就任し、M&Aの「コンサルティング会社」として業界に関わっています。ここには、単に売り手と買い手をつなぐだけではないという明確な立場があります。
渡部さんによると、どういう会社を買うべきか、買った後に売り手・買い手双方の社員にとって本当に良いのか、そのためにどういうPMIをすべきかまできちんと伝えたいと考えているそうです。ほとんどの会社はM&Aのブローカー業だと捉えており、自社はコンサルティング会社として少数のプロフェッショナルで進めていく方針だとお話しされています。
ほとんどの会社はM&Aのブローカー業だと私は思ってるんで、我々スピカコンサルティングがM&Aのコンサルティング会社、唯一のコンサルティング会社として、やっていくつもりで
この方針の背景には、業界特化の考え方があります。渡部さんによると、変な買い手に引っかかってしまうのは、その業界に友達がいない人が多いといいます。知り合いのいない相手の会社を買ったり売ったりするのは非常に怖いことであり、だからこそ業界内のコミュニティや人脈が重要になると語られています。
渡部さんは現在、物流業界、LPガス業界、食品業界、製造業界、調剤薬局業界の5つの業界について、5年、10年、20年という長い視点で取り組んでいるとお話しされています。番組では、ただ会社をくっつけるだけでなく、業界のことをきちんとわかったうえで支援する姿勢が語られています。
関わる全員を「80点」にするという目利き
渡部さんが目利きの際に外さないのは、関わる全員をある程度フラットにするという視点です。誰か一人が突出して得をする形ではなく、全体のバランスを重視しています。
渡部さんによると、成功にはさまざまな面があり、買い手にとっては安く買えたこと、売り手にとっては高く売れたことが成功だと感じる人もいるといいます。しかし渡部さんは、社員、オーナー、地元の会計事務所や地銀、地元の顧客までを含めて、全員が80点になるようなイメージを持ちたいと語られています。
全員が八十点みたいなイメージをしたくて
渡部さんは、これは価値観の違いであり、高く売ることを成功と考える人がいてもよいとしたうえで、ご自身はそうした考えではないと述べています。買い手も売り手も社員も家族も、全員が好き勝手に望みを叶えられるわけではないという前提に立った考え方です。
この長期的な視点について、酒井さんは自社の経験を重ねています。酒井さんによると、クラウドワークスはこれまで18件のM&Aを行い、5年ほど経ってようやく、在籍していた人が次のキャリアを見つけたり新規事業を展開できたりして、総体として良かったと感じられるようになるとお話しされています。
このM&Aって総体で見て良かったよねとかいう感じになってくるので
番組では、地方で働いていた優秀な女性が、M&Aをきっかけに東京の親会社で執行役員にまで上がった事例も紹介されています。渡部さんは、M&Aが才能の開く場になることもあると語り、投資としての回収という数字だけでは測れない側面があると述べています。
これから伸びるM&A市場と「勝てるM&A」への問い
渡部さんは、日本のM&A市場は今後さらに拡大していくと見ています。そのうえで、これからは「買い手側の質」が問われる時期に来ていると語られています。
渡部さんによると、アメリカとGDPや会社数、事業承継の課題などを比べると、日本のM&A件数は倍ほどには増えていくはずだといいます。また、世界のトップ企業がM&Aを経営戦略として当然に数多く行っている点にも触れ、避けては通れないものだと述べています。番組では、一社で最も多いところで3000社、メタで1000社ほどのM&Aを行っているという海外企業の例が紹介されています。
世界のトップ企業はM&Aを当然にめちゃくちゃ多くの数をやっているので、経営戦略として、大事なものであるっていうのはもう間違いなくて、避けては通れないものだと思うんですよ
そのうえで渡部さんは、買い手が本当に企業価値の上がるM&Aを話し合わなければならない時期に来ていると語っています。ただ買ったという事実だけでなく、それが売り手の社員にとって良かったのか、買い手の企業価値が上がったのかまで議論できるようになってほしいとお話しされています。
この「勝てるM&Aの条件」は、2026年7月8日にベルサール九段で開催されるカンファレンス「MAP2026」のセッションでも語られる予定です。渡部さんによると、この3年間でご自身の知見が大きく貯まり、3年前と今ではレベルが違うと感じているそうです。番組では具体的な内容は当日のお楽しみとされています。
まとめ
渡部恒郎さんが考える「勝てるM&A」とは、高く売れた・安く買えたという一時点の成果ではなく、暖簾を回収し、関わる全員が納得できる「経営者としての成功」を実現するM&Aです。番組では、その実現のためには業界を深く理解したコンサルティングとしての関わりや、長期的な視点、関わる全員を80点にするという目利きが重要だと語られました。今後さらに拡大するM&A市場では、買い手側が本当に企業価値の上がるM&Aを問い直す時期に来ているという指摘が示されています。
- 渡部さんは、金額での売却は投資家としての成功であり、暖簾を回収して初めて経営者としての成功だと区別しています。
- 渡部さんは、ほとんどの会社をブローカー業と捉え、買った後のPMIまで支援するコンサルティングとしての関わりを目指しています。
- M&Aは業界内の人脈やコミュニティが重要であり、知り合いのいない相手との取引はリスクが高いと語られています。
- 渡部さんは、買い手・売り手・社員・家族などを含めた全員を「80点」にするという価値観で目利きをしていると述べています。
- 今後は買い手側が本当に企業価値の上がるM&Aを話し合う時期に来ているという指摘が示されました。
