「あなたならできる」と思う人と、そうでない人
投資アドバイザーのなかには「株一本でいい」と話す人が多くいます。井上さんは、その話を聞くたびに考えることがあると言います。
それは「あなただったらできるだろうな」という感覚です。データの見方も本質も理解している相手なら、株100%でもやっていけるだろうと感じるのです。
あなたは多分できると思います。ご自身でどこのデータを見たらわかるとか、本質的に理解できている人なので。
一方で、FPのところへ「何を買ったらいいですか」と相談に来る人が、同じ理屈を達成できるかは別の話だと井上さんは考えます。
その人が「その株を買っておけばいい」の理屈を達成できるかは、また別の話やと思うねんな。
20年という投資期間と、下げ相場で空気が変わった瞬間を乗り切れるだけの根拠が、自分の中にあるかどうか。そこが分かれ目だと話します。
投資理論ではなく「物語」を買っている人たち
井上さんは、少し嫌な表現かもしれないと前置きしつつ、多くの人の投資の実態を比喩で語ります。
多くの人は、株を買うというより、沈みゆく日本から脱出できるという物語を買っている気がするんですね。
投資理論に基づいているというより、一つのストーリー、ナラティブを買っているのではないか、というのが井上さんの見立てです。
YouTubeなどで見かける「今すぐ株を買え」「買わないとやばい」という発信も、日本はもうダメで、投資した人だけが救われる、という物語の上に成り立っていると指摘します。
さらに、現金のまま持っている人と比べて「あの人たちは置いていかれるけど、私は大丈夫」と悦に浸る感覚も、そこにあると話します。
ただ井上さんは、そのストーリーは信じる対象としては弱いと考えています。ここから、なぜ弱いのかを分解して説明していきます。
継続を支えるのは「正しさ」ではなく「信念」
何かを継続するというのは、正しいから続けられるのではなく、信念に基づく行為だと井上さんは言います。正しいと信じていることだからこそ続けられる、という整理です。
例として、健康になりたい人が2つの商品で迷う場面を挙げます。
科学的根拠は乏しいが、世間からは健康にいいと信じられている
科学的根拠は十分あるが、世間的にはあまり良いと思われていない
どちらが売れるかといえば、井上さんはAだと言います。自分が健康にいいと信じていないものを、毎日摂取し続けるのは難しいからです。
健康にいいって思い込んでたやつが、実はあんまり健康に良くないって言われた瞬間に続けられなくなるのは、信じるのをやめてしまったからですよね。
人間はそこまで理論的な生き物ではなく、正しくなくても信じたいことが選ばれやすい、と井上さんは見ています。
だからこそ、投資を継続するときに「何を信じ、何をアンカーにしているのか」が問われることになります。
信じる対象の脆さ。インフルエンサー・ストーリー・投資理論
井上さんは、投資を続けるときのアンカーになりうるものを3つに分けて、その脆さを比べます。
1つ目はインフルエンサーへの信頼です。「この人を信じていればいい」という人は多いものの、井上さんはこれを危ういと考えます。
インターネットに知識があると、自分の頭にはなくても知っている気になります。しかし、それはいざというときに引き出せない知識だと指摘します。
2つ目はストーリーです。円安で投資していた自分たちは助かった、といった美しい物語が今の投資の周りには多すぎると話します。
ただ、20年続くストーリーはあまりない、というのが井上さんの見方です。
楽観が続いた後っていうのは悲観が続くので、その時にストーリーって崩れるから、信じるには脆いという感覚ですね。
3つ目、井上さんがインフルエンサーを信用しすぎない理由として挙げるのが、彼らの立場です。発信は仕事であり、ウケない動画を出せば収益が下がる、という現実があります。
僕YouTubeやってますよね。でも全然儲かってないんですよ。伸びないんですよ、僕が発信したい内容って。
世の中に煽りコンテンツが多いのは、煽った方が儲かるからだと井上さんは言います。だとすれば、煽っても儲からない時期には、彼らは煽らなくなる可能性があります。
その時期に「今売っちゃダメだよ」というコンテンツを出しても収益化しにくいため、20年という時間軸で信じる対象としては脆い、というのが結論です。
骨太の投資理論を、確率で考える
最後に井上さんが最も硬いアンカーとして挙げるのが、投資理論です。ただし、上部の投資理論は脆く、骨太の投資理論こそ普遍的だと区別します。
世の中は不確実なので、確率論で考えるべきだと井上さんは言います。信じている人が20年発信を続けてくれる確率は何%なのか、といった形で捉える方がリアルだ、という発想です。
そのうえで、井上さんが「弱い」と感じる根拠をいくつか挙げます。
たとえば「複利効果があるからいい」という説明です。単利でも短期で儲かる方がいいのだから、複利かどうかは本質ではないと考えます。
長期投資も、井上さんはむしろネガティブな理由から選ぶものだと位置づけます。
長期投資が何でいいかって言ったら、エントリータイミングのミスを帳消しにできる可能性が高いからですね。
人間は高値で買いたくなりやすく、暴落の大底では買いづらいものです。20年かけることで、高値で買いすぎたとしても、なんとか報われる結果にできる可能性が高まる、という整理です。
「長期投資したら報われる」という考えも、井上さんは本質的ではないと見ます。結局は運の要素が大きいからです。
期待リターンは過去の統計で実質5〜6%とされますが、投資できる期間が20年ほどだと、1%程度しか得られない可能性も十分あると話します。
20年間で複利換算13%ずつ増やせた
2000年から2020年の20年で3.9%のリターンにとどまった
同じ指数でも、いつ投資したかで結果は大きく変わります。それは自分では選べない、運の領域だと井上さんは言います。
さらに、井上さんが引っかかるのが「200年上がり続けてきた歴史がある」という説明です。
俺、200年生きひんけどなっていつも思うのと、俺、30年から50年ぐらいで投資すんのん?って思うし。
この200年のチャートはアメリカのデータしかなく、生存バイアスが強くかかっていると指摘します。
他のマーケットは戦争で市場が閉じるなどして200年続いておらず、長期データがあるのはアメリカだけです。井上さんは、アメリカが過去の大戦でメインのプレーヤーにならず、本土の被害が少なかったからだと説明します。
今の環境で同じことが起きたとき、アメリカが同じようにやれるかはわからない。だから、この一例だけを根拠にするのは好きではない、と話します。
代わりに井上さんが本質と考えるのは、企業が収益を上げて価値を高め、資本主義が発展していくという理屈です。株価は高すぎたり低すぎたりを繰り返しても、最終的には価値に収斂していく、という考え方です。
アンカーは、他人ではなく自分の中に
上げ相場のうちに「なぜ企業は収益を上げられるのか」といった問いを考え抜いてきた人は、下げ相場の嫌な時期に、その疑問と向き合わずに済むと井上さんは言います。
精神的に参っているときに「本当に長期投資でいけるのか」と考えるのはしんどい。だからこそ、良い時期に考えておくことに意味があると話します。
上げ相場の時に考えとくと、いつかその疑問が出た時に「もうそれはこうやから、もうわかってるわかってる」ってロジカルに自分に説明できるということですね。
一方で、インフルエンサーが示すチャートを信じるしかない、という姿勢は、論理を信じているのとは違うと井上さんは感じています。
壁に掛けられている神様にお祈りしてるのと一緒なので、それは論理を信じてるわけではない気はするので。
山に登るとき、どれだけの装備を持っていくかという話にたとえます。「この人が一緒にいてくれたら大丈夫」という人は、その人が離れたらどうするのか、という問題が残るからです。
井上さん自身、発信を続けるつもりではあるものの、病気などで発信できなくなる可能性もあると認めます。だからこそ、アンカーは自分の中に置くべきだと話します。
まとめ
株式一本の投資を続けられるかどうかは、資金の準備だけでなく、下げ相場を乗り切る根拠が自分の中にあるかで決まる、というのがこの回の核心でした。他人やストーリーではなく、骨太の投資理論を自分のアンカーにできているかが問われます。
- 投資の継続は「正しさ」ではなく「信念」に支えられ、信じる対象が脆いと続けにくくなる
- インフルエンサーへの信頼やストーリーは、20年という時間軸で見ると脆く崩れやすい
- 複利や「200年上がってきた」といった説明は本質ではなく、生存バイアスや運の要素も大きい
- 長期投資はエントリータイミングのミスを帳消しにするための手段であり、才能がなくても利益を得られる方法
- 下げ相場で揺らがないために、上げ相場のうちに自分なりの答えを考え抜き、アンカーを自分の中に置く
