梅雨明けの牧場と牛の様子
配信日は7月11日、山陰地方はこの時期に梅雨明けを迎えました。最高気温は34度と暑いものの、湿度が下がったことで牛の負担はだいぶ楽になったといいます。川上さんは細霧装置(さいむそうち)の設定を変え、バルクで冷やした水をつないで暑熱対策をしていると話します。餌もしっかり食べており、乳脂肪は4%、デノボ脂肪も1%を超えてキープできているそうです。
そもそも何が問題なのか
今回のニュースの背景にあるのは、脱脂粉乳牛乳から乳脂肪分と水分を取り除いて粉末にしたもの。バターや生クリームを作る過程で生じ、保存性が高い。日本では飲用に比べ需要が伸びにくい。の在庫が多すぎるという問題です。牛乳からバターや生クリームを作るために乳脂肪を取り出すと脱脂粉乳ができますが、日本では牛乳は飲まれても脱脂粉乳の需要がそこまで伸びません。その結果、倉庫に在庫が積み上がってしまうのです。
川上さんは「コロナ禍からもうずっと言ってますけど、まだ解消されてません」と語ります。Jミルクは年度末の在庫を8万トン以内に抑えたいという目標を掲げています。本来適正とされる在庫は5万トンから7万トン。8万トンを超えると需給バランスが崩れ、乳価や酪農経営にも影響が出る可能性があるためです。
需給改善の「3本の矢」とは
今回のニュースで紹介されているのが「3本の矢」という考え方です。Jミルクは10月の理事会で、これらをリスト化した新提案を示すとしています。
1本目は、脱脂粉乳を減らすための基金の拡充です。現在、生乳1キロ当たり15銭を拠出していますが、10月から30銭へ倍増する予定です。業界全体でより多くのお金を集め、在庫削減に使っていくということです。
2本目の入口対策で注目なのが「季節別乳価」です。九州ではすでに行われており、夏の需要が多い時期には乳価を高くし、冬は少し低く設定することで、需要に合わせて生産を誘導する考え方です。川上さんはこれを「市場原理に近い発想」と説明します。
3本目の出口対策は、もっと牛乳や乳製品を消費してもらうこと。牛乳でスマイルプロジェクトJミルクなどが展開する牛乳乳製品の消費拡大キャンペーン。生産者や企業が協力し、需要喚起を図る取り組み。をさらに発展させ、SNSも活用しながら需要を増やす計画だといいます。
夏という“もどかしい季節”とチーズ増産
記事の中では、暑熱対策、輸出、国産チーズの増産も重要だと紹介されています。特に川上さんが強調するのが夏の難しさです。今年も猛暑が予測されていますが、牛は暑さに弱い動物です。暑くなると採食量が落ち、乳量が減り、繁殖成績まで悪くなります。
また、雪印メグミルクが460億円を投資して北海道でチーズ工場を増強するという話も紹介されていました。川上さんは「とても期待できる」と評価します。日本はまだチーズの多くを輸入しており、国産チーズが増えれば輸入の代替になり、脱脂粉乳の対策にもつながるからです。
「余らせない」だけでいいのか
3本の矢の方向性は良いと評価しつつも、川上さんは「これだけでは十分ではない」とも感じています。需給調整は「どう余らせないか」だけではなく、「どう価値を高めるか」という視点も大事だからです。
特に力を込めて語られたのがAIによる需給予測です。川上さんは、需給が人間の感情に振り回されている現状を問題視します。消費者にも「牛乳いらない」「もっと欲しい」という声があり、感情で判断されるのはナンセンスだといいます。過去の需給動向や災害時のデータをAIに読み込ませれば、ある程度の予測はできると考え、実際に自ら作ったものを生乳販売委員会に提出したこともあると明かしました。
北海道が牛乳をいっぱい搾るから悪いだとか、関東の消費が落ちているのが生乳販連が悪いとか、そういう話じゃないんですよ。
川上さんは、地域や立場で責任を押し付け合うのではなく、「日本でどうやっていくのか」「若い世代はどう考えているのか」まで議論のテーブルに載せないと話が前に進まない、と訴えます。牛乳を「何リットル売るか」だけで考える時代から、「牛が社会にどんな価値を提供できるのか」を考える時代に入ってきたのではないか、というのが締めくくりのメッセージです。
まとめ
今回のJミルクのニュースは、単なる需給対策ではなく、酪農業界全体がどう未来へ向かうのかという大きな転換点だと川上さんは受け止めています。3本の矢だけで全てが解決するわけではありませんが、業界全体が同じ方向を向いて議論を始めたことに大きな意味があると語ります。
一方で、季節別乳価のように過去の経緯を踏まえた検証や、脱脂粉乳の在庫解消の先にある「価値の高め方」など、まだ課題も多く残されています。10月に示される具体策がどんな内容になるのか、リスナーとともに考えていきたいと締めくくられました。
- Jミルクは生乳需給改善へ「3本の矢」をリスト化し、10月の理事会で新提案を示す予定。
- 最大の問題は脱脂粉乳の在庫過剰。年度末在庫を8万トン以内に抑えることが目標(適正は5〜7万トン)。
- 3本の矢は「脱脂粉乳削減(基金拡充・拠出金を15銭→30銭に倍増)」「入口対策(季節別乳価)」「出口対策(消費拡大)」。
- 牛乳が最も売れる夏は、牛が暑さに弱く最も絞りにくい季節という“もどかしさ”がある。
- 川上さんは「余らせない」だけでなく、酪農体験・再生エネルギー・カーボンクレジット・AI需給予測など「価値を高める」視点も必要だと提言。
