リスナーからの質問「牧場の跡取りはどうするの?」
今回のお便りは、AWAという配信アプリからAWAネーム斎藤頼子さんが寄せたものです。川上さんは「酪農業界の人には耳が痛いかもしれないけど、消費者の一つの意見として受け止めてほしい」と前置きします。
牧場を経営されている方は、跡取りはどうされるのでしょうか。昔みたいに牧場を継続させるために、婿養子を迎えることや、子どもに(無理やり)継がせたりするのでしょうか。
これに対して川上さんは、令和のいま、女の子しか生まれなかった家に無理やり婿養子を迎えたり、長男に「お前が継ぐんだからやれ」と迫ったりするようなことは、さすがにもうないだろうと話します。
今令和8年ですから、いきなり跡を継がせるために「我が家は跡取りがいないからお前たち婿養子を」とか、そんなことはもうないと思いますけれども。
ただ、新規就農がなかなか増えないと言われる酪農業界で、後継者問題がどうなっているのか。川上さんはこのテーマを整理してきたと話します。
「家族が必ず継ぐ」前提はもう崩れている
川上さんはまず、「これは酪農経営の技術よりも難しいテーマです」と切り出します。そのうえで、いまの日本の酪農では「必ず家族が継ぐ」という前提がほぼ崩れていると話します。
昔は長男が継ぐ、婿養子を迎える、家業として当然という文化が強くありました。でも今は違う、というのが川上さんの考えです。
少なくとも川上さん自身は、子どもに無理に継がせるという発想はないと言い切ります。
いま酪農家がとる「4つの道」
では実際、酪農家はどう跡取りを考えているのか。川上さんは大きく4つの道に分けて説明します。
子どもが自ら継ぐ
やりたいと言ったら継がせてあげるパターン
外部から幹部候補を育てる
大きい牧場で場長や代表を置いて管理してもらう
第三者継承
M&Aや事業譲渡。酪農場がマッチングサイトに出る時代
廃業
自分の代で酪農・畜産をやめる
川上さんは、この4つ目の廃業も珍しくないと率直に話します。酪農家の戸数は年々減っていて、その理由には後継者問題と経営の厳しさがあるからです。
養子を迎える文化もゼロではありません。ただ昔のように「家を守るため」が中心ではなく、経営を共にするパートナー、事業としての継承という意味合いが強くなっているそうです。血縁より、経営理念や価値観が合うかどうかが重要になっているといいます。
「継がせたい」より「継ぎたくなる場所か」
そして川上さんは、この回で一番大事な話だとして、視点を切り替えます。問われているのは「継がせたいかどうか」ではなく、「牧場が継ぎたくなる場所かどうか」だという話です。
収益が安定しているか、休みがあるか、やりがいがあるか、誇れる仕事か。これが整っていないと誰も継ぎたいとは思わない、と川上さんは言います。
子どもがやりたいなら全力で支える。やらないならそれも尊重する。でも「誰かがやりたいと思える牧場にする責任は、今の経営者にある」と川上さんは話します。
だからこそ、価格を上げる議論、労働環境の改善、情報公開、新規参入のハードルを下げる仕組みといった、産業の構造の話を本気で進める必要がある、というのが川上さんの主張です。
婿養子だからこそ見える、継承の「強み」と「弱み」
ここから川上さんは、自身の立場もふまえて構造の話を続けます。まず、家の人が継ぐ場合と、外から婿として来る場合には、それぞれ違う強みがあると話します。
息子さんとか家の人が跡を継ぐ場合は、バックグラウンドが見えてるっていうのは、外から来て婿養子で継いでる者としては、すごいなと思います。
近所の人たちとの関係性や、昔こういうことをやっていたという歴史を子どもの頃から知っている。それはかなり強いと川上さんは言います。一方で、婿で来る場合は、新しい試みや新しい関係性が生まれやすいという強みがあるそうです。
近所との関係性や牧場の歴史を子どもの頃から知っているのが強み
新しい試みやチャレンジ、新しい関係性が生まれやすいのが強み
後継者不足は「業界全体の構造」の問題
川上さんは、酪農を継ぎたいかどうかはその牧場の選択だけれど、「継がせる環境かどうか」は業界全体の話だと整理します。
たとえば継ぎたいと思っても、餌屋さんが遠くなったり撤退したり、人工授精師さんや獣医さん、牛乳を運ぶ集乳車の人がいなくなったり。こうしたインフラが崩れるだけで、酪農は続けられなくなってしまうといいます。
ところが、この後継者問題を業界で真剣に話す場はほぼないと川上さんは言います。JAや市町村に任されがちで、新しい人を受け入れてほしいと頼んでも「そんな余裕ない」「お前にはできないだろう」と返されることもあるそうです。
受け入れる体制が整っていないという構造があるから、後継者が育たず、なり手もいなくなる。川上さんはそう見ています。だからこそ川上牧場では、タイミーでの受け入れや研修生の受け入れ、食育活動やSNS発信などで関係人口を増やす取り組みを続けているといいます。
自分の子には継がせたくない。でも押し付けはしたくない
川上さん自身は、後継者が増えることはないだろうというのが個人的な意見だと話します。そのうえで、自分の子どもにはあまりやらせたくないと考えているそうです。
増えることがないから、子供たちにはあんまりやらせたくないなって思っている。それでもやりたいというなら本当にお手伝いしますけど。
実際、うちの子は牛舎に全く入れないし、仕事の話も家に持ち込まない派だと言います。放送中には、酪農家の娘さんから「私が中1に入る頃に乳牛屋さんを辞めた。継がせる気はない親でした」というコメントも届きました。
川上さんは、わざわざこの厳しい仕事を選ばなくても、土日休みで昇給していく働き方もある、それが親の心ではないかと話します。それでも酪農は面白くてやりがいのある、素晴らしい仕事だとも言い添えます。
まとめ
今回は、リスナーからの「牧場の跡取りはどうするの?」という質問をきっかけに、川上さんが酪農の後継者問題を語りました。ポイントは、これが家族だけの話ではなく、産業全体の構造の話だという視点です。
- いまの酪農では「必ず家族が継ぐ」前提は崩れ、継ぐかどうかは子どもの選択になっている
- 後継の道は大きく4つ。自ら継ぐ、外部の幹部候補、第三者継承(M&A)、廃業
- 問われているのは「継がせたいか」ではなく「継ぎたくなる牧場・産業か」
- 家族継承はバックグラウンドの強み、婿養子は新しいチャレンジの強みがそれぞれある
- 餌や獣医、集乳車などのインフラが崩れると酪農は続けられず、後継者問題は業界全体で考える必要がある
