「好かれる」とはどういう状態か
今回の質問は、農業系の進路を考えているというSpoonネームのカノさんから。「牛さんに好かれるにはどんな勉強をしたらいいですか?」というシンプルで奥深いものです。
川上さんはまず、自分は牛に「好かれている」わけではないかもしれない、と前置きします。
私、川上牧場、牛さんには好かれてないと思うんですよね。でも牛が好きなんですよ。
多くの人がイメージする「好かれる」は、何もしていないのにペロペロ舐められたり、スリスリしてきたりする愛情表現かもしれません。
でも川上さんにとっての「好かれている」は少し違います。牛がリラックスして能力を発揮し、健康で、無防備に熟睡している。そんな姿こそが好かれている証だと考えています。
あんなにリラックスして横になって、無防備な姿を見せるっていうのは、本当にそれがもう好かれていることだと思いながら、僕は酪農をしているんです。
結論は「牛の行動を理解すること」
ここで登場するのが、川上さんが何度も配信で紹介している研究者、テンプル・グランディンさんです。
川上さんは、牛の行動学とグランディンさんの考え方、そして牧場の現場で感じることの3つをつなげて話していきます。
結論はシンプル。牛に好かれるために一番大事なのは、牛の行動を理解すること。つまり、牛がどう感じているかを知ることです。
牛は言葉を話しませんが、行動や体の動きで感情を表しています。耳の向き、体の向き、歩き方、距離の取り方。こういったものを観察するのが一番の勉強になります。
牛に好かれる人の共通点は「ゆっくり」
牛は人より広い視野を持っています。目が顔の横についているため、人間より広い範囲を見ることができます。
そのため、横から近づく人や急に動く人にとても敏感です。これは草食動物として、捕食者を警戒する進化をしてきたためです。
では、牛が落ち着く人にはどんな共通点があるのか。現場で牛を扱っていて感じるのは、動きがゆっくりな人だそうです。
近づける距離「フライトゾーン」
グランディンさんが牛の扱い方を説明するときによく使う概念が、フライトゾーン、つまり逃避距離です。
牛には「これ以上近づかれると逃げる」という距離があります。その外では落ち着いていますが、内側に入ると牛は動き出します。
牛を上手に動かす人は、この距離を理解して動いています。家畜行動学で広く知られている考え方です。
観察はSNS時代の新しいトレーニング
川上さん自身は、就農3〜4年目にカウシグナルズの書籍をもらい、今の牛の飼い方にも影響を受けたと話します。
そしていまはSNS時代。いろんな牧場がInstagramやX、YouTubeで牛の様子を発信しているので、たくさんの牛を簡単に見られるようになりました。
行動学を知ってから他の牧場の牛を見ると、扱い方が上手だな、距離感が近いな、といったことが見えてくるそうです。これも現代ならではのトレーニングだと川上さんは考えています。
子牛のときから親牛になるまで一緒に過ごし、性格を感じ取っていく。1頭の牛がわかると、次の牛にも応用が効いてくるといいます。
まとめ
「牛に好かれるにはどんな勉強を?」という質問に、川上さんはテンプル・グランディンの行動学と現場の感覚をつないで答えました。カギは、牛をよく観察して、その気持ちを想像することです。
- 川上さんにとって「好かれている」とは、牛がリラックスして無防備に眠れる状態のこと
- 牛は広い視野を持ち急な動きに敏感なので、ゆっくり動く人に安心する
- フライトゾーン(逃避距離)を理解すると、牛を上手に動かせる
- SNSで他の牧場の牛を観察するのも、現代ならではの学び方になる
