クリスマスイブの牧場と、今日の一杯
配信は、島根県出雲市の小さな牧場から。ちはらめぐるさんのオープニングに続いて、酪農家の川上さんが登場します。
この日は12月24日、クリスマスイブの水曜日。天気は雨のち曇りで、最高気温は13度でした。
今日が12月の24日、クリスマスイブですよ。天気は雨のち曇りということで、最高気温13度。
仕事は繁殖検診のホルモン処置に始まり、籾殻を2台、おがくずを2台運んで、液体窒素も取りに行くというバタバタな1日だったそうです。
今日はすごい頑張ります。明日もいろいろ予定があるんで、今日で片付けていこうかなと思っております。
冷たい牛乳をグッと飲んで乾杯。年末は風邪も流行っているので、体調に気をつけてほしいと呼びかけます。
さらに、冬休みで学校給食が止まると牛乳の行き先がなくなってしまうと話し、この時期はぜひたくさん飲んでほしいと伝えていました。
今日の質問:なぜ酪農家は自分で加工販売しないのか
お便りコーナーで紹介されたのは、TikTokから届いた質問です。
酪農家のほとんどが、なぜ自分で生乳を加工販売をし始めないと思いますか?
川上さんは「自分で売った方が高く売れるんじゃないか」と思うのは至極当然だと受け止めます。実際、配信でも「川上牧場の牛乳はどこで買えますか」「直接販売してないんですか」とよく聞かれるそうです。
この質問の構造、実はとても本質的で、酪農の構造そのものを突いている質問だと思っています。
今日は「やれば儲かるのになぜやらないのか」ではなく、「なぜやれない構造になっているのか」を整理してお話していきます。
酪農家は「生産に特化」した職業
最初の前提は、日本の酪農家が生乳を作ることに最適化された職業だということです。
毎日365日、朝夕の搾乳、牛の健康管理、餌の設計、繁殖管理、設備のメンテナンス。どれか一つを止めても牛は待ってくれません。
つまり酪農家は、時間も体力も思考力も、ほぼすべてを生産に使い切っている状態。加工・販売・接客・マーケティングを同時にやる余力は、ほとんど残っていないのです。
これは歴史的な構造でもあります。昔は牛乳を自分で絞って乳業メーカーまで缶で卸していましたが、今は乳業会社が集乳から加工販売までを担う分業制になっています。
この分業のおかげで、酪農家は生乳を作ることに専念できる環境になっている、というのがまず大前提だと川上さんは説明します。
加工販売は「副業」ではなく「別の産業」
「チーズやアイスを作ればいいじゃない」とよく言われますが、川上さんはそれは副業ではなく完全に別業種だと話します。
加工販売は副業ではありません。完全に別業種です。
必要になるのは、食品衛生の知識、製造設備への投資、保健所の対応、品質管理、在庫管理、販路拡大、ブランディング、クレーム対応。牛を育てる能力とはほぼ別のスキルセットです。
さらに初期投資とリスクも大きいと言います。加工施設、冷蔵冷凍設備、包装機械、検査費用で、数千万円単位になることも珍しくありません。
しかも売れる保証がありません。生乳は出荷すれば必ず引き取ってもらえますが、加工品は売れなければ在庫になり、廃棄にもコストがかかります。
多くの酪農家はすでに借入を抱えながら経営しています。そこにさらに不確実性の高い投資を重ねる判断は、簡単にはできないのです。
出荷すれば必ず引き取ってもらえる仕組みがある
売れなければ在庫になり、廃棄にもコストがかかる
「全部やる」構造がもたらす疲弊
仮に加工を始めると、牛の世話、乳搾り、加工、販売、発送、マーケティングやSNS発信まで、すべてを同じ人間が背負う構造になりがちです。
その結果起こるのが、睡眠不足、人手不足、品質の不安定化、心身の疲弊。加工を始めて逆に酪農が続かなくなった、牛が見れなくなったという例も少なくないそうです。
日本の酪農は、酪農家が生乳を作り、乳業メーカーが加工販売するという分業モデルで発展してきました。効率面では合理的でしたが、この構造が今の時代に合わなくなってきている点が問題だと川上さんは指摘します。
全員が同じことをやる必要はない
ただし川上さんは、「合わなくなった」ことが「個々の農家が全部やれ」を意味するとは考えていません。
全酪農家が加工すべきとは思いません。生産は生産として磨き、でも消費者とは切り離さず、情報と意思決定はもっと近づけるという形です。
どれだけ作られ、どれだけ余り、誰が飲みたいと思っているのか。それを可視化して調整できる仕組みが必要だと話します。
加工は、やりたい人・得意な人が、必要な規模で無理なく行えばいい。全員が同じことをやる必要はない、というのが川上さんの考えです。
だから、多くの酪農家が加工販売をしないのは、怠けているからでも挑戦心がないからでもない、と締めくくります。今必要なのは個人の努力ではなく、構造そのものをどう変えるかだと語りました。
コンビニスイーツに勝てるか、そして海外の選択肢
六次産業化について聞かれたとき、川上さんは「コンビニスイーツに勝てるかどうか」を問いかけるそうです。
毎週のように高クオリティで低価格の新商品が出るなかで、酪農家の新鮮な素材を使っていても、価格が少し高ければ継続的に食べてもらえるか。加工しても365日生産は止められないため、リスクはかなり高いと話します。
一方で、六次産業化に取り組む人については素晴らしいと評価します。成功例の多くは、経営者が酪農部門、奥さんや兄弟が加工部門というように、家族の中で専門性を分けている点がポイントだと言います。
さらに海外に目を向けると、自分で搾った牛乳を自動販売機のような設備に入れ、消費者が瓶を持って殺菌して詰めるという直接販売が、ニュージーランドやカナダなどで行われているそうです。
地元の人が地元の牛乳を飲むっていうのが、一番コストがかからず効率的ではないかなと思うんで。
既存の流通網やコールドチェーンを維持しながら、こうした選択肢も増やしてリスク分散していくのが理想だと、川上さんは個人的な考えを添えていました。
最後に、川上牧場初のKindle本『酪農未経験者のために』を紹介。内容は牛の生産と管理に特化していて、牛乳の流通の話は書いていないそうです。
牛の生産や管理がしっかりあってこその加工とか六次産業化だと思ってますので。
まとめ
多くの酪農家が生乳を自分で加工販売しないのは、やる気がないからではなく、日本の酪農が「生産に特化する分業」で成り立ってきたからです。加工は別業種で投資もリスクも大きく、全員が同じことをやる必要はない、と川上さんは語ります。
- 酪農家は365日、時間も体力も思考力も生産に使い切っている
- 加工販売は副業ではなく、別のスキルと数千万円規模の投資が必要な別業種
- 生乳は必ず引き取られるが、加工品は売れなければ在庫と廃棄コストになる
- 日本の酪農は分業前提。今必要なのは個人の努力より構造の見直し
- 家族での役割分担や、海外型の直接販売など、選択肢を増やしたリスク分散が理想
