クリスマスの牧場と今日のテーマ
配信はクリスマスの朝から。今日が12月25日の木曜日で、天気は雨のち雪、ホワイトクリスマスになりそうだと話が始まります。
川上さんはこの日、定期健診の歯医者に行ったあと、堆肥の切り返しや連日生まれている子牛へのミルクやりを予定しているそう。確定申告の準備も気になっているとのことです。
そんな日常の合間に取り上げるのが、リスナーから届いた「空気からバターを作る技術」についての質問。新しいもの好きの川上さんが、テンション高めで答えていきます。
空気中からバターを作るというニュースが上がっているんですけど、皆さんご存知でしたか?
質問「空気からバターをどう思う?」
お便りコーナーで読まれたのは、アワネームのリムさんからの質問です。
ビルゲイツが空気からバターを作る技術を確立していましたが、川上さんはどう思いますか?
川上さんも自分のSNSのタイムラインで流れてきて気になっていたそう。ただ、自分から取り上げると聴いている人がポカンとしてしまうので、質問として来たことで大手を振って話せると喜びます。
まず前提として、見出しだけを見ると盛っているように感じますよね、と川上さん。だからこそ「事実はどこまでか」「何がすごくて何はまだ途中なのか」「酪農家としてどう受け止めるか」を順番に整理していきます。
事実の整理:誰が、何を作っているのか
最初に大事な前提の整理から。この技術はビルゲイツ本人が開発したものではなく、彼が支援するアメリカのスタートアップ企業Savorビルゲイツが支援するアメリカのスタートアップ企業。CO2と水素から油脂を合成する技術を開発している。書き起こしでは「サヴォア」「サヴォワ」と発音されているによる技術だと説明します。
「空気からバター」という表現も、正確には補足が必要とのこと。Savorがやっているのは、空気中や工業由来のCO2を回収し、水から水素を取り出し、それらを熱化学プロセスで反応させて脂肪酸(油脂)を合成するという技術です。
ここが重要で、牛や植物、微生物といった生物を一切介さずに脂肪を作るという点が、これまでの大豆ベースの代替食品や培養肉、精密発酵とはアプローチが全く違うと川上さんは指摘します。
CO2を回収
空気中や工業由来の二酸化炭素を回収する
水素を取り出す
水から水素を取り出す
熱化学プロセスで反応
サーモケミカルによって反応させる
脂肪酸(油脂)を合成
生物を介さずに脂肪を作る
「本物のバターなのか」という点も誤解が起きやすいところ。Savorが作っているのは乳由来のバター(乳脂肪)そのものではなく、分子構造としては脂肪そのものだと整理します。
ビルゲイツさんが「本物のバターと区別がつかなかった」とブログで書いていたのは、味や香り、口溶けといった官能評価の話であって、成分的に牛乳と同一という意味ではない、というのが川上さんの見立てです。
なぜ注目されるのか、それでも酪農は不要にならない理由
酪農家の立場から見ても、この技術が注目される理由はわかると川上さんは言います。理由は大きく2つ。
1つ目は資源制約への対応。油脂の需要は世界的に増え続け、バターやチーズ、加工食品、植物油(特にパーム油)を支えるために農地や水、森林が強く消費されてきました。土地をほとんど使わずに脂肪を作れる発想は、環境負荷の観点で非常に合理的だといいます。
2つ目は用途の広さ。この技術はバターの代替だけでなく、パーム油の代替や工業用油脂、食品原料など幅広い用途が想定されていて、酪農と真正面から競合するより別の市場を狙っていると見た方が正確だと話します。
では、この技術があれば酪農は不要になるのか。川上さんはそうは思わないと語ります。理由はシンプルで、牛乳は脂肪だけではないから。
牛乳にはタンパク、ミネラル、機能性成分があり、土地の利用や資源循環、地域経済とも結びついています。牛は人が食べられない草を、人が食べられる栄養に変える存在。この役割は油脂を合成する技術とは、そもそも次元が違うといいます。
対立させないという受け止め方
川上さんが本当に大事だと考えるのは「対立させないこと」です。
この手の話題はすぐに「自然 対 人工」「酪農 対 テクノロジー」という構図になりがち。でもその対立はあまり生産的ではない、というのが川上さんの立場です。
この技術が担うのは都市部や大量消費、原料制約のある領域。一方で酪農は地域や風土、命の循環、体験や文化を担っていて、それぞれ役割が違います。大事なのは、その違いが正しい情報のもとで語られることだと話します。
大事なのは、その違いが正しい情報のもとで語られることです。
都市部、大量消費、原料制約のある領域を担う
地域、風土、命の循環、体験や文化を担う
未来への期待と「名前」への注文
今日の話をまとめると、Savorは実在するスタートアップで、CO2と水素から油脂を合成する技術は事実。ただし「空気からバター」という表現は少し飛躍していて、酪農や牛乳の完全な代替ではなく、技術は敵ではなく使いどころの話だと川上さんは締めます。
そのうえで、こうした技術がもっと加速的に出てくれば、まるでドラえもんの世界のように、今までできなかったことができるようになるといいます。3Dプリンターと組み合わせて、家でボタンひとつでバターに近い食品が手に届く、そんな夢も語ります。
食が豊かになり、飢餓や食糧が足りず食べられない人が救われるのはとてもいいこと。酪農も、無理に生産を伸ばして環境に負荷をかけている部分が是正され、工業的な油脂では出せない美味しさが再認識されれば、可能性はさらに広がると話します。
一方で、川上さんが強く注文をつけたのが「名前」の付け方です。牛乳から作られたものがバターであって、新商品に似た名前を付けて市場に寄せてこないでほしい、と熱を込めます。
豆の搾り汁を固めたものは、それは豆腐です。豆乳のヨーグルトなんてものはないです。
大豆のものを「お肉みたい」と売るのも同じで、新しいジャンルとして新しい名前で出してほしいというのが個人的な考え。既存の名前に「みたいな」と寄せてくる売り方が嫌なのだと語ります。
まとめ
空気からバターという刺激的な見出しを、酪農家の川上さんが事実と受け止めの両面から冷静に整理した回でした。技術を敵視するのではなく、使いどころの違いとして捉える視点が印象的です。
- 「空気からバター」はビルゲイツ本人ではなく、彼が支援するスタートアップSavorの技術
- SavorはCO2と水素から生物を介さずに油脂(脂肪)を合成する。区別がつかなかったのは味の話で、成分が牛乳と同一という意味ではない
- 土地を使わず油脂を作れる点は環境面で合理的だが、牛乳は脂肪だけでなくタンパクやミネラルも持ち、完全な代替ではない
- 川上さんは「自然 対 人工」と対立させず、役割の違いを正しい情報のもとで語ることが大事だと語る
- 代替食品は既存の名前に寄せず、新しいジャンルとして新しい名前で売ってほしいという注文も
