A5ランクって本当に美味しさの証明?
この日は研修生さんから届いた牛肉についての質問がテーマ。まずは、多くの人が「高くて美味しい肉」の代名詞だと思っているA5ランクの話から始まりました。
A5ランクって高いイメージがありますよね。
ところが川上さんの答えは意外なものでした。AやB、Cというアルファベットは、味の美味しさとは直接関係がないというのです。
ABCはそのどれだけお肉が取れたかっていう数字になるので。味の美味しさとしては変わらないわけですよ。
ABCは「歩留まり」、つまり1頭の牛からどれだけ肉が取れたかを表す指標です。歩留まり原材料から実際に製品として使える部分がどれだけ取れるかの割合。牛肉では1頭からとれる肉の割合を指します。
一方で、後ろにつく1から5の数字が脂の入り方、いわゆるサシを表しています。5が霜降りで、1が赤身肉というわけです。
1頭からどれだけ肉が取れたか(歩留まり)を表す。味とはほぼ無関係
脂の入り方(サシ)を表す。5が霜降り、1が赤身
つまりC5でもA5でも、切ってパッキングされて店頭に並べば、消費者が食べる味はそれほど変わらないということ。研修生さんも「意味がわからない」と苦戦していました。
赤身肉の美味しさは格付けで測れない
話は黒毛和牛以外の品種にも広がります。赤身肉のおいしさを追求して品種改良された和牛もあるのだと川上さんは説明します。
赤毛和種や短角種といった品種は、赤身の中に和牛のような美味しさを持っているのが特徴です。赤毛和種褐毛和種とも呼ばれる和牛の一品種。黒毛和種にくらべ赤身が多く、あっさりした肉質が特徴とされます。
ところが、こうした赤身のおいしい牛は、従来のサシ重視の格付けではA2やA3と評価されてしまいます。美味しいのに、A5にはならないのです。
赤身めっちゃうまくて美味しいお肉なんだけど、でもA5ではないっていう格付けされちゃう。
そこで数年前から、赤身肉の美味しさを測る新しい指標も出てきているそうです。ただ、こうした肉はスーパーではあまり見かけません。
スーパーでは見ない。多分、一対一の相対取引で個人間でやってるところが多かったりする。
品種改良が進みすぎて全部A5に?
ここで川上さんが紹介したのが、日本農業新聞に載っていたという興味深い話。今や出荷される牛肉のほとんどがA5になってしまっているというのです。
あまりにも極端に品種改良が進みすぎちゃって、全部A5になっちゃってるから。
その結果、消費者からは逆に「赤身肉のおいしいお肉が欲しい」という要望が増え始めているのだとか。選択肢が霜降りばかりになってしまったわけです。
研修生さんも、脂の多い牛肉は特別な時に食べるもの、赤身は安いから普段食べるもの、という時代の感覚を口にします。
霜降りが美味しいって言ってたから、一生懸命生産者が霜降りに振ったら、その霜降りはやめてくださいみたいな。
同じことはイチゴやスイカにも起きているそうです。甘さを追求しすぎたイチゴ、大きくしすぎて家庭で食べきれないスイカ。良かれと思った改良が行き過ぎて、消費者に受けなくなるという皮肉です。
「霜降りが美味しい」の声に応えて生産者が霜降りを追求
改良が進みすぎて全部A5に。今度は「赤身がほしい」の声が出る
ミルクも肉もいい牛は作れる?品種改良の未来と倫理
研修生さんは「ミルクがたくさん出て、かつお肉も美味しいホルスタインは作れないのか」と質問します。川上さんによれば、それが「牛肉兼用種」です。
ブラウンスイスがその一例で、海外ではお肉も牛乳も取れる牛として飼われているのだそう。ブラウンスイススイス原産の乳用・肉用兼用の牛の品種。放牧に向き、乳はチーズなどの加工に適しているとされます。
ブラウンスイスとホルスタインの違いは何ですか?
ブラウンスイスの方がチーズなどの加工に向いた牛乳が出て、放牧への適性も高いとのこと。乳脂肪やタンパク質が高い牛乳が出やすいそうです。
ただし、ミルクも肉も両立する牛は今はいないと川上さん。乳用と肉用では改良の方針がまったく違うからです。それでも、いずれ作られてくるだろうと話します。
この話から、研修生さんは品種改良への少し複雑な思いを口にしました。
品種改良って怖いですね。
これに対して川上さんは、品種改良こそが今の豊かな食を支えていると返します。ゲノム編集のセミナーで学んだトマトやジャガイモの原種の話を例に挙げました。ゲノム編集生物の遺伝子を狙って書き換える技術。品種改良を従来より速く正確に行える一方、安全性や倫理の議論もあります。
トマトの原種とか、ジャガイモの原種とか毒あるとか出てくるからね。牛の原種もオーロックっていう野生の牛だけど。
研修生さんが気にしていたのは、食べ物や動物ではなく、人間への品種改良でした。身長の高い人がいいとなれば、そう操作できてしまうのではないか、という不安です。
これだけ牛とかにできてるってことは、もう人間にもできなくない?
できますよね。全然できますよね。
国産牛を食べると酪農家が嬉しい理由
最後は、スーパーで見かける「国産牛」という表示の話。これはホルスタインである可能性が高いと川上さんは言います。
国産牛のお肉が売れて価格が上がると、ホルスタインを売却する時に酪農家が嬉しいのだそう。だから国産牛を選んでほしいと呼びかけます。
ここで川上さんは、輸入に頼るリスクにも触れました。ヨーロッパで豚熱が出て輸入が止まり、豚肉が値上がりしているといいます。豚熱豚やイノシシがかかる家畜伝染病。発生国からの豚肉輸入が止まり、価格に影響することがあります。
鳥インフルエンザも渡り鳥が運ぶため毎年のように発生し、ブラジルなどからの鶏肉輸入が止まると価格が一気に上がるとのこと。
話の締めくくりでは、スーパーのミンチに何が入っているかわからないと研修生さんが不満を漏らす一幕も。ホルスタインの1・2ランクの肉はミンチになることが多いそうです。
いろいろあります。言えないこともあります。それは。
まとめ
研修生さんの素朴な疑問から、牛肉の格付けの本当の意味と、品種改良が抱える難しさが見えてきた回でした。A5だけがいい肉ではないというのは、ちょっと目からウロコですよね。
- 牛肉のABCは1頭から取れる肉の割合(歩留まり)、1〜5はサシの量を表し、味の美味しさとは別物
- 赤身肉のおいしい和牛はA5になりにくく、スーパーではあまり出回らない
- 品種改良が進みすぎて牛肉はほぼA5に。今は逆に赤身を求める声が増えている
- ミルクも肉も両立する牛は今はいないが、品種改良でいずれ作られる可能性がある
- 輸入が止まるリスクを考えると、国産牛を選ぶことは国内の農業を守ることにつながる
