リスナーの質問「牛の性格で生産性は変わる?」
この日の配信で取り上げたのは、Spoonのリスナー・みずみずしいさんから届いた質問です。
うちの性格によって生産性が変わったりすることはありえますか?
川上さんはまず、牛にも一頭一頭はっきりした個性があることから話し始めます。
牛もやっぱり一頭一頭個性がありましてね。穏やかな牛さん、ぼーっとしてる牛さん、人懐っこい牛さんもいれば、神経質でビクビクオドオドしてるような牛さんもいたりします。
さらに、扱いやすい牛は品種改良でも増えてきていて、極端に神経質な牛は減ってきているといいます。
牛の気質はどう決まるのか
川上さんは、牛の気質にはいくつかのはっきりした傾向が観察されていると説明します。落ち着いている牛、警戒心が強い牛、人によくなれる牛、環境の変化に敏感な牛、群れの中で上下関係がはっきりしている牛などです。
そしてこうした性格は、3つの要素で形づくられることが科学的に確認されているといいます。
遺伝
生まれ持った気質のベース
子牛の時の経験
人との接し方や育ち方
群れの環境
暮らす群れの状況
性格が乳量を左右する仕組み
では、なぜ性格で乳量が変わるのでしょうか。川上さんはポイントはストレス反応にあると話します。
牛はストレスに敏感な動物で、ストレスが強いとコルチゾールストレスを受けたときに分泌されるホルモン。数値が上がるほど強いストレス状態を示すとされる。が上昇し、お乳を出すホルモンであるオキシトシンが抑えられてしまうそうです。
その結果、搾乳のときに乳の出が悪くなる。これは酪農研究でもっとも確立している事実の一つだといいます。
神経質な牛、警戒心が強い牛はストレスを受けやすく、搾乳のときにオキシトシンが出にくくなり、乳が出にくいという形になります。
逆に落ち着いた牛やおっとりした牛はストレスが低いので、オキシトシンが正常に働き、安定してお乳が出るというシンプルな構造なんですね。
乳量だけじゃない、気質が及ぼす影響
気質が影響するのは乳量だけではありません。川上さんは周辺の部分にも影響が出ると続けます。
採食量が落ちる
ストレスがあると餌を食べる量が減る
反芻時間が短くなる
もぐもぐする時間が減る傾向がある
餌場に近づきにくい
群れで劣位かつ神経質だと餌に近づけない
結果として乳量が落ちる
食べる量が減り乳量にひびく
これらはすべて生理反応として確定している事実だと川上さんは言います。
川上牧場の現場で見える違い
ここからは現場の観点です。川上牧場で見ると、性格による違いは明確だといいます。
搾乳がスムーズで採食が安定。分娩後の回復も早く、乳量が安定して人も扱いやすい
搾乳のときに暴れたり体を緊張させたりする。音や人の動きに敏感で、乳量の変動が大きい
川上牧場はつなぎ牛舎なので餌が食べられないことはないそうですが、群れの移動などで場所が変わると、ものすごく吠える牛もいるといいます。
川上さんは、これは性格のせいというより、性格によって日常のストレスの負荷量が違うからだと説明します。
性格は変えられる?扱いやすさは改善できる
では、こうした性格は変えられるのでしょうか。川上さんは、完全に変えるのは難しいけれど、扱いやすさは改善できることが科学的にわかっていると話します。
低ストレスハンドリングについては、テンプル・グランディン動物行動学の研究者。家畜が驚かず自然に動ける扱い方や施設設計の研究で知られる。博士の研究でも明確だといいます。大きな声で押したり棒で叩いたりするより、牛に合わせて動かすほうが早く動いてくれて、ストレスも低いんですね。
搾乳ロボットと子牛管理の工夫
今この気質という視点が注目されている理由の一つが、搾乳ロボットの普及です。
搾乳ロボットに自分から入るのは、好奇心が高い牛や大人しい牛。そういう牛のほうが入る回数が多く、生産性が高くなるため、遺伝改良にも気質が取り入れられてきているといいます。
一方で、川上さんは子牛を可愛がりすぎることには注意も必要だと話します。
可愛い可愛いしてしまうと、大きいときにも影響が残って人嫌いだったり、発情のときに人間に恐怖心がないので乗りかかってきたりする。一概に可愛がればいいわけではなくて、扱いやすい牛を作るという感じですかね。
具体例として、子牛のミルクを欲しがる時期に握り拳を鼻先に向けて舐めさせておくと、大人になっても舐める習慣が残り、薬のボトルを鼻先に持っていくだけで飲んでくれる。経口投薬がしやすくなるといいます。
さらに、子牛のときに親牛になったときの餌を与えておくと、ルーメン牛の胃の一つで、微生物が餌を分解・発酵させる場所。反芻動物の消化のかなめとされる。の微生物が大人の餌を覚えてくれるので、餌の切り替えがスムーズになるそうです。これは自家育成のメリットだといいます。
人間の言うことを聞く、人間が扱いやすい牛のほうが生産性が高いと思っているので、そういう牛になるように飼っています。牛との距離感、大事ですね。
まとめ
牛の性格が生産性に影響するのは感覚ではなく、ストレスがホルモンを通して乳量や採食量に作用する体の仕組みによるもの。性格そのものは変えにくくても、扱い方や子牛期の接し方で「扱いやすさ」は改善できる、という科学と現場が一致する回でした。
- 牛には落ち着き・警戒心・敏感さなど明確な気質があり、遺伝・子牛期の経験・群れの環境で形づくられる
- ストレスが強いとオキシトシンが抑えられ、乳の出や採食量、反芻時間が落ちる
- 落ち着いた牛は搾乳や採食が安定し、神経質な牛は乳量の変動が大きい
- 予測可能な扱い・低ストレスハンドリング・子牛期の接し方で扱いやすさは改善できる
- 搾乳ロボットの普及で気質が注目され、遺伝改良にも取り入れられている
