牛の鳴き声に種類はあるのか、という質問
今回の質問は、配信アプリのポポポからポポポネームカンシンさんが寄せたものです。
牛さんはたまに鳴いていますが、鳴き声に種類はあるのでしょうか?品種によって鳴き声が違ったりするのでしょうか?
川上さんも「これは自分も知らなかった」と話し、あらためて調べて答えていきます。
牛が鳴くのは、発情したときやお腹が空いたとき、乳を搾ってほしいときなど、何か訴えたいことがある場面が多いといいます。
牛の鳴き声、発情したりとか、お腹が空いたりとか、乳搾ってくれっていう時は鳴いたりするんですよ。時々その意思疎通のやつですよね。牛がなんか気分で鳴いたりもする時もありますけども、大抵はなんか訴えることがあった時に鳴いたりします。
文字にすると全部「モー」でも、実際はかなり違う
牛の鳴き声は文字にすると全部「モー」ですが、川上さんいわく、実際は「ホー」という感じに近いそうです。
そして毎日一緒にいると、短く低い声、口を閉じたまま出す声、遠くまで響く大きな声、繰り返す声、子牛が細く高く鳴く声など、かなり違いがあると気づきます。
まず結論として、牛の鳴き声は1種類ではありません。鳴く状況や興奮の強さによって、音の高さ、長さ、大きさ、回数、口の開け方が変わります。
ただし「この声なら絶対に空腹」「この声なら絶対に発情」と、声だけで翻訳できるところまでは研究が進んでいないといいます。
研究では、鳴き声を口を閉じたまま出す低い声と、口を開けて出す高くて大きな声に大きく分けて考えることがあります。
仲間や子牛との穏やかなやり取りなど、比較的興奮の弱い場面で出やすい。「うー」という声。
離れた相手を呼ぶ、要求、不安、分離など興奮が強い場面で出やすい。「フィ」という声。
ただし低い声も、鳴き声だけで「嬉しい」と断定できるわけではありません。現在の科学では感情の強さと快か不快かを分けて評価し、他の行動や生理指標と組み合わせる必要があるとされています。
牛はどんな時に鳴くのか
牧場でよく見られる、牛が鳴く場面を整理してみます。
まず、親牛と子牛が相手を呼ぶときです。母牛と子牛を離した実験では、分離後に鳴く回数が増えると報告されています。
一緒に過ごした期間が長いほど、分離への反応も強くなることがあります。あの大きな声には「子牛はどこ?」「お母さんどこ?」と相手を探す機能が含まれていると考えられています。
次に、餌を期待しているときです。牛は餌の時間や人が入ってくる時間をよく覚えていて、予定を過ぎたり餌の機械が近づくと一斉に鳴くことがあります。
ただし、鳴いているからといって栄養不足や飢餓とは限りません。「いつもの時間に餌が来るはず」という期待で鳴いている場合もあります。
次に、群れから離されたときです。牛は社会性の高い動物で、治療や移動などで1頭だけ別の場所に移すと、仲間を探して繰り返し鳴くことがあります。
そして、発情しているときです。発情期は落ち着きがなくなり、歩数が増え、他の牛に乗ったり乗りかけられたりする行動が見られ、その一部として鳴く回数が増える牛もいます。
牛の鳴き声を機械学習で分類し、発情時の音声を高い精度で識別できたという研究もあります。ただしこれは特定の環境とデータで作ったモデルの結果です。
川上牧場も、発情している牛が鳴いて「あ、発情か」と思うことはよくあるんですけど、全く鳴かずに発情する牛も結構いたりします。だから現場では、鳴き声だけではなく、乗りかけや発情粘液、外陰部の変化、活動量、前回の発情日などを合わせて判断していきます。
さらに、痛みや恐怖、強いストレス、暑さや寒さ、空腹や渇きなどによっても鳴き声の回数や特徴が変わることがあります。そのため鳴き声は、触れずに確認できるアニマルウェルフェア家畜が不安や苦痛をできるだけ感じず、その動物本来の行動がとれる状態を目指す考え方。福祉的な飼育の指標として研究・評価されています。の指標として研究されています。
ただし、牛は痛みがあっても必ず大声で鳴くとは限りません。弱っていることを目立たせない性質もあるため、鳴かないから問題がないとは言えません。耳の向きや呼吸、採食量、反すう、歩行なども重要です。
鳴き声には「個体差」がある
牛の鳴き声には、もう一つ面白い特徴があります。個体によって声が違うのです。
人間の声を聞けば「あ、家族の声だ」とわかるように、牛の声にも基本周波数や響き方に個体差があり、音声の中に個体を識別できる情報が含まれていると研究されています。
近年は首輪につけたマイクで牛ごとの鳴き声を記録し、機械学習で回数や長さを検出する研究も進んでいます。
ニュージーランドの研究では、10頭の牛を観察したところ、1日あたりの鳴いた回数は少ない牛で20回、多い牛で584回と非常に広い幅がありました。
これは、鳴く回数そのものにも牛ごとの性格や状況の違いが表れる可能性を示しています。川上牧場でも、よく鳴く牛とほとんど鳴かない牛がいるそうです。
餌の時、いつもあいつ鳴いてうっせえなって思ってるやつがいたりもしますね。この子鳴いたの見たことねえなっていう子もいます。同じホルスタインでもかなり違います。
だからこそ大切なのは、他の牛と比べるだけではなく、その牛自身の普段の声と比べることだといいます。
品種によって鳴き声は違うのか
質問のもう一つ、品種による違いについては、慎重に答える必要があるといいます。
体格、性別、年齢、喉や声道の大きさが違えば、声の高さや響き方も変わる可能性があります。一般に体が大きく声道が長い個体ほど低く響く声になりやすいという音響学的な考え方があります。
成牛と育成牛を比べた研究では、成牛の方が低い周波数で鳴く傾向も示されています。
しかし「ホルスタインはこの鳴き方」「ジャージーは必ず高い声」というように、品種ごとの鳴き声を明確に整理できる研究は、現時点では十分ではありません。
品種の差よりも、年齢、体格、性別、個体差、鳴いている場面、感情の強さの方が、声に大きく表れる可能性があります。
つまり、科学的には品種による差が全くないとは言えないものの、はっきり断定できる根拠はまだ少ない、という答えになります。
鳴き声は「いつもと違う」を知らせる通知
牛が鳴いたからといって、すぐに異常と判断するわけではありません。見るべきなのは、普段より鳴く回数が増えていないか、長時間繰り返していないか、仲間から離れていないか、餌や水に問題がないかなどです。
特に注意したいのは、普段あまり鳴かない牛が何度も鳴く、同じ場所を見ながら鳴き続ける、落ち着かず歩き回る、呼吸が早い、餌を食べない、といった変化が重なっている場合です。
鳴き声は病名を教えてくれるものではありません。しかし「いつもと違うから少し見てほしい」という牛からの通知になることがあります。
この分野はAIと相性がよく、マイクや活動量センサーの情報を組み合わせれば、発情や分離のストレス、空腹、痛み、体調変化などを早く発見できる可能性があります。
ただし研究段階の技術も多く、商業農場の雑音や個体差に対応するにはさらに検証が必要だといいます。
AIがこの鳴き声は病気ですと全てを答える時代ではなく、まず「いつもより鳴く回数が増えている」「この牛が普段と違います」と人間へ知らせる補助役になるのが現実的かなと思います。
まとめ
文字にすると同じ「モー」でも、牛の鳴き声には状況や興奮の強さ、そして個体差による違いがあります。声だけで気持ちを翻訳することはできませんが、他の行動と合わせて見れば、牛からの大切な手がかりになります。
- 牛の鳴き声は1種類ではなく、状況や興奮の強さで高さ・長さ・大きさ・回数・口の開け方が変わる。
- 口を閉じた低い声は穏やかな場面、口を開けた高い声は呼びかけや不安など興奮の強い場面で出やすい。
- 鳴き声には個体差があり、大切なのは他の牛ではなく、その牛自身の普段の声と比べること。
- 品種による差は完全には否定できないが、年齢・体格・場面・個体差の影響の方が大きく、断定できる根拠はまだ少ない。
- 鳴き声は病名を教えないが「いつもと違う」を知らせる通知になり、今後はAIによる補助が期待される。
