餌代の値上げに憤る酪農家からの相談
今回の配信は、リスナーのせいさんからスタンドFMのレター機能を通じて寄せられた質問から始まります。
せいさんは先日、牛をたくさん飼っている酪農家と話す機会があったそうです。その方が餌の高騰に強く憤っていたといいます。
仕入れ先が価格を上げ続けている。その会社は過去最高益を出しているのに、なぜ値上げするのか。調達先を変えて二割削減できたはずなのに、それでも値上げする、という内容でした。
随時購入は仕方ないとしても、餌の価格交渉は相見積もり、餌の多角化以外に方法はありますか?
この問いに対し、川上さんは「これは酪農経営をやっている酪農家みんなが考えているテーマだ」と受け止めます。
そして、飼料価格をどう考えるかというより、酪農経営全体をどう考えるかという視点で話を進めていきます。
飼料費は経営費の半分近くを占める
まず川上さんは、日本の酪農経営で一番大きな経費が飼料費であることを説明します。
農林水産省の経営統計では、飼料費は経営費全体の約四割から五割を占めているといいます。
ただし統計は北海道の比重が大きいと補足します。北海道は生産量も酪農家件数も六割ほどを占めるため、数字が北海道寄りになりがちだそうです。
北海道は自給飼料を作るため飼料費自体は抑えられますが、設備費や機械の購入費が上がります。そうした費用を含めると、飼料費が五割から六割、多いところでは七割ほどになると川上さんは話します。
つまり、一円飼料が安くなるだけでも、経営全体への影響は非常に大きくなります。
だからこそ相見積もりや複数の会社と話をすることは重要だと川上さんは言います。ただし、それだけでは限界があるとも考えています。
コロナ後に変えた「組み合わせる経営」
川上牧場はコロナ前まで、ほぼ購入飼料だけで牛を飼っていたそうです。餌メーカーの餌をそのまま買い、配合飼料も海外の輸入飼料を使っていました。
しかし、コロナ、円安、ウクライナ情勢、コンテナ不足、原油や中東情勢など、次々と起きた出来事を経験して考え方を大きく変えたといいます。
一極集中して依存するっていうのは、かなりやばいなっていうのをそこで感じたんですよね。
現在は輸入飼料だけでなく、国内飼料、地元で手に入る食品残渣、そして自給飼料を組み合わせています。
その時々の価格や品質を見ながら組み合わせを変えているそうです。川上さんはこれを「一つの答えではなく、組み合わせる経営に変えた」と表現します。
よく言えばリスク分散、悪く言えば中途半端、こういうことかなと思います。
ただし、安ければ何でもいいわけではないと川上さんは強調します。一番大切なのは牛が健康であることだといいます。
乳量が落ちたり繁殖成績が悪くなったり病気が増えれば、結果として損になります。だから飼料単価ではなく、経営全体で利益が残るかを考えているそうです。
餌代を下げても、機械の購入費や土地の維持費、機械を動かす人件費がかかれば、結局は変わらないことになると具体的に説明します。
牛の遺伝改良も経営戦略になる
川上さんがもう一つ重要だと語るのが、いつも話している遺伝改良です。
牛にも個性があり、高エネルギーの飼料で能力を発揮する牛もいれば、粗飼料を上手に利用できる牛もいるといいます。
分娩後すぐ七十キロ、八十キロと乳量が飛び出す牛もいれば、年間を通して五十キロほどで安定する牛もいます。牧場に合わせてどんな牛を飼うかが大事だと話します。
輸入飼料価格が不安定な時代になるなら、その地域で手に入りやすい飼料を上手に使える牛を作ることも立派な経営戦略だと川上さんは考えます。
Jミルクや農林水産省も、国産飼料の利用拡大や飼料自給率の向上を重点的に発信していると川上さんは触れます。日本全体が輸入飼料だけに依存する経営から少しずつ変わろうとしている、というわけです。
飼料会社は敵ではない
では飼料会社は敵なのでしょうか。川上さんは「そうは思っていない」と答えます。
飼料会社も原料価格、輸送費、エネルギー価格、人件費など、様々なコストが上がっています。利益を出さなければ会社は続きません。
だから価格だけで見るのではなく、品質や提案力、情報、アフターサービスも含めて判断する必要があると川上さんは話します。
そのうえで、川上さんが最も大切だと考えていることが語られます。
酪農は安い餌を探すゲームではありません。変化に対応できる経営を作るゲームです。
輸入飼料だけでも、国内飼料だけでも、食品残渣だけでも危険。一箇所に集中することが、不安定な国際情勢や環境問題の中で本当に危ないと川上さんは繰り返します。
いくつもの選択肢を持ち、価格が変われば配合を変え、原料がなければ別の餌を使い、牛もそれに対応できるよう改良していく。これがこれからの酪農経営に必要な考え方ではないかと語ります。
自分で決められることを増やす
川上さんは、飼料価格をどう考えるかという質問から、コロナ後に大きく変えた飼養管理について話してきたと振り返ります。
飼料価格は自分では決められません。しかし、どんな経営をするかは自分で決められます。
餌が上がった下がったで酪農が儲かる儲からないと一喜一憂するのは持続性がないと川上さんは考えます。
自分で判断できるところを増やしていく。その積み重ねが五年後、十年後の経営を大きく変えるのではないかと語ります。
川上さんは、二十歳頃に就農してからの二十年で大きな変化を見てきたといいます。かつては規模拡大でスケールメリットを出し、餌代を下げ、牛乳の販売も有利にという流れがありました。
もうそれ今考えてみたら、全然もうそういうことはないですよね。
五年後十年後を考えても予測はできないと川上さんは言います。だからこそ、常に世の中の変化に合わせられる酪農経営をしていくといいのではないかと話します。
コメント欄には「酪農したいですよね」との声も届きました。川上さんは、楽しいかどうかは本人次第だと応じます。
儲からなくても牛のいる生活で家族が食べていければいいと思えばそれも酪農であり、一生懸命働いて金儲けするのが楽しい人にとってもそれが酪農だといいます。価値観は人それぞれだと語ります。
酪農はいろんな経営体があって、いろんな飼い方があって、牛も全然違って、餌の買い方も全然違う。これがこの酪農の奥深さで面白さだと僕は本当に思っている。
まとめ
今回は飼料価格の値上げに悩む酪農家の相談を入り口に、川上さんが「価格交渉ではなく、変化に対応できる経営を作ること」の大切さを語りました。自分で決められないことに振り回されるのではなく、判断できる部分を増やしていく姿勢が印象的な回でした。
- 日本の酪農では飼料費が経営費の約四割から五割、条件によっては七割近くを占める
- 川上牧場はコロナ後、輸入・国内飼料や食品残渣、自給飼料を組み合わせる経営に転換した
- 大切なのは飼料単価ではなく、牛の健康を含めた経営全体で利益が残るかどうか
- 地域で手に入る飼料を活かせる牛を育てる遺伝改良も、立派な経営戦略になる
- 飼料価格は決められないが、どんな経営をするかは自分で決められる
