今日のテーマと1通の質問
配信は11月24日、三連休最後の日。川上さんは休まず堆肥の切り返しや種付けの準備といった仕事をこなしながら、この日の配信テーマを紹介します。
きっかけは、以前話した「日本の酪農が衰退したら海外から輸入して埋める」という話。年末年始には需要と供給のバランスが崩れやすく、農林水産大臣が牛乳をコップ1杯飲むよう呼びかけていたことにも触れています。
以前、日本の酪農が衰退したら海外から輸入して埋めると話されていましたが、国産と海外産(中国など近隣の国)では品質は遜色ないんですかね?逆に国産ブランドとして売り込むことは難しいですか?
川上さんはこの質問を「グッとくる質問」と喜び、内容を一度整理したメモを読み上げるかたちで、テンション高めに答えていきます。
「減ったら輸入で埋める」の中身
まず川上さんが確認するのは、「減ったら輸入で埋める」がどういう意味かという点です。ポイントは、生乳そのものはほぼ日本には輸入されないということ。
生乳での輸入は難しくても、脱脂粉乳などの加工品なら日本に売り込みたい国はたくさんある、というのが前提です。
ただし、価格差によって入れるメリットが出てくれば、民間輸入も少しずつ増えてくる可能性があると話されています。カレントアクセスWTO協定で決められた最低輸入機会のこと。一定量の乳製品などを毎年輸入する枠が国に設定されています。
一方で、TPPなどの関係で乳製品の関税は下がってきているものの、生乳にはまだ関税がかかっているため、生乳そのものが入ってくるのはなお難しいと整理しています。
そこで増えてくると見るのが、バター、脱脂粉乳、チーズ、ホエイなどの加工された乳製品です。これらの多くは、政府が運用する関税割当の枠の中で輸入されているといいます。
主な仕入れ先は、ニュージーランド、オーストラリア、EU、アメリカなど、もともと酪農が盛んな国々。質問にあった中国など近隣の国というより、遠くの酪農大国から来ているものが多いのが実態です。
国産と輸入、品質は遜色ない?
いちばん気になる品質の話です。安全性の面では、日本に入ってくる乳製品は食品衛生法や動物検疫の基準を満たさないと輸入ができません。
残留農薬や微生物、細菌、動物由来の病気などが検査され、一定の基準をクリアしたものだけが市場に出てきます。つまり「輸入だから危険」「国産だから絶対安全」という単純な見分けはできない、というのが川上さんの見方です。
ただし、味や風味には違いが出ます。牛の品種、餌が牧草中心か穀物多めか、気候、殺菌温度やチーズの熟成期間といった加工方法。こうした条件が風味にそのまま反映されるからです。
どちらか上かというより、その国の食文化に合わせて求められている味に作り込まれているという方が近いですね
もう一つ大事なのが「見える化」の度合いです。国産の牛乳は、どの都道府県か、どの農協のどの工場でパックしたかまで、パッケージでわかることが多いといいます。
一方で輸入品は、どの国のどの工場で、どんな農家の原料を混ぜているかまで遡って見えるのは、現状なかなか難しい。安全性の最低ラインはどちらもクリアしていても、誰がどこで作ったかを知りたい人には国産のほうが情報量は多い、という違いです。
安全性の基準をクリア。都道府県や工場まで見える化されていることが多い
同じく安全性の基準をクリア。ただし農家や工場まで遡って見えるのは難しい
国産ブランドとして売り込めるか
最後は「国産ブランドとして売り込むのは難しいか」という質問です。まず国内に限れば、国産ブランドはすでにかなり強い、と川上さんは言います。
北海道の牛乳、○○県産牛乳、ジャージー牛乳、低温殺菌牛乳など、どこの牛乳を選ぶかを気にして買う人は増えています。味の違いやこだわり、放牧や餌、殺菌方法の違い、そして地域への愛着。こうした要素を積み重ねれば、まだ伸ばせる領域だとしています。
一方で、海外の乳製品と比べて日本の国産をブランドとして売る話になると、難しさも増えます。理由はシンプルで、生産コストが高いこと。
人件費に加え、餌や原料、原油などを輸入していること、規模が小さく量が少ないこと、運ぶ距離が長いこと。こうした構造から、「安く大量に」という勝負では海外の酪農大国に勝ちにくいといいます。
その代わり日本が勝てるとしたら、きめ細やかな品質管理、美味しさの設計、安全安心でクリーンなイメージ、そして物語性といった付加価値の部分です。
牛乳、バターを世界一安く売るという勝負は現実的ではないですけれど、日本だから出せる味、品質、ストーリーをちゃんと伝えていくブランド作りなら十分チャンスはあります
特にアジア圏では、日本のスイーツやパン、カフェ文化とセットで乳製品のブランドを作っていく余地は大きいと見ています。
国産の役割とこれからの仕組み
川上さんは「国産イコール偉い、輸入イコール悪い」という単純な構図で語りたいわけではない、と釘を刺します。世界中の酪農家も、それぞれの場所で牛と向き合って一生懸命やっているからです。
そのうえで、日本の国産が担う役割を3つに整理しています。
安全弁
最低限これだけは日本の中で作るという役割
選択肢
消費者が顔の見える牛乳を選べる状態を残す役割
文化・景観
地域の文化や景観を支える存在としての役割
輸入品も上手に使いながら、日本の中にもちゃんと牛がいる状態をどう残すか。そのために生産と消費のデータをつなげ、必要な分だけ過不足なく作り、余った分は将来に回す。そんな仕組みに変えていけたら、と話します。
見える化についても、デジタルで世界がつながりAI翻訳も進む今、海外のテクノロジーが先に進めて日本が追い越される部分もあるかもしれない、という見方も添えています。
北海道が本気になったら
コメントに戻り、川上さんは個人的な思いも語ります。国産は価格で勝負できないという指摘を受けつつ、条件次第では海外と戦えると考えているのが北海道です。
本当に僕、北海道の方にガンガン絞ってもらいたいと思ってるんで、北海道だとその条件だと海外と戦えると思ってるんですよね
北海道より小さい国でも輸出している国はある。国内生乳の約6割を北海道が作っているため足りなくなる部分は出るものの、それくらいチャレンジングなことをしてもいい、というのが川上さんの持論です。
輸入品を求める声もあるので、輸入量を増やしながら輸出量も増やしていく。そんな形ができたらいいと、あくまで個人的な考えとして話しています。
まとめ
国産と輸入は「どちらが正しいか」ではなく、仕組みの話と価値観の話が混ざっているテーマ。川上さんは事実ベースで整理しつつ、国産をどう残していくかという酪農家目線の考えを語ってくれました。牛乳を買うときは、どこで誰が作ったのかを少し気にしてみると、見え方が変わるかもしれませんね。
- 日本の酪農が減ると、不足分はバターやチーズなど乳製品の輸入が増える
- 輸入品も日本の基準をクリアしており、安全性の最低ラインは担保されている
- 誰がどこでどう作ったかの見える化は、国産のほうが細かくできる
- 世界で戦うのは簡単ではないが、価格より付加価値や物語で勝負する余地はある
- 国産の役割は自給率だけでなく、選択肢・文化・安全弁としての意味が大きい
