和牛価格には「波」がある
番組冒頭では朝の天気やその日の仕事の話から始まりますが、今回のメインテーマは和牛の価格です。
きっかけは、TikTokユーザーのアサンさんから届いた質問でした。
和牛の価格が落ちる氷河期は定期的に来ると思いますか?
この問いに対して川上さんは、需要と供給などいろいろな要因があるとしつつ、価格の動きにはランダムではなく明確な波と周期があると話します。
和牛価格は決してランダムではなく、歴史的な出来事と深く連動してきたということです。
過去30年、約10年ごとの価格ショック
川上さんがリサーチした内容によると、過去30年を振り返ると約10年ごとに大きな価格ショックが起きているそうです。
どのタイミングも消費者心理を一気に冷やしてきた、という共通点があります。
ただ、こうした落ち込みのあとには、必ず供給の減少とともに価格が回復し、さらに「和牛バブル」と呼ばれる高騰期が訪れてきました。
たとえば2016年には、A5和牛の格付けで最高ランクにあたる等級。肉質と歩留まりの両方が最上位のものを指します。の枝肉価格が1キロあたり約2800円と過去最高を記録。供給が極端に少ない中で需要が強かった時代です。
和牛の市場は氷河期から回復期になってバブル期になってまた調整される。このサイクルを何度も繰り返してきました。
いま起きている「構造的な供給過剰」
そして今、和牛市場は新たな氷河期に立っているとも言えると川上さんは話します。現状を一言で言えば「構造的な供給過剰」です。
2023年の和牛出荷頭数は約50万頭で、過去10年で見てもかなり高い水準。その背景には、2015年から2021年の子牛価格高騰期があります。
この頃に繁殖農家が増頭に踏み切り、その子牛たちが数年の肥育期間を経て、今まさに市場へ集中して出てきているというわけです。
さらに、酪農分野からの和牛子牛供給も増えています。
受精卵移植による和牛の生産は、2015年の6%から2020〜2022年には11%へと倍増しました。
需要側の壁と、希望としての輸出
供給が多いなら需要で吸収できればいいのですが、需要側にも大きな壁があります。
国内の一般消費者は、物価高と節約志向の影響で、和牛を日常食ではなく「特別な日の贅沢品」として捉える傾向が強まりました。スーパーから和牛が消えている地域も少なくないそうです。
和牛を支えてきた高級外食やインバウンド需要も、コロナ以降の回復は鈍く、完全復活とは言えない状況です。
一方で、希望の光もあります。それが輸出です。
まだ全体の2.5%程度ですが、確実に市場を下支えしていて、この比率が5%、10%と拡大すれば国内需要は大きく変わる可能性があると話します。
政策のタイムラグと今後の見通し
忘れてはいけないのが政策の影響です。近年の繁殖雌牛の増頭政策は、短期的には安心材料でしたが、結果的には供給過剰を生みました。
現在は子牛価格の低迷により、21年ぶりに価格補填の制度が発動されていて、これは非常事態の象徴でもあります。
政策は未来を良くしようとして作られていますが、時間差によってその効果は逆に現れることもある。
では、これから何が起きるのか。短期的には2024〜2025年は厳しい状態が続き、出荷頭数はピーク圏、価格は底ばいか弱含みが続く見通しです。
一方で中期的には変化も見えてきます。子牛価格の低迷で繁殖農家の離農が始まりつつあり、これは数年後の供給減少を意味します。
つまり2026〜2027年以降は、価格が再び上昇局面へ転じる可能性が高いというのが、リサーチのまとめでした。大阪万博やインバウンド回復、輸出拡大が同時に動けば、回復はもっと早まるかもしれません。
川上さんの読みと、価格に振り回されないために
ここからは、リサーチ内容に対する川上さん自身の見立てです。
使ったデータが少し古かったのか、実際にはすでに価格が回復傾向にあるとのこと。年末に向けて来春まで上がるという見方もあり、島根の市場では体重が乗っていない安い牛でも50万円に届くことがあったそうです。
ただし川上さんは、家畜改良事業団などが出す乳牛への和牛移植頭数を見ると、北海道を中心にかなりの数が移植されていて、上場頭数が増えれば再び下がる可能性もあると予測します。
一方で九州では和牛農家の離農が年間10%近いペースで進む地域もあり、予測は難しいと率直に語ります。
そのうえで気になるのが、価格変動の周期そのものが短くなっているという実感です。
10年周期であったものがもう5年とか3年周期とかで上がったり下がったりみたいな、こういう感じに感じられます。
コロナや戦争のように、そもそも予測が難しい出来事も価格を大きく揺らします。だからこそ川上さんは、価格に左右されない土台づくりが大事だと話します。
繁殖の分娩間隔を短くするとか、いい子牛を産ませるとか、そういうところを頑張るしかないかなと思ってたりします。
輸出・中国規制をめぐるリスナーとのやり取り
配信後半では、リスナーからのコメントにも答えていきます。
「4分の3が海外由来」というコメントに対しては、日本が輸出を伸ばそうとしても、それが家畜市場そのものにはあまり影響しないと指摘します。輸出しているのは商社などで、海外向けに売れているだけだからです。
中国の輸入規制については、和牛の輸出はすでに止まっているものの、これまでも中国向けの和牛は第三国経由規制などを避けるため、別の国を経由して商品を輸送・輸入する流通ルート。で入っていた面があるため、あまり変わらないのではないかというのが個人的な見立てです。
さらに川上さんは、ホタテが中国依存でつまずいた例を挙げ、中国だけに頼ることへの危うさを語ります。
中国だけじゃなくて、他の国に和牛を食べてもらうその食文化ですね、日本食とセットで和牛を知ってもらえたら嬉しいなと思いますね。
日本食や寿司が広がることで魚介類が売れているように、食文化とセットで和牛を知ってもらうことが、これからの下支えになるという考えです。
まとめ
和牛価格は気まぐれに見えて、歴史と構造に沿って氷河期・回復期・バブル期を繰り返してきました。今は供給過剰による寒い冬の局面ですが、離農による供給減少や輸出拡大が、次の回復の芽にもなっています。だからこそ、価格に振り回されない土台づくりが大切だと川上さんは話します。
- 和牛価格は約10年周期で大きなショックと回復・高騰を繰り返してきたが、近年その周期は短くなっている
- 現在は増頭期の子牛が集中出荷される「構造的な供給過剰」で、価格低迷の局面にある
- 物価高で国内需要は伸び悩む一方、輸出は2013年から10年で約9倍に拡大し市場を下支えしている
- 繁殖農家の離農により、2026〜2027年以降は価格が再び上昇に転じる可能性がある
- 予測が難しい時代だからこそ、分娩間隔の短縮や良い子牛づくりなど、価格に左右されない土台が重要
