食分野の新常識!健康を蝕む「超加工食品」の真実──WHOサイエンティストが語るUPFのリスク
聞く健康習慣 Hana博士の体調最高ラジオに、WHOWorld Health Organization(世界保健機関)。国連の専門機関で、国際的な公衆衛生の指針策定や疾病対策を担う。本部はスイス・ジュネーブ。の栄養食品安全部サイエンティスト・山本ライン先生がゲスト出演。WHOが今もっとも注目する「超加工食品(UPF)」の健康リスクや、食塩・トランス脂肪酸をめぐる最新動向、そして日本の現在地について語りました。その内容をまとめます。
WHOが掲げる「ヘルシーダイエット」4つの原則
山本ライン先生によると、WHOとFAOFood and Agriculture Organization of the United Nations(国際連合食糧農業機関)。食糧・農業分野の国際基準策定や飢餓撲滅を目的とする国連専門機関。本部はイタリア・ローマ。は約2年前に「ヘルシーダイエットの4つの原則」を共同で策定しました。「健康的な食事」に唯一の正解はなく、性別・年齢・文化・手に入る食材によって異なるものの、以下の4原則に沿うことが推奨されています。
林英恵さんは「WHOで議論されているトピックは、やがて世界各国の厚生労働省や保健省のガイドラインに反映されていく」と解説。日本ではまだガイドライン化されていない内容でも、WHOレベルではすでに議論が進んでいるとのことです。
食塩の取りすぎ──日本人はWHO基準の2倍以上
食塩(ナトリウム)は体に欠かせないミネラルですが、取りすぎると血圧が上がり、心臓病や脳卒中のリスクを高めます。WHOは2012年に「大人は1日あたり食塩5g未満(小さじ1杯程度)」という指針を示しています。
山本先生は「現代社会で塩分が足りていない人はほとんどいない」と指摘します。むしろ問題は摂りすぎで、日本人はWHO基準の2倍以上を摂取しているのが現状です。林さんも「塩分の取りすぎは日本人の死亡率を上げる要因のランキングで第6位、食品の中では第1位」と補足しました。
減塩が難しい理由として、山本先生は3つのポイントを挙げています。まず、自分がどれだけ塩を摂っているかが把握しづらいこと。次に、加工食品や外食には塩分が「隠れている」ことが多いこと。そして、高塩分の食品に慣れてしまうと、薄味が物足りなく感じてしまうことです。
トランス脂肪酸は「撲滅」対象
WHOはトランス脂肪酸について「エリミネーション(撲滅)」という非常に強い目標を掲げています。山本先生はその理由を端的にこう述べました。
トランス脂肪酸に関しては、もう百害あって一利なし。これって実は栄養の世界では結構稀なんです
トランス脂肪酸はすでに代替物が存在し、使わなくても加工食品を製造できることがわかっています。健康上の悪影響も長年にわたって科学的に確立されているため、「栄養素で完全排除を目指せる数少ない物質」とのことです。
一方で、食塩はトランス脂肪酸よりも問題が複雑です。料理の味付けに欠かせず、生物学上の必須ミネラルでもあるため、完全に排除することはできません。そのため、減塩は「一筋縄ではいかない」課題だと山本先生は語ります。
超加工食品(UPF)とは何か──NOVA分類で理解する
超加工食品(Ultra-Processed Food/UPF)とは、家庭では通常使わないような工業的プロセスで製造され、家庭にない工業的原料や添加物を用いて作られた食品のことです。山本先生はこう説明します。
自然の食材をそのまま使うんじゃなくて、トウモロコシや大豆などの安い農作物から特定の成分だけを抽出し、そこに味・食感・香りを人工的に作り出す添加物を混ぜ込んで、なんとか食品らしいものを作るんです
具体例としては、菓子パン、スナック菓子、インスタント麺、炭酸飲料、レトルト食品、再構成された肉製品(ソーセージ・ハムなど)が挙げられます。
NOVA分類──4つのグループ
UPFの概念は、ブラジルのカルロス・モンテイロ教授サンパウロ大学の栄養学者。2009年にUPF(超加工食品)の概念とNOVA食品分類を提唱し、世界の栄養政策に大きな影響を与えた。のチームが2009年に提唱しました。同時に「NOVA分類」という食品分類システムも提起されています。
| グループ | 分類名 | 具体例 |
|---|---|---|
| 1 | 未加工・最低限加工食品 | 野菜、果物、肉・魚の切り身、カット野菜、ご飯の真空パックなど |
| 2 | 加工した料理素材 | 塩、胡椒、油、バターなどの調味料 |
| 3 | 加工食品(比較的単純) | 缶・瓶詰めの野菜や果物、味付けナッツ、チーズ、燻製肉など |
| 4 | 超加工食品(UPF) | ファストフード、インスタント食品、冷凍食品、清涼飲料水、スナック菓子、菓子パンなど |
ただし、NOVA分類には「問題のある食品を正確に特定できない」「栄養的に問題ないものまでUPFに分類されてしまう」といった批判もあります。山本先生はWHOが現在、より実用的で客観的な定義の策定に取り組んでいることを紹介しました。
また、グループ3の加工食品にも塩分・砂糖・飽和脂肪酸が多いものがあるため、「完全に白ではない」とも。従来の塩分・砂糖・脂質への対策に加えて、グループ4のUPFにも注目が必要だというのが現在の議論の流れです。
UPFが引き起こす健康リスク──「やみつき」の正体
2024年10月、医学誌ランセットThe Lancet。1823年創刊のイギリスの医学雑誌。世界で最も影響力のある医学ジャーナルの一つで、掲載される論文は各国の政策立案にも引用される。に発表された最新のシステマティックレビュー特定のテーマに関する既存の研究論文を網羅的に収集・評価し、結果を統合して全体像を示す研究手法。エビデンスの質が高いとされる。では、104の前向きコホート研究特定の集団を長期間追跡し、生活習慣や食事パターンと疾病の関連を調べる観察研究。因果関係に近い知見が得られるとされ、エビデンスレベルが比較的高い。がまとめられました。そのうち92の研究で何らかの健康への悪影響が確認されています。
そのほか高血圧や腎臓病など、ありとあらゆる疾患のリスクを有意に上げることがわかっています。UPFとうつ病の関係については、メカニズムの解明が現在進行形で進められているとのことです。
「やみつき」特性の科学的裏づけ
UPFの最大の特徴は「やみつきになる」ことだと山本先生は繰り返し強調しました。
添加物・香料・調味料が巧妙に組み合わされ、「ポテチをもう一枚……」と自制心のタガを外すように設計されているのだそうです。ドラッグやアルコールの中毒とは脳内のメカニズム(パスウェイ)が異なるようですが、表に現れる行動パターンは中毒と非常に似ているとのこと。
RCTが証明した「栄養素では説明できない何か」
アメリカのNIHNational Institutes of Health(米国国立衛生研究所)。アメリカ連邦政府の医学研究機関で、世界最大規模の生物医学研究予算を持つ。で行われたRCT(ランダム化比較試験)被験者をランダムに2群以上に分け、条件を変えて結果を比較する実験手法。バイアスを最小限に抑えられるため、最もエビデンスレベルが高い研究デザインとされる。では、カロリーと栄養素の条件を揃えたうえで、一方のグループにUPF、もう一方にUPF以外の食品を提供しました。結果、UPFグループは1日あたり約500キロカロリーも多く食べ、体重増加も確認されたといいます。
砂糖・塩・脂肪の量だけでは説明できない何かがUPFにはある。それをまさに示したスタディです
日本でも同様のRCTが行われ、UPF食では1日800キロカロリー以上多く消費するという結果が出ています。山本先生は「これだけ悪影響がわかってきた今では、同じ実験を倫理的にやりにくくなるかもしれない」とも付け加えました。
子ども・社会経済状況とUPFの深い関係
子どもへの影響について、山本先生は「子供こそ悪影響を心配しなきゃいけない」と強調しました。食べ物に対する嗜好は非常に幼い時期に形成され、幼少期の栄養状態は大人になってからの慢性疾患リスクに大きな影響を与えます。
一方で、企業側もマスコットキャラクターや魅力的な宣伝文句を使い、子どもを「生涯の忠実な顧客」にする戦略をとることがあると山本先生は指摘します。
忙しい現代人のニーズ
個別包装・レンジ加熱で手軽に食事ができる利便性
一人暮らし・少人数世帯の増加
少人数分の自炊は手間がかかり、UPFの方が便利
コストの問題
限られた予算で家族を養うには、安価なUPFに頼らざるを得ない現実
山本先生は「すべてのUPFがダメと言うのではなく、健康に悪影響を与えない限りある程度は許容しつつ、本当に問題のあるものはちゃんと取り締まるという対応が必要」という立場を示しました。
ハーバードの巨匠が教えてくれた「パターン」の重要性
ウォルター・ウィレット教授ハーバード大学公衆衛生大学院の栄養学・疫学教授。「栄養疫学の父」とも呼ばれ、大規模コホート研究による食事と疾病の関連研究で世界的に知られる。の授業で印象に残っている言葉として、山本先生はこう紹介しました。
たまの気分転換なら問題ないが、毎日コンビニ食に頼る食生活はやはり見直した方がいい──それが山本先生のアドバイスです。
各国の規制動向と日本の現在地
世界各国のUPF消費状況と規制の動きについても話が及びました。
約60%──摂取カロリーの半分以上がUPF
約30〜40%──安心はできないレベル
特にラテンアメリカの国々では規制が先行しています。
UPFに対する消費税(砂糖税の一種)を導入済み。
食事ガイドラインに「UPFを削減しましょう」という指針を組み込み。学校給食でもUPFを最低限にする方針を策定。
現時点ではUPFに特化した規制は未導入。政府は注視している段階とみられる。
林さんは「ガイドラインを待っている間にどんどん年を取ってしまう。個人で気をつけることには限界があるからこそ、国が動くことが重要」と訴えました。同時に「国が動くためのエビデンスを集めているのがまさに山本先生の仕事」とも付け加えています。
まとめ
WHOのサイエンティストである山本ライン先生の解説から見えてきたのは、食の世界で今まさに注目が集まっている「超加工食品(UPF)」の深刻さと、それでもなお「すべてを悪とするのではなく、パターンとして見直す」という現実的なアプローチの重要性でした。
食塩の過剰摂取やトランス脂肪酸の問題は以前から指摘されてきましたが、UPFはそれらの栄養素だけでは説明できない「やみつき」特性を持ち、2型糖尿病・うつ病・肥満など幅広い疾患リスクを高めることがRCTレベルの研究でも裏づけられています。日本ではまだ規制が追いついていませんが、世界ではすでに動き始めています。まずは自分の食生活のパターンを振り返ることが、今日からできる第一歩かもしれません。
- WHOが示す「ヘルシーダイエット4原則」は、Adequacy(適度)・Balance(バランス)・Moderation(節度)・Diversity(多様性)
- 日本人の食塩摂取量はWHO推奨の2倍以上。塩分の取りすぎは食品関連の死亡要因で第1位
- トランス脂肪酸は「百害あって一利なし」──WHOは撲滅(エリミネーション)を掲げている
- 超加工食品(UPF)は2型糖尿病+25%、うつ病+23%など幅広い疾患リスクを上げることが判明
- UPFには砂糖・塩・脂肪だけでは説明できない「やみつき」特性があり、RCTで1日500〜800kcal多く食べることが実証された
- コロンビア・メキシコではUPF課税、ブラジルでは食事ガイドラインへの組み込みが進む。日本は未規制だが注視段階
- すべてのUPFがダメではなく、「毎日の食事パターン」として常態化していないかを見直すことが大切
