いまさら聞けない生理の話──産婦人科医・稲葉可奈子先生が語るPMS・治療・受診のリアル
聞く健康習慣 Hana博士の体調最高ラジオの性教育シリーズ第1回に、産婦人科専門医でInaba clinic院長の稲葉可奈子先生がゲスト出演。「そもそも生理とは何か」という基本から、PMS(月経前症候群)の実態、低用量ピル以外の治療選択肢、男性が女性にどう声をかけるべきか、そして「セルフケアの呪縛」まで幅広く語られました。その内容をまとめます。
そもそも生理とは何か
番組冒頭、西山さんの「生理ってそもそも何ですか?」という率直な質問から話が始まりました。稲葉先生の解説はとてもシンプルです。
人間の体は生物として子孫を残すようにできていて、卵巣女性の体内にある臓器で、卵子を貯蔵・成熟させ、月に一度排卵する役割を持つ。左右に一つずつある。から月に一回卵子が排出される──これが「排卵」です。排卵が起きると、受精卵を迎え入れるために子宮の内側にある子宮内膜子宮の内側を覆う粘膜組織。排卵後にホルモンの影響で厚くなり、受精卵の着床に備える。が「ふかふかのベッド」のように分厚くなります。しかし、その月に受精卵がやって来なければ、内膜はリセットされて剥がれ落ちる。この剥がれ落ちた内膜と血液が体外に出てくる現象が生理(月経)です。
排卵
卵巣から卵子が月に1回放出される
子宮内膜が厚くなる
受精卵を迎えるため「ふかふかのベッド」状態に
受精卵が来ない場合
内膜が剥がれ落ちて出血=生理
内膜がずっと厚いまま残っていると病気の原因になりうるため、毎月リセットする必要があるのだそうです。逆に言えば、「今すぐ妊娠を望んでいなければ、排卵や生理は絶対に必要なわけではない」──この事実が、後半の治療の話につながっていきます。
侮れないPMS(月経前症候群)の正体
西山さんが「PMSっていうやつがあるって聞いたことはある」と切り出すと、稲葉先生は「最近知られるようになってきたけど、まだ自分がPMSだと気づいていない人もいる」と指摘しました。
PMS(月経前症候群)Premenstrual Syndromeの略。生理が始まる数日〜2週間前に現れる身体的・精神的症状の総称。生理が始まると症状が軽減・消失するのが特徴。とは、文字どおり生理の「前」の期間に起こるさまざまな症状のこと。直前の数日だけという人もいれば、排卵後の約2週間ずっと症状が続く人もいて、期間にも大きな個人差があります。
症状も人それぞれで、ひどく落ち込む、強いイライラ、肌荒れ、抗えないほどの眠気など多岐にわたります。授業中にどうしても眠ってしまう、仕事のパフォーマンスが落ちるといった形で日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。
なぜこうした症状が起きるのか。稲葉先生によると、月経周期の中でエストロゲン卵胞ホルモンとも呼ばれる女性ホルモンの一種。排卵前に分泌が増え、子宮内膜の増殖や骨密度の維持など多くの役割を担う。とプロゲステロン黄体ホルモンとも呼ばれる女性ホルモンの一種。排卵後に分泌が増え、子宮内膜を維持して妊娠に備える役割がある。という2種類の女性ホルモンが大きく乱高下することが原因とされています。そしてこのホルモンの乱高下は、排卵するために必要なプロセスなのだそうです。
生理が重いとか軽いとかっていうのは、1ミリも本人のせいだったり、本人のおかげであるとかいうわけではない
生活習慣がきちんとしていれば生理が軽い、というわけでは全くないと稲葉先生は強調します。体質や子宮内膜症などの疾患が関係していることもあり、本人の努力でコントロールできる話ではありません。この点は男性にも女性にも知っておいてほしい、とのことでした。
生理痛・PMSの治療という選択肢
ここで稲葉先生が提示したのが、「今妊娠を望んでいなければ、排卵を止めることでホルモンの乱高下を抑えられる」という考え方です。排卵しなければ内膜もそれほど厚くならず、出血量も減り、痛みも軽減される。PMSの症状も出にくくなる、あるいは軽くなるとのことです。
具体的な治療法として、稲葉先生は次のような選択肢を挙げました。
広く知られた治療法。ただし血栓症のリスクがあり、強い片頭痛やヘビースモーカーの方は使えない場合がある。
低用量ピルとは異なり、血栓症のリスクがない。喫煙者や片頭痛持ちの方でも使用可能。まだ認知度が低い。
子宮内に入れるホルモン剤。毎日の服薬不要。外来処置で装着可能だが、性交渉未経験の方には痛みを伴う場合がある。
これらはすべて保険診療で受けられます。「全員が治療すべき」というわけではありませんが、生活に何らかの支障が出ているなら一度婦人科で相談してほしい、と稲葉先生は繰り返し訴えていました。
長期使用への不安は?
保護者の方から「長期間お薬を使って大丈夫ですか?」と聞かれることが多いそうです。稲葉先生の回答は明快でした。年に一回の血液検査で肝臓への負担など副作用が出ていないか確認しながら継続すれば問題ない。むしろ、毎月つらい生理が来る方がよほど体への負担が大きい、とのことです。
さらに意外な事実として、低用量ピルなどの治療をしていた人の方が、やめた後の妊娠率が高いというエビデンスがあるそうです。これは、治療によって子宮内膜症の進行を抑えられるためと考えられています。「将来の妊娠に悪影響があるのでは」という心配は、むしろ逆だったのです。
毎月しんどい生理が来る方がよっぽど体への負担。お薬使っている方が体への負担は少ない
やめるタイミングは「妊活を始めようかな」と思った時でOK。もともと生理周期が規則的だった人は早ければ翌月、遅くても数ヶ月で周期が戻るケースが多いそうです。
なぜ治療が普及しないのか
「こんなにいいものがなぜ普及しきれていないのか」という西山さんの疑問に、稲葉先生は複数の要因を挙げました。
稲葉先生自身も、病院で診療しているだけでは「受診しない人がたくさんいる」という事実に気づかなかったそうです。情報発信を始めて初めて、「受診した方がいいのは分かるけど行きたくない」という声が大量に届き、婦人科受診のハードルを下げることを使命に2024年にクリニックを開業したとのこと。
学校教育でも変化は始まっています。生理について教わる授業はあるものの、PMSの説明はほぼなく、「生理痛がしんどければ婦人科で相談できるよ」という一言すら伝えられていないのが現状だそうです。一方で、保健室の先生が受診を勧めてくれるケースは増えてきているとのことで、少しずつ認識は変わりつつあるようです。
女性がしんどそうな時、男性はどう声をかけるべきか
「男性はどう接したらいいのか」──これは稲葉先生が企業研修やセミナーで「必ず聞かれる」というFAQだそうです。先生が教えてくれたのは、具体的で実践的なコミュニケーション術でした。
ポイントは「自分の意見として言わない」こと。「病院行ったら?」は突き放した印象を与えやすく、「お前にこのしんどさが分かるのか」と反発を招いてしまいます。「〇〇先生がこう言ってたよ」と第三者の情報として伝えることで、間にクッションが入り、聞く耳を持ってもらいやすくなるのだそうです。
妻がイライラしている時に「これ飲んだら?」と命の母を勧めたらブチギレられました
自分の意見として言うと「うるせえ」って思われる。第三者の話として伝えるとクッションになります
西山さんが自身の失敗談として「妻がイライラしている時に薬を勧めてブチギレられた」エピソードを共有すると、稲葉先生も笑いつつ「タイミングと伝え方が大事」と頷いていました。特に、本人が自分自身のことで怒っているわけではなく、パートナーへの不満があるタイミングで薬を勧めるのは逆効果になりやすいようです。
「セルフケアの呪縛」にとらわれないで
番組終盤、稲葉先生が提唱したのが「セルフケアの呪縛」という概念です。
市販薬やサプリ、生活習慣の改善で症状が良くなるなら、もちろんそれでいい。しかし、「自分でなんとかする方がいい」「医療に頼るのは自然に反する」と思い込んで、つらい状態を我慢し続けてしまう人が少なくないといいます。
稲葉先生は「虫歯になったら歯医者に行くのと同じ」と例えます。昔は虫歯を治す方法がなく我慢するしかなかったけれど、今は治療法がある。生理痛も同じで、現代医療には症状を軽くする方法がちゃんと用意されている。医療に頼ることは悪いことでも、自然に反することでもない──そう伝えて番組を締めくくりました。
まとめ
今回のエピソードでは、「生理とは何か」という基本のメカニズムから、PMSの原因、保険適用の治療選択肢、そして周囲の人の接し方まで、産婦人科医の稲葉可奈子先生が丁寧に解説してくれました。生理痛やPMSの重さは本人の努力でどうにかなるものではなく、体質や疾患が関係しています。つらさを我慢し続けるのではなく、まずは婦人科に相談するという選択肢があること、そしてそのハードルは思っているより低いということが、今回の一番のメッセージだったのではないでしょうか。
次回は引き続き稲葉可奈子先生をゲストに迎え、女性の働き方について深掘りしていく予定です。
- 生理は、受精卵が来なかった月に子宮内膜が剥がれ落ちる現象。妊娠を望まない時期には排卵・生理は必ずしも必要ではない
- PMSは女性ホルモンの乱高下が原因。症状(落ち込み・イライラ・眠気など)も期間も個人差が大きく、本人のせいではない
- 低用量ピル、プロゲステロン単剤、ミレーナなど複数の治療法があり、すべて保険適用。血栓症リスクのないタイプも存在する
- 治療は妊活を始めたいタイミングでやめてOK。むしろ治療していた方がやめた後の妊娠率が高いというエビデンスもある
- 女性がしんどそうな時は「〇〇先生が言ってたよ」と第三者の話として婦人科受診を勧めるのが効果的
- 「セルフケアの呪縛」にとらわれず、つらければ我慢せず婦人科に相談を。虫歯で歯医者に行くのと同じ感覚でOK
