海外での音楽活動、その日々の暮らし
聞き手の坂本さんは、音楽活動と聞くと「CDを出してライブをする」アーティスト像しか浮かばないと切り出します。山田さんが普段どんな生活をしているのかを尋ねました。
山田さんは日本にいた頃から、音楽レッスン、演奏活動、作曲で生計を立てていました。しかしコロナ禍で、人と会えなくなり、それらが一旦ほぼなくなったといいます。
そこから山田さんはオンラインレッスンをいろいろと研究し、やり方を工夫していきました。レッスンが回り始めると、ある気づきが生まれます。
これどこでも住めるんじゃないってなって。まずその、最初に住みたかった江ノ島のそばの海のところに引っ越して。
コロナ禍の真っ最中で、東京では子供を遊ばせるのも大変だったため、まず海のそばの江ノ島近くへ引っ越したそうです。その後、コロナ禍が落ち着いてからオランダへ移りました。
今の生活は、オランダの朝から夕方までオンラインレッスンをして、セッションがあれば行く、というスタイルだと話します。
ジャズは外国語を覚えるのと同じ
山田さんのオンラインレッスンはジャズが多く、生徒は大人が中心だといいます。ジャズを弾きたいと思う子供はそもそも少ないからです。
坂本さんも、高校までピアノをやっていたのにジャズに触れたのはもっと後だったと振り返ります。大人になってジャズを見ると「かっこいい、弾きたい」と一度は思うものだと共感します。
楽譜通りに弾くことしかしてこなかった坂本さんは、ジャズは大きなステップの向こう側にあるように感じると話します。初学者はどうやってジャズに入っていくのでしょうか。
よく言うのは、「新しい外国語を一つ覚えるのと同じ感じです」って言ってます。
ボキャブラリーや文法を覚え、いっぱい使うことでスラスラ喋れるようになる。その過程がジャズの習得と本当に似ているといいます。
つまり、最低限の文法や単語を覚えるプロセスと、実際に使ってミスをしてフィードバックを受け改善するプロセス。その両方があるという点で、言語学習と一致するのです。
ボキャブラリーや文法にあたる基礎を覚える
実際に使い、ミスとフィードバックを通じてスラスラ弾けるようになる
クラシックとジャズ、弾き方はどう違うのか
坂本さんは、クラシックとジャズで弾くときに大きく違う点はどこかと掘り下げます。山田さんの答えは意外なものでした。
世界中の音楽を見渡すと、クラシックとジャズは比較的近い位置にいるといいます。遠いのはインドネシアのガムランや日本の雅楽のような民族音楽です。
ジャズの直接のご先祖様の一つがクラシック音楽なので、コンセプトとして近いところもあれば、全然違うところもあると山田さんは説明します。
クラシックをやってきた人がジャズで陥りがちなミスもあるそうです。実は、クラシックで美しいとされる弾き方には、楽譜に表れないさまざまな操作が染みついています。
フレーズの終わりをちょっと小さくするとか、滑らかにつなげるとか、そういうふわっと弾くとか。楽譜にも表れないような、クラシック音楽において必ずやりなさいと言われていることが染みついていて。
坂本さんは、楽譜通りに弾いてねとレベルの低い機械に渡せば機械的な演奏になるが、人間が弾くときは全く一緒にならない、とその違いを言い当てます。
この無意識の癖をジャズでも出してしまう。しかしジャズで求められる音の操作や弾き方はまた全然違うため、そのギャップがつらいのだといいます。
家族でオランダへ、そして毎日10分の音楽教室
オンラインレッスンが生計の中心になり、どこでも住める状態になったこと。それが最初のステップでした。
子供が小学校に入るかどうかのタイミングで、入ってしまうともう日本から引っ越せないかもしれないと考え、このタイミングだとオランダに来たといいます。
家族全員での移住は大きな決断です。オランダ行きを迷って「やっぱりやめようかな」を何度も繰り返していた山田さんの背中を押したのは、奥さんでした。
もうそんなことグダグダ言ってないで、行くなら行けって怒られて。
奥さんは英語が苦手で自信がある感じでもないのに、行くと決めたなら行くという姿勢だったそうです。むしろ背中を押してもらったと山田さんは振り返ります。
オランダでは、山田さんが教えるだけでなく、他の講師も所属する音楽教室を運営しています。現在は山田さんを含めて9人ほどが在籍しているそうです。
この教室の特徴は「毎日10分」を高頻度でやること。練習をコツコツ続けるのは大変だという課題を解決するための形態です。
練習をコツコツ続けるのって、めちゃくちゃ大変じゃないですか。それをオンラインなので高頻度でレッスンできるだろうと思って。
通常は週1回30分などのレッスンで「来週までにここまでやっておいてね」という形が多いところを、週3回もしくは6回の短いレッスンにしているといいます。
1回10分と短いため課題も小さくし、「ここを練習してください」と絞ります。プロがこまめに見ることで、無駄な練習をせず効率よく進める狙いもあります。
ヒントになったのはオンライン英会話でした。子供がオランダに行く前に毎日10分のオンライン英会話をやってみて、これは音楽でも良さそうだと思いついたそうです。
週1回30分ほど。次回まで自宅で練習する前提で、続けるのが難しい
週3〜6回の短いレッスン。課題を小さく絞り、こまめにプロが見て上達が早い
実際にやると上達スピードは非常に早く、親が「やれよ」と言わなくてもよくなる利点もあると話します。山田さん自身も、我が子のバイオリンを誰かに10分レッスンしてほしいと感じるほどだといいます。
図書館の語学パートナーが、なぜかプロデューサーに
オランダに来て最初の1年は生活だけでいっぱいいっぱいだったものの、いろんな場所に足を運ぶうちに少しずつ繋がりが生まれていきました。
その一つが、オランダにいる日本人研究者が発表するという集まりへの参加です。ここで声がかかり、日本語で歌うコーラスの指揮者兼ピアニストを務めるようになりました。
さらに山田さんは、オランダ語を頑張ろうと図書館で言語パートナーを探してもらいました。ボランティアの方が週1回1時間オランダ語で話す、という仕組みです。
ところが、この語学パートナーが思わぬ動きを見せます。山田さんが音楽家だと知り、YouTubeを見せると「これは広めてあげよう」となったのです。
ロッテルダムの牧場でライブをよくやっているところがあるらしくて。「これをロッテルダムでやりなさい」と言って、「お前たちはギャラを取りなさい」とクラウドファンディングを企画してくれて。
坂本さんは思わず「何者すか、その人。プロデューサー?」と驚きます。山田さんも「本当にプロデューサーみたいなことをやってくれている」とありがたがります。
企画してくれたのは、奥さんとのユニットによるライブでした。来月、牧場で開催予定だといいます。
山田さんは、日本人だからジャズができないのかと見られることはオランダでは全く感じたことがないと話します。むしろフラットに見てくれる感覚だそうです。
一方で、音楽を気に入ってもらえたときに英語力が足りず会話が弾まず、次につなげられないもどかしさを感じることはあるといいます。
泥団子アーティストの奥様と、動いた分だけ起きること
奥さんはオランダでは歌ではなく「泥団子アーティスト」として活動しています。坂本さんは山田さんと知り合う前から、その存在をSNSで認知していたそうです。
きっかけはコロナ禍でした。オンラインレッスン中、赤ちゃんの子供に公園で待っていてもらう時間があり、暇なので泥団子を作り始めたところハマったといいます。
オランダでも作っていたら、子供たちの反応が「見たことない」というものだったため、海外に発信してみようとYouTubeを始めました。すると大きくバズったそうです。
YouTubeとか始めたらすごくバズって。なんか150万回とか再生されたりして。
オランダの住む場所は砂が多く粘土がないため、ドイツから粘土を買って作り始めたといいます。道具や材料をまとめた製作キットは、アメリカのAmazonでも売れているそうです。
話は再び音楽に戻ります。山田さんと奥さんの出会いは、そもそもセッション会場でした。その歌に惚れ込み、一緒に音楽をやりたいと声をかけたのが始まりです。
オランダでは奥さんの歌を披露できていませんでしたが、語学パートナーのおかげで紹介する機会ができました。しかもそのパートナーは、英語の曲ではなく日本語の曲をやりなさいと言ったそうです。
知らない曲だし、言葉の意味もわからないけど、それがいいって言ってましたね。
坂本さんは、去年オランダで観たAdoのライブを思い出します。全曲日本語でMCもほぼ日本語なのに、観客の9割5分は日本人ではなく、日本語の曲が響いていたことを不思議に感じたといいます。
ライブで歌うのはaikoやドリカムなど、J-POPのカバーだそうです。企画も集客も語学パートナーがやってくれるため、音楽活動で一番大変な部分を任せられていると山田さんは話します。
坂本さんは、音楽家の仕事は音楽をやっているイメージだったが、生計を立てることを考えると、その周りのビジネス的なことの比重が大きいのだと気づきます。
極端な人が動くと、面白いことが起きる
山田さんは、オランダで大変なことも多かったものの、親切に触れることが多かったと振り返ります。自分が逆の立場ではここまでできないと感じるほどだといいます。
背景には、共同体を良くしていこうとすることに積極的な人が多いという文化があると山田さんは見ています。日本人は自分のこと以外に無関心になりがちだと、自らも改めなければと感じたそうです。
一方で個人主義的な面もあり、打ち合わせでも用件が済むとすぐ帰る。お茶も飲まず長居しない、という絶妙な距離感があると2人は語り合います。
番組をまとめる段階で、坂本さんは「ここから何を学べばいいんだろう」と考え込みます。それに対する山田さんの答えはシンプルでした。
坂本さんとか僕みたいに、いろんなところに足を運ぶと楽しいことが待ってるんじゃないかとは思いますけど。
山田さんは、もう一つ大事なものとして「情熱」を挙げます。奥さんが泥団子を本当に好きで発信しているからこそ説得力を持つ、というのです。
山田さんは、自分の教室のランディングページの文言を試しにすべてAIにやらせてみたところ、内容がすごく薄まってしまったと明かします。AIは常識に近づける作用があると感じたそうです。
だからこそ、極端であることや情熱を持つことには価値があると実感したといいます。
プロデュースしてもらえると思ってオランダ語を学びに行ったわけでも、コーラスの指揮者になれると思って集まりに行ったわけでもない。ただ、繋がる確率を上げていったからだと山田さんは分析します。
坂本さんは、一定確率で何かが起こるなら、あとは何回サイコロを振るかだと応じます。AIで仕事がどうなるかという議論があるなかで、極端にのめり込めるものを見つけ、ひたすら動くこと。予測はつかなくても何かが起きるかもしれない、というメッセージで話は締めくくられました。
まとめ
コロナ禍のオンラインレッスンから江ノ島、そしてオランダへ。山田亮さんの歩みは、動いた分だけ思わぬ縁が繋がっていく過程そのものでした。極端な情熱を持ち、いろんな場所に足を運ぶこと。それが海外でサバイブする一つの答えかもしれません。
- コロナ禍でオンラインレッスンを研究したことが、どこでも住める働き方につながった
- ジャズ習得は外国語の習得と似ており、クラシックの無意識の癖がジャズでは壁になることもある
- 練習が続かない課題への答えとして、オンライン英会話をヒントに「毎日10分」の音楽教室を運営している
- 図書館の語学パートナーが、なぜかライブ企画やクラウドファンディングまで手がけるようになった
- 極端な情熱を持ち、いろんな場所に足を運んで確率を上げることが、面白い出来事を引き寄せる
