モンベルから学ぶ"販路を変えるとゲームが変わる"話──商品力だけに頼らない仕組み化経営
松田幸之助の仕組み化経営のヒント第62回では、松田幸之助氏がモンベルのランドセル代替バッグの事例をきっかけに、「販路(どこで・誰に売るか)」を変えることでビジネスの構造そのものが変わるという話を展開しています。商品改善だけでなく、ビジネスモデルの構造を見直すことが売上と利益の安定につながるという内容をまとめます。
商品力を磨くだけでは超えられない壁
多くの企業は、売上を伸ばそうとするとまず商品やサービスの改善に目を向けます。品質改善、機能追加、デザイン変更──もちろんこれらは大切な取り組みです。松田氏自身も、自ら運営する経営者コミュニティ「仕組み化実践会」のサービスを毎回ブラッシュアップしていると語っています。
しかし、松田氏が強調するのは「商品をより良くする」こととは別の軸の存在です。それがビジネスモデルの構造を変えるというアプローチ。仕組み化経営において最上位に位置する考え方であり、「誰に売るか」「どこで売るか」「誰が意思決定するか」という構造そのものを見直すことで、戦略の成功確率や営業利益率が大きく変わるといいます。
付加価値を磨いていっても、一定のところで限界が生まれる可能性があります。しかし、構造を変えると一気にブレイクスルーが起きたりする
品質改善・機能追加・デザイン変更など、商品そのものをより良くする
→ 改善の効果は徐々に逓減しやすい
「誰に・どこで・誰の意思決定で」売るかを変え、ビジネスモデル自体を再設計する
→ 一気にブレイクスルーが起きうる
モンベルが仕掛けた「BtoG」への販路転換
松田氏が取り上げたのは、モンベル1975年創業の日本のアウトドア用品メーカー。登山用品を中心に高品質・低価格の製品で知られ、直営店を全国展開している。が発売した中学生向けの通学バッグの事例です。価格は1万円台。従来のランドセル市場と比較すると大幅に手頃ですが、松田氏は「ただ安いから売れた」という話ではないと指摘します。
従来のランドセル販売は典型的なBtoCBusiness to Consumerの略。企業が一般消費者に直接商品やサービスを販売するビジネスモデル。モデルでした。メーカーが小売店を通じて販売し、保護者が購入して子どもが使う。ところがモンベルは、これをBtoGBusiness to Governmentの略。企業が自治体や政府機関に対して商品・サービスを提供するビジネスモデル。公共調達とも呼ばれる。に転換しました。自治体がまとめて購入し、子どもたちに届けるという構造です。
この転換によって複数のメリットが生まれます。自治体が一括で購入するためまとまった数量が動き、しかも毎年新入生が生まれるので需要が継続的に発生します。さらに、自治体とのパイプができれば、ランドセル以外の商品にも展開できる可能性があるのです。
メーカー → 小売店 → 保護者が購入(BtoC)
個人の購買判断に依存。価格競争・ブランド競争が激しい
メーカー → 自治体がまとめて購入 → 子どもに届ける(BtoG)
毎年安定した需要。自治体との関係から横展開も可能
自社の古着EC転換で実感した販路の威力
松田氏はモンベルの事例を「他人事」ではなく自社の体験と重ねて語っています。松田氏が所属する株式会社プリマベーラ年商51億円。古着販売事業やコンサルティング事業を展開する企業。日本経営品質賞の受賞企業を含む400社以上の中小企業を支援している。では古着屋を運営していますが、コロナ禍では来店客が激減し、店舗売上だけでは厳しい状況に追い込まれました。
そこで力を入れたのがEC販売Electronic Commerceの略。インターネットを通じた商品販売のこと。自社サイトのほか、楽天・Amazon・メルカリなど複数のプラットフォームで展開するケースが多い。(ネット販売)です。商品自体は同じ古着。変わったのは「どこで売るか」という販路だけです。結果として売上は大きく伸び、コロナ禍が落ち着いた現在も、店舗売上とEC売上の両方を積み上げることで順調に成長しているといいます。
同じ商品だとしても、販路を変えたことによって、ネットで買ってくれるお客様もいれば、お店に来てくれるお客様もいる
ポイントは、商品を変えたのではなく、販路を増やしたことで新しい顧客層にリーチできたという点です。モンベルのBtoG転換とプリマベーラのEC転換──規模も業種も異なりますが、「構造を変えることで売上が伸びた」という本質は同じだと松田氏は指摘しています。
販路の多角化がリスクヘッジになる
松田氏は多角化経営事業領域や業態を複数に分散させることでリスクを低減し、成長機会を増やす経営戦略。アンゾフの成長マトリクスなどで体系化されている。というキーワードを使いながら、販路の多角化の重要性を掘り下げています。プリマベーラでは事業や業態の多角化だけでなく、「販路を多角化する」「お客様を多角化する」「商品を多角化する」という複数の視点で多角化を実践しているそうです。
特に販路の多角化は、リスクヘッジの観点から極めて重要だと松田氏は強調します。たとえばコンサルティング事業ではMeta広告Meta(旧Facebook)が提供するFacebook・Instagram上の広告プラットフォーム。精度の高いターゲティングで中小企業の集客に広く活用されている。を使って集客していますが、もしこの広告が止まったら集客もストップしてしまいます。一つの販路に依存しすぎる状態は、ビジネスモデルとして危ういのです。
販路再構築の3ステップ
番組の後半で、松田氏はリスナーが今日からすぐに取り組める具体的なアクションを3つのステップで示しています。
特に3つ目のステップでは、生成AIChatGPTやClaudeなどの大規模言語モデルを活用したAI。ビジネスのアイデア出しや壁打ちにも活用され、新しい販路のブレインストーミング相手としても有効。の活用を推奨しています。「こういうビジネスをしています。このサービスの販路を広げるためにどんな販路先がありますか?」とAIに聞いてみるだけで、思いもよらなかった選択肢が出てくるかもしれないと松田氏は語っています。
売上が伸びないとき、つい「商品を変えよう」「値下げしよう」「広告を増やそう」と考えがちです。しかし、集客に困っているときこそ「販路は本当にこれでいいのか?」と問い直すことが、ビジネスの突破口になるかもしれません。
まとめ
今回のエピソードでは、モンベルのランドセル代替バッグの事例を軸に、「販路を変えることでビジネスの構造そのものが変わる」という仕組み化経営の考え方が紹介されました。商品力の向上はもちろん大切ですが、「誰に・どこで売るか」という構造を見直すことで、商品改善だけでは超えられなかった壁を一気に突破できる可能性があります。
モンベルのBtoG転換、プリマベーラのEC転換、いずれも商品は変えずに販路を変えたことで新たな顧客と安定的な売上を獲得しました。まずは自社の販路を棚卸しし、依存度をチェックし、新しい販路の可能性を探ってみることが第一歩になるのではないでしょうか。
- 商品改善だけでなく「誰に・どこで売るか」というビジネスモデルの構造を変えることが売上のブレイクスルーにつながる
- モンベルはランドセル代替バッグをBtoC→BtoG(自治体向け)に販路転換し、安定的な大量需要と継続取引を獲得した
- プリマベーラもコロナ禍で古着のEC販売に注力し、同じ商品のまま売上を大きく伸ばした
- 販路の多角化はリスクヘッジとしても重要。1つの販路に依存する状態は危うい
- 販路再構築は「現状把握→リスク診断→構造の再構築」の3ステップで実践できる。生成AIの活用も有効
