マクドナルドに学ぶ価格戦略──値上げで客数が落ちない会社は"構造"が違う
松田幸之助の仕組み化経営のヒント第61回では、2025年2月のマクドナルド価格改定を題材に、松田幸之助さんが「値上げしても客離れが起きない会社の構造」を仕組み化の視点で読み解いています。値上げには3つの型があり、中小企業が目指すべきは"仕組み化された値上げ"だという結論に至るまでの内容をまとめます。
値上げの3つの型
2025年2月25日頃、マクドナルド日本マクドナルド。国内に約3,000店舗を展開するファストフードチェーン最大手。フランチャイズ比率が高く、価格改定は全店に波及する。が全メニューの約6割を10円〜50円値上げしたことがニュースになりました。「高い」「もう行かない」といった声が出るのは毎度のことですが、実際には大きな客離れが起きていません。松田さんは、その背景には「稼げる仕組み」があると指摘します。
まず前提として、利益を増やす打ち手は客単価を上げる・客数を増やす・販売数量を増やす・原価を下げる・経費を下げるの5つしかありません。マクドナルドが今回行ったのは「客単価を上げる」施策です。しかし、同じ値上げでもやり方は3つに分かれると松田さんは整理します。
仕組み化された値上げは、お客様数も落ちないし、ライバルも真似しづらい。一番理想的な値上げの形です。
マクドナルドが客離れしない4つの構造
では、マクドナルドの値上げが「仕組み化された値上げ」と言える理由は何なのか。松田さんは4つの構造的要因を挙げています。
① 生活動線への組み込み
駅前や幹線道路沿いなど、人の目に入りやすい場所に出店しているため、「ご飯どこにしよう」と考えたときに考えなくても選択肢に入る状態が作られています。もし不便な立地であれば、値上げをきっかけに「もういいか」となるかもしれません。しかし、いい場所を押さえていること自体が強力な付加価値になっているのです。
② 利用シーンの幅広さ
仕事のワークスペースとして、カフェタイムの休憩に、家族での食事に、学生の交流の場に──と、一つの店舗で何通りもの使い方ができます。利用シーンが多いほど、値上げ後も「別の用途でまた来る」動機が残ります。
③ ブランドの想起サイクル
松田さんが最も強いと感じるのがこのポイントです。子ども時代にハッピーセットマクドナルドの子ども向けセットメニュー。おもちゃ付きで、人気キャラクターとのコラボが話題になりやすい。子ども向けテレビCMの出稿量も多い。を食べた人が成長して一度離れても、自分に子どもが生まれると子ども向け番組でハッピーセットのCMを目にし、再びマクドナルドに戻ってくる。久しぶりに食べると「やっぱりおいしい」となり、再定着する。このサイクルが世代を超えて回り続けている点が、単なるブランド力とは次元の異なる構造的強みだと松田さんは分析します。
④ 相対的な割安感
絶対値で見れば値上がりしていますが、コンビニのおにぎりですら高いと感じる昨今の物価環境の中で、相対的に見ると極端な値上がりには感じにくいという市場全体の追い風もあります。
フロント据え置き×バックエンド値上げの粗利ミックス
今回のマクドナルドの価格改定では、全品一律の値上げではなく、入り口商品の価格は据え置きにして、上位セットや単品メニューを値上げするという設計がなされています。これはいわゆるフロントエンド・バックエンド戦略集客用の低価格商品(フロントエンド)で顧客を呼び込み、利益率の高い商品(バックエンド)で収益を稼ぐ手法。SaaS、飲食、ECなど幅広い業種で活用される。であり、粗利ミックス粗利率の異なる複数の商品を組み合わせて、全体として目標の利益率を確保する考え方。薄利商品で集客し、高粗利商品で稼ぐのが典型パターン。を意識した稼ぐ仕組みです。
フロントエンド(入り口商品)
価格据え置き → 来店ハードルを維持
バックエンド(上位セット・単品)
10〜50円の値上げ → 粗利を確保
さらに、モバイルオーダースマートフォンアプリから事前に注文・決済を完了し、店頭で受け取る仕組み。レジ待ち時間を削減し、店舗のオペレーション負荷を軽減する。をはじめとする現場オペレーションの仕組み化も見逃せません。値上げ後にサービス品質が落ちれば、クレームが増えて客離れにつながります。裏側のオペレーションがしっかり安定しているからこそ、値上げが"顧客体験の劣化"に直結しないのだと松田さんは強調します。
すべての土台は管理会計
松田さんが「ここが本題」と語ったのが、管理会計社内の意思決定のために数字を集計・分析する会計手法。法的義務のある財務会計とは異なり、セグメント別損益や限界利益など、経営判断に直結する数字を扱う。の重要性です。
客単価・客数・販売数量・原価・経費といった数字を自社で適切に把握できていなければ、値上げはただのギャンブルになります。マクドナルドはおそらく、年齢層・性別ごとの客単価や、メニューごとの売上構成比を詳細に分析したうえで、「ここを動かすとどうなるか」をシミュレーションし、値上げの意思決定をしているはずだと松田さんは推測します。
そして、管理会計に基づいた戦略の確度(松田さんの言う「戦略確率」)が高まり、さらに現場の実行力(「実行確率」)も高い。この二つの掛け算が揃ってはじめて、値上げが業績向上に結びつくのだと語ります。
中小企業が踏むべき値上げのステップ
松田さんは、中小企業が値上げに取り組む際の優先順位を次のように整理しています。
まず、「ただの値上げ」は避けること。客単価が上がっても客数が減れば、中長期的に売上を作る機会を失います。客数の維持・増加は大前提です。
次に、付加価値型の値上げに取り組みましょう。たとえば小売業であれば、商品をただ並べるのではなく、販促物を通じて「この商品にはこんな価値がある」と伝えることで、付加価値を上乗せして購入してもらう。松田さん自身の会社でも実践している方法です。
ただし、付加価値型の値上げは競合に真似されやすく、特にAI時代は模倣コストが下がるため消耗戦になるリスクがあります。だからこそ、中長期的には仕組み化された値上げを目指す必要があります。
具体的には、自社しか持っていない独自資源他社が容易に模倣できない経営上の強み。技術・ブランド・顧客関係・立地・データなどが該当し、長期的な競争優位の源泉となる。や強みを中長期の事業構想のなかで育て、それが「値上げできる機会」につながるよう設計していくことが鍵になります。そして、そのすべての出発点が管理会計だと松田さんは繰り返し強調します。売上構成比の上位8割の商品がすぐに答えられるか。どこに伸びしろがあるか。経費は何に使っているか。これらを把握できていない状態で値上げに踏み込むのは危険だということです。
まとめ
マクドナルドの値上げが成功している背景には、生活動線への組み込み、利用シーンの多様性、世代を超えるブランド想起、粗利ミックスの設計、オペレーションの仕組み化、そして管理会計という構造がありました。「値段を上げる」という表面的な施策だけを見ていては、その本質は見えてきません。
中小企業にとっても、値上げは避けて通れないテーマです。まずは管理会計を整備して数字を把握すること。そのうえで付加価値型の値上げに取り組みつつ、長期的には自社ならではの構造的な強みを築いていく。値上げとは「価格を変える」ことではなく、「選ばれる仕組みを作る」ことなのかもしれません。
- 値上げには「ただの値上げ」「付加価値型」「仕組み化された値上げ」の3つの型がある
- マクドナルドは生活動線・利用シーン・ブランド想起・相対的割安感の4つの構造で客離れを防いでいる
- 入り口商品は据え置き、上位商品を値上げする「粗利ミックス」の設計も鍵
- 値上げの前提は管理会計の整備。数字を見ない値上げはギャンブルと同じ
- 「戦略確率 × 実行確率」の掛け算が業績向上をもたらす
- 中小企業は付加価値型から始め、中長期で仕組み化された値上げを目指すべき
